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小さな少女と大きな少年

四人はラーズレイに向かうべく先を急いでいた。

その道の途中で大きな木が連なる道に通りかかった。

バッツは何となくそこで足を止めた。


「見事に枯れてるね。パラドレアの命の木なのに」


ホネットはその木々を見上げた。

その木はパラドレアの本来であれば寒い地域でも年中食べれる実をつけるソデアという木である。

しかしこの地に入ってから見かけたソデアに実がなっているのをバッツ達は一度も見かけていなかった。


「せめて、この実さえなっていればもう少し保ったかもしれないのにね」


パラドレアの立ち寄った村の殆どは廃墟となっていた。

人が住めなくなってしまったのだ。もしくは皆死んでしまったか。


「何で実がならないんだろう?」


「何故かしらね?もしかしたらこの国の土壌は既に枯れて腐っているのかも知れないわ」


バッツは地面に手をついて暫し考えてから頭を捻った。


「確かに枯れてるけど・・・駄目にはなってないよ?もしかして雨が降らないからかな?」


パラドレアは雪が降ると言っていた。しかしまだ一度もそれを見ていない。


「もしかして・・・雪が降らないと栄養が木に吸い取られないのかしら?確かに去年もあまり雪が降らなかったらしいし」


ロゼはそう言って木に触れるとその木の影からピョコリと何かが顔を出した。


[せいかーい!よくわかったね?ゆきが欲しいの!]


この地の妖精である。

よく見るとそこら中で顔を出している。その数に四人はギョッとした。


「な、何?貴方達そんなに集まって。集会でもあるの?」


こんな沢山妖精が集まるなど、そうある事ではない。

あるとすれば・・・・・・。


「こんな所にいたのかよ。やっと見つけた」


驚くロゼの背後からバッツの知らない男の声がした。

皆、驚いてそちらを見ると、そこには金髪で中性的な青い瞳を持った男性が立っていた。ロゼは思わず声を上げた。


「ベルグレド!何故貴方ここにいるの?」


「ロゼおねぇ様ー!」


ベルグレドが答える前に彼と一緒に居たらしい女の子がロゼに飛び込んで来た。


「エリィ!!貴方も来たのね?真っ赤になって、寒いでしょうに」


ロゼは女の子の頬を両手で包んであげる。女の子は嬉しそうにロゼに巻きついている。


「バッツ、ホネット紹介するわ。彼はベルグレド・ファイズ。エルディの弟よ」


「「え!!」」


ホネットとバッツは驚いて二人を見比べた。全然似てない。

ベルグレドは構わずロゼの所まで来るとエリィと呼ばれる少女の襟を引っ張った。


「いつまで引っ付いてる。もう離れろ」


「イヤァ!!エルディお兄様たすけてぇ!」


エリィが今度はエルディに助けを求める。エルディは笑ってエリィを掬い上げて抱っこしてあげる。

エリィは嬉しそうに首に巻きついた。


「甘やかすなよ!!つけあがるだろ!」


「まぁまぁ今くらいいいじゃない。可愛くてしょうがないのよ?エルディだって」


ホネットは抱っこしたままエリィの頭を撫でているエルディを見た。確かに、嬉しそうだ。


「え?弟さんの・・・子供?」


「違う!!」


それには噛み付くように否定されて確かに少女の父親にしては若すぎるなと思う。歳の離れた兄妹だろうか?


「あらぁ?私とエルディの子供よ?」


ロゼのとんでもない発言にエルディはギョッとし、エリィは乗っかった。


「わーい!お父様〜!!」


「エリィ!!全くとんでもない女どもだ」


ベルグレドはエルディから無理やりエリィを剥がすとそのまま自分で抱えた。不服そうである。


「で?何故ここにいるの?私達に会いに来たのよね?」


「こいつが行けって言うから来たんだよ。どうも俺の力が必要になるらしいぞ?」


エリィはとぼけた顔で首を傾げている。

どうも話が読めない。


「もしかしてベルグレドも神の御子なの?」


「そうだ。お前がバッツか?お前が力を使うのに俺が必要らしいぞ?」


その言葉でロゼは、ああ!っと声を上げた。


「四大元素。貴方の水魔力ね?バッツの土魔力と合わせると確かに効果は上がるはず・・・でも何で突然」


「エルフの王が花を咲かせるってお告げがあったからきっと役に立つと思ったの。バッツ一人よりベルとロゼ、ステラが居ればファレンガイヤ全土を一気に芽吹かせられるから大分時間がかせげるんだよ?」


皆、エリィの発言に驚いた。この子供、だだの子供ではなさそうだ。


「みんなー!こっちにおいでよー!」


エリィが声をかけると隠れていた妖精がぞろぞろ集まって来る。ホネットは眼を向いてその数に慄いた。


「あ、彼ダービィディラルなのよ。細かい事は気にしないで」


そんな彼は仏頂面である。

何だろう。この、ギャップは。上でキャッキャ騒いでいる妖精の下での彼の不機嫌さの差異が半端ない。


「バッツ!芽吹かせて?」


突然の要求に流石のバッツも狼狽えた。

どうすれば良いのかわからない。困った顔をするバッツにエリィは手を伸ばす。ベルグレドは溜息をついて彼女をバッツに手渡した。バッツは思わず受け取り抱え直す。


「難しくないよ?大好きー大好きーって思うだけでいいのよ?それで花が咲いたらありがとうって言ってあげるの、そうしたら皆んなが助けてくれるから後は一気に広がるよ?」


エリィの子供ならではの表現に皆苦笑いした。だがバッツはこれを聞いて納得した。とても分かり易い。


「バッツの中いっぱいの大好きで溢れてるよ?いっぱい過ぎて持ちきれないから皆んなに分けてあげないと!」


「大好きで、溢れてる?」


エリィはニコニコしてバッツの額に手を当てた。するとバッツ中からゆっくりと魔力が湧き出てくる。


彼の足下からシュルリと植物の蔦が螺旋状に広がっていく。その蔦に沢山の妖精達がくっついた。


「バッツは大好きな人がいるよね?その人達を幸せにしたい?」


「・・・・したい。皆んなに笑って欲しい」


レイヴァンやステラの笑顔を思い出す。そうだ彼等に笑って欲しかった。バッツがそう願うと彼の魔力は暖かな熱を持ってゆっくりとバッツの身体から湧き出てきた。


「バッツも幸せになりたい?皆んなと一緒に」


バッツは大きく眼を見開いた。

自分も皆んなと一緒に幸せになる。そんな事考えた事があっただろうか?エリィはよしよしとバッツの頭を撫でてあげる。エリィは満面の笑みである。


「むずかしくないよ?望めばいいだけ。そうしたらね?幸せになれるんだよ?」


そんな事あり得るだろうか。そんな事が。バッツは想像してみた。


朝、起きるとレイヴァン様やステラが笑顔で迎えてくれる。そして部屋のドアがノックされホネットやロゼやエルディ達が訪ねてくる。

騒がしいと怒られて皆で外へ飛び出して笑いながら村の外へ出かけに行くのだ。そしてその先には自分の最も大切な彼女が自分を待っている。

彼女はバッツをみて笑顔で自分を呼ぶのだ。


[ バッツ ]


(ああ、何て・・・・・)


バッツは震えた。

今すぐに彼女に会いたい。彼女に会って彼女の笑顔が見たい。そして彼女を・・・抱きしめたい。


「しあわせに・・・・なりたい」


「なれるよ。行こう。貴方の幸せを迎えに」


その瞬間バッツの中から螺旋状にそれは飛び出した。

そのあまりの勢いに皆、慌てて身体を構える。

それと同時に妖精達の咆哮が一斉に響きわたった。


「な、な、な、何コレ!!」


ホネットは慌ててロゼをみる。ロゼも始めての体験なのか驚いて辺りを見渡した。


バッツの足下から一気に植物が芽を出して物凄い勢いで広範囲に広がっていく。枯れた木々は生気を戻しその枝から芽を出し実が付いた。大地が、一気に芽吹いていく。


「ロゼ!」


ベルグレドが剣を抜き高く頭上に持ち上げた。

ロゼは空を見上げ手をかざす。

そんな二人の身体からもバッツと同じように力が湧き上がってきた。

妖精達が二人の身体にも集まってくる。

そして二人の身体から一気に力が噴出され高く高く空へ吸い込まれていく。


バッツの足下は既に楽園のような緑が茂っている。

それは遠くのバッツ達が見えない所まで広がっていく。

その勢いが収まる頃バッツはあり得ない声を聞いた。


[バッツ。ありがとう]


そんな事があるはずない。あるはずないのに。


「レイ・・・・ヴァン、さ、ま?」


[お前をずっと愛しているよ]


皆辺りを見回した。その声はバッツ以外の者達にもしっかり届いていたのだ。


[見えなくとも、ずっとお前の側にいる。バッツ]


「あっーー」


その時空から白い物が落ちてきた。

それはバッツの頬にあたりそのまま水になりスルリと肌を滑り落ちた。


「雪?」


皆が空を見上げる。

この地に必要不可欠なものである。

バッツは立ち尽くしたまま呆然と空を見ていた。


「大好きな人と会えて良かったね?」


エリィは笑顔でバッツの頭をなでなでしている。

空から雪が次々と降ってくる。バッツは顔を空から外して笑顔のエリィを見た。


「君が呼んでくれたの?」


バッツが聞くとエリィは首を振った。


「ずっとバッツの近くにいるよ?今もいる。バッツが見ようとしなかっただけだよ?」


その言葉にバッツはぐしゃりと顔を歪めた。

そう。レイヴァンの魂はずっとバッツと共にあった。

彼に寄り添うようにずっと彼から離れなかった。


「魂は皆大輪の花に返って行くんだよ。バッツの大好きな人の魂もそこに返してあげよう?また貴方と出会えるように」


皆がバッツに駆け寄って来る。

バッツはエリィの頭を撫でるとベルグレドへ彼女を渡した。


「俺。本当馬鹿だ」


バッツは苦しくて胸をおさえる。

今更気づくなんて遅すぎた。

彼はずっとレイヴァンに愛されたかった。愛されたいと願っていた。けれど彼は既にちゃんと愛されていたのだ。それをバッツ自身が拒絶していただけで。


「ごめん。ごめんなさい」


バッツは空に向かって呟いた。きっと届いているだろう。レイヴァンに向けて。

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