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ハクラと銀翼の竜【ライト版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』


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奴隷オークション【5】

 

「私もだ。父も仕事ですでに国に帰っておられるからな……オークションが中止ならば帰らせていただく」

「はあ? 待ちなよ、三ヶ国協議はどーする気だ!? まさかフケる気じゃあないだろうね!」

 

 三ヶ国協議……。

 

「構わん、娘よ。他国の王子と大統領のご子息をいつまでもアルバニス王家の者の側に置いておくのは危険だ! 我らも早く避難するぞ」

「親父……!」

「ではお先に」

「ぼーっくも」

 

 足音が遠のく。

 あれが三ヶ国の王族。

 あれ、でも足音は二人分だったような?

 

「チッ、腰抜けどもが」

「娘よ、そう思うならあの王子たちに接触してこい」

「はぁ?」

「バルニアン大陸との国交についての話をしてくるのだ。今ならば他の二カ国を出し抜ける……! 先程の会場中を凍らせるあの力! あれを我らの国のものと出来れば、アバロン大陸を我がラズ・パスが制するのも容易いことであろう!?」

「まーたその話か。でもまあ、隣国のディリムと政略結婚させられるくれぇならあのうさんくせぇ自称王子どもを利用する方が幾分ましか……っていうか、あんなマジックや例の伝説信じろってのか」

「文句は後で聞く! 早う、接触するのだ!」

「はあ……、わかったわかったって」

 

 ラズ・パス王……そんな思惑で二人に娘を近づけるなんて……!

 

「マジで愚かな」

「ピッ!?」

 

 い、いつの間にか真後ろにヨナ!

 

「びびびびびっくりしただろー!?」

「しっ」

「!」

 

 やべ、廊下の話し声が聞こえるってことはこっちの声も……。

 扉に耳をすますが、足音が遠のいて行く音だけ。

 よ、良かったバレてねぇ。

 

「連れて来たよ」

「ぶぎょ!」

「あ」

 

 どこからともなく現れたフレデリック様が放り投げたのはうちの主人。

 俺のいた奴隷商店の主だ。

 ベシャッと、情けのない音を立てて床に転がるブタ。

 フレデリック様が床に足をつけた瞬間、先程と同じ様に個室の観覧席が氷漬けになった。

 

「ひ、ひいい! 私が何をしたというんですか〜!? お許し下さいお許し下さい! 私は神に誓って奴隷を虐待なんてしておりません〜〜!」

 

 まぁ、確かに……。

 うちは殴られたり蹴られたりはされたとしてもものすごーく軽〜くだ。

 飯は一日二食出る日もあるし。

 

「うん、ほんとだよフレデリック様」

「そう。まあ、彼が連れて来た奴隷の少女たちも僕が彼を連れて行こうとしたら少し慌てていたしね」

 

 娼婦か性奴隷用の、いつも店内にいる女たちか。

 まあ、男の俺たちより大切にされてると思うし、ペゴルの後じゃあそりゃ焦るよ。

 

「まあまあ、そんな怯えんなよ。あんたにはちと聞きてぇことがあるだけさ」

「き、聞きたいこと!?」

「うん、俺の名前さ……誰がつけたの? 俺の名前の意味、ご主人は本当に知らねーの?」

「な、なんの話だ〜〜」

「言葉通りだけど……意味が理解出来ないのかな? 少し頭を冷やしてみるかい?」

「だ、大丈夫でごさいますぅ!」

 

 フレデリック様の手には巨大な氷の球体が……。

 それで何する気っすか!?

 

「で、ハクラの名前をつけたのは誰だ? この名の意味を知る者か?」

「…………そ、それは……い、一体なぜそんなことを知りたがるんだ〜……」

「ニーバーナ王の所在を知りたいからだよ。ハクラの背中のメッセージ、あれが王へ宛てられたものならば届けるべきかと思ってね」

「ど、どうしてその事を……!?」

「やっぱり何か知ってるんだな……!」

 

 大当たり!

 俺が詰め寄ると主人はあたふたと口を自分の手で覆った後、フレデリック様とヨナに見下ろされて、諦めたのかその手を床へと下ろす。

 

「ううう……。い、いや、この子をお買い上げになったあなた様へなら……ハイ、お話しする義務はございますね。ハイ……」

「素直な子は好きですよ」

 

 にっこり。

 ああ、その笑顔がなんか今日一怖い気がする。

 さっきの今だからかなぁ……。

 

「ア、アルバニスの王子よ、ワシ……いいえ、ワタクシは古代シンバルバ王家に仕えていましたゴッフェルペールンデルク家の末裔……と申し上げたら信じて下さいますか……?」

「は?」

 

 ゴッ……え?

 なに?

 長過ぎて……なに?

 

「ゴッフェルペールンデルク――シンバルバ王家の側近にそんな家名がありましたね。ええ、信じますよ」

 

 マジで⁉︎

 

「なんと……まさかそんなにあっさり信じるなんて言われるなんて……」

「なんだ、嘘か?」

「うぅそではありません! 本当でございます!」

「ヨナ、横槍はいい。ゴッフェルペールンデルク家は史実に残っている。そこは僕が保証するよ」

 

 ほ、本当にそんな長ったらしい名前の家があるんだ……。

 

「ゴッフェルペールンデルク家はシンバルバ王家がアバロン大陸に逃れる前から王家にお仕えしておりまして、ワタクシもその使命を仰せつかっておるものでございます」

「それは純粋に驚きましたね。我が王家にもフェルベール家の者が何代も仕えてくれていますが……まさかアバロン大陸でもそんな忠誠に厚い一族の者に出会えるとは……」

「とんでもございません、ワタクシにはそのような忠誠も、力ももうないのです。現に、シンバルバ王家の血を引くハクラを、奴隷としてあなた様たちに売ってしまいました……」

 

 ううう、と泣き出す主人。

 

「………………」

「……だとさ」

「え」

 

 ……え?

 

「ではやはり娼婦ソランというのは、シンバルバ王家のソラン姫……」

「!?」

「僕は考古学を嗜んでいてね、シンバルバ王家についても多少知識がある。ソラン姫はこの大陸で、この大陸に根付く民を想い、ニーバーナ王へと嫁いだという話がある……そしてニーバーナ王は彼女を真の妻として迎えた、と」

「な、なんと……。そうでしたか、そこまでご存知だったとは……」

 

 え?

 

「その通りにございます。我が一族はその後代々、ソラン姫様とニーバーナ王のお世話をさせて頂いたと伝えられておりますです。ですがワタクシの父の代で、細々と暮らしておりました我らは開拓者たちに見つかってしまったのでございます」

 

 え、え?

 

「ソラン姫はワタクシの父にニーバーナ王を任せ、ご自身で囮に……。し、しかし捕らえられ、娼婦の身に貶められたのでございます……うっうっ……!」

「なんと、愚かな真似を……」

「ですからワタクシはソラン姫様を買い戻すべく奴隷商人となりました!」

「そういう事情だったのはわかったが、肝心のニーバーナ王の居場所がわかんねーぞ」

 

 え、え? え? ちょ、ちょっとま……待っ……。

 

「申し訳ございません……ワタクシも父にニーバーナ王は卵となりて龍脈の中心に身をお隠しになったとしか聞いておりませぬのです」

「妻を奪われ、貶められた事をご存知の上で龍脈に?」

「さ、さあ?」

「知った上でなら名君の名に恥じぬ方だな。しかし龍脈の中心か……存外簡単に見つかりそうだな」

「そうだね、龍脈の中心はいわば大地の心臓部。龍脈を辿っていけば辿り着ける」

「じゃあ俺の名前ってやっぱりニーバーナ王の幼名ってやつからなの?」

「そう聞いておる」

 

 うん、そっかー。

 いや、でもさ、それよりも俺……俺って……。

 

「俺って、シンバルバ王家の末裔って事になるの……?」

「そう言ったではないか」

「聞き間違いかと思って……」

「聞き間違えようがなかったと思うけど」

 

 いやいや、いやいや。

 だって、そんな……ねぇ?

 

「ま、まあ、もう滅んでる国だもんね! 俺ただの一般市民っしょ!」

「ソラン姫もそう仰っていたそうだから、それでいいと思うぞ」

「それなのにあんたの一族はソラン姫に仕え続けたのか」

「それが我が一族の当たり前だったのでございます」

「なんと……忠義に厚い一族……! 感銘を受けました!」

「確かに。どうだ、ハクラと一緒に俺たちの国に来ないか? あんたにまだシンバルバ王家に仕える意思があるんなら、そのままハクラを支えてやればいい」

「!」

「いやいやいやいやいやいやいやいや!?」

 

 無理無理無理、俺が無理! 俺が無理?

 いや、そうじゃなくて、物心ついた時から奴隷と奴隷商人だったんだよ!?

 立場逆転とかねぇーーーーッ!

 

「そ、そうです……ハクラには奴隷商人としてしか……そんな無礼者が父とソラン姫のように、信頼し合い仕えさせて頂けるはずがありませんです……」

「落ち込むなよ!?」

 

 俺が悪いみてぇじゃんんん!

 

「いや、だから、あんたも自由に生きればいいじゃん! そんな、何百年だか何千年だか、ずっと滅んだ国の王族に仕えてねーで! ……さ……」

 

 自由に。

 生きれば、いい……って、それは……。

 

 それは、俺がフレデリック様に言われた言葉。

 奴隷ではなく、ハクラとして生きればいいって。

 こんな気持ちで言ってくれてたのか?

 

「ワシの一族は代々、ソラン姫に仕えてきたのだ。シンバルバ王家のソラン姫だからではない。しかし、そのソラン姫が亡くなる少し前にお前を産み、奴隷商人の伝を頼ってワシの元へと託されたのだ。ワシは、ソラン姫になんにもして差し上げることが出来なんだというのに。ソラン姫をお救いするために奴隷商人になったというのに!!」

「っ」

「そしてソラン姫の忘れ形見であるお前のこともワシは普通の人間として育ててやることが出来なんだのだ。お前の足の裏にはすでに奴隷としての番号が刻まれておった。ワシにはどうすることもできなかった。だからせめて、誰にも売らぬつもりで高値で置いておったのだ」

「それを僕がポンっと買ってしまったんですね。なんだか悪いことをしてしまったな」

「いえ、アルバニス王家の王子に買われたのであればそれは運命。シンバルバ王家の血は、アルバニス王家にはやはり敵わぬのでしょう……」

 

 大昔、アルバニス王家に敗北したシンバルバ王家はアバロン大陸に逃れた。

 そしてそのお姫様は、大陸に残ったドラゴンの王様と結婚した。

 不老になったお姫様に長年一族で仕えていたのが、主人の一族。

 俺はマジでそのソラン姫の息子でシンバルバ王家の、末裔。

 主人は俺を、ソラン姫の息子だからとずっと庇って守ってくれていた。

 そんな、そんな事……。

 

「………………」

「まぁ、それはそれとしてだ、じゃああんたもハクラの背中の魔書については何も知らねーって事だよな?」

「ましょ?」

 

 イントネーションが違う!

 

「わ、ワタクシはなんにも……。ましょとはなんですかな?」

「古代の文字で刻まれた魔法の手紙……のようなものかな。ハクラの背中に描かれている。見たことはあるはずだけど」

「背中の……あれはソラン姫が自分の息子であると証明のために遺されたタトゥーではないのですかな?」

「いえ、あれはかなり特別な魔法だ。僕でも紐解き読むことはできるけど……今の話からするとやはりあれはソラン姫からニーバーナ王へのものだね」

 

 うわあ、二人の予想的中かぁ……。

 

 顎に指を当てて、少し考えた仕草もかっこいいフレデリック様。

 そういえば主人の話の後に今後の予定組むって言ってたっけ。

 ニーバーナ王の居場所は龍脈の中心。

 俺にはなんのことやらさっぱりだけど、二人にはわかってるみたいだ。

 

「まずは地脈を調べて龍脈の位置を特定だな」

「そうだな。となると手っ取り早いのは火山だね。主人、この大陸に火山はあるかい?」

「グリーブトは雪山が多く、そのほとんどが火山だったと聞いておりますが……」

「因みにあんたは龍脈の中心がどこか、とか知らねーんだもんな?」

「ワタクシめにはそのようなものがあるということくらいしか……」

「だよな。まぁいいさ、探し当てるのは難しいことじゃねぇ」

 

 マジか……!?

 

「地脈と龍脈って別なものなの?」

「大まかには似たものではあるが、地脈は血管、龍脈は血液みてぇなモンだな。地脈にエネルギー……まぁ、大地が生きるための養分とか熱とかそういうモンを与えるのが役割だ」

「地脈や龍脈を調べればその大地が元気かどうかがわかるんだよ」

「へ〜〜」

 

 で、それを探すのに都合がいいのが火山。

 火山はグリーブト……雪が多い極寒の地ってイメージしかないんだけどな……。

 

「グリーブトは確か極寒なんだよな」

「うん、北海のグリーブトって言われてて……」

 

 ズズ……!!

 変な音だった。

 地面がおかしな音を立てて軋んだ、っていうのが正しいかも。

 床がふら、っと揺れて、建物全体がガタガタガタと震えだす。

 これは……!

 

「これは、地震!?」

「け、結構デカくねぇ!?」

「はわ、はわわ……!」

「うわっ!」

 

 がくん、と覚束なくなった足は揺れに耐えられず曲がっちまう。

 しかもその先にいたのはフレデリック様!

 あわわわわ!

 

「おっと、平気かい?」

「あばばばば!!」

 

 ち、近い! イケメン顔近い! かっこいい! いっそ殺せ!

 

「はれ?」

 

 地震おさまった?

 それなら早く離れな――

 

「おわーー!!」

 

 治まってない! 地震はむしろ強くなっていく!

 そらでも揺れがおさまったと勘違いしたのは、フレデリック様が俺を抱えて浮いてるからかっーーー!

 主人のことはヨナが持ち上げて浮いてる!

 地震の揺れは、まだおさまらねぇのか……!

 こ、このままじゃ緊張で心臓破裂する!

 

「地震……ということは……」

「末期症状じゃねぇか……! ……っ、……ホンットーに、ここまで大地を弱らせておきながら、こんなアホな催しにはしゃいでたとは危機感のなさすぎだろ!」

「!?」

 

 ズズズ……、と地震は静かにおさまった。

 けれど二人は未だかつて見たこともないくらい真剣で、険しい表情をしている。

 末期症状……?

 大地が、弱ってる?

 ゆっくり地震はおさまっていくけど。

 

「アバロン大陸が、弱ってる……!? それってどういうことなんだ!?」

「言葉通りだよ。えーと、名前は……」

「ボ、ボルネでございます」

「ボルネ! 彼が言っていただろう、ニーバーナ王が卵状態で龍脈に隠れていると」

「それってつまり、食いもしなきゃ出もしねぇって事だよな?」

「あ……」

 

 ドラゴンのう◯こが大地に植物を育む栄養や魔力を与える。

 じゃあそれがなくなった大地は?

 それでなくとも、アバロンにはニーバーナ王しかドラゴンはいないのに!

 栄養が、完全停止してるって事……。

 

「ドラゴン族の栄養供給が停止している以上、大地は生物の行う食物連鎖だけで持ち応えねばならない。元々そこまでドラゴン……ニーバーナ王に頼っていなかったとはいえ、この大陸の科学は石炭や木炭など、自然の資源を削り取って成り立っている! 資源を削れば動植物は住処を奪われ下手をすれば種そのものが死滅してしまう!」

「だがどうやらそんな事、この大陸の連中は気にも留めていないようだな。地震が起こるって事は、資源を削り過ぎたって事だ。生物の食物連鎖で補えない程に、短期間に、大量に! それで大地が極限まで弱ってる! このままだと大地が崩壊して大陸がバラバラに分解するか、消滅するぜ」

「……!」

「そ、そんな……!? そんな事に……!?」

 

 ほ、崩壊か、消滅!? なんて二択だよ……!? 完全に詰んでるじゃん!?

 

「な、なんとかならねーの!?」

「ん〜……」

「そうだね、僕らの魔力を全部合わせればなんとかなるかもしれないけど……ぶっちゃけそこまでしてやる義理がない!」

 

 ごもっとも!

 

 

 

 

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