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彼等の世界

パラドレア境界線の街では、先日突然起こった奇跡の出来事で大騒ぎだった。

そして久々の雪に人々は涙を流して喜んでいた。


「この国にとってそれ程までに大事な物だったのね」


温められた部屋の中でロゼはポツリと呟いた。

エルディは自分の膝を枕にしてスヤスヤ眠るエリィの頭を撫でながらそうだな、と笑った。


ふと、ロゼはある事を思い出し暖炉の近くにいるバッツとホネットの方へ視線をやった。そのタイミングでベルグレドがポットを持って入って来る。


「そう言えば聞くの忘れてたけど貴方ステラのオルゴール持っている?」


そう言われバッツは頷く。彼女から離れる時、念のために預かっていたのだ。間違ってステラがオルゴールを開けるのを防ぐ為に。


「どんなものか見せてもらっていいかしら?ステラにしか開けられないんでしょ?」


「うん。構わないけど。ちょっと待って」


バッツは自分の荷物入れを引き寄せると奥の方から麻袋を取り出した。何かの刺繍が施されている。恐らく親が子供に渡す御守り袋だ。ステラが赤子の時から持っていたものである。ロゼは受け取るとその袋をじっくり眺め中から箱を取り出した。


「やけに軽いのね?術式しかないからかしら?」


ロゼが持ち上げた箱を見た瞬間バッツは驚いていきなり立ち上がった。皆驚いて身体を背後へそらす。


「どうしたの?急に・・・」


「違う」


何が?と皆バッツの言葉を待った。バッツは口をパクパクさせて頭を抱えた。


「それ、ステラのオルゴールじゃない!騙された!!」


バッツはあの時、急いでいたので中身を確認しなかった。

ステラにまんまと偽物を渡されてしまったのだ。


「何故そんな事?ステラにしか開けられないならバッツが持っていた方が安全じゃない」


「・・・・バッツの心が壊れた原因だからではないか?そんな物いくら開かないと分かっていても渡せなかったのでは?」


しかしそれでは益々ステラの身が危険である。

バッツはここでやっと自分が犯した過ちに気が付いた。


「本当俺馬鹿だ。なんでステラを置いて行っちゃったんだろう。何で・・・・」


一番危険なオルゴールが自分の手元にある。その気持ちがバッツを軽率な行動へ導いた。

ロゼは溜息をついて少し笑った。


「そうねぇ。ステラをただのか弱い女だと侮ったのがそもそもの過ちね。貴方よりステラの方が恐らく数倍強くてたくましいのよ?」


ステラがバッツより強い?そんな事考えられない。そんな筈ない。


「貴方がレイヴァンを助ける為に一人戻ったと知った時、あの子悔しがって泣いたわよ。どうして自分も一緒に戦わせてくれなかったのかって大泣きだったわ」


伝えられた真実にバッツは驚愕した。ロゼは苦笑いでバッツを見た。


「もし貴方があの時ステラと一緒に戻っていたのならきっと貴方は今みたいに苦しまずに済んだかもね。きっと彼女が貴方とレイヴァンを助けることが出来たから。運命とは残酷ね」


そうだ。そうなのだ。

そもそもステラがあの場にいれば例え致命傷を受けたとしても彼女の魔力ですぐ治せたのだ。そしてきっとバッツが力を暴走させる事も無かった筈なのに。


「でも、その代わり貴方はネオンと出会う事が出来た」


ロゼはまたバッツが間違わぬようすかさず釘を刺した。

ホネットもバッツの服の裾を引っ張って笑う。


「起こってしまった事をグチグチ考えてもしょうがないよ。間違ったなら次は気を付ければいい」


バッツはドサリと床に座った。


「俺、本当に何も分かってなかったんだなぁ・・・」


「分からない事を学びながら生きていくのが人生よ。ただ何も考えず生きているより間違えながらも悩んで生きて行くほうがよっぽど充実した人生を送れると思うわよ?」


「考えすぎて拗らせた奴もいるしな?」


ベルグレドの言葉にロゼはジロリと目を向けた。


「それ、まさか私のこと言ってないわよね?」


「俺は一言もそんな事言ってないが?」


皆笑いながら二人のやり取りを聞いている。

バッツはなんだか胸があったかくなった。


(皆んな優しいな。凄く優しい)


バッツには今までレイヴァンとステラしか居なかった。

他の村の者達はステラやバッツに憐れみや侮蔑の表情しか示さず無関心だったから。

バッツは多分幸せな気分になったのだと思う。

するとすぐ隣で何かの気配を感じた。


「・・・・・・え?」


そこには薄っすらと笑いながらそのやり取りを見ているレイヴァンの姿があった。バッツはそのままその横顔を眺めた。皆そんなバッツの様子に気が付かずロゼとベルグレドの言い合いを笑いながら見ている。

ふと彼はバッツの視線に気付きバッツを驚いた顔でみた。

しかし、目が合うと穏やかに笑って彼に手を伸ばす。

その姿はバッツに触れる瞬間に消え去った。


「バッツ?」


最初に気付いたのはホネットだった。

バッツは自分の頭に手を置いたまま固まっていた。


「どうしたの?まだショック受けてるの?」


「え?何よ急にそんな変な顔して」


バッツはいまだ眠っているエリィを見た。

そして皆んなの顔を見てやっと震える声で呟いた。


「いま、レイヴァン様が見えた。俺の隣に」


皆の視線がバッツの何もない空間に集まる。そしてそのままバッツに移された。バッツは顔を赤くしている。


「びっくりした。でも何で急に・・・・・」


バッツがまた胸を押さえると今までスヤスヤ寝ていたエリィが、突然ガバリッと身体を起こした。

エルディはびっくりして両手をあげる。


「ロゼ、ステラに呼ばれたよ」


訳の分からないことを口にするエリィに一同え?っとロゼを見る。それと同時にロゼはエルディを掴んで引っ張った。

エリィは素早く膝から降りるとベルグレドに引っ付いた。ホネットもバッツもあっけにとられている。


「バッツ!私達一足先にステラの所に行ってるわね!彼女の転移装置が発動した!ラーズレイで落ち合いましょう!」


エルディはその言葉に剣を抜きいつでも戦闘できるようロゼを抱き寄せた。


「ベルグレド!!バッツ達をお願い!必ずラーズレイに無事連れてきて!!」


ロゼがそう叫ぶと同時に二人の身体は光に包まれ消え去った。皆呆然とそれを見送った。





****






「大丈夫かなぁー?ロゼ達」


「大丈夫でしょ?化け物並の強さだよあの二人」


「あはは!ばけものーばけものー!」


四人は数日後ガルドエルムに入った。

国境を超えて暫く進んだ屋敷に着くとベルグレドが入るよう促した。


「え?あの、ここ誰かの家だよね?入って大丈夫なの?」


どっからどう見ても金持ちの屋敷である。

ベルグレドは平然とその屋敷を指差した。


「ああ。俺の家だ」


ちょっとこの人何言ってるか分からない。これがベルグレドの家とは?


「聞いてないのか?俺はこの国の貴族だ。兄さんも元はこの国の貴族で竜騎士だった」


二人は目が点になった。

エルディが貴族?竜騎士?


「俺は冒険者じゃない。この国の領主だからな。兄さんは国を出てその地位を捨てたが俺はそういう訳にいかないんだ」


「「えええええええええええええ!!!!」」


あまりに驚き過ぎて二人は同時に叫んだ。

中からその屋敷の執事らしき人物が現れる。その姿を見てホネットの顔が引きつった。


「お帰りなさいませベルグレド様。今回はまた、賑やかですね?」


「ああ、兄さん達に頼まれたんだ。休んだらまたすぐ出る。今のうちにこちらの仕事も終わらせる。客人は任せて構わないか?」


「かしこまりました。私執事のブラドと申します。どうぞお見知り置きを」


「あ。バッツです。お邪魔します」


「・・・・ホネットです。どうぞ宜しく」


ブラドはそんな二人ににっこり微笑むと屋敷の中に招き入れた。エリィはすでに走って中に入ってしまっている。


「俺、やっぱ世間知らずなのかな?」


バッツの言葉にホネットは青い顔で首を振った。


「いや。僕、流石に驚き過ぎて感覚が麻痺してきたかも」


そんなにもベルグレドとエルディが貴族だったのがショックだったのだろうか?しかしホネットが次に口にした発言にバッツも驚いた。


「あの、ブラドって執事。もう引退してるけど、もとラーズレイお抱えの暗殺部隊を率いていた人物だよ。ただの執事じゃない」


それはギルドの意思にそぐわない問題ある者達を抹殺する組織である。ギルドの仕事をせず、冒険者を語り悪事を働く者もいる。大体警告で済むがそれを無視し続け、問題行動を続ける者達は、その資格を剥奪出来ない場合存在を消されてしまうのだ。物理的に。


「成る程。だからベルグレドはここに留まってられるんだね?」


「そうだね。そう言われてみればそうだ」


その後二人は体も休めず屋敷を散々探索し、食べたことも無いような夕食を食べ、贅沢にお風呂に入って柔らかい布団で一夜を過ごした。


二人は思った。


「え?何ここ天国?」


「朝っぱらから何寝ぼけてんだ。現実だ現実」


ベルグレドが怠そうに部屋から降りて来る。

その様子を見てバッツは首を傾げた。


「あれ?もしかして寝てない?」


「まぁな。長く屋敷を離れると仕事がたまる。それを片付けておかないとな」


バッツはパラドレアでのネオンのやり取りを思い出した。

ネオンは国の民が可哀想だと嘆いていた。民を救う為の王なのに、と。


「・・・・ベルグレドはこの国の人の為に頑張ってるんだね。何で?」


それはきっと自由気ままな冒険者に比べるとかなりの重責に違いない。しかもそれに加えて彼は世界の使命も押し付けられている。投げ出してもおかしく無い。


「意味なんて無い。それが俺に出来ることだからやっている」


しかしベルグレドの回答はそっけなかった。


「でも、そうだな。前、ロゼに言われた事がある。目の前にあるものが当たり前だと思って過ごすのはとても愚かな事だと」


二人はベルグレドの話を黙って聞いていた。

彼の周りではクルクル妖精が回っている。


「俺は子供の頃からこの生活が当たり前だった。だが平民はこんな贅沢な生活は出来ない。その違いはなんだ?別に身体の作りは皆一緒だ。与えられた物はちゃんと返さなければならないと思っている」


ベルグレドは欠伸すると怠そうに手を振った。


「それが、俺が出来る事だ。悪い、眠いから少し仮眠をとる」


二人は自分達とは全く違う世界で生きている彼を見て何とも言えない気分になった。

きっと世界はもっと広くて色々な人々が色んな喜びや悲しみを抱えて一生懸命に生きているのだ。

自分達の世界はその中のほんの一部でしかない。


「本当に面白いなぁ」


バッツはこの時始めてこの世界に生きる人々の事を考えた。関心を持てるようになった。

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