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失敗勇者の邪神転生  作者: 杜邪 悠久
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SS リベル②

どうして僕は平気だったんだろう。


僕はただその場から逃げ出す事しか出来なかった。


常に誰かの視線を感じるようになり、自分が見張られているような錯覚。前までは何も思わなかった行動が、全て誰かに見られていると思うと、僕は怖くて怖くてたまらなかった。


以前までならファンの声援も、ステージを埋めつくさんばかりの人の前でも、僕は臆さず前へ前へと仲間を引っ張っていけた。

けれど今は──


「ほい、全部で1611リラね」

「ひっ、あ、はい、これで…」

「毎度〜…ったく。何であんなビクビクしているんだろうねぇ」


僕は人を恐れ避けるようになっていった。ファンを見る度足がすくむ。握手を求められると身体もすくむ。カメラを向けられても、その向こうに沢山の人が視ていると思うと、どうしても笑顔を作るのが難しくなっていった。


笑顔を…作る…?

そうだ。昔は自然体で居られたはずなのに、いつしか笑顔は作るものになっていた。

僕は『僕』というキャラを演じるようになってしまっていた。

優しくて、皆を引っ張っていけて、頼られる、明るくて、いつも笑顔な、そんなリーダーを。

だけど、そんな状態が長く続く訳無かった。


誰にも何も話さず、ただ家を出た。

通りすがる人達の中にも僕のファンは大勢居た。

自分がどれだけ有名人になっていたかも知らずに。

自分がどれだけ人に見られていたかも知らずに。

どうして気付かなかったんだろう。

どうして何も知ろうとして来なかったんだろう。

どうして前だけを見ていられたのだろう。

どうして──


あの頃はただ自分を見てもらうだけで毎日が楽しかったはずなのに、今ではそれが無性に恐ろしかった。

出会う人、通りすぎる人、店の人、車に乗る人、、、


人、人、人、人、……人。


全ての人が僕を視ている。


ずっと、ずっと、ずっと。




遂に僕は国外まで逃げ出していた。

その時、たまたま露店で声を掛けられた。


「お、お兄さんカッコイイねー!どう?この指輪」


僕は肩を震わせ虚ろな目でその指輪を見た。


綺麗だった。心に光が灯るような錯覚を見た。

それは間違いじゃないんだろう。きっと僕は何かに縋りたかった。もういい、もう大丈夫と。かつての(・・・・)仲間達にそう言われていたように。


衝動買いした指輪を嵌めて町外れの丘の上で空に翳す。そこで商売人から聞いた言葉を反芻していた。


『この指輪の名前は"リエール"って言うんだ。お兄さん観光だろ?リエールってのは『蔦』って意味なんだが、『不滅』って意味もある。仲間達と一緒に持てばそりゃあもう永遠を誓い合った仲になるってもんさ!

お?買ってくれるのかい?

毎度ー!さっすがお兄さん、イケメンだねー。

そういや最近隣国でアイドルが行方不明だって話を聞いたけど、お兄さんその人によく似て…ってお兄さん!?お釣りお釣り!!』


「お釣り…もらい忘れちゃったか」


指輪を眺め、人が殆どいない丘の上で空を見続ける。

思えばこんなに遠出した事も、こんなにゆったりとした時間を過ごす事も無かったな。

時間がまるで止まったかのような感覚の中、リベルは最後の言葉を伝える為、実家の母に電話を掛けた。

父親は既に他界し、母は母の妹と一緒にこの時間ならきっと家に居るはず。

震える手でボタンを押す。もし母さんとまで話す事が出来なかったら…そんな思いに駆られたけど、そうはならなかった。


「もしもし」

「……カルロかい?」

「ああ、久しぶり」


予想通り、母は家に居た。仕事ばかりでなかなか会えなかったけれど、少し声が枯れたかな。もしくは心配させちゃったかな。

そう思っていたら、電話越しに耳が痛くなるほど大声で怒られた。


「アンタって子はいいまでどこ行ってたのさ!!」

「母さん」

「全く、事務所の人達も皆心配して家に来てくれたんだよ」

「母さん」

「ちゃんと反省してるのかい?迷惑ばっかり掛けて」

「母さん」


母は説教を続けるも、僕がただ名前しか呼ばない事に違和感を覚えたのか、話を途中で切り一呼吸置いてから問いただす。


「さっきから母さん母さんって、お母さんの話を聞こうって姿勢を─」


そして僕は、本当の『僕』のままで言葉を紡いだ。


「今までありがとう、僕が『僕』で居られたのは、母さんが僕を支えてくれていたからだ。身勝手で我侭な僕でごめん。でも最後に話せて良かった」

「ちょっとカルロ?一体どう言う…」


そこで電話を切った。

もう悔いは無い、そんな気持ちだった。

きっと沢山迷惑が掛かるだろう。事務所にもメンバーにも。

僕を支えて育ててくれた母さんにも。


だけど僕は疲れてしまった。

もう立っているのもやっとだった。

身体からは徐々に力が抜けていき、呼吸すら弱く、弱く──


生きる事そのものが、リベルに取っての苦痛だった。

だから彼は薄れゆく意識の中で思った。


『やっと、自由に』




この日、一人のアイドルの死亡が確認された。

死亡した原因は衰弱死。極度の疲労と人間不信により、精神的に問題があったとして事務所に責任の追及が行われた。

その際、メンバーの一人が言い放った『やっと彼は本当の自由になったのだろうな』の言葉に、賛否両論の声が今なお上がり続けている。

短いですがリベルの前世編は終わり、次から異世界での過去編になります。


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