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失敗勇者の邪神転生  作者: 杜邪 悠久
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ケジメ

うまく誘導する事が出来た、フェリエはそう思っていた。

現在、アルストレア王国が入出国を制限していると言っても、ユキが居ればその限りではない。

ドルガの相棒のトカゲとユキ、そして何より未だ成長を続けるミストに対して、交易都市ガレットへ誘導出来たのは僥倖だった。

もしこれがアルストレアに近い場所であればそうは行かなかっただろうが、幸いにもガレットの方が近い位置にあり、この時期にこの方面へ来られたのは運が良かった。


早速ガレットへ着くと衛兵達に止められた。魔物には排他的な考えを持つアウリス地方では珍しい事では無い。問題は鎖にも繋がずに居る事だろう。

ミスト達に面と向かって話をした事は無いが、アウリス地方では魔物は例外なく奴隷にされる。

更にミスト達のように言葉を理解し話す魔物は嫌悪されやすい。背景にあるのは魔物化、所謂『魔物堕ち』と呼ばれるものだ。

『魔物堕ち』とは、文字通り魔物へと人を堕とす行為の事なのだが、普通この『魔物堕ち』はランダムで何になるかは分からない。各国の研究者や宮廷魔術師達が挙って研究に埋没した結果、解った事は以下の通り。



転生する際、魔素を過剰に取り込ませる事で魔物へと変貌させられる。

魔物化した者は耐性が無ければ理性や記憶を失う。

どんな魔物になるかは不明。

呪術によって制御が可能。記憶を継承させられる。

異世界人の場合、完全な状態で記憶を継承し、能力の一部も持ち合わせる。その場合の名称は『堕転』


そうして魔物堕ちを紐解いた各国代表達は、これを罪を犯した者達への見せしめとして使った。

結果、知識ある魔物=咎人という風潮が出来てしまったが、実際にはそうでは無い。

例えば、そう。自分がいい例だ。

アタシは咎人では無い。いや、これから犯す罪を考えれば自身は咎人と呼ばれようと受け入れるつもりだが。

アタシは望んで魔物へと、魔人となった。後悔は無い。

ただ、魔物堕ちした後何になるかまでは分からない。だが博打にアタシは勝利した。

正直、もっとグロテスクな魔物を覚悟していたが、見た目だけなら普通に町で暮らしていたとしても気付かれる事は無いだろう。

鑑定されれば分かるかも知れないが、そもそもそれほどの力を持つ者が一商人の自分に鑑定を掛けるとも思えない。

各地に住まう異世界人にも鑑定が常備されていると聞くが、政治や私利私欲の為、現地の者に利用され使い潰されたか、もしくは件の勇者教や大罪勇者共の歯牙に掛かったか。

まあどのみち、もう自分にはどうでもいい事だ。これがどういう結果になろうとも──





ガレット内部は変わらず賑やかだった。

昔三人で旅した頃に訪れた以来、商売などは部下に任せ切りで久しぶり見る光景に心が弾む。

オードちゃんに混じって屋台のパンを頬張ると、外はカリカリに揚げられていてとても美味しい。

揚げるなんて調理法も、異世界人からの影響からなのだが、昔はただ焼いたパンが流行っていたところを見ると、この町も少なからず変化しているのだと、それが寂しくも思えた。


そして表向きの目的地であるギルドへと足を運ぶ。

彼等は依頼の完了と報酬を受け取る為冒険ギルドの方へ向かうが、アタシはちょっと様子を覗いて見たいと適当に言い訳して商業ギルドの方へと顔を出す。


商業ギルド。そこは信用さえあれば金を積む事であらゆる情報を仕入れられる場所。

冒険ギルドの方にも酒場があるが、商業ギルドは商業ギルドならではの酒場がある。

確かリベルの話では、冒険ギルドの方は大衆向けの酒場で商業ギルドの酒場はバーのようだと聞いた事がある。

酒場のマスターの前を陣取り、酒を頼む。勿論飲む為ではない。酒の金額によって情報の精度や量を決められる。

無論、冒険ギルドのように力こそが命ではなく、商業ギルドでは信用が命だ。酒を頼む際、金色に光るカードを提示する。

ギルドカード:ランクA。これだけでマスターの顔色は変わり、アタシは酒という名の情報を買う。


「何をお望みで」

「アルストレア王国の行軍経路」


マスターの眉に皺が寄るもそれは一瞬。だが直ぐに切り替え奥の部屋へと案内される。

部屋で待つように言われ、数分もしないうちにマスターから望みの情報を書き記した地図を渡される。


「何に使うかは聞かないが、アンタ死ぬ気か?」


アタシは答えない。答えない事が答えになっているとしても。


「そうかい。立ち入った事を聞いて済まなかったな」

「別に。じゃ、情報ありがとうね」


それだけ言って立ち去った。もうここに来る事も無いだろう。




冒険ギルドの方へ向かう通路を歩いていると、部屋から大声が聞こえてきた。

どうせまたミスト達が絡まれているか、もしくはただの喧嘩か。

そう思って扉に手を掛けたフェリエの耳には予想と違う矛先の声が聞こえてくる。


「まさか本当に帰って来られるとはな。どうだったよ?調査もされてないクエストを受けた感想は」


その声は少年というには低く、青年というにはやや高い。声の感じや話し方からして、学があまり無いように聞こえる。

しかし、対応したのはハルちゃん。ハルちゃんはあまり気に留めていないがそれでも貴族の出である。そんなハルちゃんにそんな態度で絡む者に警戒を強める。


扉を開けず聞き耳を立て、ミストからは自重しろと言われていた『思考把握(オミトオシ)』と『万里眼』を発動する。

思考把握(オミトオシ)』は相手を視認していなければ効果が得られない欠点があるが、『万里眼』と併用すればその限りでは無い。

思考把握(オミトオシ)』の制御が不十分だと、視界全てに映る者の思考を読んでしまい、直ぐに熱を上げてしまうが、フェリエはこの能力を来る時の為に十全に使いこなしていた。


『万里眼』に映ったのはハルちゃん達と青年達が争っている様。

相手の考えを読むにどうやら私怨と妬みで動いている。しかも貴族。名はバン・フォン・フォード。フォードと言えば近くの町の領主を務めるバルド・フォン・フォード子爵という者がいる。おそらくその実子だろう。

一瞬、リベルの能力かと疑ったが、どうやらちゃんと自分で考え行動しているところを見るとその限りでは無いらしい。


その青年の罵倒は続く。

それに同調するように他の者も笑い声をあげる。

中には商人も居るようだが、あの商人達はきっと大成しない。

商人は客商売であり信用が命だ。周りの客と笑い声をあげるのは貴族に関わらないように振る舞う演技かも知れないが、フェリエにはそれを見抜く力がある。あの商人達は本気で笑っていた。

例え演技でも、客の善し悪しを付けて対応を変える者を、一体誰が信用出来るだろうか。

自身のプライドも怒りに満ちていたが、それを増長させる原因も問題だろう。

まずは素早く商業ギルドの方へ戻り、笑っていた商人達の名を伝え、彼等をギルドに入れるなと要請する。

勿論、普通ならばそんなもの知らないの跳ね除けられるが、そこは過去の栄光、アルストレアの三強と恐れられた名と共にギルドカードを提示する。

(余談だが、三柱と呼ぶのは宗教家、三強と呼ぶのは冒険者に多いがどちらも意味は同じである)

顔色を変え、コクコクと頷き要望を受け入れたのを確認し、すぐさま冒険ギルドの方へと戻る。


まだ笑い声は止まない。

いつの間にかオードちゃんやユキちゃんにも被弾している。

どうやら矛を収める気は無いようだ。

それだけを確認すると、フェリエはいつも通りのフェリエちゃんで対応した。



「ユキちゃん、ハルちゃん達、お待たせ〜」

出来る限り軽い感じで挨拶した。その騒ぎを今知ったかのように。


「やっぱり流石はガレットね。情報も豊富だし何よりあの回復薬!もう飛ぶ鳥を落として下拵えする勢いだったわ」

ジョークを交えながらも、さり気なく相手との間に入り皆を守れる位置へと誘導する。

すると相手方はどうやら自分の事を知らないらしい。まあ顔が割れている可能性は低いし当然の事だろう。



「あら、あなたバルド・フォン・フォード子爵様の息子さんかしら?」

一応聞いてみる。元々知ってるより、対外的に聞いておく方がいいと判断した為だ。そして返ってきた返答と、あまりの傍若無人っぷりに吹き出しそうになる。誰も気付いてないわよね?


あまり調子付かせるのもそろそろあれなので、サクッと名前を告げてみると予想通り、顔色を青く染めている。それはそれで悲しくなるが、この名声のお陰で自由に動いて来れたのだから、と複雑な気持ちになる。


貴族の子は信じられないとブツブツ言っているので、ギルドカードを職員に提示する。その際耳元で「あなた達も笑っていたのは、このギルドの方針かしら?是非ギルドマスター様に素晴らしいですねと報告したいものですわ」と告げながら差し出した為か、予想以上に顔面蒼白になっている。異世界人好みの色白でモテそうだ。


なおも信じず、謝罪すらしない阿呆にそろそろ面倒になってきたので、ちょっとした嫌がらせをしておこう。


「アルストレアが三強の一人、"戦鬼"と呼ばれた腕前、あなた達の前で披露してあげても構わないのよ?ただ、見た者は死ぬ、なんて噂があるみたいだけれど」

嘘では無い。過去、傭兵達を雇い背後を狙った襲撃者達を半殺しにし、雇い主の花壇に生首状態にした傭兵共を埋め、最後に屋敷を吹き飛ばた。

屋敷があった場所を一瞬にして綺麗に整地した後、「おはようございます。いい朝ですね」とその雇い主だという貴族に爽やかな笑顔を送った。リベルの話では確かこういうのをモーニングコールと呼ぶらしい。

その後、吟遊詩人からそんな話を聞いてあの後立ち去らず顔を拝んでおくべきだったと、多少後悔したものだ。

戦鬼の名は吟遊詩人さんが考えたものだが、自分としてはもう少しかわいい感じが良かった。


まあそれはさておき、どうやら殺気を含ませた闘気はうまく作用したようで、声を出す者は皆無。一応ハルちゃん達やミスト達には影響無いようにやったけれど、ここまでの戦いぶりや死闘を経験した彼等にはこの闘気の中でも多分怯む事は無いだろうが。


ようやく問題も解消され、ついでに遊びに来たら素敵な歓迎しちゃうわよん、的な捨て台詞も残しつつギルドを去る。


外に出るとミストが代表して声を掛けたので返答したら、「怖いわっ」と皆からドン引きされた。流石にやりすぎちゃったかしらね?



その後、ハルちゃん達との別れの際、ミストが魔道具『引き合せの腕輪』を全員に渡す。確か素材の割りに効果がしょぼいと商人仲間から聞いた事がある。けれどどうやらこれは仲間の証として渡すみたいね。…つくづくあの能力が羨ましい。


別れた後はお買い物を楽しむ。あくまでもフリだけど。

けれど立ち寄った雑貨店でお釣りを誤魔化された時は流石に切れたわ。商人舐めてんのかしら?だから交易都市と呼ばれてる割りに評判悪いのよ。もっとも阿漕な商売は嫌いじゃないけれど。



そうして暗くなってきたので宿を取り、明日に備えようと言って部屋割りを決める。

ミストとオードちゃんは同じ部屋が言いと言ったけれど、ユキちゃんが同じ部屋なのはどうかと苦言を呈するミスト。けれど本人の強い意向で同じ部屋に。

アタシはまだ買い物したいと言って別室に。ドルガもまだ信用出来ない為別室に。ドルガの相棒のトカゲは宿屋横の牛舎に寝かせた。




皆が疲れて寝静まった頃、アタシはまずドルガとトカゲに毒を盛る。毒と言っても睡眠薬と麻痺薬を合わせたもので、これを嗅ぐと意識が飛ぶ。

流石にアタシには効かないけれど、ドルガには直ぐに意識を飛ばした。即効性の強いものだと聞いていたが、まあ、朝には起きるだろう。

トカゲの方は毒無効があるからどうかと思っていたが、毒とはダメージを負うものであり、放っておくと死に至るものの事を言う。

この睡眠麻痺薬は睡眠無効か麻痺無効で無ければ無効化されない。事前にミッちゃんから説明を聞いていても、やはり試さなければ不安であったが、効果は上々のようだ。

同様にユキちゃんとオードちゃんも意識を刈り取る。

ユキちゃんの方は称号の効果がネックだったが、就寝時にはその効果を弱める。尻尾をもふっとさせているのは何とも心を擽られる。


そして肝心のミスト。このミミックはとても察しがいい。

本人は謙遜しているが、時折ものすごい洞察力を見せる。その他、存在自体も色々と不明な点が多い。

転生した者ならステータスに転生者の文字が出るが彼にそれは無い。

それにこの薬の睡眠の部分、無効などは表示されてないにも関わらず彼は睡眠を必要としない。

例え魔物であっても、睡眠は絶対的に必要とするのに。

もっと彼等と一緒に旅をして、昔の事や将来の夢を語り合いたかった。もっと普通に出会って、アタシが普通の──



いや、この考えは良そう。どのみちもう会う事は無いだろう。

馬車を手配した、あれは嘘だ。万が一追って来る可能性は避けたい。これはアタシのケジメであり戦いなのだ。例えそれに関わりがあったとしても、最初はアタシが挑まなくてはいけない。



彼を、リベルを止められなかったアタシの弱さを断ずる為に。



この為だけに着たフードを深く被って顔を隠し、ミストに睡眠麻痺薬をありったけぶつける。すると事切れたように窓辺で外を見ていたミストは床にその身を叩き付ける。


「さようなら。あなた達との旅、悪くなかったわ」








────ガレットから十数km北東、アルストレアを囲む壁まで延びる広大な草原の中の道。


そこは普段ならば見渡しの良く、初心者が魔物狩りの練習場所として奮闘していたり、軍の演習に使われたり、川に近いところならば安息の休憩ポイントとして利用されていたり。


そんなある意味平和とも思える草原の真ん中に、フェリエは陣取っていた。

程なくして地響きがフェリエを襲う。しかしこれは天災では無く、ある一団の行軍によるものだ。


ドッドッドッドッドッドッ


次第に大きくなる音につれて、その音を鳴らす者の影が見えてくる。

見ればそのほとんどが亜人や魔獣。にも関わらず、統一性が皆無と言っていいほど、バラバラの種族が姿を現していた。

その中で一際目立つ存在に向けて、フェリエは声を発した。


「久しぶりね。あなたが壁の外に出る機会を今か今かと待ち侘びていたわ」


その相手とは、アルストレア王国現国王リベルタ=アルストレアその人であった。


「君のような者と知り合いだった覚えは無いが」


顔を少し顰めつつ、見に覚えの無い相手に疑問を投げかける国王。しかしこれはしょうがない事だ。何故なら転生した事で姿形が変わっているのだから。


「アタシに聞き覚えは無いかしら?リベル」


名を呼ばれピクッと頬を揺らす。その名で呼ぶ者は記憶上二人しか居ない。一人は自国のギルドマスターにまでなったグラン=ルルベル。だが容姿が一致しない。つまり…


「なるほど。あの時殺したはずだったんだけどね、フェリエ。まさか男に転生しているとは思ってなかったよ」


「思い出してくれて何よりだわ。あなた、王国から出ないんだもの。お陰で会おうとしても会えなくて残念だったわ」


普通、フェリエほどの大商人ならば王へのお目通しくらいは機会がある。だが、フェリエは会った事は無い。代わりにある事を知っていた。あの国を囲む壁の本当の意味と役割を。


「あの壁に施された『王への謁見に対して意識阻害する』魔術のお陰でね。流石リベル、凄い事思い付くわよね」

「…………何処まで知ってる?」

「何も。だから今から吐かせるのよ、例えあなたを殺す事になっても」


その途端、周囲を殺気が包む。ギルドで見せたような抑え込んだものでは無い本気の殺意。それは周りにいる数千は居るであろう亜人達を、本能的に後ろへと下がらせるほどである。

だが、リベルタ=アルストレアが腕を掲げただけでそれは止まる。亜人達の思考もリベルの思考も読めない。しかし、亜人達は操られ、リベルは正気である事は、商人として培ってきた感性で見抜いていた。


もはや戦いは止まらない。彼は世界を救うのでは無い。『人類を』救うと言った。その言葉が何を意味するのかは分からない。

けれど、彼は今、ある国へと戦争を仕掛ける為に動いている。

その国の名は"ルファ・ラテル"。かつて勇者が創り、そして邪教と悪魔が蔓延るとされる地へと。

きっとそこに何かある。彼がこうなった原因が。

だけど今それはいい。それはグランが何とかしてくれるだろう。

だから───


「グラン、先に逝くわ。あなた達は出来るだけ遅刻してらっしゃい」


冗談を交えながら、フェリエは死闘へと身を投じる。

予想してたより大分長く…

それよりも主人公より周りが主人公してるなあ。こんなはずでは…。


多分また半失踪します。

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