北海のグリーブト【1】
七時出発というからにはサクサクご飯!
機内で朝食に誘われた時のことを想定して「すみません、もう食べてきちゃいました」作戦!
でも二人は「なにか盛られるとしたら最後の食事だろうな」と真顔で言い合ってる。
マジでやだな〜、盛られる前提のご飯とか、最悪なんだけど。
「僕らは人間の薬は致死量でもあまり効かないから気をつけるんだよハクラ」
「怖い怖い怖い! 俺が一番危ないの!?」
「俺ら人間じゃねーし。お前普通の人間だし」
「こ、こわいよー」
「一人で居ないようにしなよ? それと、話しかけられても一人の時に限らずすぐ逃げるようにね」
「了解です!」
なにしろ相手はグリーブトの王子様だもんな。
同じ王子様でもフレデリック様とヨナは特別枠というか……。
それはベルゼルトンの王子様……あの変態兄貴で十分思い知った!
うう、今思い出してもゾッとするよ。
「おっはよー!」
食事の後、ある程度の食糧を朝市で買い込んでからラズーにあった飛行場にやって来てのリーバル様のこのテンション……ヤベェ……。
朝のテンションじゃねぇ。
そしてラズーに飛行場なんかあったんだ……知らなかった。
けどよくよく考えると首都だしな……あるのは当たり前か。
「ここは王族しか使えないプライベート飛行場ってやつでね! 本当は昨日帰るつもりだったんだけど夜でしょ? 夜は飛べないって言われちゃってさ」
「そうなんですか」
聞いてないのに聞いてないことをベラベラと……。
「それより、朝ご飯食べた? まだならラウンジで食べていかない?」
「すみません、もう食べてきました」
作戦があっさり成功……!
「そうなの? ざーんねん。じゃあお昼は一緒に食べようよ。ハクラくんも一緒に」
「!?」
名前……なんで……。
「なんなら僕とハクラくん二人きりで食べようか?」
「昨夜僕が奴隷商人をどうして裁いたのかご覧になっていたと思うんのですが……」
「覚えてるよ〜、君の従者に手を出したんでしょう? あ、従者ってハクラくんのことか〜! それは失敬! 手を出したってそ〜ゆ〜意味だったの〜?」
「そういう意味に限らず、ですかね」
「そうなの〜? りょーかーい」
か、軽! 怖!
「でも仲良くするくらいはいいでしょう〜? 僕はみんなと仲良くしたいんだ〜」
「仲良くするのはいい事だと僕も思いますよ」
「でしょー?」
ごくり。
言われた通り出来るだけ空気に徹していた俺とヨナは息を飲んだ。
な、成る程、フレデリック様が「曲者」と断じるだけはある感じ。
なんかこう、のらりくらりとかわしていくスタイル。
腹の中に何を抱えてるのか読めないというか。
相手をしてるフレデリック様もいつもと違って笑顔がどす黒い感じだけど……それはそれでかっこいいよ!
「と言うわけで仲良くしようね、ハクラくん。まさかとは思うけど、君もお二人と同じようにアルバニス王国から来たのー?」
「は、はわわ……」
「そんな事聞いてどうするんだ」
「んぇ〜? だってお二人はアルバニス王国の王子だろう? 従者というこは当然彼もアルバニスの民なのかなって? 聞いただけだよ?」
「ところであれがこの大陸の飛行機ですか? 色々種類があるんですね」
け、敬語維持のフレデリック様怖え……!
けど、その話題には乗っからざるおえないだろう。
俺の背後に移動しようとしたリーバル様が、手前を歩いていたフレデリック様へ近付く。
「そだよぉ。アルバニス王国の方は種類ないの?」
「そうですね、三種類ほどしかありませんね」
「ふーん? そちらの飛行機にも興味あるなぁ」
た、助かった……。
「お前標的にされてねぇ?」
「や、やめろよこわい……」
けど、背丈もフレデリック様と変わらないし、仕草も気品があるしやっぱりリーバル様も王子様って感じだなー。
並んで立ってると絵になると言うか。
その点俺はどチビだしガキだし奴隷だったし、今までたとえ後ろだとしても二人と歩いてて恥ずかしくなかったか?
「はーい、これが僕の飛行機。グリーブトまで一日ほど掛かるけど、距離的に仕方ないから我慢してね」
「で、でか」
飛行船くらいありそうなでっかい飛行機!
ま、まさに最新鋭じゃん!
すんげー、こんなのに乗れるなんて……!
「飛行機って最大二人乗りなのかと思ってた!」
「ん〜、それは一昔前の型かなぁ。最近じゃあ戦闘機でも大型の物が開発されているんだよぉ」
そうなんだー!?
やっぱり最新鋭だったんだこれ!
さすがグリーブト、の、王族!
「翼が二つもついてる……あのでかいのがエンジンかな! い、一周見て来ていい!?」
「こ、こらハクラ、敬語を忘れていますよ!」
「え〜、気にしないよぉ〜。見ておいでよ〜。でも出発時間はずらせないから気を付けてね〜」
「は、はい! ありがとう、ございます!」
すんげぇぇぇ! 本物の飛行機が目の前に! しかも最新型!
へー、鳥みたいな形なんだな、でも鉄の塊が空を飛ぶなんてまだ信じられないや!
それに前、新聞の切れ端にあった写真には屋根なんかなかったのにこれは全面が細長くて丸い。
翼は二つ付いてるし、その根元付近のやつがエンジンか!
ん?
「おじさん何してるの?」
「これかい? 燃料をいれてるんだよ」
「燃料! 燃料って石炭とかじゃないの!?」
「列車はそうだけどねぇ、飛行機は重い物を積むと落ちちまうだろう? これは石油っていうのさ」
「石油? 液体の石炭?」
「うーん、まあそんなとこだな!」
そうなんだ!
飛行機の燃料って石炭だと思ってた!
科学の進歩ってすげー!
「燃料を入れる所ってここだけなの? それとも何箇所もあるのか?」
「ここだけだよ。一日飛ぶから満タンにしておかないと」
「やっぱり飛行機によっては燃料の入る量も違うんだよな? おじさんそういうのも全部わかってるのか?」
「そうだなあ、最近はどんどんいろんな飛行機が作られてて、その都度調べないといけないから大変ではあるけど……坊主は飛行機好きなのかい?」
「うん! だって現代科学の結晶だろう? 人間が空飛ぶようになるなんてびっくりじゃん!」
「それなら気球ってのもあるだろう?」
「気球より飛行機でしょ! ああ、いや、気球もかっこいいけどさ、飛行機の方が速いんだろう?」
「確かにな。けどおじさん、それなら飛行船も好きだな。ゆっくりだけど、昨今の飛行機よりでかくてかっこいいと思うぜ」
「飛行船! あれはあれでかっこいいよな!」
「そうそう……っておっとっと」
あ、盛り上がってたらおっさんの作業の邪魔に……。
「邪魔してごめんなおっさん! 教えてくれてありがと」
「ん……ああ、いや」
それからさらに後ろ! 尾翼ってやつ? これもでかい!
グリーブトの国旗が描かれててかっこいいな!
お、下を覗けば車輪が見える……っていうか車輪三つも付いてるのか。
そういえば飛行機ってどうやって陸地から空へ飛ぶんだろう?
車輪があるってことは陸地も進めるのか?
……ん、近づいてみると結構車輪もでっかいなぁ。
「ハクラ! そろそろ乗るよ」
「え、もう? あ、はーい!」
しまった夢中になりすぎた。
昇降口から階段で機内に入るのか……は、ハイテク……!
つーか入った途端も豪華かよ!
金の床に金の壁、客室に至ってはレッドカーペット!
豪華すぎだろ、必要かその豪華さ!
謎の絵画! 窓にはカーテンも!
俺が想像してきた飛行機と違いすぎる!
多分俺が乗りたいと思ってた飛行機と違う!
飛行機は飛行機だけれども!
「うぇ、金あるアピールうぜ……」
「……」
「うっ!」
余計な一言にフレデリック様の肘鉄がヨナの鳩尾に!
んんん、俺とヨナが昨日早々に退散させられた理由がよくわかる……。
「トイレはそこの扉の奥ねー」
「トイレあるの!? いや、あるんですか!?」
「いやいや、丸一日飛ぶんだからトイレはないと無理でしょ。浴室と個室もあるよ」
「あっ、そっか……ってお風呂まであるん、ですかっ」
「あはは、ハクラくんは敬語へたっぴだねー。いいよ普通に話して。僕そんなに気にしないタイプだから」
「は、はぁ……」
いやいや、背後にごつい用心棒三人も控えさせておいて説得力ないって……。
でも下手なのは自覚ある……うう、だって難しいんだよ。
「そうそう、お昼ご飯はここで食べる事になるから。それと個室って言ったけど、僕の部屋と予備の部屋しかないんだよね。さすがに三人じゃ狭いだろう? 一人僕の部屋においでよ。どう? ハクラくん」
「へ!?」
「それじゃあ体格的に僕がお邪魔しましょうかねぇ……! 弟は一番小柄なハクラと同じ方がバランスいいでしょう」
「そう? フレデリック殿下と同室だなんて光・栄!」
フ、フレデリック様、笑顔から暗黒が駄々漏れてるよ……!
あとなんでやたらと俺推し!? 怖いんですけど!
と、兎にも角にも出発時間!
座席について、ベルトを締める。
これは全員しないといけないんだって、なんか『じー』がかかるから危ないらしい。
ドキドキワクワクの飛行機の離陸。
ごおぉ、という音とともに……窓から地面が消えていく!
「ふおおおおおお!」
「ふふふ、可愛いなぁ……そんなに感動されちゃうと何度でも乗せたくなっちゃうね」
「ははは……」
あ、そういえば飛行機の中で一泊するんだよな?
一泊……。
フ、フレデリック様……だ、大丈夫なのか……?
「そこは魔法でなんとかするだろう。覚醒魔法があるからな」
「そ、そうなんだ? あんまり使えないんだっけ?」
「そ」
確かフレデリック様は睡眠時間を削ると沸点がより高くなり、とても切れやすくなる。
体調も崩しやすくなるらしいし。
「まあ、政治的な関係なら数日は保つだろうけど……昨日も徹夜だしな」
「こえぇ……」
「グリーブトについたら一日潰すしかねーな。あの人、あんまり寝ないと一ヶ月単位で起きなくなる」
「そ、それはまずい……っていうかそんな事になる!? それ普通!?」
「俺たちは幻獣とのハーフだって言ってるだろ。幻獣族は時間感覚が人間と違うから、稀にちょっとした昼寝でも数百年単位で寝過ごすらしいぞ」
「フレデリック様ってもしかして幻獣族の血の方が濃いの……!?」
「そう言われてる。俺はあんまり強く出てないらしいけどな」
そうなんだ。
双子でも違うんだなー。
「ま、とりあえずとっとと寝ようぜ。明日の朝には到着予定って言ってたしよ。いい加減あのテンションの王子に警戒し続けるのも億劫だったところだし」
「確かに景色を楽しむ余裕もなかったな、今日」
「お前は特にお疲れ……」
事あるごとにセクハラセクハラでもう……神経すり減ったわ!
風呂に入れたのは嬉しかったけど、ジョナサンと二人きりがこんなに安心するとは。
けど、今日一日セクハラされてなんとなく、俺はもっと二人にご奉仕してもいいんじゃないかって思っちまったな。
二人にそういう趣味がなかったとしても、俺のあるべき姿は本来そっちなわけで。
恩があるからこそ、そういう事もして差し上げるべきというか。
「お前なんかつまんねー事考えてるだろ」
「え!?」
「少なくとも、ガキ相手にする程困ってねーよ。俺も、フレディも」
これは、もしかして察された?
そんで、また気を遣われた?
俺今日、二人に気遣われて守られてばっかじゃね?
いや今日に限らずだけど……。
「うん、ありがと……」
「そーゆーのはもっと大人になってからにしな」
「うん。うん?」
それってお前……いや、確かに俺は十三のガキだけど……。
む、むっ、むぅぅ!
「なんだよそれー! 俺がガキすぎて色気ないって言いたいのかよー!」
「そう言ってんだろ」




