《雑草から始まる異世界譚》千回目の転生者はただの雑草に転生させられ、死にかけていたところに美少女がやって来た
俺はとある転生者。この世界での名前はまだない。
……今までに999回の転生をして来た。
1回目の転生は魔王から世界を救う勇者。2回目は1回目で倒した魔王へ。3回目は世界観が変わって、西暦2800年の普通の日本人男性として生きた。
どうやら読者の諸君は日本人であるらしいので、俺はその時の名を名乗ることにしよう。
——俺の名は夏田瑞義。その時代の頃はよく揶揄われたものだが、決して「夏だ!水着だ!」という意味ではない。本当だ。
……とまぁ。そんな俺は数多くの転生をして来た。人外に転生した事も何度かある。
例えば定番のエルフやケモ耳種族の人狼。ドラゴンやゴブリンなんかにも転生したり、ただの犬のペットという人生……犬生を送ったこともある。
その様な多様な生涯を乗り越えた俺はついに記念すべき千回目の転生を果たした!
え?なぜ千回目って覚えているかって?——それは単純だ。俺を転生してくれる女神がそう教えてくれたからな。お約束だろ?
おほんっ……!もう一度言おう。俺は記念すべき千回目の転生を果たした!そして、千回目の転生ターゲットはなんだったのかと言うと——
なんと!路傍に生えた、ただの雑草だったっ!!??
……分かる?あの土手とか庭とか畑とかでよく生えてる細長い雑草ってあるじゃん……?それが俺なんだぜ?女神め!ふざけろっ!!
地団駄を踏みたいところだが、あいにく振り回す手も足も無ければ罵る口も何もない。だから俺は無を悟った。
俺が枯れて死んだらあの女神を千回殺してやる!!と——
そう決意した時、何やら不穏な音が聞こえて来た。
(なぜか周りの音は聞こえるし良く見える。女神なりのサービスなのかもしれないがマジ殺してぇ!!)
その音は、ザシュッザシュッ!と音を立てて俺の方へ近づいて来る。
そして、音が段々大きくなって来たところで俺は見てはいけないものを見てしまった……。
そう——雑草刈りである。
一人の農夫らしきおっさんが、鎌の様な刃物で伸びきった雑草を無慈悲に切り刻んでいた……。
(……?——って!?ちょぉーっと待てえぇいっ!!??)
俺の心の叫びは当然音を介さず、ただ風に乗ってくるザシュッザシュッ!という魔の音色に戦慄するほかなかった。
そしてその時がやって来た——
農夫のおっさんが腰を回して鎌を構える。
(う、うわあぁぁぁっ!!!!女神様お願いします!!助けて下さい!!!!)
鮮やかな掌返しで助けを乞う俺。
だが、広い雑草地帯に一本だけ長い雑草を刈り損ねる……などと、その様にシュールな、珍◯景的な光景がある訳もなかった。
俺は……。
無慈悲に、非人道的に、見事に、華麗に、根元から、バッサリと……逝った——
(あ、俺、終わったな……)
痛みは無かった。元々植物に痛覚なんてないからか、それとも女神がサービスしてくれたのかは分からない。ただ俺は、地面に斬り捨てられた無数の雑草の屍に折り重なって横たわっていた。
(あ〜あ……。千回目の記念がこんなに早く終わっちまうなんて……。飢饉時代に送り込まれた赤ん坊の時よりも早かったわ〜。でもアレに比べると苦痛もなかったし、今回は喜ぶべきなんだろうかなあ……)
呆気ない人生……草生だったなぁw
風に吹き飛ばされながら次の転生にボーッと期待を膨らませ、じきに枯れるのを待つ。
ふと風が弱まり俺はなんの変哲も無い土の地面に落ちた。
走り回って遊んでいるガキどもに何度も踏みつけられる。
やはり痛く無いがなんとなく腹が立つ。雑草だって生きているんだぞ!!
本体から血を——ではなく、水分が傷口から漏れ出し、昇天の時が早まる。
もうなんでもいいから早く次の転生に移りたい。
本気でそんな事を考えていると、目の前に銀髪碧眼の美少女が歩いて来た。
(これがこの世界での、最初で最後の美少女枠か……。よし、俺の真上を歩いてスカートが見えたら次の転生はイケメン勇者になる!見えなかったら童貞勇者に降格……さぁどっちだ!!)
そのどちらでも無いという可能性を考慮しない賭けをしながら、美少女の接近を心待ちにする俺。
と、美少女が俺の真上を通過する軌道に乗った。
(これで勝つる!!)
そう確信した矢先、美少女は俺からほんの手前に迫ると、不意にしゃがみ込んだ。うんこ座りではなく女の子座りでだ。
(おいおい……パンツが見えねぇじゃねぇか!!女神ファ◯ク!!)
上手くいかないのを女神の所為にして心中荒れ狂う俺。
……と、そんな俺を美少女は両手でそっと拾いあげ、慈愛に満ちた声音でなんと俺に話し掛けた——
「嗚呼——可哀想な雑草さん……。なんの価値も見出せないままこの世を去ってしまわれるのですね……」
(るっせぇな!煽ってんのかコイツ!!)
「でも大丈夫。きっとわたしがあなたを助けてみせます!」
(マジっすか!?よろっしゃーします!!)
うん……掌返し?なにそれ、おいしいの?
……チッ!こちとら藁にもすがりてぇんだよ!文句あるかクソ野郎ああんっ!?
一人劇場を繰り広げながら美少女の動向を見守る俺。どうやら彼女は、地面に魔法陣を書いているらしい。
「……っよし、出来ましたぁっ!」
ぞいポーズで笑顔を浮かべる美少女。
可愛いなこの娘。
美少女は俺を魔法陣の真ん中に置き、彼女は円の外から手をかざした。
『嗚呼神よ……!この哀れな雑草さんに救いの手を差し伸べ給え……』
(随分と神頼みな詠唱があったもんだな……)
「はあっ!」という気合いと共に魔法陣が赤く光り出した。
(なになに?一体なにが始まるんです?)
俺の身体(雑草)はふわりと浮き上がり、白い輝きを放った。
(うわあぁっ!目がっ!目があぁっ!……て、俺目がなかったんだったな。ははは……)
そんなボケをかましていると、——ドンッ!!という爆音が辺りに鳴り響いた。
そして再び気がつくと、俺はあの世で女神の前に立っていた……。
「今までで最速の異世界冒険でしたね。盛大に燃えていましたよ?どうです?思っていたよりも楽しかったでしょうっ?次は童貞勇者なんて面白そうじゃないですかっ?」
「ファッ◯ンクソ女神——!!」
こうして、俺の千回目の転生は幕を下ろしたのであった……。