装備屋での出会い
「あのさ、ネオン・・・・・」
「ん?何?バッツ」
あれから数日。正直バッツは戸惑っていた。
最近朝気がつくとネオンが自分の横で寝ているのだ。
バッツにはその理由がわからない。
彼は自分の不安定さに気がついていなかった。
「ネオンって兄妹がいるの?」
バッツの質問に何回か瞬きをしてからネオンは笑った。
「兄妹はいないけれど小さい子達の面倒は見てきたわ。自分の集落の人達は皆家族みたいなものだから」
エルフの大人はあまり子供に付きっきりにはならない。皆やるべき責務がある為、昼間は子供達同士で面倒を見あうのだ。
「そうなんだ。じゃあよく皆んなで川の字になって寝たりした?」
「そうね。中々眠れない子もいたから寝かしつけたりはしてたわ」
ネオンはフフフと笑っている。
バッツはそんなネオンを横目で見て考える。
(もしかして。慣れない旅で心細いのかな?夜、不安になるとか?)
夜に様子がおかしくなるのはネオンではなくバッツなのだが何故かバッツはネオンは寂しいのだと納得した。
(他に付いてきてくれる仲間を見つけた方がいいのかな?前みたいにネオンが危険な目に遭う可能性もあるから誰かが側にいた方がいい気がする)
そんな二人は現在ガルドエルムの国境を越えパラドレア国に入国していた。
この国はガルドエルムに次ぐ大きい国であるがガルドエルムほど豊かでは無い。しかも一年中寒い為、農作物があまり取れ無いのだ。
「防寒具を買わないと。東側は雪が降っているからこのままじゃ凍えてしまうわ」
ネオンがバッツの服を引いて服屋さんを指す。
バッツはネオンの言葉に首を傾げている。
「雪?何それ」
バッツが暮らしていたスノーウィンの森の中はそこまで気候の変化がない。
冬は寒くはなるが雪が降るほど気温が下がることが無い為バッツは雪を知らなかった。
「気温が物凄く低くなると雨の代わりに空から降ってくる氷の結晶のことよ。氷を見たことは?」
「行商人がたまに持ってくる荷物の中のを見たことがあるけどあんなに硬いものが降ってくるの?」
確かに雪を知らなければそういう発想になるか。
ネオンは吹き出した。
「違うわ。氷の結晶は凄く細かいの。それがいくつも集まって降ってくるから硬いものが落ちて来る訳じゃないわ」
「へぇ!そうなんだ。見るのが楽しみだなぁ」
バッツは素直にワクワクした表情を浮かべている。
それを見てネオンはまた柔らかく微笑んだ。
「えー!これ高いよ!もうちょいまけて!」
二人が近くの装備屋に入ると先に買い物に来てたらしい人物と店主が言い合っていた。
「駄目駄目!これは高いだけの値打ちがある装飾がされている装備なんだ。嫌なら他の店に行ってくれ」
「他の店はもう行ったよ!だけど僕に合うサイズの服がこれしか無いんだ。でもこの金額じゃ僕には買えない・・」
二人はなんとなくその二人から目が離せなくなってしまった。ネオンは思わず店主と揉めている相手をジッと見つめてしまう。
(間違いない。あの人ドワーフだわ)
店に入った時は何故子供と店主が揉めているのかと不思議に思ったが、よくよく見てみるとドワーフ特有のがっしりとした身体つきに程よくついた筋肉。子供だと勘違いしたのは背が低いからだ。
「何を揉めてるの?」
バッツは堂々と話に割り込んでいく。
「何だよあんた冷やかしか?」
「俺達防寒具を買いに来たんだけど」
バッツが店主にそういうと店主はコロッと態度を改めた。
「そ、それは失礼致しました。二名様分でございますか?」
「うん。一式欲しいんだけど・・・」
そう言ってバッツはそのドワーフの青年に目を向ける。
「出直した方がよさそうかな?」
バッツがそう言うと店主は慌てて引き止める。
せっかくの儲けが他の店に取られてしまうからだ。
「い、いえいえ!この方は装備を買うお金を持っておられませんので買われません!貴方も!もういい加減帰ってくれ!」
そう言われてドワーフの青年はうぐっと引き下がった。
一応常識はあるらしい。
二人はその青年を気にしながらも店主の説明を受けている。なるほど、たしかにこの店は服の値が若干高い。しかしネオンが見る限り高いなりの良い品を扱っている。
「バッツ。お金は大丈夫?」
「うん。かなりの金額がギルドでおりたから全然余裕だね。物も問題なさそうだし全部買っちゃおう」
バッツの言葉に店主もネオンもまだいたドワーフの青年も目を丸くした。
「え?本当に一式変えるの?」
「そうだよ。あ、この子の分もね?あと荷物入れも欲しい。丈夫なやつが」
装備の話をしながらこの辺りの話も耳に入れたバッツは今の装備では保たないと判断した。そしてその判断は正しい。
「は、はい!では荷物入れは少しですがお安くさせていただきますね」
店主の目は光輝いている。
それはそうだ。この二人の装備の売り上げだけで恐らく暫くは生活が安泰である。
バッツは言われた金額を店主に渡すと後ろでじっと見ていたドワーフの青年に目を向けた。
「いくら足らないの?」
「え?」
「お兄さん暫く俺に雇われない?」
バッツの言葉にまたしてもその場にいた全員が目を丸くしたのだった。
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「僕はホネット。見ての通りのドワーフだ。出してもらった分の仕事はするよ」
ホネットは小さい身体で胸を張る。
少しでも大きく見せる為だろう。
「俺はバッツ人間族だよ。こっちはネオン。この子はエルフなんだけど・・・・」
バッツがそう口にするとホネットはあからさまに嫌そうな顔をした。ネオンはそれを見てまぁそうなるだろうなと小さくなる。
「君、エルフなの?何でこんな所に?」
ホネットの口調が少し冷たくなる。
ネオンはバッツに申し訳なくなって下を向いてしまう。
「ホネットだっけ?やっぱ一緒に来なくていいよ」
その時。バッツがネオンの前に入り込んでホネットから隠した。そんなバッツに二人は何事かと動揺する。
「は?何急に。僕を雇いたいんじゃないの?」
「うん。俺ネオンの護衛をして欲しかったんだ。でも見込み違いだったみたいだからいいよ」
二人はそれにも動揺する。エルフをドワーフが護衛?
「お金は返さなくていいよ。俺が出したくて出したから貰っておいて」
バッツはそう言うとネオンの手を掴んでさっさと歩き出した。ネオンとホネットは慌てて引き止める。
「ま、ま、ま、待ってバッツ駄目よ!それは!」
「そうだよ!金だけ貰って行くわけには行かない!ドワーフの誇りにかけて!」
二人の制止にバッツはよく分からないという顔で振り向いた。
「何で?嫌々護衛するなら別に居なくてもいいよ。心配でネオンを任せられない」
そのセリフに二人はハァーと溜息をついた。バッツは首を傾げる。
「バッツ・・・・エルフとドワーフはね。仲が良くないの。私達個人じゃなくて種族同士が。だから一緒にいるとあまり良く思われないのよ」
ネオンがそう言うとバッツはキョトンとした顔をした。
「ホネットが嫌な顔をしたのは・・・多分、私が嫌いとかいじめようとしたのではなくて、ただ面倒だったのだと思うわ。エルフ族に関わると面倒事になる事が多いのよ」
ネオンが誤解が無いように説明するとホネットはネオンに謝った。
「そうだね、僕が悪かった。初対面であんな態度とったらそりゃ怒るよね。ネオンだっけ?嫌な思いをしたなら謝るよ」
「ううん、分かってるから大丈夫。気にしなくていいわ」
二人が苦笑いをし合うと、それを見たバッツは目をパチパチさせて暫く考えた後また首を傾げた。
「うーん。分かんないけど二人は別に嫌い合ってないって事?」
二人がそれに頷くとバッツは何とか納得したようだった。