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ソルフィアナ

あれからソルフィアナに入国申請を出し数週間後バッツ達はやっと許可が下り入国した。


入国する人数が多い為少々時間がかかったのだ。


「やっと付いたね。想像してたけどやっぱあまり歓迎されてないみたいだね?」


バッツ達が降り立った瞬間港の空気が変わった。


「そう?ここはいつもこんなものよ?何処でも自分達とは違う者は簡単には受け入れないものよ」


ロゼは慣れた様子である。そんなロゼの近くに金色の長い髪を持つ青年が近づいて来た。


「お久しぶりですね。お待ちしておりました」


「お久しぶりです。宰相様。今回の寛大なご配慮、有り難く存じます」


ロゼは流れる様最上礼をした。

皆それにならう。


「アスターシェ様が貴方達をお待ちになっております。手配に手間取ってしまい、申し訳ありませんでした」


「分かっておりますから、お気になさらないで下さい。まだ、私達の事を黙っていてくれてるのでしょう?」


ロゼは何回かこの国に来ているらしい。国の内情も分かっている様子だった。

バッツは遠くに見える巨大な花の蕾をジッと見つめた。


「バッツ?」


バッツの様子にロゼは訝しげに声をかけた。


「何だろう。声が・・・・・」


ロゼはハッとしてバッツの口を塞いだ。

皆、ギョッとそんなロゼに驚いている。しかし間に合わなかったようだ。


「ロゼ様。まさか、その方は!!」


宰相の目の色が一瞬にして変わった。ロゼは諦めてうな垂れた。


「・・・・・ええ。恐らく本来あなた方が守る筈だった人物よ。バッツ、説明したいのだけどここでは無理だわ。宰相様、本人は何も知らないのです。アスターシェ様と一緒にお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「・・・・かしこまりました。バッツ様どうぞこちらです」


バッツは宰相から声をかけられビックリした。

ロゼならわかるが何故自分がこんな丁寧に案内されるのかわからない。

ステラはその様子を見てカイルに耳打ちする。


「バッツが私の所に来る前にここに居たっていうのは本当だったのね。でも、何故エルフ族が?」


神の御子は本来人間族達だけで守られていた筈だ。

ステラはそうルドラから聞いている。ルドラに目を落とすと彼は知らん顔でカイルの腰袋に入っている。役に立たない。


「あの花を咲かせる事と何か関係しているのかもな」


カイルも小声で返す。

バッツは辺りを見回しながら少し迷って聞いてみた。


「あの、ネオンは元気ですか?」


宰相はそれには薄く笑って頷いた。


「彼女は大事な歌姫ですから。丁寧に扱われます。心配要りませんよ」


(歌姫だから?)


バッツはその言葉に何か引っかかる物を感じた。横でホネットが物凄い不機嫌な顔をしている。そんなホネットの肩にさり気なくエルディの手が乗せられた。ホネットはそれで少しだけ表情を緩和させる。


謁見室の前まで来ると皆緊張の面持ちで背筋を伸ばした。大きなドアが開き両側にズラリと兵士が連なって並んでいる。その奥にこの国を治める皇女が立っていた。



室内に入り数歩進んでから皆彼女に礼をする。


「よく来ました。私はこの国の王アスターシェ。貴方達を私はずっとお待ちしていました。私共の事情で入国が遅くなり大変申し訳ありませんでした」


開口一番皇女が謝罪したのでこの国の官僚達は狼狽えた。


「皇女!この様な者達に貴方様直々に謝罪するなど!!この国の品位が疑われます!おやめくださいますよう!」


成る程。この時バッツ達はほぼ全員理解した。

エルフ族が悪いのではない。上に立つ者がろくでもないのだ。頭が固い官僚を纏めるのは容易な事では無いだろう。


「この様な者、とはどういう意味です?」


アスターシェは面白そうに笑ってその男に問うた。

男は一瞬たじろいだが直ぐに持ち直して意見した。


「彼等はこの国の者ではありません。本来ならこの地に足を踏み入れるのも憚れる者なのです。それを寛大にも許可しただけでも過度な温情なのです!それなのに貴方様はこの者達と謁見すると言い出しあろう事か頭まで下げて!この国の恥を晒すおつもりか!!」


この辺りで何故ドワーフがエルフを毛嫌いするのか流石のバッツも理解出来た。こいつ心が狭すぎる。


「そうですか。しかしこの国も他の国からの恩恵を微微たる物ですが受けています。そしてこの者達はこの国に今一番必要な方々です。それでも貴方はそれを邪魔すると言うのですか?」


「こんな者達など必要ありません!!貴方は私達とこの者達どちらが必要なのですか!!宰相様!何故黙っておられるのです!何時もなら貴方も反対なさるでしょう!」


極論すぎる。

皆チラリと宰相を見たが宰相は白い顔をして黙っている。

ロゼは口の端で笑みをつくりボソリと呟いた。


(良かったわね、命拾い出来て)


「他の者もこの者と同じ意見なのですか?同じ意見を持つものは前に進み出なさい」


アスターシェがそう言うと次々に皆前に進み出た。

アスターシェはそれを確認し宰相に目を止めた。


「貴方はどうなのです?」


「私はアスターシェ様に従います」


宰相の言葉にエルフ族の官僚達は驚愕した様だった。

アスターシェは笑うと成る程、と頷いた。


「私は貴方の賢い所に好感を持っていますよ」


これは一体何なのか。

ロゼにはこの茶番の意味が理解出来ていた様だった。


「彼等は神の御子です」


「・・・・・は?」


「大輪の花から大地を芽吹かせ、この国を生き返らせる事が出来る最後の砦。貴方達が血眼になって欲し、探していた、神に選ばれし人間族の一部と言ったのです。しかもその中でも一番重要な役割を持つ"大地の子"がそこに」


アスターシェが指差す場所には他でもないバッツが立っていた。皆、アスターシェの言葉に硬直している。


「必要無いのですね?」


「は・・・」


さっきまで喚いていた官僚は真っ青になってアスターシェをゆっくりと見た。


「この国に、彼等は不必要なのですね?本来であれば敬わなければならないこの方々が貴方は必要ないと?」


先程、意気揚々と前に進み出た者達は皆それはそれは可哀想なくらい表情の色を無くしている。

バッツは首を傾げた。何故皆そんな狼狽えているのだろう。


「しょ、証拠は」


誰かが呟いた言葉に周りがギョッとした。

宰相は、愚かな。と小声で呟いた。

アスターシェは微笑んで立ち上がると控えていた従者に一つの種を渡し、従者はそれをバッツの前まで持って来た。

その種を見た者は今度こそ震え出した。


「バッツ。それを芽吹かせられますか?」


バッツはそれを見てエリィを見た。エリィはにっこり笑っている。バッツはあの時の感覚を思い出すとそれはすぐに思い通りに形になった。しかも。


「こ、これは!!」


その種はたちまち芽を出し成長し、花を付け更に成長を続け、数個の種を蒔いてそこからまた新たに芽を出した。それが延々と続いている。バッツは困って思わず聞いてしまう。


「あ、あの。止まらないんだけど」


「ええ。もういいですよ。そこで止めて下さい」


バッツの周りには大量の種が落ちている。隣を見ると宰相が信じられない物を見る目でバッツを見ていた。何ていうか・・・・目が輝いている。


「この種はこの国ではもう殆ど取れない絶滅種なのです。しかし万能である為この国には絶対に欠かせません。この種一つで二十人程の病人を助けられます。それを貴方はこの一瞬で復活させたのです。と、言えば貴方がした事の重大さが伝わるでしょうか?」


バッツはそう言われて困ってしまった。これはバッツでなくても出来るのではないだろうか?


「ソルフィアナの植物は特殊なのです。普通の魔術や魔法では蘇りません。今まで誰が挑戦しようと成し得ませんでした。貴方しかできないのです」


そう言われ、そうなのかぁと思った辺りで周りの人々が膝をついた。皆兵士に押さえられている。


「あ、あ、アスターシェさま・・・お許し下さい」


「貴方達はそう言って、許しを乞うものを今まで規律や掟を理由に容赦なく裁いてきました。順番が来ただけですよ?貴方達の」


アスターシェは満面の笑みで手を上げた。

兵士は抵抗する彼等をその場から連れ出して行った。謁見室は急に静かになった。

この辺りからくつくつと笑い声が聞こえてきた。


「お見事です。アスターシェ様。貴方も余程怒っていらしたのですね」


ロゼは笑いながら顔を上げた。一同はポカンとしている。

アスターシェは壇上から降りて来ると皆の前で微笑んだ。


「ええ。この時の為にずっと耐えていました。腐りきった者を一気に掃除するにはもうこれしか手が無かったので、貴方も生き残ったのですから無駄な事はせずに身の振り方を改めて考える事ですね」


アスターシェのあからさまな発言に宰相は目を開いたが直ぐに開き直った。


「我々が望む神の御子が現れたのです。それ以上の望みなどありはしません。貴方もよくお分かりのはず」


「よく分からないんですが、私達がそんなにこの国に重要なんですか?」


ステラが尋ねるとアスターシェは頷いた。


「それぞれの種族にはそもそも役割が存在します。ドワーフはこの地の地盤を安定させ管理する。エルフはその地になる育みを維持させる。コルボ族はそれらを繋ぐ大事な橋渡しです。そして魔人は一番、神が近い場所でこの地の異変を察知します。しかし一旦この地が崩れ始めてしまえば我々にはどうにも出来ないのです」


「どうにも出来ないとはどういう事だ?」


ベルグレドが聞くとこれにはエリィが口を出した。


「神の御子の力しか効果がないの。この地の崩壊はこの地の者の力が直接干渉できないんだって!」


それを聞いてステラはハッとした。カイルも頷く。


「人間族が元々この世界のものではないから干渉できるって事ですか?」


アスターシェは頷いた。

あれ?しかしそうだとしたら。


「それって、そもそも人間族なら効果があるのでは?」


ステラの新しい発想に皆驚いた。確かに。言われてみれば。


「いや、しかし純粋な人間族じゃなければいけないとなると厳しい。そもそも宝玉自体に効力があるんだろう?」


エルディが訂正すると皆何となく納得した。しかしステラは未だもやもやしている様子だ。


「改めまして皆様遠路はるばる我が国にお越しくださりありがとうございます。そしてバッツ。貴方は覚えて無いかも知れないですが、お久しぶりですね」


「え?俺初めてここに来たんですけど?」


「いいえ。貴方は赤子の時、僅かですかここに居ました。神の采配で連れて行かれましたが本来なら貴方はここで暮らしていた筈なのです」


初耳である。

しかしバッツにその記憶はなかった。

赤子だったので仕方無いが。


「貴方の育ての親。レイヴァンに少々責められました。貴方が連れて行かれる時私が余計な事をしたせいで貴方を無駄に苦しめたそうですね。申し訳ありませんでした」


バッツにはそんな記憶はない。首を捻っているとアスターシェはバッツの額に触れた。


「赤子の貴方に加護をかけたのですが、その時の私の言葉が貴方の記憶に鮮明に刻み付けられてしまった様なのです。私は貴方が何の為に連れて行かれるのか分かっていましたから。ステラを守る為に生きて行きなさい、と声をかけてしまったのです」


バッツの根源はここにあった。

そう。その言葉にバッツは従順に従い生きて来たのだ。


「それがこんなにも貴方を苦しめる結果になるとは思いもしませんでした。今更何を言っても言い訳にしかなりませんが・・・・」


「別にいいよそんなの。俺、ステラを守れて満足だよ?」


「・・・バッツ」


ステラは複雑な顔でバッツを見た。バッツは笑ってステラの頭を撫でた。


「妹を守るのは当たり前だよ?何で王様が謝るの?」


皆笑いながらバッツを見る。

アスターシェは眩しい物を見るかのように目を細めた。

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