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南国の首都【5】

 

 シルバー・ストーンは銀色の宝石だ。

 希少価値はクレア・ルビーを上回る!

 ベルゼルトンの山奥の大地の中にたまに小さな結晶が掘り出される、らしい。

 値は10ソガ――プレの上の位――にもなるとも20ソガになるとも言われてる。

 

「あとはこれとか、これとか」

「えええ!? そ、それ、ま、まさか……!?」

「ユーティ・サファイア!?」

「メアリー・エメラルド……!?」

「そ、そしてその一際輝く丸く赤い石は……!」

「プリンセス・アイ!?」

「餞別にニーグヘルがくれたんだよね」

「入手無料!?」

 

 もう、もう額がいくらになるか分かんない……!

 プリンセス・アイっていう赤い真珠はシルバー・ストーンよりお目にかかれないとんでも宝石だ!

 唯一この国原産の宝石だが、ラズ・パスでも五年に一度取れるか取れないか……!

 

「みんな意外と宝石詳しいね」

「ま、まあ、よく俺たち奴隷と物々交換されますから価値くらいは把握してるというか……」

「でもシルバー・ストーンとプリンセス・アイなんて実物初めて見た」

「す、すんげぇ……」

「こーゆーのはみんなニーグヘルが生成して人間に売ってくれるのさ。っつっても、ニーグヘルが宝石や魔石を売るのは限られた人間に対してだけだけどよ」

「人間と共存するドラゴンたちは、自然の恵みを人間が使いやすい様に作り直してくれる。代表的なのはニーグヘルの魔石だが、他にも人間と暮らすドラゴンは何体かいるよ。人間はドラゴンの望む報酬を支払い、ドラゴンから特別な物を得る。長年ドラゴンへ敬意を払ってきた文化の賜物だね」

「これがこの大陸とバルニアン大陸の大きな違いその2、だな。んで、その3……」

「僕たちの国に奴隷はいない」

 

 ど直球の、ど真ん中って感じだった。

 あまりのストレートっぷりにリゴも声が出せなくて固まっている。

 奴隷として生まれてきて、奴隷として生きてきた俺たちには衝撃的すぎる言葉。

 俺も最初聞いたときは頭ぶん殴られたみたいだった。

 

「奴隷という文化はそれこそ四千年以上昔、アルバニス王がバルニアン大陸を平定した時になくなった。だから、僕とジョナサンはこの国に来て驚いたよ……未だに奴隷などという人民差別を行なっているなんて……」

「人間なんてドラゴンや幻獣の前じゃあ無力な生き物さ。それなのに同じ人間を隷属させて喜んでいるとぁ、驚いた。それに、まだ二つしか街を見てねぇが他の国もこんな感じだと言うじゃあねぇか。アバロンの民は科学を進歩させたが、人間性の成長は止まってやがるようだ」

「その科学も今の時点では大したことはないね。我が国より五百年は遅い。拍子抜けもいいところだったよ」

「学ぶべき所は特にねぇ。せいぜい珍しい果物くらいか?  この大陸で良かったもんは」

「そうだね、菓子類は珍しい果物がたくさんあっていいと思う。種を持ち帰って、品種改良すれば我が国の土地にあったものが出来るかも。民にも新たなやりがいが与えられるし一石二鳥だな」

 

 け、結構好き放題言ってらっしゃる〜〜っ!

 っていうか科学力も負けてるのアバロン大陸!

 勝てるとこなくない!?

 

「…………奴隷がいない。じゃあ、労働力はどうなって……」

「普通に仕事として雇い主と従業員という形になる。従業員は労働を行ない、雇い主はそれに見合った給料……料金を払う。当然だね。僕もハクラには料金分働いてもらうつもりだよ」

「う、うぃっす!」

「まー、それにこっちの国には魔力や魔石があるからな。キツイ仕事も肉体を強化する魔法でどうとでもなる。魔法が苦手なやつでも魔石を使えばいい。勿論、俺たちの国にも問題や犯罪はあるぜ? けど、それを解決したり取り締まる仕事をしている奴もいるし、そういう命がけの仕事をしている奴には相応の報酬が出る。頑張れば頑張っただけ儲かるのがうちの国のシステムだ」

「特に城に仕える王国騎士や魔道士、研究者や女官は高給取りだよ。月の給料の他に家と土地が譲渡されるからね。城の中に住んでも構わないし。その代わり掃除は自分でやるのが条件だけど、食堂があるからご飯は食べ放題だ」

「た、食べ放題……!?」

「し、城の中に、住む……!?」

 

 おおおお!

 す、すんげー!

 お城って職業によって住めるのかよ!?

 お、お城に住む……なんというドリーム……!

 

「結婚も恋愛も自由。特に制限はないね。特別な職業の者が相手だと、それに応じた条件はあるだろうけど」

「ちなみに美人は海側と山沿いに多い!」

「お、おおお……!」

 

 それなんの驚嘆だよ……。

 しかし、恋愛や結婚も自由だったのか。

 確かにアバロン大陸じゃあ身分の決まった相手とじゃなきゃ結婚出来ないもんな。

 あれ、じゃあ……。

 

「フレデリック様も、まさか既婚……!?」

「いや、この間も言ったけど性欲あんまり無いんだよ。これも遺伝だね」

「おい、また話が逸れてるぜ」

「そうだった。僕たちの国のことはこれで少しは理解してもらえたかな?」

「は、はい……」

「ま、まぁ、なんもねぇところから氷や炎を出したり、こんだけ希少価値の高い宝石ゴロゴロ持ってちゃあ、ただの詐欺師とは思えねぇし……」

「んん、詐欺師……」

「いえ! あのだから! 王族であるのは間違いないだろうと!」

「そうです! そうです!」

「お、お前らまだ疑ってんのかよ……」

「だ、だってバルニアン大陸だなんて、そこはちょっと信じられねえっつーか」

「ま、すぐに信じろというのはやはり難しいか。けど、僕らが君たちを奴隷商から買ったのは僕らの国に来てもらおうと思ったからだよ?」

 

 へ? と声の揃う俺たち。

 今、なんと?

 

「実は最近王国騎士が足りてなくてな、お前ら鍛えれば勇士くらいにはなれるんじゃねぇか、とか」

「この大陸の人間がバルニアン大陸に来て適応出来るか、とか、そういうのを確認したくてね。本当は連れて帰るのはハクラだけにしようと思っていたんだけど……君たち奴隷の扱いがあまりに非人道的過ぎてつい、ね」

「職種は選べる。えーと、ハゲ! お前図体でけぇくせに学問への興味が高いようだしな……どうだ、学者か研究者を目指してみねぇか? 一流の学者や研究者は何人居てもいい」

「……!? が、学問を、学べる……ですか?」

 

 リゴの体が震える。

 分かるよ、俺も同じ感動をしたから。

 奴隷が学問を学べるなんて、望んでも叶う事なんかない。

 

「そうだ、あれ! 通訳魔法! あれをリゴに掛けてやってくんねぇかな!?」

「んあ?」

「通訳魔法? ああ、そういえば君たちは読み書きを学ばないんだっけ? そうだな、それじゃ不便だろう。おいで」

 

 フレデリック様の指先が宙に文字を書く。

 通訳魔法を掛けられている俺はそれが読めた。

『伝思』の魔力。

 それをリゴのおでこに指先で押し込める。

 その魔法は、きっと最っ高の魔法だよ、リゴ!

 俺は同じ感動をリゴにも味わって欲しくって、リゴに貰った新聞の切れ端を差し出す。

 リゴに貰ったやつだ。

 リゴも少ししか読めなかった、飛行機の記事!

 俺の意図を察したリゴも、慌てて記事を受け取った。

 そして――

 

「よ、読める……」

 

 リゴの目に涙。

 分かる、泣くほど嬉しいんだよ、これ。

 文字が読めるってことは、本や新聞が読めるってこと。

 得る知識の幅が果てしなく広がるってこと!

 

「……こんな……こんなことがあるのか……? こんな奇跡が……俺が文字を読めるなんて……あ、ああ……なんてことだ……!」

 

 新聞の切れ端を天井に掲げたリゴは膝をつく。

 讃えるように、泣きながら。

 人から見たらただのゴミみたいなもんかも知れないけど……俺たちには宝物だった。

 俺に知識を得る喜びを教えてくれたのはリゴだ。

 そんなリゴの、知識への憧れは俺よりもずっとずっと強い!

 

「そんなに感動されると思わなかったな。僕たちの国のには様々なジャンルの研究者や学者という職業がある。人によって研究の内容は違うけど、文学や魔法学や魔科学や科学に始まり歴史や民族学、生物学に医学……他にもたくさんのジャンルから好きなものを研究すればいい。ヨナも言っていたけどどう? やってみる気はある?」

「が、学問にそんなに種類が……!」

「人間の一生では学びきれない量のものが我が国の図書館や資料館や博物館に揃っているよ。何しろ約四千年分だからね。僕も未だに目を通してないものがある」

「そんな、夢のような場所に……俺は……俺を、連れて行ってくださるのですか……?」

「気に入らなければアバロンに戻してあげる。来るかい?」

「い、行きたいです! どうかお願いします! 分不相応ということは重々、重々分かっている! でも、どうか、どうか! それ以上のことは望みませんから! なんでもしますから!」

「いや、そこまで重く受け取られると少し困るんだけど……誘ったのはこっちだし……」

 

 土下座して頼み込むリゴを見て、ウィーゴたちは顔を見合わせる。

 こいつらはあんまり学に興味がないから、リゴの熱意はよくわからないんだろう。

 でも、三人もこのままアバロンに居れば、お偉方の気紛れでどんな目に合うか……考えるだけで身震いがするその未来を分からないわけじゃあない。

 道具として使われて、惨たらしい死に方をするのが奴隷という『物』だから。

 いつだって理不尽で、自由は一欠片も与えられない。

 

「ハゲ程じゃあなくとも、お前らだって死に方くらい選べるなら選びてぇだろう? ただ平穏に農作物を作るもよし、勇士や騎士になって人から尊敬されるもよし……色々な生き方を選べるっつったら?」

 

 ジョナサンが通訳魔法をウィーゴたちへもかける。

 未だ半信半疑だった奴らも身を以て「字が読める」事を体感したら顔付きが変わった。

 見たこともない、必死の形相だ。

 

「い、行きたい! そんな場所があるなら……」

「お、俺も……」

「そうだな、お、俺も……! 金持ちの道楽で殺されるくらいなら……い、一度くらい自由に生きてみてぇ……!」

「当然の権利だね。君たちは奴隷ではなく人間だ。住む場所も行きたい場所も自分で選ぶ。それは、意思だ。人の意思。何者であろうがそれを否定する事、捻じ曲げる事は許されない。まして同じ人間にそんな事、言葉以外の力で侵させてはならないんだ。それでいい! 君たちの心、身体、人生、夢や希望、選択の責任も何もかも全て君たち自身のものなのだから、自分で選べ!」

「……ッ!」

 

 リゴが膝をついて頭を下げた。

 胸がぎゅっとなる様な光景だ。

 文字を読む力をもらった。

 自由に生き方を選んでいいという許しをもらった。

 こんな恩、生きてる間に返しきれるだろうか?

 

「お、王子……フレデリック王子……」

「俺たちをお導きください! バルニアン大陸……伝説の、その国へどうか!」

「うっ、うっ……」

 

 俺を馬鹿にしてたくせに。

 でも、俺も同じだから……自分でこの人に付いて行きたいって思ったから。

 分かるよ。

 これが、王子様ってやつなんだ。

 これが、本当の王族って人たちなんだ!

 眩い光の道みたいな人。

 弱い人間も、あんまり強くない人間も、そして強い人間も、隔たりなく認めてくれる。

 人間を人間として認めてくれる……俺を、俺たちを……!

 

「(……いつ見てもすげーな、フレディの『英雄』っぷりは。人を諭し救い導く。ただし、そのまま放り出す。救ったら救いっぱなしなのも『英雄』の気質。……ま、その後のことは俺らがフォローするっきゃねぇ。いいけどよ)――さーて、んじゃあ早速来てもらうとするか、俺たちの国へ」

「え!」

 

 どゆこと!? 今からって……!? ラベ・テスに戻るの!?

 

「さっきも言ったが俺たちの国は魔法という文明が発達している。一度来たことのある場所なら、転移魔法が使える」

「てんい?」

「簡単に言えば瞬間移動かな。行ったことのない場所へ飛ばすことは出来ないけれど、一度行った場所は記憶する。コレがね」

「クレア・ルビー!」

 

 あ、いや、フレデリック様たちの国では『魔石』って言うんだっけ?

 え? それが一度行った場所を記憶する?

 ど、どう言うこと?

 

「魔石の隅に文字が見えるか?」

「文字……あ! 本当だ小さく『アルバニス王都』って書いてある……いや、彫られてる……?」

「転移魔石だ。俺らの国じゃ長距離移動の時によく用いられている。大陸にある町や村、大小合わせて28箇所に転移魔石陣という“出口”が用意してあってな、転移魔石に魔力を込めるとそこに瞬時に移動できるって代物さ。これが複数回、使い回せる魔石ってやつ」

「永遠ではないけどね。回数制限はある。でも僕らは魔石がなくても転移魔法を使えるから本来必要ない」

「ええ!?」

 

 な、なんか魔法ってこの石がないと使えないイメージになってたけど……。

 

「なにびっくりしてんだよ。そもそも魔石は魔力の低い者や不得手な者が少量の魔力を注ぐだけで使える魔法補助の道具だ。俺やフレデリックは本来魔石なんかに頼らなくっても、体内魔力蓄積量でどうとでもなる。そんぐれぇ、レベルの差ってやつがあるのさ」

「それが僕とジョナサンが直々に来た理由の一つでもある。王族が来た方が早いっていうのが一番大きな理由ではあるけれどね。魔石を持って来たのは、アバロンの民の反応が分からなかったからだ。まさかこれが値打ち物の宝石になるとは思わなかったなけど」

 

 あ、用途が違ってたんだ?

 だから平然と俺にも「お金にしろ」ってくれたんだ……!?

 

 

 

 

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