ギルドでの扱い
俺達一行はハル達の案内の下、町の中心部にあるギルドを目指していた。
この町には城が無く、貴族なんてものも居ない。流れの貴族は居るには居るらしいが。
では何が町の決定権を有し、民を導いているかと言えば、ギルドがそれに当たる。
ギルドと言っても、ここにあるのは統合ギルドと呼ばれるもので、商業ギルド、冒険ギルドの二つが統合したものだと言う。
てか、そんな区分けあったんだ、ってのが俺達の感想である。
だがユキに聞けば普通に「常識」と一蹴された事から、聞くほどの事でも無い普通の事らしい。知らんがな。
冒険ギルドってのが俺達が登録したギルドで、主に住民達の相談や国からの問題を依頼と言う形で発行し、冒険者達がそれを受注、達成するのを円滑化させる組織との事。
もちろん、依頼を達成させた場合には依頼者からの報酬が入り、ギルドにも仲介料が入る。
個人でギルドを通さずに依頼を受ける事も出来ない訳ではないが、ギルドではその依頼がどういった内容かをある程度調べてからクエストという形式を用いて発行に至る。
一方、個人からの場合は自力で全て調べなくてはならず、どうしても安全性や労力に見合わない仕事が多い。
そう言った意味でも、ギルドという存在は冒険者にとっては有難く、またランクを上げれば上げるほど、信頼や受けられる依頼の幅が広がる為、冒険者はよりギルドに貢献するという仕組みだ。
もう片方の商業ギルドは、物流や運搬、関税や審査などに重点を置いたもので、商人から持ち込まれる品物の違法性や品質、更には品物を管理、魔物や鉱石の解体・加工なども手掛けている。
そしてある程度の平均物価を決めたり、情報の交換や商売の為の権利の発行など、はっきり言えばよー分からんが商業に関するほぼ全てをこのギルドが解決しているという。
仕組みとしては、依頼者と依頼者のマッチングをギルドが行い、仲介料を取ると言うのが主な収入源らしいが、その依頼者がどう言った形でどういう商売を為すのか、またその商売は何と何を取引するのか、全てギルド側が把握するらしい。
そして冒険ギルドと違うのは、クエストとして掲示板などに貼り出すのと違い、ギルド側に訊ねない限り情報が公開されないところにあるという。
共通したい情報はもちろん貼り出すようだが、個人情報や物流の流れ、運搬経路など、情報自体に価値があるものには厳しく規制を掛けている。
その辺は流石商業都市だけあってガッチリしてるなと思った。まあ、フェリエが噛み砕いて説明してくれたんだが、俺の空っぽの頭には少々理解が足りなかったらしい。
そうして話を進めるうちに、白い宮殿みたいな建物が見えてきた。
「え?これギルドなんスか?」と隣で言ってるが、これに関して言えば同意見である。これギルドかよ。
白い波打つ円柱が何本も立ち並び、屋根は青色で三角。なんかゲームで見る神殿ってこんな感じだよね、って風貌だ。
「ここの町はギルドで成り立ってるようなものだから、見栄でこんなの作っちゃったのよねぇ」
フェリエも顎に手を置きウンウンとしみじみと頷く。
いやいや。どんだけだよ。
ギルドに近づくに連れ、ハル達の顔色が険しいものに変わっていくのが分かる。
普段おちゃらけた雰囲気のカニスや、暴走しがちなノーリンまで。
それとなく理由を理解しつつも、ギルドの扉へと手を掛ける。
ギルドの扉は二つあり、一つは商業の、一つは冒険のと分かれている。
一応、中からも行き来は出来るみたいだが、俺達は特にそちらには用は無い。迷いなく右側の冒険ギルドへの扉を開く。
だがフェリエは商業ギルドの方も見たいと言って、左側の扉へ進んで行った。
開いた先はエントランスのような、受付カウンターがあり、その奥の通路を少し進むと、酒場に併設されたあのペナントの受付口が見えてくる。
左手に酒場、真ん中奥に受付口、右手に貼り出し掲示板って感じだ。
意外とスペースがあり、普通の酒場の面が強いように思う。
しかし、アルストレアでは見なかった光景も見え隠れしている。
つまりは商人達が冒険者達との会話に花を咲かせる光景だ。
この酒場に向かうまでに通ってきた通路には、少し手前にも左手に通路が延びている。
その行く先はもちろん商業ギルドへの通路であり、商人達は買い付けは荷物の管理などの仕事を終えると、この酒場へと顔を出しては、傭兵の雇用や情報収集に精を出す。
一見飲み食いして大騒ぎしているだけにも思えるが、それに混じって聞こえてくる情報に、フェリエも静かにクスクスと笑っている。怖ぇよ。笑顔がまるで悪魔が笑うかのようだ。
いや、そもそも夢魔だったっけ。どうやら人間達には認識を誤認させる魔道具を使っているとか言ってたけど。
そろそろフェリエの眼光が怖いので、この思考は止めよう、うん。
でだ。確か道具袋が依頼達成させた時の受付口だったかなと思い出しつつ、そこへ向かおうとした時、ふいに横から声を掛けられた。しかも嘲笑付き。ああ、多分また魔物が〜とか言う輩かぁ、とか思っていたがどうやら矛先が違うらしい。
「よお、ハーヴェルトじゃないか?」
声を掛けてきたのはハル達と同年代に見えるが、チャラく蔑むような視線を向けてくる焦げ茶髪の男。
後ろにはスタッフを持つ少年やドデカイ盾を担ぐ大男の姿も見える。
「あ、ああ。久しいね、バン」
受け答えに応じたハルの様子から察するに、どうやら見知った仲だと分かる。けれど、ルルはミィを自分の背に隠し、ハルとカニスもノーリンとルルを守るかのように立っている。
何でそんな警戒する必要が?と思っていたのも束の間、すぐにその疑問は解消される。
「まさか本当に帰って来られるとはな。どうだったよ?調査もされてないクエストを受けた感想は」
「君達に勧められたランクDのクエスト、なかなか大変だったよ」
そう言えばそんな話があったな。確かギルド側が調査していれば±表記が付くんだっけか。
俺達が受けた時はグラちゃんからの依頼だったから、ランクなんて見ていなかったが、実際信頼があれば一つ上のランクまでなら受ける事が出来るらしく、今回受けたのもハル達ランクEからすれば難しいものだったらしい。
じゃあ俺達が簡単だったかと言えばそうではなく、ギルド毎に微妙な内容の差があり、目的も違う為、受ける場所によって難易度は変わってくるようだ。
一応、ユキに確認してみると、俺達は単に周辺散策みたいなもので、ランクはEとの事。マジか。ユキ曰く、奥に行き過ぎ。
ハル達は地形調査という、時間も掛かるが戦闘を重きにおいていない為、それほど高くないという判定らしいが、それでも奥への調査が必要で必然的にランクが高くなってしまう。
なのでハル達も最初は別のクエストを受ける予定だったようだが、目の前のやたら絡むチャラ男が気になる。
ついでにユキに色目使うのはやめてほしい。切れそうだ、主にオードが。
「大変だったねぇ〜。養成学校じゃ万年のビリだった最弱騎士様が、少しクエスト達成したからってえらく強気じゃねぇか?」
「いや、ただ僕は思った感想をそのまま言っただけで…」
「お前みたいなザコでノロマで何も守れないような奴が、ミーシャや他の女の子を侍らせているなんて。流石は身体で皆の心を掴んでいるだけはあるな」
「なっ。そんな事」
「もしくは金か?一応騎士爵だけあって、金で仲間を買っていますってか」
「ちょっと、さっきから黙って聞いていれば言いたい放題言ってッ」
見兼ねたノーリンがハルとバンとかいう野郎の間に入ろうとするが、ハルは必死にそれを制する。
「待て、ノーリン!いいんだ。このくらいどうって事無いよ」
「でも!」
「ハッ。呪術の制御もうまく出来ず、相手を触らなくてもいいと軽い考えで槍を持ったお嬢様に庇われちゃ世話ねーな」
「な…んですって」
ノーリンは怒りに手を震わせる。と同時に、正論を言われているのだろう。その目には涙が滲んでいる。
確かに道中そんな話を聞いた。自分の力に悩み、家族からの疎外感があるとも言っていた。それでもひたむきに自分なりの解決策を探した結果が槍術だったんだと思う。
それをよく知らないが目の前のチャラ男に貶されている現状を見て、流石に俺もムカムカしてきた。
だが落ち着いて辺りを観察してみれば、周りのさっきまで愉しそうに商売や護衛の打ち合わせをしていた者達までが、まるでハル達に好奇の視線を向けている。
この感じ、まるで魔物を異物として見る俺達がよく知る感覚だ。
中には俺達に向ける視線もあるが、その殆どがハル達へと突き刺さっていた。
最初に見たルルやミィの反応からして、おそらくこれが初めてではないのだろう。
ハルやカニスはこちらに向けて、済まない…といった顔をしている。
ミィは青ざめ怯え切っており、ルルもミィを支えてはいるがあまり顔色は良くない。
「一体皆が何したっていうんスか!」
観察していると、ついに我慢が出来なくなったのか、オードが怒号を飛ばす。
周りの者達は一瞬ビクッと震えたが、すぐさま蔑む目を向ける。
「なんだてめぇら。もしかして虐められてるからって魔物なんかテイムしてきたのか?」
「しかも見ろよバン。ゴブリンだぜ?」
「ぷっ。ゴブリン(笑)。剣の腕前も最弱なら、捕まえてくる魔物も最弱ってか」
「だけど今のゴブリン、喋らなかったか?」
「まさか魔物化させられた犯罪者…」
「うげっ。マジ最悪だな。流石は騎士爵の四男坊。世俗に疎くても困るわー」
オードはただ普通に怒りを露わにしただけだったのに、それを見た奴等の反応は悲惨なものだった。
口々にハル達の事を貶める発言をし、あまつさえ暴力を振るおうと殴りかかり、寸止めしては笑い合う。なんだここは。ここではこれが普通だってのか。
前のようにユキが皆を制してくれるわけでもなく、ましてや俺達が発言すれば、それをまるでハル達の非難材料に変えてきやがる。
ただ報告と寄っただけだったのに、まさかこんな展開が待ってるとは思ってもみなかった。
また残業の彼方へ失踪します。きっと。




