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奴隷オークション【1】

 

 翌朝。

 ついにオークション当日だ。

 寝たの遅かったのに、つい早めに目が覚めちまった。

 緊張してる……俺が?

 別に出品されるわけじゃないのに。

 

「ん?」

 

 気がつけば床――ベッドとベッドの間――に寝てる。

 いや、まあ、正直ジョナサンと寝るに至りベッドに寝かしつけられるのは仕方なかったとはいえ、奴隷の時の癖ってやっぱそう簡単に抜けねーよな〜。

 でも、朝起きたら床って。

 俺、フレデリック様の寝相の事言えね〜。

 上半身を起こす。

 と、ちょうど目線の先にジョナサンの寝顔。

 おお、これは初めて見た。

 フレデリック様の――残念な――寝顔は見た事あるけど、ジョナサンは至って普通の寝顔なんだな〜。

 無防備感と幼さが感じられて不思議な感じ。

 でも、こうしてじっくり見るとやっぱジョナサンもめちゃくちゃ整った顔。

 作り物みたいに完璧なシンメトリー。

 鼻筋も高いし、睫毛長いし……カッコいいな〜。

 体格のせいか、フレデリック様より若干大人の男って感じだ。

 

「…………」

 

 ただ、案の定、その、フレデリック様とは方面が違う寝相だ。

 うつ伏せ寝とタオルケットで辛うじて股間部が隠れてるけど、他は全部……裸。

 おいおい、寝る前はガッツリ着込んでたじゃん!?

 なんで着てたもんが全部下に落ちてるんだよ!

 フレデリック様も全部脱ぎ捨てないまでも、そこそこ脱げてるけど……ジョナサンは全裸!

 お、起こした方がいいのか?

 

「ん……」

「お、おはよう?」

「…………はよ……」

 

 寝起きの気怠げな動きで上半身を起こし、髪をかきあげる。

 その仕草の色気っていうか、なんつーか!

 あばばばば!

 これが大人の男の色気ってやつか!!

 

「ん〜……、……今何時だ……?」

「えーと……六時だ」

「ちと早いが起きてもいいか……ふぁ……お前早いな」

「あー、いや、でもいつもよりは遅いくらいかも。今までは朝日で強制的に起きてたくらいだし」

「そりゃ早すぎだろ、じーさんか。って、俺にじーさんとか言われたくもねぇか」

 

 推定二千歳だもんな。

 

「ジョナサンは寝起き良いんだなー?」

「お兄ちゃんが悪すぎるんだ…………………………フレディが悪すぎるんだ」

「……うん、そうだな……」

 

 でもないっぽい。

 フレデリック様に比べると圧倒的にジョナサンがましだけど。

 

「…………。顔洗ってくる」

「せめてパンツは履け」

 

 その凶器を晒して歩くのはやめろ。

 

「って、そういやこの部屋についてる風呂はシャワーだけか。シャワーだけって風呂入った気がしねーんだよな〜」

 

 結局パンツも履かずに部屋についてるシャワールームをご利用になる王子殿下だが、この間と同じパターンだとしたらまた全裸で出てくるぞ、これは!

 ここは奴隷……んにゃ、従者らしく着替えを用意しておこう。

 従者って具体的にどんなことするのかよくわかんねーけど、世話係的な感じなんだろ?

 って言ってもジョナサンの荷物は……下着とズボンしか入ってねーなー。

 上着は?

 いや、下着だけでも着させる!

 で、ジョナサンがシャワーを浴びて出てくる前に俺は昼の服に着替えておこうっと。

 昼と寝る時とで服を使い分けるなんて知らなかった。

 これも二人についてきてから知ったことだ。

 そんでどうやらこういう習慣は平民もやってる、ごくごく当たり前のものらしい。

 

「!」

 

 そして部屋のクローゼットに見つけた不思議なモン。

 なんだこれ、ガラスみたいだけどガラスじゃねー。

 壁と違って人間が立ってる。

 髪の色が俺と同じ白と黒の混色……金眼の……。

 

「これが鏡ってやつか!」

 

 初めて見た!

 へー! 俺ってこういう顔なんだ!?

 自分で自分の姿を確認できるなんて不思議なモンがあるもんだなー!

 背中のタトゥー見えるかな?

 んん、だめだ、背中を向いちまうから首をひねってもようわからん!

 

「何してんだお前」

 

 風呂から凶器を下げたジョナサンがお帰りだ。

 っていうか下着はけー!

 せっかく用意してたのに!

 

「鏡って俺初めて見たから遊んでた」

「え……」

「それに背中のタトゥーってのを自分でも見て見たくてさー。でもキッツイ……」

 

 そりゃそこそこ首は回るけどさー、肩甲骨の辺りってもろに真後ろじゃん。

 分かんねーよ。

 

「ソランの花か……」

「確か薬草になる花だよなぁ〜?」

「それは知ってるのな」

「うん、傷薬になるから奴隷の間では重宝されてるんだ。もしかしてバルニアン大陸にもソランの花があるのか?」

「もちろん。ソランの花とリリスの花、そしてデュアナの花は古の三代女神に人類が捧げた献花だそうだ。三大女神は大層その花を喜び、ソランの花には傷と毒を癒す効果を、リリスの花には傷と熱を取る効果を、デュアナの花には傷と痛みを取る効果を与えたという」

「それもバルニアンの伝説?」

「いや、これは……ツバキさんに聞いた御伽噺だな。幻獣族に伝わる、世界創世記の一部だそうだ。ソランの花とリリスの花とデュアナの花は、それ程太古の昔から姿と効果が変わらない、どんな世界にも適応する不思議な花なんだとさ」

 

 へー。

 そんな話があったんだ。

 ところで……。

 

「二人がたまに出すツバキさんって?」

「俺たちを産んだ人……いや幻獣だ。母上って呼ぶと怒るんだよ。人間と同じ扱いをするな! って。人扱いされるのは幻獣としての矜持に障るみてぇでよぉ」

「この世界を作った幻獣! そっか、二人のお母さんは幻獣なんだっけ」

「そう。幻獣ケルベロス族。彼らは『理性と秩序の番犬』や『理と秩序の番犬』、それから『神に連なる獣』『王獣』なんて呼ばれ、神にすら牙向くことを許された戦闘種族。まあ、そういうわけで俺もフレデリックもドラゴンよりは多少力があるな」

「せ、戦闘種族!?」

「ああ、だからめちゃくちゃ怖ぇんだよ……」

 

 フレデリック様が?

 あ、お母さんか!

 お、おおう、怖そうだ。

 話しながら着替え終わったジョナサンは、思い出したせいなのか顔色が悪い。

 お母さん相当怖そうだな、せめて親父さんは優しい人? だといいな。

 

「親父さんは優しい人?」

「いやいやいやいやいやいやいやいや」

 

 全力否定かい。

 

「四千年間国王やってる人だぜ?」

 

 その一言に凝縮してるな。

 でもそんなに長く国を守ってきたんだし、名君ってやつなんだろ〜けどなぁ?

 

「最近は随分大人しくなったらしいけど、百以上あった国家を一人で壊滅、合併吸収してバルニアン大陸を平定したんだぜ? 幻獣とのハーフの俺ですら化け物だと思うわ」

 

 相当だな!

 

「でも俺は会ってみたいなー。フレデリック様とヨナの母さんと父さんなんだろ?」

「ツバキさんに俺たちの『母さん』って言うなよ。絶ッッッ対女扱い人扱いすんな。呼ぶならツバキさんって呼べ。死ぬぞ」

 

 凄そう。

 あれ、でも、それってつまり――。

 

「会わせてくれる気めっちゃあるって事!?」

「そりゃな。もしお前の事が俺たちの手に負えねぇようならツバキさんの知恵や力を借りる事になるだろうからな。俺らで解決できるモンならいいんだが……」

「なんだそういう意味かよ。いや、けど、そんなに難しそうなのか、この背中のタトゥー」

「タトゥーっつーかフレディの口ぶりだとそれは彫られたものじゃなく魔力で描かれた魔書だな。例えば中身が開かれることなくお前が子供を作ったとしたら、それはその子に受け継がれる。お前が子供を作らず死んだとしたら、一番近くにあった物や人に移る」

「これそんなすごいモンだったの!?」

 

 けど逆にそこまでして残しておきたいって事なのか。

 後世の人間に伝えたいって。

 いや、俺のこれはニーバーナ王宛てって可能性が高いんだったか。

 

「それよりせっかく早く起きたんだ。少し魔力の使い方について教えてやるよ。ま、基本からだな」

「マジで!? 教えて教えて!」

「ほんとは国に帰ってからちゃんとした場所で教わるのが良いんだろうが、自分の身くらいは守れるようになってくれるとこっちも助かる。んじゃ始めに魔力についてだ」

「うんうん!」

「この世界、リーネ・エルドラドには大まかに三つの種族が主権を握っている。二本足の人間、翼を持つドラゴン、そしてリーネ・エルドラドを創造した幻獣ケルベロス族。この世界に魔力があるのは、ドラゴンと幻獣が住んでいるお陰だ。彼らは食物連鎖の頂点にあり、世界に自然と魔力の源、八大霊命を与えているんだと」

「う、うん?」

「食物連鎖は分かるか?」

「それくらいは分かるよ、奴隷は食物連鎖の最下層って言われてるんだから」

「返答しづれぇ。あと全然違う」

 

 あれ? 違うの!?

 

「食物連鎖は最下層に微生物! その上に植物、植物は虫や草食動物に食われ、虫や草食動物は肉食動物なんかに食われる。そしてその肉食動物は、死んだ後微生物に食われる。それが延々と繋がって、世界っていうのは回ってんのさ」

「そ、そうなんだ」

 

 あれ、じゃあ魚は?

 そう聞くと海にも同じような食物連鎖があるらしい。

 

「なんにしてもそれが世界ってモンなんさ。で、人間は草食動物も食うし、時に肉食動物とも戦う。多少異端ではあるが、人間は食物連鎖の中でも上位の部類。とは言え人間は死ねば微生物に解体されて大地へ還り、植物の養分になる」

「そ、そうなんだ」

「そして人間を捕食するのがドラゴン!  だがドラゴンをも捕食するのが幻獣だ。幻獣ケルベロス族はドラゴンが主食なんだと。戦闘種族としての力は俺もよく知らんが、世界をいくらでも滅ぼせる力を持っているってツバキさんが言ってた。そしてこの二つの種族には寿命らしい寿命はねぇ。つまり死んで世界の一部に戻ることもないってことだ。さて、ここで問題だ。食物連鎖の頂点にありながら、世界の中に戻ることのないこの二つの種族はなーんで頂点でいられるでしょーかっ」

「ええええ?」

 

 待て待て待て、ちょっと早い!

 えーと俺まだ上手く食物連鎖云々理解しきれてねーよ。

 落ち着け、落ち着いて整理しろ。

 草を食う虫とか草食動物。

 草食動物は肉食動物とか人間に食われる。

 んで、人間はドラゴンに食われる。

 ドラゴンは幻獣に食われる。

 んんん?

 肉食動物と人間は死ぬと微生物が土に還して、植物の養分になる。

 ドラゴンと幻獣は寿命がないから死なない――でも世界の一番上にいる。

 え、それは……。

 

「死なないから?」

「ハズレ。問題の意味理解してるかぁ?」

「んああ、分かんねーよ!」

「正解はフン」

「ふ……」

 

 フン?

 フンって、うん◯……?

 え? え? どういうこと……ますますわかんねーよ。

 

「ドラゴンと幻獣のフンには人間数千人分の栄養と魔力が含まれている。それはドラゴンと幻獣が食ったモン以外に、奴らが体内で生成し、溜め込んだ魔力が大量に含まれているせいだ。それらは生き物の死体同様微生物によって解体され、大地に還る。ドラゴンと幻獣はただ食って出すだけで世界が生きていくための養分や魔力を提供し続けてくれるのさ」

「そ、そんなの分かんねーよ……。でも、すげぇのは分かった……」

 

 あと、なんか地味にショック。

 でも、ドラゴンがいないアバロン大陸に魔力がないって言ってた理由も分かった。

 かなりオブラートに包んでてくれたんだなぁ。

 死なないけど、うん◯にすんげー魔力と栄養があるのか。

 あれ、でもドラゴンは人間食うって言ってなかったか?

 それなのに人間とドラゴンが共生してるバルニアンって……。

 

「ドラゴンって人間食うんだよな? バルニアン大陸って、その……」

「ああ、そこ気がついたか? それは昔の話!」

「は?」

「大昔、人間は数の力でドラゴンや幻獣の住処を侵していた。その報復としてドラゴンは人間を捕食していたそうだぜ。幻獣はドラゴンが主食だし、人間は体内魔力量が大したことねぇから好んで食わなかったってだけの話だ。今はドラゴンの森に立ち入りさえしなけりゃ食われることはねぇな」

「あるにはあるんかい!」

「あるさ。俺の親父は人間があんまり食われるんで、ドラゴンに土地を提供した。そんで不可侵条約を結び、その土地に立ち入らない代わりに人間を食うのをやめてもらった。ただ、未だに迷い込んだりドラゴンの卵や鱗や肝や血肉に興味のあるやつは身の危険も顧みずにドラゴンの森に立ち入ったりする。そういうやつらは自己責任!  国の法律でドラゴンと幻獣の領域に立ち入った者は市民権を自ら破棄したものと見なされるんだ。ま、食われて死のうが野たれ死のうが保護も治療もしねぇぜってこった」

「お、おわぁ……」

「まあ、この間ドラゴンの森に突っ込んだ飛行機はアバロン大陸のモンだったから、国として救助すべきだったのかもしれねぇが」

「え、飛行機?」

 

 飛行機!

 俺の憧れの乗り物!

 それがバルニアン大陸に?

 ……まさか!

 服のポケットから新聞記事を取り出す。

 リゴがくれた、飛行機の記事!

 

「そういえばこのウェロンモ兄弟はバルニアン大陸に行ったんだよな!?」

「ああ。だが無知ってのは死機を早めるな。よりにもよってドラゴンの森の上空を飛びやがったのさ。あの森の飛竜にまんまと見つかって、食われたよ」

「…………え」

 

 記事には一ヶ月前から行方不明とある。

 つまり一ヶ月前に、この冒険家兄弟は知らず知らずの内にドラゴンの森に入り込んで……そして……!

 

「うえ……マジで、そんな」

「せめて最初に人間のいる町に降りりゃあ良かったのに。運がなかったのさ」

 


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