SS リベル③
───
ああ、気持ちいい
まるで深い海のような
けれど全てが光に包まれている
──…え…………
浮遊感が支配して
全身の力が抜けて
──…え………て…
そうか、ここが天国─
──…え…起き……
さっきから耳元が騒がしいな…もう僕を呼ぶ人なんて誰も…
「ねえ、起きて!」
その声に僕は目を覚ます。
飛び込んできた景色はとても明るい森の中。時折差し込む光がチカチカと眩しい。
右を少し向くと茶髪の男の子。5、6歳ぐらいだろうか。ボロボロの服を着てあまり裕福そうには見えない。
そして彼はしきりに僕を揺する。確か僕は丘に居たと思っていたけれど…寝ぼけていたのかな。まだ無垢な子供なら拒絶も少なくて済むけど、長い間近くに居てほしくないし。場所を変えて死に直そう、そう思って目を開き立ち上がろうとするもうまく立てない。茶髪の男の子は僕が起きた事に驚いたのか、何処かへ走っていった。
まあいい。これでゆっくり──
「母ちゃん、ほらここ!ここだって!」
「ホントじゃないか!!酷い親も居るもんだ」
「あれ?さっき目を覚ましてたのに」
「とりあえずウチまで運ぶから、父ちゃんに火起こしてって言っといておくれ」
「分かった!」
意識が飛ぶ、ほんの寸前の会話だった。
完全に意識を取り戻すと、僕は知らない天井を見た。丘の次は森、その次に何処かの部屋である。流石にこれを夢とは思えない。そう思って起き上がり、ベッドから降りようと思って付いた手を見て驚愕した。
「これは…まるで子供の手…」
そこで初めて気が付いた。僕の身体が小さくなっていた。しかも小さいだけではない。一瞬タイムスリップを想像したけれど、ひび割れた窓に映る姿は完全に別人だった。
金髪だったのが赤に、蒼かった瞳は黄色く。そして窓から見える風景も、ここは地球なのかと疑うほどだった。
樹木が高く、まるでジャングルを思い浮かべるような大きさと密集具合で浮き岩…と呼ぶんだろうか、そんなものが遠くに漂っている。視点を変え、眼下に映るのは妙な家畜の数々に謎の作物。
「一体、ここは…」
初めて謎の状況を理解したリベルの後ろからガチャッと扉の開く音がした。
「お!母ちゃーん!あの子起きてるー!」
どうやら気を失う前に声を掛けてきた男の子の家に運ばれたらしい。
「ごめんな。今母ちゃんメシ作ってくれているからさ。あ、お前名前なんて言うんだ?俺、グラン!グラン=ルルベルってんだ!」
無邪気に、無垢に話しかける男の子──グラン=ルルベル──を前に毒気が抜かれたのか、僕は詰まる事なく自然体でそう言えた。
「僕?僕はリベル、ただのリベルだよ」
───ルルベル家・食卓
僕は今、グランの家族と共に少し早めの夕食を食べている。この地域…いや、この世界では夜遅くまで起きる習慣があまり無いらしく、夕食もかなり早めに取る。
献立は見た目野菜っぽいのに魚味の煮込みと、牛肉の味がする切り株のステーキ、オレンジっぽい何か。もはや何を食べているのか、自分自身でもよく分からないものばかりだったけど、味は意外と悪くなかった。それに…
グルルルルルル
「母ちゃん、もっと…」
「今日の分はこれでおしまいだよ」
僕によそった分よりも、グランを含めた両親二人の量が僕の半分ほどしか無かった。きっと無理をして僕に食べさせてくれていると思うと、涙が止まらなかった。
人を見るだけで恐れていたはずなのに、たったこれだけの事で僕の心には光が灯っていた。だから彼等には自然体の僕で居られた。
食事も終わり、グランとグランの両親が居る中で、出来る限り地球の話をしてみた。結果は…一切知らない、分からないだった。
逆に僕の事を聞かれ、思い出そうとしたところで、僕が知らない『誰か』の記憶が蘇る。
ある日、お前は食い扶持を減らすから要らないと親に捨てられ、山を必死でさまようも力尽きた男の子の記憶。確証は無い、けれどこの記憶こそがこの身体の主だったものなんだと思った。
確かアニメ映画のアフレコで異世界に飛んでしまった、なんてのをやった経験があったからこそ、今この状況に冷静に立ち向かえているんだと思う。
最も、この頃の僕はこれが『転移』と思っていて、元の世界にいつか帰れると思い込んでいたのは、まあどうでもいい話か。
別に帰りたい訳じゃない。けれどもし死ぬなら、両親と同じところで死にたいなと思っていただけだ。結局死に場所を探したいだけ。
この子供は死に、そして僕がこの身体の死んだ魂を排除して新しい『僕』として生まれ変わった。
グランとはすぐに打ち解けた。
元々年頃が近かったのだろう。年齢も名前も出身も親も、何もかも分からない僕を、グランの両親は明るく迎え入れてくれた。
最初はグランをグランくんと呼んでいたけど、本人が呼び捨てで呼べー!と押され、グランと呼ぶ事になった。
そうしてこの家族に迎え入れられた僕は、名をリベル=ルルベルと改めた。
リベル自体本名ではないけれど、それを言っても分かる人どころかこの身体の主の名前でも無い。どうせ怒る人もいないのだろうし問題無いさ。
こうしてリベル=ルルベルと言う人間は生まれた。
更にそこから5年ほど経ち二人共に10歳になった。リベルの年齢はグランに合わせたものなので、本当に同い年かは不明だが。
二人は村を襲う魔物を蹴散らしつつ剣術を極め、グランは大きく振り回せるからと両剣を選び、リベルは以前スポーツを色々嗜んでおり、その中にフェンシングがあったのを思い出し、突きを極められるよう細剣を、魔物を解体する時や受け流しに使う為の長剣を場面場面で使うスタイルを身に付けた。
そうして魔物の素材を集めては売り、溜まったお金で以前から興味のあった鑑定屋へと赴いた。
この世界が地球ではないと理解させられた一番大きな要因、それが『能力』だった。
グランの父親は手から熱を発せられる『発熱甲』という能力を使えるのだが、一番最初それを見た時、思わずタネはどうなっているのかと思ったものだ。
しかしグランの母親が『ドレインシャワー』という、他の生命から得た栄養を他の生命へ振り掛ける、要は魔物を弱らせ『ドレイン』し、畑の作物に『シャワー』のごとく養分を降らせる事で作物が急成長した時は、もはや言葉にならなかった。
この世界では能力とは普通の当たり前の事で、稀に魔法が使える者まで居るとの事だった。
お伽話か創作か、夢とも思えるものだったが逆にルルベル家で見た浮き岩の光景に納得がいったのも確かだった。
この世界は地球じゃない。輪廻転生なんて言葉があるらしいけど、それは必ずしも同じ世界で生まれる訳じゃないんだろう。
そう思うとそれが自然と自分の中に落ちていった。
それに伴って、拒絶していたのが嘘のように、僕は普通の僕として、自然体のままの僕で居られた。
そうして色々な思いと今まで新たに習得するもの以外では、元々持っていた能力というのは鑑定屋で見てもらわなければ分からないとの理由で、ここアルストレアへと足を運んでいた。
鑑定屋に入ると奥から気配無く忍び寄るお茶を持ったお婆さん。
名前はマゼンダという、笑い声が如何にも魔女っぽいちょっと変な人って印象だった。
料金は金貨5枚と割高に思えたけれど、鑑定屋で鑑定してもらえば一生自分のステータスを見られるようになり、更に仲間と認め合った者のステータスも見られる。確かにこの値段は納得かと思い直す。
独特な雰囲気の中、鑑定をしてもらう。
机に乗ってる水晶を使うのかと思っていたけど、実際には『技量開示』という固有能力を使うようだ。
マゼンダさんが能力を発動すると、自分の目の前に半透明のウィンドウが表示されている。
それをしげしげと見ているとお婆さんが何か狼狽えていた。どうやら発動者であるお婆さんにも見えているようだ。
お婆さんは水晶の前へ行き、何やら能力を発動している。
「お久しぶりです国王陛下」
「おや、マゼンダ殿、久方ぶりですな。それと国王陛下は止めてくれと言っておるだろう。私と貴女の仲であろうに」
「いや、今はそんな事言っとる場合じゃ…言ってる場合では有りませんのですよ」
「どうした、そんなに慌てて」
「落ち着いて聞いて下され。鑑定に来た少年の称号と能力欄に『勇者』の文字を確認致しましたのじゃ」
「………今なんと?」
「だーかーらー!勇者じゃよ!ゆ・う・しゃ!」
「…それは誠か!?」
「嘘言う為に極秘の『水晶通信』なんか使わんわ!耄碌爺!」
「直ぐに兵を手配する。その少年を引き留めておいてくれ」
「分かったわい!」
「あと無理して敬語を使うから後半ボロが─」
「なんか言ったか?」
「何でも有りません姉さん」
「直ぐに頼むぞい!」
「……国王なのに」
…あれは聞かなかった事にしよう。
そう言えばここの国王は実力があれば平民だろうが貴族だろうが誰でもなれると聞いてびっくりした。世襲制かと思っていたのもあるけど、よく貴族からの反発を抑えていられるなと関心したものだ。おそらくそれだけの裁量が求められるのだろう。
しかし、僕の能力を僕自身が初めて知るというのも不思議な話だけど、これは…
個体名:リベル=ルルベル Lv.24
真名:リベル
種族:人間 転生者
属性:風、光
固定称号:勇者
変動称号:大切な家族
職業:勇者
固有能力:Lv.4
意識収束
稀少性鑑定
血癒
能力:
加速 Lv.1
身体強化 Lv.1
悪食 Lv.1
血の盟約 Lv.1
勇者補正
速度補正
農業補正
酪農補正
採掘補正
庭いじりの心得
毒耐性 Lv.5
麻痺耐性 Lv.4
魔法:
風属性 Lv.1
風よ
光属性 Lv.1
光よ
マゼンダさんが言っているのは固定称号と職業の『勇者』の事かな?職業『勇者』って何なんだろうね。そこを考えるなら変動称号の条件を知りたいところだけど。
それに薄々感じていたけれど、やっぱり『転生者』なのか。まあ、知れただけで良かったかな。
他、固有能力と能力はよく分からないものばかりだ。
一応『稀少性鑑定』には心当たりがある。たまに魔物を狩る時や森の中に野草を採取しに行ったりする時、グランや他の村人より僕のものは上質だったりする事がある。皆に言っても首を傾げられるだけなのだが、僕には上質なものがキラキラと輝いて見える。きっとそれがこの固有能力の効果なのだろう。
グランの方も見ると、自分の知らない能力があったようでニヤニヤとしている。ちょっと見せてもらおうとしたところで、店の前に豪華絢爛な馬車が一台止まり、兵が入ってくる。
「マゼンダ殿、件の少年はどちらに」
「はっ。この赤毛の少年にございます」
「よし、国王陛下がお呼びだ。我々と共に来てもらおう」
最初、グランが来れないなら行かないとゴネてみたのだが、結局二人でも大丈夫と言われて国王陛下の元へ向かう。
僕はあまりお偉いさんに会いたいとは思わなかったけれど、グランは凄くワクワクそわそわしていた。この辺りは価値観の違いだろうか。
今更だけど、僕には何故か前世の記憶が残ったままだ。けれどグランの話では異世界人は珍しくなく、しかも異世界人は共通して前世の記憶を持って生まれてくるという。
おかしな話だけど、考えてみれば世界を渡るほどの強い魂じゃないといけない。そんな魂に宿った記憶ならば、消える事は無いんじゃないか、なんてファンタジーすぎるかな。僕も染まってきてしまったもんだな。
そうして思い馳せる内に、アルストレア城前へと馬車が止まる。
馬車を降り、長い緩やかな階段を一歩一歩踏みしめ、謁見の間の扉の前まで来る。
グランと顔を見合わせ、ニッと笑い合う。扉が開かれ国王の元へと歩みを進める。
『アルストレア王国に勇者あり』と全国民に伝えられる、僅か三日ほど前の出来事である。
ついにリベルのステータスが公開!
長ぇよ…いつの頃に作ったやつだよ…。
実はオードと同時期に作ってたりします。本編の内容と脱線によって微妙に修正されていますが。
あと、今日も定時だったよ!
わーい(ノ)・ω・(ヾ)むにむに




