平穏を求めて
「グラン…アンタ、どうしてここに」
フェリエは驚愕と疲労に声を震わせ疑念をぶつける。
そこにはここに本当は誰も居て欲しくなかったと言外に匂わせる。
「俺もパーティーの一人なんだから居て当然だろ?」
フェリエの意図に気付いたのか、あっけらかんとそう言い切る。そこには死ぬ時は皆一緒だと、フェリエにはそう聞こえた。
「どうだ。まだ行けるか」
「く…ふふっ。馬鹿にしない、でッ。どこぞのサボり魔みたいに何年もブランクがある訳でもあるまいし」
グランの前だからこそフェリエは意地を見せる。だが『限界突破』の反動は凄まじく、肩を震わせ息も絶え絶えになっているのを見て、グランは自ずと前に出た。
「ただサボっていた訳じゃない。フェリエが裏で動いている間、俺も独自に調べていた。けれど、ギルドは王の管理下にあって動きにくくてなぁ。そもそも性に合って無いんだよなぁ」
笑って誤魔化すが調べていたのは本当の事だろう。王国内に居るはずのグランがこうして国王の動向を察知出来ているのもいい証拠である。
「剣聖の名が泣くわよ」
「俺が欲しいのは…いや、俺らが欲しいのは『不滅』と呼ばれるだけでいい、だろ?名前にまで入れちゃってまぁー」
「こんな姿になっても、アタシにとっては思い出なの。アイツが忘れたとしても、アタシはこの名を背負って行くわ」
「……死にに行くって意味なら、俺も付き合うよ」
「相変わらず、損な役回りばかりね」
「前衛の仕事さ」
軽口を叩き合いながらもそこにはかつてアルストレアを救った『不滅』のパーティーの姿があった。例え何年も戦闘に出ておらずブランクがあっても、例え姿形が別人になっていても。急造では無い、そこには互いを誰よりも理解し信頼し合える仲間がいた。
「最後の会話は終わったかい?」
リベルタはずっとそこに居た。亜人達では歯が立たないと知ってる為、そしてグランが来た事でギルドが動いていると警戒して後ろへと全軍後退させている。
会話に割って入らずにいたのは情でもなんでも無く、ただリベルタの戦闘スタイルが後衛兼反撃型である事と二人の戦闘スタイルを照らし合わせ、動かない方が得策だと思っただけである。幾らフェリエが手負いとは言え油断が出来るほどでも無い、それはリベルタへと齎したある物が関係している。
「ええ、待っててくれてありがとう、リベル」
そう言って『大収納』から取り出したのは綺麗な液体が入った瓶。それを見てグランとリベルタはここ最近齎された回復薬だと当たりを付ける。
「回復薬、幾つあるんだ」
小声は耳打ちするグランにフェリエは4つと答える。
「正確にはこれは魔法薬らしいからあなたやリベルはおそらく高濃度の魔素にやられて死ぬわ」
「そんな事言わずとも飲まねーよ」
「やっと昔っぽさが出てきたわね、ギルドでのあなたの口調、初めて聞いた時、帰って部屋で噴き出したわ」
「嫌味を垂れるほど回復したようで何よりだよ!」
見ればフェリエの傷は完全に治っている。『限界突破』の疲労はさすがに残っているようで、今も額を汗で濡らしているが。
「俺は右から行く」
「ならアタシは左ね」
「限界値に入るなよ」
「そっちこそ」
駆け出す二人を見て、雰囲気を変えるリベルタ。
右から来たグランが両剣を振り回しながら向かってくる。リベルタは『意識収束』で地面へとその切っ先を沈み込ませる。そのグランに追撃しようとした矢先、後ろから衝撃波が飛ぶ。フェリエの拳撃によるものだ。ビリビリと痺れる感覚はあるが倒れるには至らない。しかしその隙を突いてグランが自身ごと回転しながら両剣を引き抜き、まるで独楽の如くリベルタへと連撃を決める。
そして『意識収束』で再び攻撃を躱すも、同じように別方向からの拳撃の余波を放つ。
互いにリベルタから5mの距離を維持して、『意識収束』の発動後に攻撃をするようにして。
そう、リベルタのこの『意識収束』には明確な効果範囲が存在する。
リベルタから半径5mの位置になら、例えどこであっても『意識収束』させられる。それが例えば物や人だとしても、それに設定しておけばずっとそこに敵の意識を持っていく事が出来る。
だがフェリエが攻撃を範囲外から加えている上、正確にはその余波によってダメージを受けている。倒れるほどでは無いにせよ、蓄積していけばかなりの被害になるだろう。
そして『意識収束』には時間制限は無いものの、グラン一人を縫い付けていても、フェリエに一方的になぶられる形になってしまい、それを回避しようと『意識収束』を解く為、グランからの連撃を受ける、そういう悪循環が生まれていた。
リベルタは初めて苦虫を噛み潰したような表情を見せる。それはおおよそ、かつて苦楽を共にした仲間に見せるようなものでは無い、まるで忌々しい者を見るような目をして。
それを何度か繰り返し、朝日が差し込む頃、リベルタは紅く染まっていた。それが朝日によるものか鮮血なのか。呼吸は荒く絶え絶えだが同時に不敵に笑う。それを見て更に二人は警戒を強める。自分達もそれを持っているが故に。
「ふふふ、ふはははは、あっはははははは!」
「なんだリベル、笑いの三弾活用か?」
茶化して聞くがリベルタの笑いは止まらない。別に答えを求めた訳でも無い。ただ、身体から噴煙のようなものが上がり、ここからが本当の戦闘の始まりだと、まるでそれが開戦の狼煙ようだと思った。事実、相手をしていた二人の眼前からリベルタが姿を消した。
──加速・閃光
グランの右側から声が聞こえた。かと思い剣を振るうがそこには何もおらず、遅れて右頬に裂傷が現れる。
傷に意識を向けると背後からの衝撃で前屈み気味に倒れる。体勢を戻そうとするが腹に強烈な一撃を与えられ吹き飛ぶ。気合いで剣を杖代わりにして支えながら立つと、眼前には見えない何かにサンドバッグになっているフェリエの姿があった。
フェリエは再度『限界突破』を発動した事で、その姿を辛うじて捉える事が出来た。ただし、あくまでも捉えられただけであるが。
その正体はリベルタの能力によるものである。
能力『加速』
名前から分かる通り、ただ高速で移動、攻撃、回避が出来る能力である。一般人が使えば馬よりも早く、砲弾と同じぐらいの攻撃速度で、矢を避けられる、そんな程度の能力。
しかしリベルタのそれは、フェリエの『限界突破』にすら超越するほどの速さを持っている。その理由は先程から使っている『意識収束』を他者では無く自身に使った為だ。
本来、『意識収束』は他者や者などに掛けるのでは無く、自身に使い隠密に向く能力である。パーティーが入れば先程の欠点が解消されるが、この戦闘スタイルこそがリベルタの本当だと言える。
『意識収束』により余計な状態を遮断し、ただ戦闘にのみ意識を集中させる。そして『加速』で自身の移動能力を底上げし、更に攻撃力も高める。レイピアの特性上、切り裂く、薙ぎ払うのに適していない分、深く貫かなければならない。しかし、リベルタの細腕ではそれが十全とは言えない。それを補い、かつ突進力も高める『加速』とはとても相性が良かった。
そしてもう一つ。フェリエにもあったように、リベルタ、そしてグランにも『英雄補正』というものがある。リベルタは自身を追い込む事でそれを無理矢理発動させたのだ。逆にフェリエは薬で回復をした為、それが一時的に薄れたのは誤算だった。
結果、フェリエは空中に浮く形で連撃を受け続けていた。
「ふふふふふふ」
リベルタは笑う。まるでその行為を楽しむように。
「やめろ、リベル…やめてくれ…」
グランが懇願するが、なお攻撃を続けるリベルタ。
フェリエの身体は傷付き、魔族特有の黒い血が飛び散っている。
グランからは姿は見えないが、辺りの殺気が一気に強まる。
そして宙高く飛ばされたフェリエの身体の真下に、リベルタがレイピアを構える姿を見て、グランは走り出す。
「やめろ…リベル…やめろ…やめろ、やめろおぉぉぉぉぉ!!」
必死に走り両剣を振るうが、腰に差した二本目のロングソードを引き抜き受け止める。そして勢いを流すように剣筋を逸らすと、レイピアはフェリエの腕を差し貫いた。更に追撃とばかりにロングソードをレイピアに這わせるように宛てがうと、そのままフェリエ右腕を切り飛ばした。辺りには尋常ではない量の血が飛ぶ。
切り飛ばされた腕が宙を舞う。腕を落されたフェリエは痛みで張り裂けるような叫び声の後、呻きながら蹲る。
腕が落ちたその場所にリベルタが近づき、止めだとばかりに原形が分からないほど切り刻む。その光景をむざむざと見せ付けられたグランは後悔に思考を蝕まれていく。
「キミの守ると言ったものは、こんな簡単に傷付く」
リベルタの声が聞こえてくる。怒り、悲しみ、困惑、疑念。様々な感情の中で見た彼の姿にはグランは疎かフェリエすら映っていない。まるで独り言のように語る。
「人々は仮初の平穏を信じている。この世界は酷く歪で、今も何処かでその身を穢されている。
転生者や異世界人もそうだ。訳の分からぬまま、こんな世界に生まれてしまって、挙句勇者だなんだと崇められる。僕はただ平穏を求めていただけなのに」
誰に何かを語っているでも無い、しかしその話を聞く限り、リベルがある時言った『人類を救う』に繋がらない。
「リベル…お前、あの時言ってたじゃないか。魔王を倒してからすぐ『人類を守らなければならない』って。だけどどうしてこんな事をする?崇められるって事は皆が信頼してくれているって事だろ?そんな人達を守ってやろうって…」
「うるさいっ!!何も、何も知らないクセにッ!」
頭を掻き毟り、酷く狂乱した姿を見せるリベルタ。しかし何かを思ったのか、しばらくして平静を取り戻し言った。
「本命が熟すのもまだ先だし、せっかく会えたんだ。キミ達と僕の思い出話でもしようか」
そしてリベルタは自身の前世の話を始めた。
キリがいいので。
久々に定時で帰れた(∗•ω•∗)
しかし眠い。




