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12話 作戦会議_1


 “ゆるすこととは、相手に対して抱いている感情ごと、相手を受け入れること”

 “できることなら、相手を赦して同じ目的の為に手を取り合う”

 演説で彼女の口からその言葉を聞いて、胸の奥で生まれた疑問。


 ──貴女はおれの事を赦したのか。


「貴方はあの日、()()()()()()()、後悔していますか?」


 ぽつりと独り言のように言葉を落とし、そして彼女は視線を少し上にあげ、真っすぐに千聖ちあきの瞳を見つめる。千聖に問いかける彼女の声は、とても穏やかだった。


「おれは──」


 答えを出そうとした丁度その時、テントの入口付近からばさりと大きな音が立ち、二人きりであったこの空間を丸ごと現実へと引き戻す。

 予想していなかった音に、ルナは咄嗟に振り返り、千聖は肩をびくりと揺らして音源の方へと視線を滑らせた。


龍崇りゅうすい将軍、明日の作戦のご相談を」

「おー、千聖もルナもここにいたのか!」


挿絵(By みてみん)


 テント内へと入ってきたのは飛翔部隊を持つ騎士団員のフォールハウトと、千聖の従者であるみん。二人そろって入ってきたあたり、どうやら千聖の知らないところで仲良くなっていたようだ。


「じゃー、会議やりますかー」


 この場で先ほどまでの話を続ける気になれない千聖は、気持ちを作戦会議へと切り替えるため掛けていた椅子から腰を上げる。

 机の上に広げられた地図を見つけた二人はテントの奥、テーブルを挟んで千聖の向かい側へとやってきた。

 フォールハウトは立ったまま、眠は椅子を引き出して腰を降ろし、二人とも地図を眺める。


「4人で良いですか? 他に呼んでくるべき者などおりましたら教えてください」

「出来れば各部隊の隊長が欲しいけど、騎士団って補給部隊を除いて医療部隊と飛翔部隊と……あと何があるんだろう」

「歩兵部隊ですね。戦闘においては主にこの歩兵部隊が活躍します。以前はセイリオスというものが担当していたのですが今は……」

「今、歩兵部隊はルークスさんです。ボクが呼んできます!」


 いうなりルナは勢いよく飛び出していった。

 元気だなーと思いながらその背中を見送る千聖に、難しい顔をして地図に目を落とすフォールハウト、眠はおもむろに席を立つと千聖の横に移動し、ルナが座っていた席にそのまま腰掛けた。


「どしたの?」

「疲れた」

「あれ、モフられてたんじゃないのか」

「女の子に撫でられんのは大歓迎だけどよ、野郎となると話は別だ。容赦なくもみくちゃにしやがって、噛んでやろうかと思った」


 言葉の通り疲れ切ったように机に腕を置き、その上に頭を載せてダレる眠。

 それを見て何があったのか、千聖はなんとなく察する。

 多分、言葉の通りもみくちゃにされている狼姿おおかみすがたの眠を、見かねたフォールハウトが連れ出してテントに避難して来たのだろう。


「将軍、この印は敵の陣形か何かでしょうか」

「いや拠点の位置じゃねーか? オレが来た時革命軍に陣形なんてなかったよーな気がすっけど」


 地図上に記された幾つかの印を指でなぞりながらフォールハウトが千聖に問えば、問われた本人が答えるよりも先に、だらしなく地図を眺めながら眠が口を挟んだ。

 続いて千聖も、眠の発言に補足するため口を開く。


「帝国兵たちの情報をもとにまとめてみた。眠の言う通りこれは革命軍側の拠点の位置だよ。この戦場における革命軍の拠点は本丸を除いて7つあるんだけど、拠点間をつなぐとU字になっていて、そのU字の中に本丸が置かれてる。本丸とU字の突出した部分に位置する拠点のちょうど中間地点に奪われたヘーリオス基地があって、さらにこの三つを結んだ延長線上に騎士団の仮設基地ベースキャンプが置かれていた」


 千聖は地図上に記されたいくつかの印を指でなぞってUを形作ってから、革命軍の本丸を示す印と騎士団の仮設基地を示す印を直線で結んで見せ、そう説明した。

 それをみてフォールハウトはなるほど、と小さく呟く。


「U字を作っている拠点の中で、等間隔に大きな拠点が3つ置かれてる。その3拠点それぞれに、両サイドの小さな拠点に対しても遠隔から適切な指示ができるそこそこ優秀な指揮官がいるみたいだ。ちなみに騎士団側の拠点って、ルナさんがいたあのでっかいところが主で、他はここみたいな小規模の補給基地くらい?」

「えぇ、そうです。ヘーリオスの軍事基地が落とされて、騎士団は一度後退し、あそこに仮設基地を設置したと聞いています。司令部は全てそこに集めておりましたから、軍事拠点として機能しているのは仮設基地のみとなります。いくつかあった他の補給基地のほどんどは襲撃され潰されてしまったのですが、ここは前線とはいえ外れた位置にあったため気付かれなかったのか、被害を免れたようです」


 フォールハウトが淡々と語り、机に両手をついた千聖は若干前のめりになって話を聞いている。

 その光景をぼんやりと眺めていた眠の耳が、小さな音を捉えてピクリと動いた。

拾ったのは外から聴こえた足音。ルナと、もう一人──こちらの足音にはなにやら重量感がある。それから金属同士の擦れる音。


(この音、鎧か……?)


 体勢を変えることなく、それでも眠は全身の筋肉に神経を張り巡らせて警戒する。

 おそらくこの鎧の音をさせている人物が歩兵部隊を任されているルークスという人物だろうが、ルナが連れてくるからといって無条件に信用するわけにはいかない。

 表情も変化させることなく、目線もずっと地図上にある。しかし頭の中では鎧をまとう騎士が自分の後ろにいる将軍めがけて仕掛けてきた場合の応戦パターンを幾通いくとおりも用意し始めている。


「多分、あそこに基地を作らせるところまでが革命軍側の作戦で、狙いは小規模な外線作戦に持ち込んで騎士団の基地を包囲し、確実に追い込むことだ。確かに追い込むことには成功しているけど、本丸の守りを固めるためにU字にしたのか、そのせいで両端の拠点は戦場までの移動距離が長くなってる。それもあってこの基地を見逃した可能性は高そう」


 フォールハウトに向かって話しながらも千聖の視界の端は、従者の耳がテントの出入り口の方向へと向いている様子をしっかりと捉えていた。

 千聖の耳には全くもって警戒に値する音など聞こえないが、狼のそれを持つ彼には聞こえているのだろう。

外から聴こえる音の収集に注力している耳、枕代わりにしている腕にも、椅子と机の間から僅かに覗く脚にも、咄嗟に動けるようにするためか力が入っている。

おそらくわざわざ隣に座りなおしたのも、襲撃の可能性を警戒しての事だ。


「小規模な外線作戦──それで間違いないでしょう。少なくとも僕が到着してから今までは、革命軍からの攻め手が弱まることはありませんでしたが、定期的に部隊の入れ替えはあるように感じました。おそらく革命軍の拠点で休息をとる部隊と、進撃し攻撃する部隊とでローテーションをしているようです。補給物資については陥落したヘーリオスの軍事基地から調達しているものと思われるので、正直、軍の体力でいうと相手方は無限といっても過言ではないかと」

「兵の多さで言うと勝負にならない感じか。革命軍の拠点をすり抜けてヘーリオス基地からの補給線を潰したとしても、お互い消耗戦にもつれ込こむだけだね。数で負けてるからそれは避けたい。騎士団側の物資を見てもこれ以上長引くのはまずそうだから……って──」


 千聖は突然、話の途中で言葉を切り、そのまま黙った。

 話しながら状況を確認しているうちに、ふと生まれた一つの疑問。


 完全に兵糧攻めにあっているようなこの状況。

 アスガルドからの支援部隊は医療部隊とフォールハウトのみと聞く。

 正しい情報が伝わってなかった可能性は大いにあり得るが、医療部隊だけ送ってくるなんて長期戦をさせるように働きかけているとしか思えない。

 物資が足りなくなることなんて目に見ている状況で長期戦はさすがにあり得ない。

 何か特別な作戦があるのかもしれないが、単純に騎士団長のこの判断は同じ立場の千聖から見れば、勝たせる気などないように感じる。


「将軍、どうしました?」


 難しい顔をしながら何もないテーブルの角辺りに視線を置いて黙り込む千聖の顔を、フォールハウトは不思議そうにのぞき込んだ。

 声を掛けられ顔を上げた千聖は一度口を開くが、すぐに閉じて首を振る。

 何でもない。そう言葉を続けるつもりだったが、隣で伏せっていた眠がおもむろに頭を上げ、何の変化もない入口付近をじっと見据え始めたために、千聖も入口に目を向けることにした。



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