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失敗勇者の邪神転生  作者: 杜邪 悠久
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別れ

フェリエの新たな一面を知り、一同戦慄しながらも俺達はギルドを出た。

一応、ハル達やユキも噂だけは耳にした事はあったらしいが、実際見ると鳥肌ものだったよう。俺も苔が立ちそう。


「と、ともかく助かりました。ありがとうございます」

「いいのいいの。ここの連中はあれぐらい強気で行かなきゃ、何されるか分からないわよ」

「やっぱりフェリエさんカッコイイし!」


商家の出であるルルを初めとして、フェリエを囲むようにお礼を言うハル達の面々。

何でも、あのバンとかいうチャラ男はガレットから目と鼻の先にある町で、クソ野郎で有名な貴族のようで、金と名声を武器に酒場の冒険者を束ねている。

自分が一番偉い、だからギルドでは俺が一番だと豪語しているようで、実力で戦績を伸ばす者や依頼達成率が高い者に絡んでは、金で着いてきた金魚のフンと共に酒場内で暴れ蹴落とすを繰り返しているらしい。

職員も注意はしているが、何分味方となる者、擁護する者が多く、なかなか鎮圧出来ないでいた。


しかし、先程フェリエが放った「覚えておく」の言葉、あれはフェリエの商会からは一切物を流さないぞ、って意味らしいんだが、フェリエ自体がこのアウリス地方ではかなりの名声を持っているようで、貴族とのコネもかなり強い。加えて本人も異常なほど強く、昔逆ギレした貴族が雇った傭兵集団を、全員倒した後、その貴族の家の敷地の花壇に、地面に首だけ出るように埋めたなど逸話は尽きない。

そんな人に覚えられた者の行く末は…、と子供を叱る際にも使われるほどだと言う。ホントかなぁ。


ともあれ、フェリエ自身が自分の知り合いだと仄めかした以上、もう手を出して来ないだろう。

ハル達も徐々に実力を付けてきた矢先に目を付けられ、仲間になる勧誘を断り、今の扱いとなっていたようだが、これからは堂々としていられると喜んでいる。


「本当に何から何までありがとうございました」

「別に何もしてないわよ」

皆を代表して言うハルに、手をヒラヒラと振って応えるフェリエ。

ハルは俺達の方も見るが何もしてないと無い首を振る。

「あなた達と出会えた事、本当に幸運でした。戦術や連携、野営、どれも座学や本では知り得ていても、実際やるとこうまで違うのかと驚かされました。僕達にとって本当に貴重な経験をありがとうございます」

そう言ってハル達は笑顔で、しかし物悲しさを漂わせながら言葉を紡ぐ。


本来、一緒に行動していたのは目的が同じ場所にあった事で、クエストの成功率を上げる為だ。だからここガレットに来る必要は無かった訳だが、本当なら探索を終え、両者の目的が完了した時に別れるはずだった。

しかし実際にはドルガを初め、オード、そしてフェリエの目的であるアルストレアの国王、リベルタ=アルストレアを打倒せんが為、より早足の馬車へと乗り込む為、また鎖国に近いアルストレア王国へ入国する確実な方法として、この地まで来た。

ハル達の依頼は完了し、フェリエからは馬鹿の予約が取れたと聞いた。だからもはや行動を共にする必要は無い。

ハル達もそれが分かっており、自身の生活の為、果ては学生生活での単位を取る為、次のクエストを受ける必要がある。

だから俺達とはここで別れるというのは、道中事前に話を付けていた。

いたのだが、実際別れるとなるとそれはそれで悲しい。これがゲームならフレンド登録でもすればログインしているかとか見れるのだが。……そうだ。


「カニス、そう言えば前に言ってた腕輪の作り方、あれ分かるか?」

「腕輪?…そっか!あれか!あれは確か…」



数分後、カニスに教わった腕輪の調合が終わる。腕輪の調合、これだけ聞くとかなり変な文章だな。しかし調合で間違いない。

カニスから錬成のレシピを聞いていた時、知識はあっても自身の腕では作れないからと諦めていた物が幾つかあり、いつかそれを作るのが夢だと語ってくれた事があった。

その中に、薬の効果を持った腕輪の話があった。


『引き合せの腕輪』

腕輪自体は普通の魔鉄から作ったものだが、そこに薬品の結晶を取り付けた魔道具の一種。

薬品の結晶は魔晶石をベースにアウリスリザードの血合い、魔銀、メールの花粉、ヒイラ草を煎じたものをスライムの粘液で固め魔力で圧縮したものだ。

メールの花粉とヒイラ草以外は、あまり市場に出回らず、しかもベースとなる魔晶石もある程度の大きさが必要と、かなり難度の高いレシピの上、専用の機器で圧縮するか魔法使いを雇う必要があり、錬成された例はあまり無いという。

そんな話を聞いた時、一応作れる事は作れるが、特に必要性も無いしカニスの夢を奪っては、と思って作らずにいた。


しかし、今その現物を俺達は作り上げていた。

俺が材料を用意、調合し、オードに圧縮と取り付けをお願いし完成したものだ。

この腕輪は一度限りの効果なので、はっきり言って労力に見合わない代物なのだが、ハル達になら惜しくも無い。まあ、材料が俺にとっては簡単だしってのもあるのだが。


本題の『引き合せの腕輪』の効果というのは、その結晶を砕く事で直径1km程度の範囲内に居る者の位置を知らせるという、恐ろしく使い道の無さそうなものだ。

しかも、同魔道具を持った者が複数居る場合、その全員の位置を知らせてしまうという欠点もある。

しかしこのレシピにはまだ秘密がある。

日夜ハルやノーリンに文字を習い、本を借りては勉学に務めたカニスだからこそ、この腕輪の本当の使い道に気付けたものである。


この腕輪の結晶部分を作る際、材料の他に特定の者の血液を混ぜ合わせておく事で、効果がその者達にのみ発動するようになる。

つまりは、複数居る場合でも位置はその材料に使った血の主しか反応しなくなる。

今回、オード、ユキ、フェリエの血と一応俺の身体、木片をオードに削って調合してあるので、ハル達が『引き合せの腕輪』を使用した場合、必然的に俺達の誰かしか反応しない事になる。俺は反応する対象に入っているのか不安だが、こうして鑑定を掛けても問題無さそうなので多分大丈夫だろう。


この"位置を知らせる"というのは、単純に位置が分かるだけではなく、その人の視点が数秒だけ垣間見られるという、千里眼の狭小版みたいなものらしい。

範囲も狭いので本当にお守り程度の物なのだが、それでも近場に入れば出会える可能性がある。小さい町ならばそれも高い。

とは言っても、この世界がどれだけ広いのかは分からないが、魔物や魔獣が闊歩するような世界だ。生きて出会えるのは本当に奇跡的だろう。

だからこれは次の再会の為のものではなく、互いの交友の証としてのものだ。ハル達もこれを本当に使おうとは思ってもいないだろう。


だからか、これを渡されたハル達は握りしめるように胸に当てる。この出会いを忘れぬように。


「またいずれ会おうぜ。今度は皆が俺達を討伐出来るぐらいになってな」

そう言って振り返らず、俺達は雑踏へと紛れていく。

それをずっと見送るハル達。


「最後まで無茶苦茶な人達だよ」

それを言ったのは誰か、言った本人もつい言葉になって出てきたのだろう。しかし全員が同じ感想であり、それぐらい彼等と俺達の旅は濃密な思い出へと変わっていた。


「よし、次のクエストの前に宿を取ろう」

ハルの言葉に涙を拭い腕輪を嵌め、歩き出す面々。その背中は旅立つ以前のものとは違い、大きく堂々としたものになっていたのは、まだ本人達が知り得ない事だった。

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