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23話 宴会

 

「え、何だろうこのテンション」

「す、すごい盛り上がりです……」


 何やら騒がしさに目を覚ました千聖(ちあき)は、隣で寝息を立てているルナに驚いた後、同じく騒音で目覚め、隣にいる千聖に驚き悲鳴を上げたルナに連れられて騒音の音源へと向かった。そして辿り着いた食堂のような広間は──完全に、お祭り騒ぎと化していた。


 テーブルに所狭しと並べられた料理に、ぎゅうぎゅう詰めで各テーブルにつきワイワイと盛り上がる騎士と兵士。座っている者もいれば、立っている者もいる。

 皿同士がぶつかる音に、椅子や机をガタガタと移動させる音。話声の外に怒声なんかも聞こえるが揉めている様子は見受けられないので、酒か何かに酔っているのだろう。


 騎士も帝国兵も関係なく盛り上がっているのは非常によろしいことだが、

 それにしても──


「よ! ランチェスターの法則を無視する男!」


 食堂に現れた千聖とルナの姿を発見したルークスが、すぐに絡んできた。

 肩を組まれた千聖は、その酒臭さと鬱陶(うっとう)しさに顔を背ける。


挿絵(By みてみん)


「なんだよ、ランチェスターの法則を無視する男って……」

「そりゃーお前の事だろ!」


 小さな愚痴を拾ったその声に顔を上げれば、ルークスに続いてやってきた(みん)とフォールハウトが目の前にいた。二人の手にも酒の入った木製のコップが握られている。

 そのご機嫌さに少しだけ呆れた千聖は深いため息を落とした。


「別に無視してないよおれ。法則の意味わかってるの?」

「わーってますってぇー! この人数差で勝ったんすよ!? 無視してるじゃないですかーっ」

「援軍呼んでるし! おれの戦闘力だけで一万人分くらいあるって考えたら別に無視じゃないし! そもそも人数差だけじゃないからこの法則!」

「いえ、ですがこの戦いの場合あきらかに多人数戦でした。ですので適応される計算式は」

「いやだから、おれの戦闘力が一万だったら無視してないんだって。フォールハウトまでそんなこと……」

「あーもういいって! 落ち着けよみんな、な? で、さ……千聖ちょっといいか」


 意味の分からない会話が白熱してきたところで、意外にも眠の手によって輪から抜けすことが出来た。他のメンバーから少しだけ離れたところまで腕を引かれて、そのまま眠に酒の入った器を手渡される。


「お疲れ!」

「お、おぉ……お疲れ様」

「お前もういいのか? 2時間ちょっとしかたってねぇけど、もっとイチャついてても良かったんだぜ? アイツらはオレが相手しとくからさ、もう一回くらいシて来いよ」


 アイツら、とか言いながら近くのテーブルに置いてあった酒入りのコップに手を伸ばし、ぐいっと勢いよく中身を喉に流し込む眠。そして顎で指示したのは、ルークスとフォールハウトだ。何を言っているのかはすぐに察しがついた。


「ちょっとまて、おれらは別に」

「別にいいって! お前とルナ、なんかイイカンジだっただろ? それにほら……治療にしちゃ随分長ぇし、バレバレだって!」

「お前さ……」


 文句を言いかけ──しかしそれをこの場に来て二度目の溜息に変え、持たされた酒入りのコップを眠に押し付ける。絶対にこいつも酔っている。いや酔ってなくてもこんな奴だが、それでもこれは酔っている。相手にするなんてどう考えたって面倒くさい。

 押し付けたコップを眠がしっかり持ったことを確認してから、まだ何かいっている従者を軽くあしらってその場を後にした。

 もちろん、ルークスとフォールハウトの元に戻るつもりもない。

 食堂全体を見回して部屋の隅っこ、比較的静かに飲んでいるテーブルの端に席を取っているルナを見つけた。丁度よくルナの隣が開いている。

 誰かに座られる前に確保してしまわなければ。


「ルナさん、隣いい?」

「はっはははい!」


 千聖が声を掛けた途端、返事はするものの反対方向──壁に顔を向けるルナの明らかな動揺具合。一瞬だが、隣に座るのを躊躇った。結局座ったけど。


「なっ……何を飲まれますか?」


 テーブルの端に重ねられた真新しいコップを二つ手にして、ルナが問いかける。

 視線はやはり逸らされたままだ。


「帝国の成人は、確か15歳ですよね?お酒にされますか?」

「ルナさんはお酒?」

「いえ、未成年なので飲めないのです」

「そっか、王国は18だっけ? じゃあーおれもルナさんと同じので」

「野菜ジュースになりますが、いいですか?」

「うん、いいですよ」


 一瞬千聖と目を合わせたルナだったが、口調を合わせながら首を傾げて笑う千聖に、いそいでまた顔を背けた。決して嫌なわけではないし、むしろ隣に来てくれて嬉しかった。

 しかし、先程うっかり同じベッドで寝てしまったせいか、変に意識しすぎてしまう。

 自分でも分かりやすすぎだと思ってはいるが、どうにも彼を直視できなくなっていた。


「敵陣乗り込むときさ、おれと一緒に来てくれてありがとう」

「え! あっい、いえ……」

「ルナさんいなかったら結構やばかったと思う、だからホント助かった」

「そんな! こちらこそです……どれだけお礼を言えばいいのか、分からないくらい……」


 今度は千聖がテーブルの上に重ねられていた小皿の山から二枚を取り出し、大皿からおかずを取り分け、そのうち一つの小皿をルナの目の前に置く。

 少し遠くに置かれたお皿を眺めながら、他に何か食べたいものはあるかと聞いてくる千聖に、ルナは大丈夫だと答えた。

 固定されていない右手で器用に取り分けてはいるが、怪我人に給仕のような事をさせてしまい申し訳無く思う反面、自分なんかに気を遣ってくれる事が嬉しくもあった。


「ルナさん、機会があったら帝国に遊びにおいでよ」


 自分の皿によそったお肉をもりもりと食べながら、千聖は何の脈絡もなくルナを誘う。

 予想しなかった誘いに少しだけ驚きつつ、ルナも受け取った皿の上に乗るおかずにフォークを刺した。

 帝都なんて行ったことがない。そもそもこの人生で帝都に行く機会が訪れるなんて考えたこともなかった。行く機会があるなら、もちろん行ってみたい。


「是非、お邪魔したいです!」

「よし……その時は将軍として、じゃなくて男として貴女をエスコートしたいんだけど」


 ルナは千聖の発言を“おれに帝都を案内させてくれ”という意味と(とら)えたが、どうにも引っかかり深く思案する。将軍ではなく男として、というのはつまり堅苦しくなく、気楽に、という意味だろうか。

 チラリとこちらの様子をうかがう千聖の表情はびっくりするほど真剣で、ただ案内するよ、と言っているようには見えなかった。


「あー……つまり、おれとデートしない? てこと」


 少しも察することが出来ないルナに痺れを切らした千聖が、ダイレクトに伝えた誘いの真意。

 デート。その一言に、ルナは完全に動きを止めた。

 そして面白いくらいに顔が赤面していく。


「なななななっで! でーと……!?」


 自らでーとと口にして、その気恥ずかしさで更に顔が赤くなっていった。湯気が出ているんじゃないかと思えるくらい、顔があっつくなっている。熱を感じる頬を両手で覆って、一旦は下を向き、決意固まらぬまま恐る恐る千聖へと視線を戻した。


 でーとなんて、した事がない。

 騎士の自分には縁のないものだと、そう思っていた。

 少女漫画や小説でしかその行為の存在を感じたことがなく、なんなら空想上の行為 くらいに現実味がない。

 ましてや長年敵対していた国の将が、自分を誘うなんてもっとありえない。


「……将軍、お酒飲んでます?」

「飲んでない……」

「この空気に飲まれてます?」

「多少はあるかもしれないけどそんなことないと思いたい……」

「じょ、女性に飢えてる……のでしょうか」

「ルナさん……そんな事本人の前で言っちゃだめだ」


 こっちに向けられていた彼の視線は、いつのまにかテーブルの一際目立つ木目に向けられている。しかし、それでいてどことなく遠くを見ているようにも見えた。

 乾いた笑みを浮かべながら、その目は死んでいる。

 さっきはこんな表情じゃなかったのに。

 デートの誘いを冗談で流されそうになっているこの状況にヘコんでいる千聖の心。そんなものまるでわかってないルナは、“女性に飢えている最近の状況”を言い当てられて気を悪くしたのだと思い込み、慌て始めた。

 恥ずかしさを紛らわすためとはいえ、どうやら傷付けてしまったみたいだ、と。


「はぁーん、大将が女の子口説くなんて珍しいじゃん?」


 丁度良く(?)二人の向かい側から聞こえてきた、トゲのある高めの声。急に現れたその人影は、ガタンッと勢い良く椅子に座り、そのままダンっと乱暴にコップをテーブルに叩きつけた。その音に驚いたルナは身を縮こませながら、そろそろと視線を上げて、どんな人物が来たのかを確かめる。



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