癒しの量産
ハル達との別れの数分後。俺達はフェリエの案内で買い物に来ていた。
オードやユキは先程の別れに心残りでもあるのか、口数が少ない。
オードからすれば、あの惨劇での事も含め、ずっと別れの連続のようなゴブリン生を送っている。そう思うと何だか俺まで悲しい気持ちになってくる。
あのゴブリンリーダーが殺された場所や道中では普通にしていたが、やはりまだ気持ちの整理がついていないような印象を受ける。
それはユキも同じで、ユキも同年代や近しい者と遊ぶというのは昔男の子二人と遊んだ事ぐらいで、女の子友達と寝食共にするのは今回が初めてだという。俺もガキの頃、よく友達ん家に泊まったがありゃ楽しいもんだよなぁと、ユキの心境を理解する。
だが、あれ以上共に行動するのは色々と難しい。
そもそも本人達が全然そんな雰囲気を漂わせてなかったので俺達も普通にしていたが、ハルとノーリンは貴族である。
いくら冒険者仲間といっても、本来気軽に接していられる存在ではないはず。いや、ホント今更なんだけどね?
それならそれをビビらせるフェリエは一体なんだっていうんだ、とも思うが、コイツはバグ的な何かなんだろう。気にしてはいけない。
まあそんな訳で、今はフェリエと俺が主に今後について話ながら必要物資なり面白そうな植物とか無いか、調合に使えそうなものが無いかと散策中である。
最近、錬金術師ってより薬剤師みたいになってきているが。
俺も本気で文字を覚えたいもんだ。
そんな訳で一通りの物資を買い込み(途中フェリエが商談モードで暴走していたが)、無事宿屋も見つけ明日出るギルド直営の馬車で、アルストレア王国行きの時間まで、俺達は各々睡眠なり休憩を取る事になった。
俺とオード、ユキが同じ部屋、フェリエ、ドルガは個々の部屋で休む事になったが、ユキは女の子だから別の部屋の方がいいのではと言ったのだが、ユキは特に気にしないらしい。
まあ…俺達の見た目がそもそもなぁ。けれど一応部屋は布で区切っている。オードがハァハァしているので。
フェリエは単純にまだ町をうろつきたいので、俺達が寝ている時に起こすのは憚られると思って別の部屋に。
ドルガはまだ信用が互いに置けない事もあるが、今は一人にして欲しいという事でそうなっている。
ちなみにケビンJrは牛舎で寝ている。流石にあの巨体を宿屋に入れるのは無理だった。
宿屋も魔物と亜人である俺達じゃ取るのは難しいと思っていたが、フェリエが話を付けてくれた。鑑定系の能力で確認されない限り、いや、確認されても魔道具を使って隠蔽しているのだが、見た目普通の人間に見えるフェリエをまさか魔人だとは思う人はいない。
そんな訳で久々の固いが暖かいベッドで、隣ではオードが爆睡し、その奥ではスヤスヤと寝息を立てるユキに微笑みつつも、日課の調合に精を出す。
別れの際にも使ったスライムの粘液、あれを思い出しながら。
俺が新たに手にした力、『眷属召喚』。
これは融合し消えてしまったかと思っていたスライムのライム。
試しにと夜番の時に使ったら、まさかのライムと自身の超小型サイズの分身体のようなものを召喚する能力だった。
ライム自体も、以前のものと比べるとその辺りにいるスライムに毛が生えた程度の強さだが、違いがあるとすれば能力の差異とその身体の質の高さだろう。
個体名:無し Lv.8
真名:無し
種族:スライム
属性:水
固定称号:ミミックの従魔
変動称号:無し
職業:農家
固有能力:Lv.2
吸収
分解
成長する足跡
能力:
成長促進 Lv.10
土壌強化 Lv.10
魔法:
酸弾
これが以前見たライムのステータスだったはずだ。記憶力は自身が無いが、変に俺寄りな能力だという事は覚えていた。
そして新たに手にした『眷属召喚』で生み出したライムのステータスはと言うと──
個体名:ライム
真名:ライム
種族:スライム
属性:水、地
固定称号:ミミックの従魔
変動称号:無し
職業:農家
固有能力:
『吸収分解』
『成長する足跡』
『異常分裂』
能力:
『成長促進』
『土壌強化』
『沼歩法』
魔法:
『酸弾』
俺の影響を如実に受けているのか、表示に『』がついている。
また、俺同様にレベルが無くなり、ある意味一定の強さがあるような感じがしているが、強さは以前ほどでは無く、耐久も弱いが、俺が能力を使う限り蘇生が可能になっている。
というか、多分本体は俺と同化しており、多分これは分身体なのではないかというのが俺の見解だ。
さて、それはさておき、幾つか気になる点を改めて分析してみるか。
まず吸収と分解が『吸収分解』というものに統合された。能力自体の効果は同じだが、以前より微妙に早くなってる…気がする。
『成長する足跡』、『成長促進』、『土壌強化』については以前と変わらずで少し安心。いや、農家に取ったら是が非でも欲しいだろうが。
そして新能力『異常分裂』と『沼歩法』。
まずは『異常分裂』から。これはどうやら俺が指示する事で発動する能力で、発動した途端分解を始めた。
1体が2体に、2体が4体にと増え、500体ほどになったところでこれはヤバイなと思って能力解除を命じた。すると一瞬にして先程森を埋め尽くさんとばかりに増えたスライム達は消え、元の様相を呈していた。最も、皆が起きる頃には異常に育った植物に囲まれており、皆驚きを隠せないでいたが。おそらくは『土壌強化』と『成長促進』、『成長する足跡』の効果の重複の影響だろうが。
ちなみにオードとユキとフェリエには一瞬でバレた。スマソン。
結果から見れば兵站や奇襲、囮や壁など幅広く使えそうな能力で、若干インフレじゃね?とか思っていたが以前より耐久が落ちているのを見るとそうでもないような気がしている。まあ、要は使い所の見極めが肝心か。それに『眷属召喚』自体、呼び出す時間が長ければ長いほど、自身の魔力を奪ってゆく性質がある。
そのぐらい無いと逆に怖いのだが。いやいや。
そしてもうひとつの『沼歩法』。これが結構面白い。
これはライムが通った道が沼化していく能力で、先程の能力と組み合わせれば大規模な沼地を作り出せる。足止めに使えそうだ。
ただ、『成長する足跡』と同時に使う事は出来ないようだ。まあ同時に使えても意味無さそうではあるんだがな。
そして忘れてはならない、『眷属召喚』の実験中の出来事。
ライムの能力の面白さについ見入っていた時の事だ。
足元で何かが、コツン…コツン…と軽い音を響かせて自身に当たってきている。
最初はただライムが石でも飛ばしたのかと思っていたが、ずっと響くので何かあるのかと思って、回る事の無いが故の首の為、その場で90度、箱の側面で立って見ると、何ということでしょう。そこにはまるで俺を超小型化したミミックが居るではありませんか。
大きさは横30cmあるか無いか、高さはその半分ぐらいと言ったところか。超小型化したミミック、と呼ぶのはしんどいので、仮称として"ミニック"と付けよう。
ミニックは完全に俺と同じスペックだが、ライムのように増えたりはしない。
が、しかし、何故かこのミニックの中に日本語で紙が入っており、しかも明らかに俺の字で書かれていた。
こんな汚くてミミズが這ったような字は俺ぐらいのものだが、こんなもの書いた覚えも、ましてやこの世界に来てから一度も読み書きをしていない。
不審に思いつつも、その紙に書かれたレシピ通りに調合をしたら…何故かこのミニックを量産出来てしまった。何なのこれ。
素材は何パターンかあり、素材によって色や大きさが微妙に違い、更に耐久力や強さにも違いがあるが、個性があって面白い。
しかも皆、俺に物凄く懐くのだ。これは引っこ抜かれて俺だけについて来る何かを彷彿とさせる。かわいい。
紙の事など忘れてミニックを量産しまくり、夜中追いかけっこで遊んだりしていた。
途中トイレに起きてきた奴等がギョッとし、もしや夢ではと寝直していたりしていたのにも気付かず、めっちゃはしゃいでしまった。いやぁ、俺もまだまだ若いな。
そんな訳で今調合しているのは我がかわいい同胞ミニック達だ。
素材はそんなに難しい訳じゃないにせよ、ライムを体内で召喚し生産に努めている。もはや俺は工場的な何かなのだろうか。
ライムとミニックという、ある意味俺の癒し達を量産していた俺は、背後に迫っていた者を察知するのが遅れてしまった。
それは俺が睡眠しないと同時に、気絶などもしないと思い込んでいたのも原因かも知れない。
結果、俺は意識をフェードアウトさせ、朝になるまでその事態を知る事が出来ないでいたのであった。




