奴隷オークション【2】
そうだったんだ。
壁海の付近で事故、じゃなくてちゃんとバルニアン大陸に行けてたのか。
それなのに、入っちゃいけないところに入っちゃって……。
「今回俺とフレディがアバロンに来たのは為政者どもへの挨拶と、調査。あと、あわよくばあの飛行機のパイロットたちの家族にそれを伝えてぇと思ったからさ。生憎、ドラゴンは雑食でな、飛行機も鉄竜が食っちまって残ってねぇんだ。返せるモンは布っきれだけだが……なんも返せねぇよりはいいと思ってな。信じて待ち続けるのも酷だろう」
そう言ったジョナサンが見せてくれたのは、俺が初めて持たされたあの軽い荷物の中身だ。
血が付いた服の一部。
袖と、上着のアップリケ。
それと靴が片方だけ。
「これだけ……」
「まあ、後回しにはなるだろうが新聞に載ってるくらい有名人なら、遺族を探すのはそう難しくもねぇか?」
「うん。なぁ、この袋、俺がこのまま持ってていいか?」
「ああ、構わねえぜ。見知らぬ土地に飛び込む度胸は素直にすげぇと思う。彼らが最初にどこでもいい、人のいる町に降りていたなら、今回の訪問の結果ももしかしたら何か変わっていたかもしれねぇ」
「うん……」
彼らはちゃんと夢を叶えたんだな。
心から尊敬するよ。
「で、魔法についてだが」
「あ、そうだった! えーと、ドラゴンと幻獣のクソが魔力と栄養を大地に与えてるんだっけ」
「あの話の後にしづれぇな。まぁいい。そういうことで、俺たちの大陸は豊富な魔力と大地資源があるわけだ。んで、魔力っていうのは人間に限らず使うことが出来る」
確かに勇敢なパイロットの話の後にクソの話はなんかあれだな。
そのせいかジョナサンの説明が微妙に省かれた気がする。
まぁいいか……。
「人間以外も魔力を使うってことか?」
「そうだ。けど、その辺りはまた今度な。まずは使い方」
「うん」
「この大陸はそもそも自然に含まれる魔力が極端に少ない。ぶっちゃけねぇと言っても過言じゃねぇくれぇ、ねえ! なので俺たちの場合は体内に蓄積されている魔力を使う。普通の人間は体内に蓄積出来る魔力はそれほど多くねぇ。だがドラゴンや幻獣は人間の比じゃねぇ量の魔力を体に溜め込んでいる」
それをクソとしてたまに出すのか。
うん、そこは置いておこう!
「でも具体的にどうやって使うんだ?」
「慌てんな。お前は初心者どころか魔力がなんなのかもよく分かってねぇだろう?」
「う……」
確かに。
「まず魔力を理解するところからだな。理解してるのとしてねぇとじゃ全然違う。つーか、だからまず世界のウンタラカンタラを説明したんだぜ?」
「うー……早く魔法使ってみてぇのに」
「焦るなよ。俺たちの国じゃあ言葉を話すのと同じくらい魔力は生活の一部として溶け込んでいて学校なんかで魔法について理論的に学ぶことは出来るが、大体の人間は魔法は『なんとなく』で使えてる」
「マジかよ!?」
「お前の国じゃあそもそも魔法が信じられてねぇ。だからまずは魔力について理解しな。前提として世界の在り方がさっき言った通り。で、魔力っていうのはあらゆる生き物や物体の魂的な部分だ」
たましい?
「心って言った方がわかりやすいか?」
「え、心!?」
「そ。在処はよく分からないが絶対にあると言い切れるものだ」
「確かに……」
それが魔力?
心が魔力……。
全然よくわかんねぇんだけど。
「ここにペンがあるだろう?」
「おう?」
「それを使うのは体だろう?」
「う、うん」
「それと同じだ。魔力を使うのは心……もしくは精神力って事」
「心……」
「バルニアン大陸では空気中なんかにも魔力は浮遊しているんだが、アバロンはそれがない。んだから体の中に溜まっている魔力を使うしかねぇ。普通の人間は体内の魔力を魔法として使えるほど容量がねぇが、俺やお前は違う。その辺は前にも話したよな」
「うん」
ジョナサンたちは片親が――半分――人間だが、もう片親が幻獣。
だから体内魔力なんとかがめっちゃ多い。
俺もニーバーナ王関係者っぽいからめっちゃ多い。
「そこまで理解した上での使い方。まず初歩の初歩。魔力の収集と凝縮! 体の中の魔力を取り出して凝縮する。濃度を上げないと魔力は魔法として使えねぇ。その辺はイメージでやってみな。身体で覚えるしかねぇからな」
「マジか!?」
ちょ、いきなり厳しくね!?
って、身体で覚えるしかねぇって言われてもさ〜。
えーとえーと……。
「とりあえず手をこう、少し丸めて重ねてみ。んで、真ん中に魔力を集めるイメージ。集まった魔力の色でお前が得意な属性が分かる」
「属性!?」
またなんかよくわかんねぇのが出てきたな!?
「八大霊命……要するに魔力の元素の名前さ。地、水、火、風、氷、雷、光、闇の八つ。人間に限らず魔力を使う者にはどうしてもこの八つの属性に得手不得手の偏りが出る。俺は土と水が得意。他は使えても微妙。フレディは圧倒的に氷。その他も俺より使えてる。この辺は遺伝かね」
「複数得意な事もあるのか」
「そうだな。それはやっぱ人間の精神面の性質が関係してくる。それを知っておく事で、魔法を学ぶ方向性が分かったりするしデメリットも分かる」
「ほえぇ……」
「とりあえずやってみな。俺はその間に飯でも買ってくるぁ」
えーと、手を丸くして、重ねて……体の中の魔力を中心に集める……イメージ……。
「あ、出来た」
「嘘だろ!?」
手の中に小さな光の粒がぽちぽち浮かんでる。
え、これのことじゃねーの?
こんな事今までできた事ねぇぞ俺。
「マジか……。お前意外と魔法の才能あるんだな……?」
「合格? 合格?」
「そうだな、初心者にしては合格だ。えーと、色はほぼ白……。光属性と風属性だな。やっぱりか……」
「なにがやっぱり?」
「ニーバーナ王は光属性のドラゴンなんだ。『八竜帝王』は八大霊命をそれぞれ司ってる。ニーバーナ王はその内の光を司ってるのさ。ついでに飛竜族でもあるから、風属性も持っている」
つまりまた俺とニーバーナ王の関係性が増えた、と……。
一体俺、ニーバーナ王とどんな関係なんだ。
「光属性は守りや癒しの力に特化した属性。風属性は柔軟で他の属性をカバーする多様性に富んだ属性。どれかに特化しているとは言い難いが、できないことが少ないのが特徴だ。アルバニスでは伝達手段なんかに用いられているな」
「へぇ……」
ん? 伝達手段?
「じゃあ、この背中の……魔書も?」
「そうだな、それにも風属性が一部用いられてる。でも水とか土とか光とか、混合だな。それだけ高度な魔法だ」
そ、そーだったんだ〜?
なんか改めて聞くと俺の背中ってすんげーもんがあったんだなぁ。
「それじゃあ俺ってどんなことができるようになるんだ?」
「光属性は癒しと守り。治癒術や防御壁なんかの守りの魔法が習得可能だろう。風属性はさっき言った通り多様性に富んだ属性だ。光属性と同じように治癒や守りの魔法を始め、攻撃系、吸収系、無効化系、補助系、強化系、転移系、封印系、遠隔操作系、あとは空間系、結界系、伝達系に……」
「ちょ、待っ……そ、そんなに!?」
「まだ他にもいくつかある。とにかく出来ないことが少ない分、なにを特化して学ぶかは自分でいくらでも選択出来る。まあ、伝達系とか遠隔操作系、転移系は風属性が特化してる部分だから普通のやつらはそういうのを専門的に学んで高めるな。でもお前は風属性の他に光属性が得意な属性として出てる。治癒系と防御壁と結界系を組み合わせて学ぶといいと思うぜ」
「ほ、ほぁぁ……」
風属性ってすんげーのか。
しかしジョナサン曰く、他の属性の得意分野も使えるが他の属性ほど極めることはできないんだとか。
極められず中途半端と馬鹿にされることもあるが多様性が武器でもある属性。
使い方は俺次第。
逆に難しいなー。
「まあ、とにかく属性を組み合わせればそれだけ魔法の使い方は無限大だ。やろうと思えば不得手な系統も使いこなせるようになるだろう。風属性の良いところと強みだな」
「うん、なんかちょっとワクワクしてきた!」
「本格的に学ぶのはアルバニスに行ってからでも良いと思うし、とりあえずしばらくは魔力の凝縮に専念してみろよ。魔力の凝縮が上手く出来るようになると威力が高まる。どんな魔法にも言えることだが魔力凝縮と濃度は魔法を使う上で必須だ」
「わかった!」
「あとは自然に、意識しなくてもそれが出来るようになると魔法の発動が楽になる。アルバニスの民はほとんどがそれが出来るから、慣れてきたらそっちも出来るように練習すっといいかもな」
「え……意識しなくても、を練習って難しくねぇ?」
「んだからお前の場合はって事だ」
「うー」
でもそっか、バルニアン大陸の人はそれが日常なんだもんな?
バルニアン大陸に行くなら、出来るようになった方がいいって事。
よし、頑張る。
改めてジョナサンは飯の確保に出かけて行った。
俺はその間、言われたことを練習。
魔力を取り出して、凝縮させる。
ホワホワと粒々が浮かんでいるけど、要するにこれを一つにまとめるってことなんだろう。
取り出すのは割と簡単に出来るんだけど、成る程……凝縮……まとめるのはめちゃくちゃ難しい!
ぐぬぬ……。
うぬぬぬぬ……。
くぬぅぅぅう……!
力むと拡散するし、集中しないと粒々が減るし……!
ぬああああ!
イライラするー!




