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失敗勇者の邪神転生  作者: 杜邪 悠久
97/123

SS リベル⑤

「グラン!任せた!」

「リベルこそ少女を頼む!」


今にも少女を襲いかからんと魔物がその牙を突き立てようと迫った瞬間、グランは自身の身の丈よりも更に一回り以上大きい両剣を、少女と魔物のちょうど真ん中にぶん投げた。

普通ならこんなに長く重い両剣を投げたところで、せいぜい5mがいいところだろうけれど、グランの持つ『遠投』という『投擲』の上位能力(スキル)のお陰で野球選手顔負けの豪速で放たれる両剣は、まるで巨大な弾丸のよう。今回は割り込む形で投げたから衝撃波は投げた方向に発生しているが、もし真上から投げていたら、きっと少女も魔物も木っ端微塵に吹き飛ぶだろう、ってぐらい両剣投げは危ない。緊急事態だからいいものの、今後はちょっと控えてもらおう。

僕は少女に駆け寄ると、抱き抱えながらバックステップで距離を取る。


いきなり両剣が目の前に現れ、勢いを殺せず顔面を激突させる魔物。しかし、まるで煙が当たったかのように、霧散して少し離れたところにその姿を形成していく。

その時、僕達とその魔物の紅い瞳が合ったかと思うと、頭の中に声が響いた。


──チガウ


確かにそう聞こえた。グランの方を見るとどうやら幻聴では無かったようで、アイコンタクトだけで互いにそれを理解する。

向き直しいざ戦闘、と行動したところで、まるで最初から居なかったかのようにその魔物は音も無く姿を消していた。


「なんだったんだ…」

「分からねぇ、けどこりゃ国王陛下に報告入れないとだな」

「だね」


少女を抱き抱えつつ、名前と出身地を聞き出し無事に家まで送り届けた後、僕らは王宮へ向かった。

相変わらず王宮の中は真っ白に輝いていて、勇者と分かっていなければこんな煌びやかな場所、一生来る事は無かったんだろうなあ。そんな事を思いつつ、謁見の間まで足を運ぶ。

謁見の間には国王陛下の姿は無く、代わりに宰相様が相手になってくれた。



「ふむ、黒い靄を纏う魔物…ですか」

「はい、一応報告をと思って」


明らかに知ってると言った雰囲気、しかもかなり悩んでいるのか、唸り声を上げる宰相様に詳しく話を聞く。


「以前から目撃情報は挙がっていたが、そうか…勇者殿までもが見たとなれば、噂も本当かも知れませんな」

「噂…ですか」

「ええ。時に勇者殿、『ルファ・ラテル』という国は存じておいででしょうか?」

「いいえ、グランは?」

「確かビギン地方にあるとかいう…いや、詳しくは分からないな」

グランも村から出る事は殆ど無く、また字も最近王宮やギルドで習わせてもらってようやく読み書き出来る程度になったぐらいだ。本を読む機会も少なく、風聞やギルド、吟遊詩人から聞くぐらいでしかの情報しか持ち合わせてないのは仕方ない事だった。


「『ルファ・ラテル』、通称"勇者発祥の地"とされている国です」

「勇者発祥の地…」

「その実態は《原初の勇者》が、異世界人の故郷をこの地にと開国したもので、今でも多くの異世界人が住んでおります」

「はぁ…えっと、それと今回の事に何の関係が」

「実はその国では昔、その《原初の勇者》が自身の国『ルファ・ラテル』を破壊するという事件が起こったのです」

「はぁ?自分で作った国をか、…です」

グランの口調が素に戻り、慌てて戻す。よほどおかしい行動なのだろう。いや、普通に考えても異常だろう。


「その時、どこからともなく黒い靄を纏う荘厳な魔物が顕現し、《原初の勇者》から国を守った、そういう過去があるのですよ」

「それって…」

「ええ。報告にある魔物とはおそらくこの魔物ではないか、と」

「じゃあこの魔物は放置で大丈夫なのでしょうか?」

そう聞くと、またも宰相様は頭を抱えてしまった。


「この魔物がもし『ルファ・ラテル』の魔物だったとしましょう。何が起こると思われますかな」

「多分…その魔物はその国では守り神みたいな扱いを受けているかも」

「つまり迂闊には討伐出来ないって事か?」

「かも知れない」

意見を交わしていると宰相様の顔が苦悶に満ちていく。どうやら当たっているらしい。


「一応、その魔物の襲撃には特徴があるようで、まず大人は狙われず、必ず青少年〜幼子の前にしか姿を見せない」

確かに僕らが助けたのも小さい女の子だった。

「そして勇者殿らが聞こえたという"声"についてだが、これもどうやら転生者が近くに居る時に聞こえるようだ」

「何か関係が?」

「分からん。済まない。出来るだけ情報を集めているのだが、勇者殿には苦労ばかり掛ける」

「いえ、こうして不自由無い暮らしをさせていただいてるんです。その分以上にきっちり働きますよ」

「ははっ、頼もしい限りですな。ああそうだ。もし『ルファ・ラテル』の話を聞きたいのであれば──」



僕らは謁見の間を後にした後、王宮から少し離れた離宮に向かった。

離宮の一番奥の天辺の部屋、宰相様がもし詳しい話を聞きたいのであれば、その国の出身者がいると聞いて、何か少しでも情報があればと足を運んだ。


コンコン


ノックをすると扉を開けてくれた…と思っていたら、扉の前には誰も居ない。この世界にも自動ドアが?!なんて考えていた時、目線上の方に光の玉が浮かんでいた。八の字に動く光の玉を凝視すると、ゆっくりと移動し始める。まるで誘うようにひらりひらりと舞う光の玉。そして1つの部屋の扉前まで来た時、その扉に当たると弾けて消えた。


「行こう」


二人は意を決し、部屋の扉をガチャリと開くと、窓際でお茶を飲みながら本を読む、椅子に腰掛けた老人が居た。

それが初めて魔術師、ラムズ・ヴィルキシオンとの出会いだった。



「ん?もう飯の時間か?悪いが今はそんなに腹が減っとらんぞ」

僕がその時思った第一印象は、田舎のおじいちゃんみたい、という感じで、実際とても優しい雰囲気を持つ人だった。


「休息中のところすみません、僕はリベル=ルルベル。最近勇者と判明して国に仕えるようになった者です」

「同じく勇者の護衛って事で同行してるグラン=ルルベルでっす」

グランの口調はちょいちょいおかしいけれど、最近は先程の宰相様や大臣さんが「勇者殿と並び立てる者になるのだ!」と振る舞いを猛特訓していると侍女さんから教えてもらっている。それを思うと見えない苦労を掛けてしまっているなぁ、と思わずにはいられない。


「おお、なるほどなるほど。最近噂になっとる勇者か!

何じゃ、それを早う言わんか。ほれ、中で茶でもだそう。あと敬語も要らん。堅苦しい」

対してラムズさんは、凄腕の魔術師と聞いてたせいか、もっと厳格な人かと思っていただけに、悪戯っぽい笑みを浮かべ手招きする姿を見て、僕は気が抜け素の自分で対応する事にした。




「………と言うわけでして」

「ふぅん、なるほどのお。黒い靄を纏う魔物か。確かに昔、そんな魔物が居ったな」

「見た事があるのか?」

「ほんの200年ほど前にの」

「えっ?!にひゃく?!」

「儂はこう見えてハーフエルフじゃ。ついでに延命の秘術も使っておる故、普通のエルフほどの寿命がある」

そう言えばエルフやハーフエルフと会うのは初めてだけど、ラムズさんは見た目完全に人間で、耳が長いとかも無い。思っていたのと違うが、それが逆に安心出来た。

「エルフやハーフエルフを見た事が無かったもので…。取り乱してすみません」

「ふふっ、青いの〜」



「それで、黒い靄を纏う魔物とは一体何なのでしょうか?」

「さぁ?」

「えっ」

尽く真面目な空気を和らげてくるご老人だなと思っていたが、その考えを読み取られたのか、微妙に空気が冷え寒気が押し寄せる。

「あれを深く知ろうとすれば、間違いなく人としての何かを逸脱する事になるじゃろう。それでも聞きたいのかね」

少し考え、グランとも相談した後、僕らは揃って「お願いします」とだけ答えた。


「あれが何か、は正直よく分からん。魔物が黒い靄を纏うなど、長年生きとる儂すらあれ以外見た事が無い。

しかしあの魔物は、《原初の勇者》が執拗に破壊行動を行っておったのに対し、それを全て防ぎ切るほどの強さじゃった。なぜそんな行動をしたかも謎じゃが…。

だが、その魔物も《原初の勇者》もある者の仕業によるものではないかという噂がある」

「ある者…」

「ある意味、幼子すら知っとる魔物じゃ」

そう言って1拍置いて、口にするのも憚られるのか、小声で小さく、


「魔王じゃよ」


そう言った。


魔王。

魔物の頂点に君臨し、人間達から畏怖され常に命や領土を脅かしているとされている。


「魔王は全部で7体、それに対して勇者もまた7人。魔王は勇者でしか討伐出来ず、勇者もまた魔王でしか倒せないと聞く」

「俺もそれは聞いた事あるな。けど、勇者が倒せないって方は単に普通より強くて倒せないって話だろ?」

「ああ、勇者が魔王でしか倒せないのは迷信じゃ。昔そういうバカもおった。しかしな、魔王は勇者でしか倒せない。理屈は分からんが過去に国を揚げて討伐隊を編成し魔王に挑んだ事があった。結果は惨敗。生き残った者がそう伝えとるから間違いあるまい。

もしその魔物を追うというのであれば、魔族領に行ってみるといい。ここからそう遠く無い場所にあるからの」


地図を貰い魔族領の場所を書き記して、僕らは宰相様に断りを入れた後、諸国漫遊と称した長い旅に出た。

台詞を増やすと説明が、説明を増やすと台詞が入れられない病。小説って難しいなぁ。

あと何気に連続六日投稿は初期以来だったりする。怠惰かよ。

また今月も月末やばそうです(予告)


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