地獄のタイムリープ
白い翼の生えた天使は言った。
「タイムリープは世の理に反する禁じられた行為なんだ。だからね。君がタイムリープをするたびに、君の世界は一歩ずつ―――― ″地獄″に近づくよ。気を付けてね」
僕は、変な夢だなぁと思った。
早く覚めてくれ、ゲームの続きがしたい。
――――——
雲一つない綺麗な夕暮れの空が広がっていた。
カラスが一羽、カァカァと鳴きながら陽気に羽ばたいているのを、僕はぼんやり見上げながら街の大通りに立っていた。
天使というのを初めて見た。いや、夢だけど。
白昼夢だったのか、えらく意識のはっきりした夢だったなぁと思う。
土曜日、学校が休みだった僕は自宅でやっていたゲームを中断し、コンビニに行ってポテチとコーラを買い、帰ってくる最中だったことを思い出した。
早く帰ろう。
ファミレスやスーパー、本屋が立ち並ぶ大通りから細い路地裏に入り、廃ビルの横を通って薄暗い道を歩いた。
ヨレヨレのスーツを着たサラリーマンが、ネクタイを軽く緩めながら歩いているのを横目で見る。疲れたリーマンの表情を見て、僕もいずれあぁなるんだろうなと他人事のように感じた。
そして住宅街に入る手前の十字路が見えてきた時、十字路の中心に光るものが見えた。
あれは500円玉だ。
ラッキー、コンビニでの買い物がチャラになる。
小走りで十字路の中心に向かった僕は――僕は――――
――――——
雲一つない綺麗な夕暮れの空が広がっていた。
カラスが二羽、カァカァと鳴きながら陽気に羽ばたいているのを、僕はぼんやり見上げながら街の大通りに立っていた。
天使というのを初めて見た。いや、夢だけど。
白昼夢だったのか、えらく意識のはっきりした夢だったなぁと思う。
あれ。
ついさっきもこうして夕焼け空を見上げていたような気がする。
寝ぼけているのか、気のせいだろうと僕は片手で自分の頭を叩き、意識をクリアにさせる。
そうだ。
土曜日、学校が休みだった僕は自宅でやっていたゲームを中断し、コンビニに行ってポテチとコーラを買い、帰ってくる最中だったことを思い出した。
早く帰ろう。
ファミレスやスーパー、本屋が立ち並ぶ大通りから細い路地裏に入り、廃ビルの横を通って薄暗い道を歩いた。
ヨレヨレのスーツを着たサラリーマンは白目を剥きながら、身に着けたネクタイを、自分の首がきつく締まるほどに強く両手で締め上げながら歩いていた。
疲労で気がおかしくなったのだろうか。
そのリーマンの表情を見て、僕はあぁはなりたくないなぁと他人事のように感じた。
そして住宅街に入る手前の十字路が見えてきた時、十字路の中心に光るものが見えた。
あれは500円玉だ。
ラッキー、コンビニでの買い物がチャラになる。
小走りで十字路に向かおうとしたが、軽くつまづいて転んでしまった。
直後、十字路を猛スピードで車が走り抜けていった。
危なかった、あのままだと車にひかれて死んでしまっていた。
僕は冷や汗をかきながら500円玉だけはしっかり拾い、帰り道を歩き直す。
住宅街を歩き、小さな公園に差し掛かると、向こう側からベビーカーを引いた髪の長い女性が歩いてきた。ついさっきまで公園でのんびりしていたのだろうか。
女性は赤ちゃんに話しかけながら幸せそうな笑顔を見せていた。
女性の表情を見て、僕もいずれ結婚し、子供や奥さんを大事にして幸せな家庭を築きたいなぁとささやかに幸せな空想に浸る。
自然と足は公園に向かう。
そしてゆっくりベンチに腰をかけた。
砂場、滑り台、ブランコ、小さなトイレ。
懐かしいなぁ。
まだ僕が小さいときは、よく母さんにここに連れて行ってもらったことがあった。
もう何年も十年以上前のことだからうろ覚えだったが。
のんびりしていると、トイレから高校生らしいヤンキーの集団が3人ほど出てきた。
彼らのうちの1人、背の低い金髪の少年は、先が真っ赤に染まった金属バットを持っていた。
こちらの存在に気付いて一瞬彼らはぎょっとしたが、お互いに顔を見合わせたかと思うとニヤつきだし、僕の周りを囲む。
立ち上がろとした僕の肩を1人が押さえつける。
そして背の低い金髪の少年が何かを振り上げるのが一瞬見えたが、その何かをはっきりと捉えようと振り向いた僕は――僕は――――
――――——
鮮血のように真っ赤に染まった鮮やかな夕暮れの空が広がっていた。
カラスが三羽、ガァガァとまるでうめき声のような鳴き声をあげながら羽ばたいているのを、僕はぼんやり見上げながら街の大通りに立っていた。
天使というのを初めて見た。いや、夢だけど。
白昼夢だったのか、えらく意識のはっきりした夢だったなぁと思う。
あれ。
ついさっきもこうして夕焼け空を見上げていたような気がする。
そして家の近くにある小さな公園まで歩いて帰ってきたはず。
まぁ、気のせいだろうと僕は両手で自分の頭を叩き、意識をクリアにさせる。
そうだ。
土曜日、学校が休みだった僕は自宅でやっていたゲームを中断し、コンビニに行ってポテチとコーラを買い、帰ってくる最中だったことを思い出した。
早く帰ろう。
ファミレスやスーパー、本屋が立ち並ぶ大通りから細い路地裏に入り、廃ビルの横を通って薄暗い道を歩いた。
ヨレヨレのスーツを着たサラリーマンは白目を剥きながら、身に着けたネクタイを、自分の首がきつく締まるほどに強く両手で締め上げながら歩いていた。
疲労で気がおかしくなったのだろうか。
そのリーマンの表情を見て、僕はあぁはなりたくないなぁと他人事のように感じた。
そして住宅街に入る手前の十字路が見えてきた時、十字路の中心に光るものが見えた。
あれは500円玉だ。
ラッキー、コンビニでの買い物がチャラになる。
小走りで十字路に向かおうとしたが、軽くつまづいて転んでしまった。
直後、十字路を猛スピードで車が走り抜けていった。
危なかった、あのままだと車にひかれて死んでしまっていた。
あれ、前にもこんなことがあったような。
いや、気のせいだろう。同じ日に何度も同じ道を通っているはずがない。
僕は冷や汗をかきながら500円玉だけはしっかり拾い、帰り道を歩き直す。
住宅街を歩き、小さな公園に差し掛かると、向こう側からベビーカーを引いた髪の長い女性が歩いてきた。その女性は身長が3メートルにも及ぶほど身長が異常に高く、ベビーカーを引くその両手も異常に長いところが少しだけ僕は気になった。
女性はベビーカーに乗った、赤ちゃんに似せた人形に笑いかけながら、包丁を振り上げ、その人形に突き刺した。
何度も。何度も。何度も。
ケタケタと笑いながら楽しそうにナイフを突き立てるその姿は、幸せな家庭とは程遠いもので、あぁはなりたくないなぁと他人事のように思った。
家庭といってもさまざまなんだろう。
幸せな家庭もあれば、暴力男が父親といった地獄のような家庭もある。
僕は苦い顔をしながらその女性の横をすれ違う直前、その女性はピタッとナイフを突き立てる手を止めた。
ザクッザクッ
ナイフの刺す音が急に止んだことが気になり、歩くのを止めて振り向いた僕は――僕は――――
――――
――――――――
どす黒い血を流し込んだような濁った夕焼け空が広がっていた。
しかし、その夕焼け空を埋め尽くすほどに多くのカラスが、ガァガァとまるでうめき声のような鳴き声をあげながら羽ばたいているのを、僕はぼんやり見上げながら街の大通りに立っていた。
昔、ずっと昔、微かに残った記憶。
夢の中で、白い翼の生えた天使に会ったような気がする。
もうほとんど覚えていないほど、記憶の彼方にあった。
僕は何度もこうして夕焼け空を見上げていたような気がする。
同じ道を何度も通り、サラリーマンを横切り、猛スピードの車を回避し、ベビーカーを引いた女性を眺めながら、同じ道を通って自宅に向かっていたような気がする。
まぁ、気のせいだろうと僕は両手で自分の頭を叩き、意識をクリアにさせる。
そうだ。
土曜日、学校が休みだった僕は自宅でやっていたゲームを中断し、コンビニに行ってポテチとコーラを買い、帰ってくる最中だったことを思い出した。
早く帰ろう。
大通りに立ち並んだスーパーやファミレス、本屋、どれもが荒廃して廃墟と化していた。
脳をむき出しにしながら走り回っている子供、座り込んで自分の両腕をむしゃむしゃと食べている老人、両目をスプーンでくり抜き、くり抜いた目でキャッチボールをしている夫婦、どこかおかしくなった彼らを、僕は見ないフリをしてすり抜け、いつもの路地裏に入った。
――――——
コンビニから自宅まで歩いて20分。やけに長かった気がする。
ついさっきまでコンビニで買い物をしていただけのはずなのに、自宅まで帰ってくるのに10年以上かかったような気がするがそんなはずはない。
だって歩いて20分の距離だから。
そういえば、夢の中で天使が何か喋っていた気がするが、断片的な記憶の欠片は繋がるはずもなく、僕は早くゲームがしたいと勢いよく家のドアを開けた。
「おかえりなさい、亮ちゃん。今日の夕飯はハンバーグよー」
母さんのいつもの声を聞き、ようやくいつもの世界に帰ってきたと心底胸を撫でおろす。
リビングに入ると、キッチンで料理をする母の後ろ姿が見えた。
けがでもしたのだろうか、首に包帯を巻いていた。
フライパンで挽き肉を炒める音が食欲をかきたてる。
「いい匂いでしょう。今日はいいお肉が手に入ったのよー?」
母さんはやけに甘ったるい声を出していた。
よほどいい肉を買ったのだろうか。でも確かにいい匂いがする。
夕飯が出来上がるまで隣の和室でテレビでも見ようかと思い歩いていくと、中学生になったばかりの妹が、入ってきた僕に背を向ける形でテレビを見ていた。
その光景を見て感じた違和感が二つほどあった。
一つ目は、付けているテレビの画面は砂嵐だったこと。
そして二つ目は、部屋の中央で、父さんが腹部から血を流しながら倒れていたこと。
僕は遠くなりそうな意識の中で、どうして父が倒れているのかを聞いたら、妹はこちらを振り向かずに言い放った。
「お兄ちゃんが殺したんだよ?」
妹の声ではなかった。
まるでスロー再生した音声データの声のように濁った声で、それが気味悪くなった僕は、和室を出てリビングに急いで戻る。
「急に慌ててどうしたの?亮ちゃん」
優しく声をかけた母さんの首に巻かれた包帯が赤く滲んでいる。
滲んだ赤い液体はとめどなく首からボタボタと流れ落ち、包帯がほどけて床に落ちる。
首が裂けていた。
裂け目は徐々に広がり、もうすでに皮一枚でしか繋がっていない首を、母さんは両手でおさえて、胴体から取れないようにしていた。
「いけないわ、これじゃあ料理ができない。亮ちゃん、手伝って」
振り向こうとする母さんの顔を見るのが恐ろしく、僕は身を翻して二階に上がろうとしたら、すぐ目の前にはナニカが棒立ちしていた。
妹と同じ背丈、同じ部屋着、同じ髪型、でも妹じゃない。
妹の両目は、ぽっかりとした空洞になっていないし、自分の耳をちぎって食べたりなんてしない。顔に口が二つも付いているわけでもない。
だから、目の前のナニカは妹であるはずがない。
「オニイチャンガ、コロシタンダヨ?」
目の前のナニカハ、クリカエシシャベッタ。
ぽっかりと伽藍洞になった、その虚ろな両目の奥底を、吸い込まれるように覗きこんだ僕は――僕は――――
「ボクガ、コロシタンダヨ?」
ボクハ、ソウイッテ、タオレタトウサンヲ、ムシャムシャト、タベタ。