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疾風現る

「さ、寒いーーー!」


三人は只今パラドレアにあるラスピル鉱山に登っている。

目的のアガスはその鉱山の中腹辺りから採れるのだ。


「こんなに寒いのに雪が降らないなんて珍しいのね」


ネオンは歩きながら空を見上げる。

今日も晴天である。

そう言えばここに来てから雨に降られた記憶がない。


「雨も少ないのかも。空気が凄く乾いてる」


バッツも空を見上げながら飛んでいる鳥を目で追っている。バッツは意外と寒いのは平気そうだ。


「採れる作物が少ないうえ、雨が少ないんじゃこの国の人間は大変だよな〜」


三人は鉱山の洞窟の入り口らしき場所を見つけ入って行く。人は誰もいない。


「この鉱山では珍しい石が採れるのよね?何故この国の人達は採りに来ないのかしら?」


「それがさ。多分それどころじゃないのかも知れない」


「どういう事?採りに来たいけど来れない?」


バッツの問いにホネットは頷く。


「この国からアガスが送られて来なくなったのは昨年の冬からだ。恐らくこの国はそんなに保たないかも知れない。他国には隠してるみたいだけどこの国の民は生活が成り立っていない。まともに食べていけてないんだ」


ホネットの説明に二人は驚いた。

何故そんな事分かるのか。


「パラドレアの町や物価、それに辺りを見れば容易く想像できる。恐らく東に向かって行くほど町や村は衰退している筈だ。もしかしたら餓死してる者もいるかもなぁ」


「この国の王は何をしているの?自国でどうにもならないのであれば他国に援助を申し出るしかない。国民が死んでしまうじゃない」


これにバッツは困った顔をした。

バッツはレイヴァンから人間族の一般的な教育を受けているから知っている。


「パラドレアは他の国に何度も戦争を仕掛けているんだ。多分援助は難しいと思う。この国の民がこの国を出ようと思っても受け入れてくれる国がない。他国の人間と結婚する以外は認められないだろうね」


あとは誰でも受け入れる冒険者になるか。

だが家族がいる人間にとってそれは中々難しい。

そもそも住む所が確保出来ない。

ラーズレイは商いをする人間にしか基本居住権は与えられないからだ。


「この国の人達が可哀想だわ」


民を守る為に存在するのが王である。

この国の王はその責務を果たせず人々を道連れにしようとしているのだ。ネオンは悲しくなって目を閉じた。

ふと誰かの手がネオンの頭をなでる。

顔を上げるとバッツはにっこり笑っている。


「ネオンは本当に優しい良い子だよね」


え?と驚いてしまう。まるで子供扱いされてるみたいだ。


「ありがとう。ネオン」


ホネットはそんなバッツに何も言わなかった。それは人間のバッツが全ての人の想いを代弁したのだと分かったからだ。そして人間に酷いことをされても尚思いやる心を失わない彼女に対しての言葉でもあった。


「バッツ?」


言われた本人はよく分かっていなかったが。

バッツはそんな彼女にニカっと笑った。それを見てネオンも微笑む。そんなこんなで奥まで進み三人は凍える寒さの中目的の物を無事に手に入れ鉱山を下りた。




****




「貴方がバッツ?」


三人が鉱山を下りて暫く歩いて行くと広い草原の広がる場所に出た。

その向こう側から歩いてきた女性にバッツは突然話しかけられた。

三人はキョトンと相手の女性を凝視した。

髪は赤く肩まで伸びて艶があり眼はパッチリしていて可愛らしい。その瞳の色は美しいグリーンである。

ネオンとホネットは思わずバッツの方を見た。

しかし彼はいまだキョトンと彼女を見ている。知り合いでは無さそうだ。


「そうだけど。君は?」


バッツがそう答えると彼女はにっこりと微笑んだ。


「私はロゼよ。よろしくね?」


そう言って拳を鳴らしている。

背後から彼女の連れらしい男が駆け寄って来る。


「ロゼ、待て。まず話を・・・」


「早速だけど一発殴らせてもらうわ」


彼女はそう言うと物凄い速さでバッツの懐に飛び込んできた。そして拳を振り上げる。

バッツはそれを避けるとヒラリと後ろへ下がった。


「え?君敵なの?」


「私が敵かどうかは貴方を殴り飛ばしてから教えてあげる!」


途端にバッツの足下から風が巻き起こった。足を取られそうになりバッツはサッと詠唱し、地面を浮き上がらせそれを避けた。ロゼはそれを見て笑った。


「貴方。随分と鍛錬しているのね。てっきり魔力を操れてないと勘違いしていたわ。ごめんなさいね?」


言いながらその足下をロゼの風が切り崩して行く。バッツはそれを上手くかわしながらワクワクしていた。


(この人凄い強い!)


「どこでそんな情報聞いたのか知らないけど俺結構強いと思うよ?」


バッツの身体からユラリと魔力が滲み出てくる。それに答えてロゼもゆっくりと魔力を練り上げていった。


「そう?じゃあどちらが強いか確かめてみなさい。いつでもいいわよ?」


ロゼは挑戦的に人差し指を手前に数回曲げた。かかってこいという合図だ。


「ロゼ!」


連れの男がやや焦った声を出す。それにロゼは笑って答える。

ネオンはどうしたらいいのか分からなくてバッツに近づこうとするのをホネットに止められた。


「大丈夫。彼女はベテラン冒険者だよ。多分何か事情があるんだ」


そう言われてネオンは訳が分からなくなった。何故ホネットがそんな事知っているんだろう?そしてそんな人が何故バッツに急に絡んで来たのだ。


「エルディは手を出さないで。これは私がステラとした約束よ!」


ロゼは勢いよく飛び出した。バッツもそれを上手く避けると思われたのだが・・・・。


「え?ステラ?」


ドゴォ!!!ロゼの拳は見事バッツの頬にめり込んだ。

バッツの身体は遥か向こう側に吹っ飛んで行く。

皆それを見て棒立ちになった。


「「「え?」」」


一拍おいてからネオンが叫ぶ。


「バッツ!!!」


皆慌てて駆け寄って行く。死んでるかもしれない。


「バッツ!バッツ!無事?!生きてる?!」


倒れているバッツに駆け寄りネオンが覗き込むとうーんと呻いてからバッツは目を開いた。頬は見るも無残な状態である。ネオンはすぐ水魔法で回復をかけた。


「貴方ねぇ受け身もとらずにまともに攻撃を食らうなんてどうかしてるわよ?マゾなの?」


殴った彼女は平然と話しかけてきた。ネオンはキッとロゼを睨みつける。


「一体何なんですか貴方!急に襲ってきたのは貴方でしょう?」


ネオンの剣幕にロゼはアラ?と戯けてみせる。そんなロゼを連れの男が軽く小突いた。


「急に済まない。俺達はそのバッツという青年に用があって来たんだが。連れが先走りってしまって君達を驚かせてしまったようだ」


しかしバッツに対する謝罪は無かった。

ネオンは腹が立ってもっと文句を言ってやろうと立ち上がったがそんなネオンの服の裾をバッツが引っ張って止めた。


「ステラを知ってるの?」


バッツがやっと動くようになった口を動かすと聞き慣れた名前が出てきた。ネオンは驚いてロゼを見た。

ロゼは些か不機嫌である。


「ええ。知っているわ。貴方が彼女を一人残しレイヴァン・スタシャーナの下へ向かった事まではね」


バッツの裾を握る指に力が入る。

バッツは笑っている。


「やっぱりあの雷。ステラだったんだね」


手がブルブルと震えているのがネオンにはわかった。

だがバッツの表情は笑ったままだ。


「貴方達がステラを助けてくれたんだ?」


「ええ。私達だけでは無いけれど」


「もしかして。カイルって男?」


ロゼと連れの男はその名を聞いて驚いた顔をしている。

ネオンはそれが誰なのかは知らない知らないがそんな事はどうでもいい。


「バッツ・・・」


ネオンはしゃがんでバッツの肩に手をかける。

しかしバッツはロゼ達から目を逸らさない。


「何故。貴方がカイルを知っているの?会ったこと無いはずよ?」


「会ったよ?だって戻った時レイヴァン様と一緒にいたから」


「どういう事だ?カイルはそんな事一言も言わなかった」


やはり。とバッツは思う。

バッツが会いたく無かったのはステラではない。


「彼はレイヴァン様の孫なんだって。俺、最初敵だと思って攻撃しちゃったんだよね」


「・・・・て」


ホネットはネオンの様子にハッとする。

それにロゼも連れの男も気がついた。


「そうか、やっぱり、やっぱレイヴァン様は・・・・」


「やめて!!!!」


バッツの言葉を遮る様にネオンが叫び声を上げる。

その声にやっとバッツはネオンの方を見た。


「バッツ・・・もう言わなくていい。言わなくていいからそんな顔しないで・・・」


ネオンは泣きそうな顔でバッツを抱きしめた。バッツは訳が分からない。ただネオンが悲しんでいることは何となくわかった。


「ネオン?どうしたの?どこか痛いの?何でそんな泣きそうな顔してるの?」


(違う泣きそうなくらい辛いのはバッツ。貴方なのに)


ネオンはこの時やっとバッツの事が少し分かった気がした。


(この人は悲しいという事が分かっていない。)


「・・・参ったわね。これはもしかして、かなりややこしい事態になっているのかしら」


バッツの様子にロゼもやっと何かおかしいと気がついた。

ロゼはバッツの前にしゃがむと彼の目元に手をかざした。


「疲れたでしょ?少し眠りなさい」


そう言って何事か囁くとバッツはそのまま意識を失った。

慌てたネオンをロゼが止める。


「大丈夫。少し眠らせただけだから。近くに村があるわそこで一旦休憩しましょう。事情を説明するわ」


ロゼは溜息をつくと頭を抱えた。


「ステラ達を置いてきた事を心配してたけど、ある意味こっちに来て正解だったかもね。ネオンだったかしら?」


「ええ。何でしょう?」


「貴方には申し訳ないけど私達の事情に貴方を巻き込む事になるけど構わないわね?」


ロゼは真剣な顔で、しかしネオンは断らないと分かっている物言いで聞いてきた。ネオンはロゼを睨みながら頷いた。



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