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南国の首都【4】

 

「遅かったな? もしかして迷ったのか?」

「うん、帰り道も分かんなくなった……」

 

 ハイ、と服の入った袋を手渡す。

 結局半日も買い物に費やしてしまった。

 半分道に迷って、半分はジョナサンの吟味時間だ。

 ジョナサンってマジ、服にはこだわりまくりでめんどくせー。

 まあ、あんまりジョナサンにしっくりくるサイズがねぇから仕方ねぇんだろーけど。

 リゴ以外にフレデリック様たちに買われた奴隷はウィーゴ、ザール、コゴリ。

 どいつもこいつも肉体労働用の体格のいい奴隷だ。

 だから服も全部でかめ。

 そして……。

 

「…………は、ハイカラだな……」

「ジョナサンの趣味で選んでたもん。あの人、服の趣味派手なんだよ」

「さ、さすがに奴隷にこれは……」

「だが、ご主人様の趣味に合わせるのも俺たち奴隷の運命ってやつだぜ」

「しかし……」

 

 因みに、こいつらの服はジョナサンが自分で着ようとして全部入らなかったやつだ。

 試着してきつかったが、柄が余程気に入ったのかリゴたち行きになってしまったという悲しい過去がある。

 オーダーは時間がかかるので、今回買ったシャツも既製品。

 前のボタンを閉めた途端全部弾け飛んだのが面白くって大爆笑した。

 奴隷に大爆笑されて苦虫を噛んだようなジョナサンに、店員が汗を滝のように流していたのはちょっと居心地悪かったけど。

 あの体格のジョナサンがあんな顔したらそりゃあ生きた心地がしないだろーな〜。

 

「ところで、お前あのでかい人の事を呼び捨てにしてていいのか? ご主人様の護衛の方なんだろう?  立場は俺たちより上じゃあないか」

「ジョナサン? いや、ジョナサンはフレデリック様の弟だぜ。護衛とかじゃねぇって」

「は……?」

「おと……」

「おと……?」

「もっとダメじゃん!?」

 

 呼び捨てが。

 

「でも下手な敬語とか使うくらいなら敬語はやめろ〜、城以外で様付けやめろ〜って」

「城!?」

「そう! 二人とも王子様なんだ! 伝説のバルニアン大陸の!」

「バルニアン大陸!?」

「はぁ? 何言ってるんだ? どこの島だそりゃ?」

「ばっか、バルニアン大陸は伝説上の実在しない大陸だぞ!? あれだろ? 海の向こうの壁海の向こうにあるっていう御伽噺の……」

「御伽噺じゃねーよ!  」

「いや、けどな……!」

「リゴ、俺たちこの国以外に出た事もないんだぜ? 確かに壁海の向こうに行った人はいないけど、いないからこそバルニアン大陸が無いとも証明されてねーだろ!? それに、あの人たちの考え方はこの国……いや、この大陸のどの権力者とも全然違うんだよ!」

「だからこそ、あの人たちがバルニアン大陸から来たって証明も出来ねぇだろう!? あんなどでかいクレア・ルビーをあんなに大量に持ってんのも怪しいしよ〜!? ヤバめの詐欺師かもしれねぇぞ!? いや、詐欺師かもしれなくても俺たち奴隷は買われちまった以上付いていくしかねーけどよ〜……」

「詐欺師じゃねーよー! 王子様だよ! 詐欺師にあんな気品と高潔さがあってたまるか!」

「本格的にヤバい事になってるぞ、ハクラのやつ……」

「元々頭やばかったしなぁ」

 

 実に賑やかな奴隷部屋。

 ジョナサンとフレデリック様の部屋が階違いだからって好き放題言いやがってこいつら〜!

 俺のこと頭おかしいって言ってもいいけど、あの二人を馬鹿にするのは許せねぇ!

 

「あの二人がお前のことを買って行った理由が分かったぞ。お前が魔法使いー! とか叫んだから『あ、こいつ何でも信じるアホだ。詐欺に利用できる』と思われたからだ」

「詐欺で金稼ぐのにあんな大金ポンと出す詐欺師なんかいるか!」

「きっとうちの主人と結託して新手の悪事をやろうとしてるんだ」

「考え過ぎだろ!? ちょっと被害妄想激し過ぎるぞお前!」

 

 主人に関してはマジでやりそうだけど!

 あの主人ならやりそうだけども!

 

「肉体派と思いきや思いの外、知能派だね」

「ギャーーーーー!?」

 

 陰口はいずれバレるものだ。

 部屋に集まって、服を受け取って、いた俺たちのところへ現れたフレデリック様とジョナサンに、リゴが俺でも見たことのない驚きで汗を滝のように……いや、この滝のような汗をかいた顔、さっき服屋でも見たぞ。

 

「フレデリック様、機嫌……いや、気分は良くなった?」

「ううん、まだ悪いよ」

「そ、そーっかぁ……」

 

 そりゃまたどうしたもんでしょうね。

 

「でも君たちがヨナの買って来た派手な服に戸惑いながらも袖を通すところを見てみたいなと思ってね」

 

 ド、ドS……!

 

 成る程確かに機嫌はまだ悪いっぽい。

 いつもより意地悪いや。

 そんなところもカッコいいけど。

 

「っていうかまだ着てなかったのか?」

「す、すぐに!」

「着ます!」

 

 入り口の扉を頭を下げて入ってきたジョナサンに四人は大慌てだ。

 別に怒られないと思う。

 ジョナサンがそう言ったのは、多分意味が違うんだよ。

 

「チビと違って着方は知っているようだな」

「また着方がわからないって言われたらどうしようかと思った。さすがにガタイのいい男の服を着せてやるのは抵抗がある」

「……………」

 

 俺も見たくねぇな、その光景。

 

「しっかし、狭ぇなぁ……人数が多いにしたって一部屋の面積がコレって……」

「狭い狭いとは思っていたが、全員揃うと息が詰まりそうだな。でも、高い宿は部屋が空いてないんだって?」

「ああ、世界中から王族貴族なんとか議員だの金持ちが集まってるから高級宿は満室だとさ。だよな?」

「は、はい」

「そう。まあ、今日のところは屋根のあるところで寝られるだけで良しとしよう。それに、思いの外早く目的が達成できそうだしね」

「目的? それって、二人が首都にきた理由……?」

 

 それってさっきジョナサンが言ってた『ドラゴンを信仰していた痕跡』のこと?

 首都にそんな痕跡あったかなぁ?

 リゴなら何か知ってるか?

 もしかして、それでリゴたちを買ったのかな?

 あれ? でも、俺、リゴたちが昔ラズーで働いていたことがあるなんて一度も言った事ない。

 そもそもリゴ達のことも話したことないぞ?

 

「そう。僕らは為政者に会いに来たのさ。向こうがどういうつもりなのかを、把握しておきたいからね。まあ、四千年近くアバロンとバルニアンは交流を断絶してきた。アバロンの様子を見るに、バルニアン大陸は伝説上のものにまでなっている。まずは存在を思い出して、認識してもらうところからだね」

「面倒クセェ。忘れられたもんなら忘れられたままで良かったんだけどな」

「まぁね。けど、下手に発見されて『新大陸発見!』なーんてはしゃがれて戦争に発展するのはもっと面倒だ」

 

 共生出来るか、戦争か……その調査……。

 そういえば二人はその為にアバロン大陸に来たんだっけ!

 

「そんな訳で、君たちに自己紹介しておこう。ハクラにもちゃんと自己紹介するのは初めてだね。僕の本名はフレデリック・アルバニス。バルニアン大陸を平定したアルバニス王家の第一王子だ」

「俺はジョナサン・アルバニス。第二王子だ。ま、フレデリックと違って王子らしい仕事はやってねぇんだけどな」

「ジョナサンは父や母の面倒を見たり僕のサポートが主な仕事だからね」

「フレディが突然いなくなった時の予備みてぇなもんさ」

 

 放浪の旅ってそんなに突然始まるもんなのか。

 

「お、王家……王子……? バ、バルニアン大陸は、ほ、本当に実在する……?」

「あるよ。この大陸とはかなり文明が違うけどね。僕たちの大陸、バルニアンについても少し話そうか」

「は、はい……!」

 

 おい、さっきと顔違うぞ。

 さっきは俺のこと散々馬鹿にして、フレデリック様達のこと疑ってたのに。

 今では、新聞の切れっ端を持って来た時の顔だ。

 要するに……俺と同じ、めちゃくちゃワクワクしてる顔!

 

「バルニアン大陸は四千年近く前にアバロン大陸と交流を断絶した。理由は戦争。その為、バルニアン大陸はアバロンが捨ててしまったものがそのまま残っている。代表的なのは君たちが『魔法』と呼ぶものだろうか? 君たちはこういうものを見たことはないんだろう?」

 

 と、フレデリック様が差し出した手のひらからは粒状の光。

 それが集まり、白い水晶が生えてきた!

 手のひらの上に、水晶が!

 

「な、なんだ!?」

「スッゲー! それ、水晶だろ!? 水晶ってグリーブトでしか採れないんだよ!?」

「これは水晶じゃなくて氷」

「氷!?」

「氷!? こ、こここ氷ってグリーブトの湖でしか採れないっていう、あの⁉︎」

「氷も珍しいのか? 氷も維持できないってのは……」

「そうだね、思っていた以上に科学は進歩していない。蒸気機関車があるというから少しはましかと思ったんだけど」

「さ、触っても……いいでしょうか……?」

「構わないよ」

 

 はい、とリゴに氷の塊を手渡してくる。

 なんて太っ腹……!

 氷なんて、氷なんてグリーブトに行かなきゃ一生見れないもんだとも思ってたのに……。

 

「つ、冷たい! ふぁ、ふはははは! なんだこれ! す、すげーぞ!」

「お、俺にも触らせてくれ!」

「俺も!」

「俺も触りてぇ!」

「ず、ずりーぞお前ら俺にも触らせろ!」

「冷てぇ!? なんだこれ! 井戸の水より冷たいぞ⁉︎」

「あんまり長く触っていると溶けるよ」

「うわあ!? 水が出てきたぞ!?」

「どうなってんだどうなってんだ!?」

「氷から水出てきたぞ!!」

「氷は水が寒さで凝結したものだからね。温度が高くなれば液体に戻るんだよ」

「水が固まる!? 温度で元に戻る!?」

「逆に温度が上がれば水は気体……煙のようになるんだ。それも知らない?」

「み、水にはそんなことが出来るのか!? どうして!? どのくらいで固まって、どのくらいで煙に⁉︎ 氷から煙になる事はあるんですか!?」

「ちょい落ち着け。水の話は今どうでもいい」

 

 ゴン!

 ジョナサンのチョップがリゴのデコにヒットした。

 俺も気になっていたけど、確かに今その話はしてねぇな。

 

「君は学者に向いているかもね。ハクラと同じ目をしている」

「まあ、リゴって俺と一番気が合うから!」

「ゴツいくせに学者肌かよ、人間見た目によらねぇなぁ」

 

 ジョナサンが言うと説得力あるなー。

 この見た目で王子だもんなー。

 

「まあ、氷の他にも……」

「火!?」

「て、手の上に火が燃えて……!?」

「この他にも風や石なんかも魔力で生み出すことが出来る。君たちの言う『魔法』とはこう言うことだろう?」

「スッゲー!」

「バルニアン大陸の人間は皆使えるよ。まあ、弱い強い、得手不得手はあるけどね」

「ま、魔法の国……!」

「またそれかよ」

「恐らくバルニアン大陸に来れば君たちも使えるようになる。アバロンにはバルニアンにあるような自然魔力がほとんど無いに等しい。僕らの魔法は、そういった自然魔力を集めて使うものだからね」

「自然魔力……?」

「その辺りの説明は省くよ。専門知識になる。ただ、特にハクラは僕たちに匹敵する魔力蓄積量があるはずだ。君ならこの大陸でも魔法が使えるようになるかもね」

「ほ、本当!?」

「嘘は言わない。実際君は僕たちの透明化魔法を見破った。それは僕らと同等の魔力のある者にしかできない芸当だ。見ていてご覧」

 

 と、フレデリック様が指を鳴らす。

 するとリゴたちが突然おののいて「き、消えたー!?」と叫んだ。

 

「何言ってんだお前?」

「いや、え!? だ、だって今までそこに……!」

「?」

 

 特に変わらず佇んでおられるが?

 

「ほらね」

 

 再び指を鳴らすとリゴが「あれ?」とフレデリック様を見つめる。

 え、まさか……。

 

「ハクラには見えていたんだろう? 僕らより魔力の低い者には見えなくなるものなんだよ」

「……!」

「じゃ、じゃあお前が水の上を歩いてる二人を見たって……」

「実際俺たちは途中から海を歩いて上陸したからな。いやぁ、まさかソッコー見つかるとは思ってなかったぜ」

「お前まだ信じてなかったのかよ……」

 

 だからずーっといってたじゃねーか!

 俺は魔法使いを見たんだっての!

 でも、まさか俺にしか見えないとは……。

 けどけど、つまり俺も魔法使いになれるってことらしい!

 

「ど、どうやって魔法って使うの!?」

「その話も後! お前には後で使い方は教えてやるよ。簡単なやつからな」

「ぃやったー!」

「う、羨ましい!」

「君たちもバルニアン大陸に来れば使えるようになるはずだよ。元はアバロンの民もバルニアン大陸と同じ民族だ。バルニアンの民に使えてアバロンの民に使えないのは、アバロン大陸の環境のせいだろう」

「民族が同じ……? なら、ハクラはなんでアバロンでも使えると……? それに、貴方も……!」

「僕たちの場合は遺伝!」

「だーかーら、こう見えても正真正銘王族なんだよ」

「し、失礼しました!」

「ハクラの場合は体質的な話だろう。たまに人間の中にも破格の体内魔力蓄積許容量を持つ者が生まれてくる。生まれつきの才能だね」

 

 さ、才能……!

 お、おお……性奴隷にも肉体労働用にも微妙で、最終的には愛玩具くらいしか用途がないと言われていた俺に……!

 魔法使いの……魔法使いの才能がッ……!

 

「まあ、僕らの国……バルニアン大陸はこんな感じで魔力が中心の文明だ。そしてここが二つ目の重要ポイント」

 

 と、人差し指を立てるフレデリック様。

 アバロン大陸と、バルニアン大陸の決定的な違い。

 

「幻獣とドラゴンが住んでいる」

「は……」

 

 言葉を失うリゴたち。

 俺はさっき、それジョナサンに聞いたからあんまり驚かない。

 けど、改めて言われると胸がドキドキする!

 

「今魔法が使えることは証明したね? そしてアバロン大陸で魔法が使えないのはアバロンの環境のせいだとも。その最大の違いは住んでいる種族の差だ。幻獣はこの世界を創りし者。この世界を維持する魔力を与えてくれている。そしてドラゴンはこの世界に豊かさを与えてくれるものなんだ。その最もたるものを見せよう。君たちの大陸ではクレア・ルビーと言うらしい、この石……」

「!」

 

 フレデリック様の手には手のひらサイズの巨大な六角形の赤石。

 俺たちの大陸ではクレア・ルビーは希少な宝石だ。

 しかも、大きさは指の先っちょくらい。

 こんな大きなものは見たことがない。

 

「クレア・ルビー……?」

「これは俺たちと共存することを選んだ大地のドラゴン、ニーグヘルが生成して人間に酒と交換で売ってくれてるだ。俺たちは魔石と呼んでいる」

「魔石には魔法を閉じ込めることができる。例えば炎の魔法をこのように閉じ込める」

 

 目の前で巨大な火柱が上がる。

 一応、天井に届かない程度のものだけど……そもそも俺たちは魔法を見慣れないもんだから何もないところから火が上がるのすらびっくりする!

 それがクレア・ルビーに吸収されて、なくなった!

 

「お、おおお!?」

「この石は魔法を封じ込めて販売する道具なんだ。少し魔力を込めれば取り出して使うことができる。僕らの国では実にポピュラーなものでね、使い切りのものから複数回使えるものまで幅広く販売されている。魔石は使いまわせるから、簡単な魔法なら安価で手に入るよ」

「用途としては魔法があまり得意じゃねぇ奴が料理する時、寒い時の暖、暑い時の涼、あるいはまだ魔法の扱いが苦手なガキの護身用……色々だな」

「ほ、宝石として売ってるもんじゃないの!?」

「ん〜、確かに綺麗だけど、宝石は宝石で別にあるしな」

「宝石っていうのはこっちかな?」

「ほあ!?」

「ま、まさかそれ……シルバー・ストーン!?」

 

 

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