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笑いの形‐WARAKATA‐  作者: らい
第一部『彼らの日常は日常とは程遠い』
7/16

第六輪:『きっかけはとても簡単』

休みが欲しいでございます。

なんて弱音を言ってられない状況ありますよね?

でも休みが欲しいんですよね……。

日本人は働きすぎだと思う!でも働かないとお金が~ってなりますよね……。

ハタラキタクナイッッッ!!!

サテサテ、ホンペンドウゾ~!

 時刻は午前八時。珍しくほとんどのメンバーが起きており談話室に集まっている。一人を除いて。

みき「あれー? 一夜(いちや)まだ起きてないのかな?」

礼央「さっき中庭の方へ行ったよ」

みき「ありがとー! 今日みきと一夜で当番なんだよねー! 行ってきまーす!」

 朝から元気な未來(みき)。皆は口々に行ってらっしゃいを言うのだった。


 ◆◆◆


みき「いーちや! もう! また寝てるの? 起きてー!」

 中庭に来た未來は木の上で寝ている一夜を発見したので、叫んで起こす。未來に気づいた一夜はふぁーっとあくびをしながら木の上から軽く飛び降りる。

みき「今日一緒に当番だよ?」

一夜「当番? なんだそりゃ?」

 当番。そう、リレイションワングランプリ略してリレワン開催にあたり、ランダムに集められた六人のレイラーは一ヶ月一緒に過ごすことを義務づけられていた。しかし、一緒に過ごすにあたって家事は避けられないことであった。そこで一人一人の負担を均等にするために当番制が設けられたのだ。毎回ランダムに選ばれた二人ずつで行うのだが、今日はどうやら未來と一夜が当番のようだ。一夜は少し遅れて来たためにこのことが決定されたときにいなかったのだ。

 ことの流れを一夜に一通り説明を終えると

一夜「めんどくせぇ……」

みき「何か言ったかな?」

一夜「い、いや、何でもねーよ……」

みき「とりあえずお買い物から行こうか」

一夜「おう」

 さぁ行くぞーや早く早くーと先を歩き張り切る未來を見て一夜は一つある疑問が浮かんだ。

一夜「つーかお前ぇみてぇな見るからに貧弱そうな女がこの森から下の街に抜けるのにすげぇ時間かかんじゃねーの? 日が暮れっから俺一人で……」

みき「フッフッフッ、何を言ってるのかな一夜君? 君が来るまでの一週間みきは術を身につけているのだよ」

 そう言って未來は懐から袋を取り出し、一粒のカプセルを出した。一夜に一粒渡すと自分はもう一粒取り出しパクっと飲んだ。瞬間……

一夜「あ? どこ行った?」

みき「へへーん! スゴくない!?」

 未來の声はするのだが姿は見えない。まるで透明人間になったかのように。

みき「これはね、礼央(れお)の大地のリレパで生成した植物を調合して作ってくれた透明人間になれる薬なの!」

 誇らしげにドヤ顔をするが一夜には見えない。

みき「特にこれといった副作用もないし、安全だから一夜も早く飲んで!」

一夜「……」

一夜は半信半疑でその薬を飲む。すると

一夜「あ? んだよ、逆に見えるようになっちまったじゃねーか」

 先程まで消えていたみきりんが目の前にはっきりと見えることに一夜は少しガッカリする。所詮はそんなものかと。

みき「ふふーん、そう思うでしょ? これはね、薬を飲んだ人同士は見えるようになってるんだよー! それ以外の人からは何にも見えないんだよー!」

一夜「お前ぇの発明じゃねーだろ、えらそーにしてっけど?」

みき「ん? 何か言ったかな? い・ち・や?」

一夜「なんでもねぇ……。で、これでどうやってこの森を抜けられることになるんだ?」

みき「この透明になれる薬は弱く作ってもらってるから効果は二、三分なの。その間に~」

 楽しそうにニヤニヤしながら未來は懐のホルダーからある物を取り出す。

一夜「ほうき?」

 そう、未來が取り出したのは折り畳み式のほうき。よく魔女が乗ってそうなほうきではあるが、色はピンクで所々今時風に装飾してある。未來いわく流行りに乗っ取ってるので、度々変わるらしいが、未來らしいといえばらしい可愛いほうき。それに未來は何か粉を振りかけている。恐らく透明にする粉だろう。

みき「よし! さて一夜、後ろに跨がってね!」

一夜「跨がれって……。俺昔から思ってたんだけどよ、ほうきに跨がって飛ぶんだろ? 痛くねーのか?」

 ほうきの細い部分に跨がり、人間の重みをそこで支えながら空に浮かぶ。ほとんどの人がほうきで空を飛びたいと思ったことがあるに違いないが、それを本気でやろうとしたらどう考えても痛い。だって食い込むから。

みき「フッフッフッ、一夜君。そこもわたくしは考えておるのですよ?」

 いよいよ未來がおかしくなってきたがそれはさておき、未來がまたポーチから何かを取り出す。

みき「みきも小さい頃ほうきで飛んだら魔法使いみたいで格好いいなって思ってやってみたの! そしたらやっぱり痛いんだよね! だからこれ!」

 そう言って未來は取り出した物にリレパで風を送り込み膨らませる。そして現れたのはサドルのような形をしたビニールの椅子。いや、見た目はまんまサドル。しかし色はピンクで大きめのサドルであり、何人か乗れそうな感じ。

みき「これをこうくっつけて完成! はーい、後ろ乗って乗ってー!」

 一夜は何か言いたげだが、大人しく後ろに座る。

みき「ほら、つかまらないと振り落とされるよ? 自転車の二人乗りとかしたことないの? お腹に手を回して!」

一夜「……」

 未來は何も考えていないのか、気にしない様子で早くと一夜を急かす。が、一夜はどうやら女子の身体に触ることに抵抗を感じているようで、手の行き場に困っている。

みき「何してるの? 早くしないとご飯作る時間とかなくなっちゃうよ! ほら!」

一夜「ちょっ、おい!」

 しびれを切らした未來は半ば無理矢理一夜の手を引き、お腹の辺りに手を回させる。

みき「さて、行くよー!」

 戸惑い手を離そうとした一夜だったが、矢継ぎ早に未來はリレパを使い浮遊したので反射的にがしっとみきりんを掴む。

一夜「うわっ! わりぃ!」

みき「え? 何? 進むよー?」

一夜「……」

 その時胸に少し手が当たってしまい一夜はとても焦ったが、未來は下乳に少し触れられたことなど気づかなかったようで、そのまま飛び立つ。なんだか自分だけがあたふたしていることに一夜は恥ずかしくなり、一人微かに頬を染めるのだった。

みき「しっかり掴まっててね! 一夜がぐずぐずしてるから思ったより時間かかっちゃったし、超特急で行くからね!」

一夜「お、おう……」

 浮遊してその場に停止していたが、やっと動き出す。慣れない動きと高さに始めは恐怖を少し覚える一夜であったが、次第に感覚が慣れていき、周りを見る余裕が出てくる。森を一望できる高さ、時速はどれくらいなのだろうか、自転車より明らかに早いが身体を横切る風が気持ちいい。空を飛ぶ感覚がこんなに気持ちいいものなのかと、一夜は未來のリレパを羨むのだった。

一夜「お前ぇのリレパすげぇな! ちょっと羨ましいぜ!」

みき「へへーん! でしょー?」

 二人は風に負けないように大きな声で会話をした。

 森、森、森の景色を数分見た後下降していき出口の手前で降りる。公の場で突然姿を現したり、リレパを使って飛んでいる所を見られてはレイラーだとバレてしまうので危険なのである。

みき「とうちゃーく!」

 ほんの数分で本当に街までたどり着いてしまった。

一夜「お前以外が街まで行くときどうしてんだ?」

みき「皆それぞれリレパ使ってひとっとびみたいだよ? あ、でも一夜と(れい)が組むとダメかもね? 礼のリレパは飛べないし、一夜も水は隠しきれないもんね?」

一夜「……」

 礼と当番の日が来なければ良いのにと心の底から思った一夜であった。


 ◆◆◆


 その頃のお留守番組はというと……。

さこ「絶対わざとでしょあんた!!!」

礼「わざとじゃねーって! つーかこんな時間に風呂入ってるとか思わねーじゃん!」

さこ「だから外のやつ入浴中にしてあったでしょ!」

礼「んなの見てねーし!」

さこ「何のための札だよ! 見ろよ!」

礼央「さっつん! 言い合う前にお願いだから服着て!!!」

紅龍「……」

 朝から修行をしていた莎子は汗をかいたため一旦休憩とし、お風呂に入っていた。いつも夜は大体誰がお風呂に入るか順番に行っているので分かるのだが、変な時間に入るので誰か間違えて入って来ぬよう、洗面所の扉の立て札を『入浴中入るな!』に代えておいたのだ。

 しかし普段札など使わないためそんなもの見ずに礼は顔を洗おうと洗面所の扉を開けてしまった。すると丁度お風呂から上がった莎子に遭遇してしまったのだ。入ってきた人間が人間なものなのでさっつんも怒り、矢先タオル一枚の状態で礼を追いかけ回し今に至る。莎子の格好に礼央は気が気ではないが、そんなことよりも礼への怒りが勝っている莎子はお構い無し。紅龍(こうりゅう)も見ないようにしているが、目のやり場に困っている。

礼「つーか別にさっつんの裸なんか見なくても女の子に困ってねーし! いくら街に降りるのが簡単じゃねぇからって、そんな貧乳興味ねーし!」

さこ「あんたマジ殺す……」

礼央「礼!!! 女の子になんてこと言うんだよ!!!」

 取っ組み合いの喧嘩になりそうな勢いで喧嘩しているが、莎子はタオル一枚。なんとかそれは避けたい礼央は莎子の前に立ち、失礼なことを言った礼を怒る。

礼「わざとじゃねーって言ってんのにさっつん全然聞いてくんねーんだもん!」

礼央「そうだとしても言って良いことと悪いことがあるだろ!」

礼「本当のこと言っただけだし! お前は貧乳派かもしんねーけど、オレは巨乳派なの!」

礼央「そ、そんなこと聞いてないだろ!」

さこ「礼央どいて! こいつは一回マジで殺す必要がある!」

礼央「わ!?」

 突然後ろから莎子に引っ張られる。莎子も怒っているものだから力加減が分からず、結構な力で引っ張ってしまい礼央の体勢が崩れる。その瞬間床に二人で倒れこんだ。

さこ「いてて。ごめん、礼央。強く引っ張りすぎた」

礼央「大丈夫、オレこそ支えられな、くて、ご、め……!!?」

さこ「!?」

 ミラクルが起きてしまった。倒れた拍子に礼央は無意識で莎子をかばい、自分が下敷きになったまでは良かった。莎子は四つん這いの状態で転ばずにすんだのだが、その上に乗っている莎子のタオルは前が完全にはだけ、礼央にだけ全てが見える状態となってしまっていた。幸い角度的に礼と紅龍には見えず。

礼「わー、礼央君のエッチー」

礼央「あ、わ、わ、わ……」

 あまりの衝撃の光景に礼央は言葉を失い、真っ赤になって固まっている。

紅龍「……(あいつよく転ぶな)」

 紅龍だけはデジャブを感じていた。

さこ「……」

 そんな中莎子は静かにタオルを巻き直し起き上がり、礼へと猛烈に怒りのこもったパンチを浴びせてその場を去るのだった。


 ◆◆◆


みき「たっだいまー!」

 時刻は午前九時半。未來と一夜は買い物を終え、無事に帰って来た。しかし家の中の空気がとても重たいことに二人は気づく。面倒くさがった一夜は未來より先に台所へと向かう。

みき「え? なにこの空気? 何かあったの?」

礼「まぁ、色々とねー」

礼央「あ、うわ、あうあう、うわぁ……」

みき「礼央壊れてない? とりあえずご飯作ってくるから──」

 ──ガラガラガッシャン──

みき「え!? 何!?」

 何やらスゴい物音がキッチンの方からしたので、先に行った一夜を心配した未來は急いでキッチンに向かうのだった。


みき「一夜!?」

一夜「……」

みき「あららー」

 急いでかけつけた未來。そこには何か料理をしようとしてぐちゃぐちゃになったキッチンが広がっていた。キャベツに突き刺さった包丁、黒こげになっているフライパンとフライパンの上の何か、砂糖なのか塩なのか撒き散らされた粒や粉。

一夜「ちっ……。だから嫌だったんだよ」

みき「お約束みたいに家事出来ないんだねー」

 未來は一夜のことを少し可愛く思ったようでくすっと笑う。

みき「よーし、お片付けさっさと終わらせちゃって、美味しいご飯作ろう! 一夜も手伝ってね!」

 そう言った未來はてきぱきと一夜が散らかした後を片付けていく。その手際の良さに一夜はとても感心した。みるみるうちにキッチンが綺麗になっていった。

 その後もまるで光の速さで手を動かし、朝ごはんであろう何かを焼いてる間の待ち時間で洗い物をし、机の上を片付け、一切の無駄もなく完璧に朝ごはんを作り上げた。


みき「はーい、出来たから一夜運んでー」

一夜「……」

みき「ん? 一夜?」

 未來の完璧な手さばきに一夜は感心し、見惚れてぼーっとしている。

みき「わ!!!」

一夜「うお!? なんだよ!?」

みき「何ぼーっとしてるの? ご飯運んで」

一夜「……おう」


みき「それでは皆ご一緒に~」

 いただきまーすと各々が口にして皆一斉に食べ始める。

礼「やっぱりみきりんが当番の時はご飯美味しくていいよなー!」

みき「料理好きだからねー」

礼「この前紅龍が鶏胸肉茹でたのと生卵とプロテイン出してきた時はさすがにビックリしたわー」

紅龍「あれが俺にとっての普通の食事だ」

礼央「お、おおおおお美味しいね、さっつん!」

さこ「そう、だね……」

 先程のこともあり礼央と莎子はとてもギクシャクしていた。なんとか会話をしようと莎子に喋りかける礼央だったが、どう頑張っても先程のことが頭から離れずなんとも不自然な感じになる。莎子も珍しく気にしているようで礼央に対して素っ気なくなっていた。

みき「この前さっつんと礼が一緒に当番だった時カップラーメンと冷凍パスタだった時は変わってあげたくなっちゃったよね」

礼「さっつんオレよりひでーからね、マジで! 冷凍パスタ温めるのにも外袋ごといこうとするし!」

さつ「だって! 袋ごと温めて下さいって書いてあったし」

一夜「……」

 莎子と礼の言い合いがまた始まった中、一夜は未來の作った美味しいご飯を噛み締めていた。

みき「一夜?」

一夜「……」

みき「一夜!!!」

一夜「わ!? な、なんだよ、さっきからビックリさせんなよ」

みき「だってずーっと変だよ? ぼーっとしてるし、熱でもあるの?」

一夜「!?」

未來は一夜のおでこに手を当てる。

みき「んー、熱はなさそうだね」

一夜「き、気安く触んじゃねーよ!」

 至近距離と未來の手が自分に触れたことに驚いた一夜は、顔を真っ赤にして勢いよく椅子から立ち上がり後ずさる。その衝撃で椅子が倒れる。

礼「おい一夜食事中にホコリ立てんなよなー」

 一番言われたくない礼に注意され一夜は礼をキッと一睨みする。そうした後に未來の方をチラッと見て残っているご飯を口の中へとかき込み

一夜「わりぃ。うまかった」

 と隣の未來だけに聞こえるくらいの小さな声で言い、自室へと戻って行った。

 一夜のお皿の上のご飯はお米一粒も残さずとても綺麗に食べられていた。


─続く─

次回予告

礼央「最低だよ礼!!!」

礼「えー、最低なのは礼央じゃね?」

礼央「お、オレは! オレもさっつんに最低なことしちゃった……」

礼「嫌われちゃったかもねー」

礼央「……はぁ、もう無理かもしれない」

礼「次回笑形第七輪!『闇々パラダイス』」

礼央「さっつん……」

礼「元気だせよー!」


2018,08,26

2024/06/04(最終加筆)

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