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失敗勇者の邪神転生  作者: 杜邪 悠久
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SS リベル⑥

──魔族領


僕らは巡り巡ってこの地に足を踏み入れた。

正直、魔王とか勇者ってのは今でも実感は薄い。僕の思う勇者は皆から認められてなるもので、称号や職業で『勇者』と決められているのは少し納得行かなかった。

けれどこの世界の『勇者』っていうのは、『魔王』を倒す事の出来る唯一の存在って意味ならば、まあそういうものなのかな、と

思う事にした。


でだ。今僕らが居るのはアルストレア王国から北東の位置にある、人間の領土と魔族の領土の境目。特に関所や砦とか無いにも関わらず、魔族領に入ったと思う瞬間から魔素をヒシヒシと肌で感じられる。おそらくここが魔族領なのだろう。

グランの方を見ると少し顔色が悪く、息苦しい感じだった。


「大丈夫?」

「すまねぇ…少し戻ってくれ」


そう言って人間領の方へと戻る。少し休息を取るとグランの顔色も良くなった。

落ち着いたグランから話を聞くと、どうやら普通の人間は能力素という能力(スキル)を使う為の力を持っている。しかし、その能力素と魔素は非常に相性が悪く、少量なら問題無い魔素でも、魔族領に漂う魔素量では具合が悪くなってしまう。

これが人間達が魔族領に踏み入るのを嫌う理由でもある。

だが、これに当てはまらないものも居る。それは耐性だ。

どんな毒でも少しずつ取り入れれば抗体が出来るのと同じように、魔素にも能力素にも強くなれる。また人体の能力素を呪術で封印し、代わりに魔素を魔力として行使する事で耐性を上げるやり方もあると聞く。

まあ、能力素は人間や亜人の体内にあるもので、空気中にはよほどの事が無い限り滞留する事は無いらしい。お陰で人間は魔族領には入りづらいが魔族は人間領に簡単に入って来られる。


そんな訳で、僕らは魔族領に少し入っては戻りを繰り返す日々を送っている。幸い村に居た時にサバイバルのやり方は嫌と言うほど教わっていたせいか、この生活も段々楽しさを覚えていた。

朝昼晩に一回ずつ、約15分ほど魔族領内に侵入し耐性を付ける。

そして早朝と夜中は剣術を磨く為、互いに相手したりたまに襲撃してくる魔物を倒したりしていた。


今日も汗をかき、二人で作った即席の風呂を浴びていると、ご飯を作ってくれているグランが弱々しく声を掛けてきた。


「はぁ、本当にこんなんで魔王を倒せるんだろうかな」

「倒す必要は無い、と思いたいけど…難しいだろうね」

「リベルはいいな。元から魔素に耐性あってさ」

「それは─」


これも異世界人特有だという能力素と魔素の両立。普通は相反する二つの力は、体内に存在させるだけでも呪術による封印が不可欠となる。だが、どういうわけか異世界人はほぼ皆能力素と魔素が混在した状態で生まれ落ちるという。

グランの心配をしている僕が何とも無いのは、この特有のお陰だ。

更にこの能力素と魔素を融合させる技法もあるらしいけれど…。


「だけど妙だよな」

「何が?」

「勇者だ勇者だー!って騒いでいた割には、民には名前や風貌とか伏せたままだし。やってもらいたい事があるって言っても、国内の問題事を適当に熟しているだけだし」

「まあ騒ぎ立てられるよりもこっちの方が僕はいいけどね」

「そりゃあ…そうだよな。すまねぇ、悪い事言って」

「いや、グランのお陰でもう殆ど気にならなくなった。むしろお礼を言いたいぐらいだよ」

「へっ、じゃそろそろ上がってこいよ。メシにしようぜ」

「ああ」



僕らはまだ青かった。

人類の敵は魔族だけ、国王や宰相はそれに気付かせない為に国内の問題事だけを解決させていた事に。




ここに来て一ヶ月と少し経ったぐらいか。

僕らは魔族領内部へと侵入していた。


「うおー!俺、全然苦しくない。あの訓練、マジで効果あったんだな!」

それは二十日ほど過ぎたある日、いつも通り15分ほど侵入していた時、その時間を過ぎても具合が悪くならなくなっていた。

じゃあ限界まで耐えてみよう、そう言って20分、30分と日に日に時間が長くなっていき、今では半日ほど入っていても問題無く過ごせる程度には耐性が付いていた。


「とりあえず大丈夫みたいだし、教えてもらっていた魔王の根城周辺をくまなく探索するところから始めよう」

「おっしゃ!ようやくまともに行動出来るな」


グランの体調は頗るいいようで、『気配察知』で魔物の位置や距離を正確に捉える。数が多い場合は迂回し、少ない場合は殲滅していく。そうやって奥へ奥へと潜り、半日が過ぎそうになると急いで戻るを繰り返す。

そして更にそれを一ヶ月、念入りに念入りに調べていくとある事が解った。

魔族領と人間領のの間に、魔素が満ちているにも関わらず、全然苦しくならない場所が存在していた。

魔族領に踏み入れる時に感じる嫌な感じが無い、ただ魔素がそこにあるだけ、みたいな感覚。位置的に言えば、魔族領に流れる川のちょうど下流辺りだろうか。もう少し見て行きたかったが本命はそちらではない。思考を切り替えて探索を続ける。

すると後ろからグランが切迫した様子で危険を報せる。


「まずいぞリベル。遠くから俺達に向かってデカイ反応がある。多分気付かれたんだ」

「数は?」

「多分6だ。狼型が4、人型が2。多分オーガとアウリスハウンドだ」

「オーガだけでもヤバイのに…。アウリスハウンドも居るとなると、逃げるのは愚策か」

「だな。どこかで迎え撃つしかない」


目まぐるしく変わる状況にも冷静に判断出来る自分に驚きつつも、魔物の襲来を待ち伏せる形で僕らは高い木の上に陣取る。

息を殺して待っていると、下をアウリスハウンドが翔けていく。そのうちの2体が『庭いじりの心得』の穴を掘る力で作った即席の落とし穴に嵌る。そしてグランと共に飛び降り、アウリスハウンドの脳天を剣が貫く。

悲鳴すらあげられずに地に伏す魔物。それを見た残りの2匹とようやく追いついてきたオーガ2匹が間合いを測る。


先に動いたのはアウリスハウンドの2匹。

僕達の周りを回るように、撹乱させるように動き、それに合わせてオーガも動く。


「グラン、背中は任せるよ」

「おう。お前が後ろに居るってのは何より安心出来るな」


僕達は敵が連携する動きを見せた時点で、背中合わせになり剣を構えた。

それを見たアウリスハウンドが肉薄する勢いで僕に飛びかかってきたのを、グランが裏拳で地面に叩き付ける。


「もう…後ろは任せるんじゃなかったの?」

「悪い悪い。ちょっと準備運動をな」


そう言ってもう一匹のアウリスハウンドにも鉄拳を食らわせる。これで職業:剣士なのだから思わずくすりと笑いそうになる。

グランの拳撃の威力を見て、オーガが思わず後ずさりをするも、それが返って神経を逆撫でしたのか、怒号をあげながら向かって来る。


「冷静さを欠いた敵ほど容易いものは無いね」


『加速』を用い、敵の腱や筋だけを狙い切っていく。グランのように膂力が無い分、持ち前の身体能力と技術だけで敵を翻弄していく。

やがて支えを失った人形のように、前のめりに突っ伏すオーガに、僕は細剣で脳天を貫き絶命させた。

振り返るとグランはオーガの四肢を切断させ、見事な達磨を作りあげていた。


「ふう、お疲れ様」

「お疲れ。しかしオーガまで出てくるとはな」

「ああ。最近あまり襲われる機会も減っていたのに、いきなりあんな強いのが現れるなんて」


そんな話をしていた時、懐が淡く輝いているのが見えた。

確か国王陛下から拝借していた『念話石』とか呼ばれる魔道具で、見た目は完全に光る石なのだが、これを額に当てる事で同じ石を持つ者と念話が出来る代物である。


〔おお、やっと繋がったか〕

〔すみません。少し戦闘していたもので。それよりどうかなさいましたか?〕

〔うむ…少し厄介な情報を入手してな…〕


それを聞いた僕は、なぜ魔族領に居るにも関わらず、こんなに魔物の遭遇率が低いのかを理解した。





「マジかよ。魔王がアルストレアに進軍してるなんて」

「信じたくはないけど国王陛下から直々のご命令だよ」

「それにしたって『殲滅せよ』って無理難題すぎやしねーか?」

「幸い、進軍していると言っても魔王自ら先陣切るなんて常識外れな事はしていない」

「つまり先回りしている俺らが戦うとしたら斥候とか尖兵だってか。それでも数はとんでもねーだろ」

「…やるしかないんだ。今国内でもギルドと軍で討伐部隊を編成しているらしいし、出来る限り僕らだけで数を減らすしかない」

「そうだな。グダグダ言うより手を動かせ、だな。すまん、少し弱気になってたわ」

「グランはいつも弱気になってからすぐ立ち直るよね」

「うるせーな」


ワイワイと愚痴や茶化し合いをしつつ、緊張を互いに解すように、魔族が進軍しているという道の真ん中へと降り立つ。

そこは三又路になっていて、前が魔族領、左後ろがアルストレア王国、そして右後ろが亜人領に続く道だった。

やがて日が沈むという辺り、暗い中に黒い動く影達が、こちらに物凄い勢いで迫ってくるのを視認出来た。


「来たか」


短くそれだけを言うと互いに剣を構え、グランは前衛、僕は後衛のスタイルを取る。

二人で戦う方が本当ならいいのだけど、僕の能力は早く動ける代わりに魔素を大量に消費してしまう欠点があり、効果範囲もかなり限定的で、点の攻撃は得意だが面の攻撃に弱かった。

だから体力でも膂力でも上回るグランをサポートする形を取ったのだった。


「国王陛下曰く『無理だと思ったら構わず引け』だそうだよ」


最後の確認に、国王陛下からの指示をグランに伝える。

グランは少し震える手を握り拳に変え、ニッと笑顔で振り向く。


「なら、その『無理』ってのはリベル、お前が判断してくれ。お前が『無理だ』って言わない限り、俺は無理だと思わねぇから」


それは信頼から来る言葉。

仲間とも相棒とも違う、"家族"としての全幅の信頼を意味する言葉だった。

グランの事なら何でも分かる。逆も然り。ならば限界の見極めも容易な事だ、そういう事だった。


「解った。グランの命、僕が預かるよ」

「へへっ。じゃあちょっくら相手しに行ってやりますか」

「ああ、行こう」


夜も更け、辺りには魔族の足音だろう響音が聞こえる頃、僕達の戦いは静かに幕を開けたのだった。

最近何故か右肩が痛い。歳かなぁ、嫌だなー。

久々に総合評価とアクセス数見たら凄い上がっててびっくりしました。ありがとうございます。

前見たのが150ptぐらいなのに…天変地異か?!

そう言えばいつの間にかユニーク1万超えていたんですね。こちらもありがとうございます。

スローペースで毎月末失踪していますが、これからも暇な時によ、読んでやるんだからな!ぐらいの気持ちでよろしくお願いします。

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