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それぞれの目的

三人はパラドレア国境の町から出て次の町を目指していた。ホネットの目的を先に終わらせてしまう為だ。


「この国は農作物があまり多く採れない代わりに鉱山が多くて貴重な宝石が沢山採れるんだけどその中でもアガスはこの国でしか採れない結晶だから高値で売り買いされるんだ」


「アガスってギルドで私達の能力を調べたりするアレよね?」


ネオンは聞いた事がある名前にしばし記憶を辿る。

ホネットは頷くとニヤリと笑って指を立てた。


「実はアガスはドワーフ国で加工されてからでないと使えないんだ。それが僕達の仕事ってわけ!」


「へぇ!そうなんだ!知らなかったわ」


ネオンは素直に驚いている。

二人は先程の険悪な空気は何処へやらほのぼのと笑い合っている。

そんな様子を見ながらバッツは不思議な気持ちになった。


(何だろう?)


ちょっと胸の辺りがモヤモヤする。

あまりいい気分ではない。


(朝ごはん食べ過ぎたかな?変なの)


一人で考え込んでいるバッツにネオンが近づいて来る。


「バッツ?どうしたの?具合でも悪い?」


心配そうなネオンの顔をみてバッツはそのモヤモヤが何処かへ行ってしまった。笑って首を振る。


「そういえば君達こそ、この国に何の用事で来たのさ?」


二人はギルドの依頼は受けていない。それを聞いていたホネットは不思議に思った。鉱山以外何もない国である。


「実は私も国の事情というか・・・・この世界の変化を見る為に国王様から遣わされて調査しているの」


ネオンの思いもよらない事情にホネットもバッツも驚いた。まさかネオンがそんな重要な役割を果たす為に冒険者になったなど思いもしなかったからだ。


「それは、すごい大変な事なんじゃ?」


ホネットは少し腰が引けている。

つまりネオンはエルフ族の大事な使命を背負って出てきているのだ。


「おかしいと思ったんだ。君みたいなエルフの女性が一人でいるなんて・・・今までよく無事だったね?君はバッツに感謝しなくちゃね」


二人はバッツを振り返る。バッツはよく分からないという顔をしている。ホネットは呆れた顔でネオンを見た。


「今までの話をザックリ聞いた限り、この人かなりの天然かお人好しだよ。多分純粋に君を守ってくれようとする人間族はバッツぐらいしかいないんじゃないかな?」


「そうね。私は本当に運が良かったわ。ありがとうバッツ」


この旅の道中ずっとバッツに助けられてばかりだ。

ネオンは改めてバッツに御礼を言った。バッツは更に首を傾けている。首が曲がってしまいそうだ。


「困ってる女の子が居たから助けただけなんだけど。そんなに変な事なの?」


これには二人は呆れた顔をした。ホネットは溜息をついてバッツに助言をした。


「時と場合によると思うけど、世の中の困ってる女性達をいちいち助けていたらきりが無いよ?それに誤解される事もあるから気をつけた方がいい」


「誤解?」


「無償で助けられて守られたりしたら誰だって悪い気はしない。自分に好意があるのではと勘違いされるって事だよ」


「好意?」


バッツは全くわかっていないようだ。

ホネットは深く深く溜息をついた。


「とにかく今後は人助けもほどほどにね。じゃないと結果的に相手も自分も傷つく」


「んー。わかった。じゃあネオンとステラだけにする」


バッツの言葉にネオンは思わずピクリと身体が反応してしまった。そういえばたまに出てくる名前である。


「ステラ?冒険者仲間か何か?」


「ううん。俺の幼馴染。俺その子と旅の途中はぐれちゃって探してる途中なんだ」


え?それは大丈夫なのだろうか?ネオンは恐る恐る聞いてみた。


「それは真っ先に探しに行った方がいいのでは?」


その返答にバッツは困った様に笑って頬を掻いた。


「そうなんだろうけど。多分ステラは今一人で行動してない気がするんだよね」


それの何が問題なんだろう?

二人はバッツの言葉を待った。


「会いたくないんだ。出来れば」


「それじゃあ探せないじゃー」


「一人じゃないならそんなに急がなくてもきっと大丈夫よ!またラーズレイに戻った時もし居たら私が先に様子を確認しに行くわ」


ホネットの言葉にネオンが言葉を被せる。

彼は不満そうにネオンを見たがネオンの視線を受けて何かを察知したらしい。


「そうだね。会いたくないなら他の誰かに頼めばいい」


二人が話を合わせるとバッツはニカっと笑った。




****





「で?何だったの昼間のアレ」


その日の夜。三人は町に辿り着き宿屋をとった。

ホネットとネオンは先に寝ているバッツを置いて外の露店を見て回っている。


「彼。何故か凄く気持ちが不安定というか、とても危うい時があるの」


しかしそれが何かまでは説明出来ない。

分からないからだ。


「夜になるとうなされる事があるの。それが決まって身内の話になった時なのよ。その方も亡くなっているみたいだし・・・・」


「ふーん。誰かに殺されたのかな?」


この世界ではよく起こる事である。

強盗や魔物はとても多い。


「そうかも、でも何か引っかかるのよね。彼自身何かあるように思えて」


彼に会ってからずっと引っかかってるものがイマイチ何であるか分からない。何なんだろう。


「もしかしたら今日もうなされるかもしれない。もしそうなったらホネット。部屋を交換して欲しいのだけど」


「は?君と僕が同部屋になるの?」


「違うわ。私とバッツが同部屋になるのよ。彼が元に戻るまで付き添いたいから」


ホネットは頭を押さえると「君ねぇ」と非難の目を向ける。わかる。ネオンだって分かっている。


「私、出会った時から彼に助けられてばかりで何も返せていないのよ。だから私で少しでも気を紛らわせられるなら助けてあげたいの。それで、少しでも楽になるなら・・・」


「まぁ別にいいけどさ。危険を感じたら大声を出しなよ」


「危険?何の?」


ホネットは頭を押さえていた手でガシガシと自分の頭をかいた。


「あのねぇいい歳した男と女が一緒の部屋にいたら気をつける事なんて一つだけでしょ!」


「ああ!それは大丈夫」


「何が大丈夫なの?」


「彼。中身は5歳くらいの子供だから」


(何を言っているんだこいつは!)


しかし程なくしてホネットもネオンが言った言葉の意味を理解する事になる。



その夜。ホネットはネオンの言う通り様子がおかしいバッツを目の当たりにした。


「バッツ。ちょっとバッツ大丈夫か?」


震え続けるバッツにネオンを呼ぼうか迷った時。顔を上げたバッツと目が合った。


「お兄さん誰?」


その声は昼間のバッツよりも更に幼い声だった。それなのにその瞳の中は様々な感情がひしめき合う様な異常な色を感じられた。

ふと、バッツの身体からユラリと何かが滲み出てくる気配がした。ホネットはハッとしてそっとバッツの肩に手をかける。


「・・・・今、ネオンを呼んでくる」


そう言って素早くネオンを呼びに行く。

ネオンは直ぐにバッツの下にやって来て彼のおでこに自分のおでこを当てた。


「バッツ。大丈夫よ。怖くない」


ネオンが声をかけた途端に彼から放出されそうだった物はいつのまにか消え去っていた。


「ネオン。俺どうしよう」


彼は今にも消えてしまいそうな幼い声で吐き出した。


「俺、レイヴァン様に捨てられちゃう」


ネオンもホネットもその悲痛な声に驚いた。

それは本当に小さい子供が上げる様なそんな声だったから。


「大丈夫。捨てられたりなんかしない」


ネオンはおでこを外してバッツを抱きしめてあげた。少し強めに、そして背中を撫でてあげる。


「貴方を放り出したりなんかしないわ。絶対に」


バッツはそのままゆっくり目を閉じ倒れていく。

今度はちゃんと眠ったらしい。


二人はバッツを横に寝かせると部屋を出た。


「確かに。あれは危ういな」


バッツが起きないよう下に向かいながら話をする。


「下手をすると大惨事になるかもしれないよ」


ホネットの言葉にネオンは首を傾げる。

彼は難しい顔をして暫く考え込んだあとネオンを振り返る。


「さっき魔力の暴走を起こしそうになってた。彼には魔力を抑える物が必要だと思う」


(魔力の暴走?)


にわかに信じ難い。バッツは昼間しっかりと魔力を操っている。それを失敗した事はない。


「バッツは僕の事もよく分かってなかった。もしかしたら昼間起きてる時と夜の彼は別人なのかも」


そう言われてネオンはそれにも引っかかった。別人ではないと思う。だって最初の夜はネオンの事が分かっていた。ただ、最近不安定になる間隔が短くなってきている。


「この地での目的を終えたらステラという子を探そうと思う。多分彼のことよく知っているはずだから」


「勿論僕も付き合うよ。貰った分の仕事はするつもりだ」


ネオンは心強い仲間が出来少し心が軽くなった。

いつも笑顔でネオンを助けてくれる彼を自分も助けてあげたい。

彼女は祈った。

どうか彼が何の憂いもなくステラと再会出来るように。

彼の苦しみが少しでも和らぐようにと・・・。

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