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家族

いよいよラーズレイの街が近くなった頃。やはりバッツの様子がおかしくなり始めた。


「バッツ。逃げないでよ?僕、走るのは嫌だよ」


そわそわし始めたバッツにホネットはジト目で釘を刺した。バッツは情けない顔でホネットを見る。


「なんだ、そんに怖い女なのか?ロゼより?」


本人がこの場に居ないのをいいことに言いたい放題である。バッツは首を振って否定した。


「ステラが本気で怒った所は見たことないんだ。喧嘩もした事ない。お互いすぐ謝るから」


成る程。もしかしたら似たようなタイプなのかもしれない。


「怒られるより泣かれる方が辛いかも。それに・・・」


「カイル?まぁ怪我させたなら謝罪はしないといけないよね?」


気が重い。重すぎる。

いよいよ街が見えてきてバッツは気分が悪くなってきた。

吐きそうだ。


「ベル!お水飲みたい」


エリィはそのタイミングでベルグレドの服を引っ張って森の木陰を指差した。


「すまん休んでいいか?」


いいタイミングの提案にバッツはホッとした。

ちょっと奥の湧き水がある所まで行って水を飲むと少し気分が落ち着いた。

木陰で休んでいるとエリィがバッツの手を握ってくれる。


「大丈夫だよ?ちゃんと仲直り出来るから」


バッツはエリィにそう言われて微笑んだ。

この少女にそう言われると安心する。本当に大丈夫な気がしてくる。バッツが笑って顔を上げるとそこに今まで居なかったはずの人物が立っていた。



「・・・・・・バッツ」


「ステラ?」



あれ?なんで彼女がここに?まだ街に着いてないのに。



「あーーー。久しぶり?」



バッツは思わず今までの調子で笑ってしまった。

ステラはそんなバッツをじっと見たままスタスタとバッツに近づいてくる。その背後からバッツが避けていたカイルも付いて来ている。


心臓が速く鳴り過ぎて手がブルブル震えてきた。

ステラは真顔でバッツの正面に立つとまたじっとバッツを見下ろした。


ステラの手が上がりバッツは一瞬殴られるかもと思って少し身構えた。しかし次の瞬間その手はバッツの頭に回された。



「バッツ・・・バッツ!!」


「・・・・ステラ?」



いつの間にかバッツはステラに抱き締められていた。

ステラは震えながらバッツに言った。



「ごめんね、バッツ。一人にしてごめん」



何故。ステラが謝るのだろう。一人にしたのはバッツなのに。



「私が何も知らなかったから。全部バッツに押し付けた。ずっと側に居たのに助けられなかった」



違う。そうじゃない。隠していたのだ。ステラが分からないようずっと。



「私がもっと強かったらバッツと一緒に行けたのに。本当にごめんなさい」


「・・・おれ、助けられなかったよ」



けれどバッツの口から出てきたのはステラに対する回答ではなかった。バッツは視界が見る見る歪んでいくのをただボンヤリと見ていた。



「ごめんステラ。おれのせいだ。おれの・・・・」


「違うわ。バッツのせいじゃない。私のせいよ」



バッツの瞳からポタリと涙が溢れ落ちた。

傍らで見ていたカイルはそっとバッツの肩に手をおいた。



「バッツ。誰のせいでもないんだ。レイヴァンは自分の愛する者を守った。それだけだ・・・・・・すまなかった」



バッツはカイルの言葉に眼を大きく見開いた。

彼の瞳はレイヴァンと同じだった。彼の大好きなレイヴァン・スタシャーナのそれと。


カイルが触れている肩からその感情は溢れるようにバッツの中に広がっていった。バッツは我慢できず大声で泣きだした。



「っあーーーーーーレイヴァンさまぁぁぁぁ!!!あああああ!!!」



まるでずっと泣くのを我慢していた子供の様にバッツはステラに抱きついて顔を赤くして泣いた。

ステラの瞳からも涙が止めどなく溢れて止まらない。



「レイヴァン様がね?ここまで私を連れて来てくれたの。バッツと一緒に居たんだね。会わせてくれてありがとう」



バッツはずっと寂しかった。レイヴァンにステラに会いたかった。



「バッツ。貴方は私のたった一人の私の家族よ」



ステラに許して欲しかった。

たった一人のバッツの家族に。



「貴方を愛しているわ。バッツ」



彼女はバッツが泣き止むまで、ずっと彼を抱きしめた。

どうか、この悲しみが少しでも和らぐようにと、ずっと彼の背中をさすり続けた。そんな二人を仲間達は最後まで見守った。




****




「身体。大丈夫か?」


あの後バッツはそのまま泣き疲れ意識を失った。

起きて話を聞くとどうやらカイルの術の影響もあったらしい。目が覚めて屋根の上にいるバッツの横にカイルが腰掛けた。


「大丈夫。あと前はごめん」


バッツがカイルに怪我をさせた事だとわかりカイルは眉を片方上げた。


「ま、お互い様だな?お互い間が悪かった」


カイルは笑った。バッツはなんだか変な気分だった。


「しかし。レイヴァンは随分好かれてたんだな。俺は悪い印象しか最初なかったから不思議な気分だ」


「え?悪い印象?レイヴァン様が?」


全く意味が分からない。カイルはそんなバッツに吹き出した。


「お前ら本当に似てるよな。やっぱ17年も一緒にいると似てくるんだろうな?」


ステラと似てると言われこれにバッツは言い返した。


「俺ステラみたいに天然じゃないよ?」


「いや、そういう所が」


隣で笑っているカイルにバッツは理解するのを諦めて空を見上げた。


「オルゴール。カイルが壊してくれたんだよね?」


「ああ。壊したというか身体に取り込んだんだが」


「ステラと最後まで一緒にいてくれる?」


「ああ。ずっと一緒にいる」


これでバッツのステラを守る役目は終わった。

バッツは胸を押さえた。


(大丈夫。痛くない)


「そんな訳で、お前とも長い付き合いになる。アイツがまた暴走したらお前も止めるの手伝ってくれ」


カイルが当たり前のようにそんな事を言うのでバッツはポカンとカイルを見てしまった。


「おい。まさか俺一人でアイツの面倒みさせる気か?勘弁してくれ。アイツああ見えてかなりお転婆だぞ」


「ずっと一緒いるんじゃないの?」


「それとこれとは話が違う!」


バッツは笑った。きっとカイルは本気で言っている。

そうやって自分達はいつまでも繋がっていける。


「ありがとう。カイル」


「構わない。お前の大事な妹を嫁にもらうんだからな」


嫁?嫁!?あの嫁か?っとバッツは目を剥いた。


「え、え!?二人ってもうそこまで?そうなの?」


カイルはにやりと意地悪く笑うと更に爆弾を投下した。


「そりゃまぁ。だから夜は部屋に入って来るなよ?それ以外ならまぁステラに近づいても許してやるよ」


(な、な、な、な、なんっ!?)


思わず赤くなるバッツにカイルはもう我慢出来ず、大笑いした。その声を聞いて下からステラの声が聞こえてくる。


「ちょっと二人とも!そんなとこ居たらだめだよー!宿屋の人に怒られちゃうでしょ?」


ひょこりと顔を出したステラに二人は苦笑いするとやれやれと腰を上げた。


「バッツの会いたい奴ってエルフなんだってな?」


「うん。ネオンって子」


「急いで向かおう。お前の大切な子なんだろ?」


カイルは真剣な顔でそちらの方向を睨んだ。


「俺、エルフの国にはあまりいいイメージが無い。なんてったって禁忌のオルゴールの音色の元を作った国だからな。奴らも目的の為なら手段を選ばない」


カイルのその様子にバッツは何か嫌な物を感じとった。


「お前が自分で決断したことに俺は口を出す気はない。ステラがなんと言おうとお前の事はお前が決めろ」


あんなに嫌だと思っていたカイルの事が今は何ともない。

むしろ何処かレイヴァン様に似ている彼にバッツはとても安心した。


「細かい事は俺達に任せろ。お前は突っ走るのが得意なんだろ?」


「うん。俺の特技」


二人は二人屋根から微かに見える地平線を一緒に眺めた。


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