交易都市 ガレット
フェリエの話にツッコミを入れまくったせいで、若干バテてるオードとドルガが、ケビンJrの上でぐったりだれてきた頃。
時間にして2時間も経っていないぐらいで、ようやく大森林から抜け出たのか、木々も疎らになってきた。
更にフェリエからはもうすぐ街道に出ると言っている。
どうやら万里眼で先読みしながら案内をしてくれているようだ。
少しすると完全に森を抜け、踏み固められた土の地面が姿を見せる。
日数的にはそんなに居たような感じはしないが、久々に外界に出てきたニートみたく、照り付ける日差しにうぅ…と声が出そうになる。もし俺に手があれば、きっとそんなポーズを決めていただろう。
いや、もしかしたら『構成変化』で…。
とアホな事を考えたりしたが、実際にはこれは出来ない。
この『構成変化』は、あくまでも自分の取り込んだ(収納した)事のあるものの性質を自身に反映させるもので、先の戦闘の如く身体を鉄と同等の堅さへと変化させたり、スライムのようにジェル状になったりと、身体の素材が変わるだけで形までは元の身体に沿った程度しか変わらない事は夜のうちに実験済だ。
手っぽい何かを作れれば…なんて思ったが、そうそう箱生はうまく行かないもんだぜ。
でも逆に考えれば、よくアニメやゲームで見る、身体を色々なものに変化させるドッペルゲンガーちっくで、それはそれでテンション上がるな!とも思ってたりする。
元はライムの…スライムの能力だったようだが、謎の融合によってスライムの適応力的なものが備わったんだと思う。
ゲームでも毒沼には毒の性質を、鉱山には鉱石の性質を持ったスライムが出てくるけど、あれも主食─取り込む物─によって身体が変化しているのだとすれば、確かにその力が受け継がれているんだなと感じる部分ではある。
俺の収納能力と組み合わせれば、きっと世にも恐ろしいカオスなミミックが出来るだろう。
…全く。今から町に向かおうって時に何破壊兵器作ろうぜ!みたいな事考えてんだ。シャッシャッ!
頭の中で手を振り払う動作を思い浮かべながら、フェリエの案内で街道を沿って走る。
やはり森の中よりも道は走りやすい。
当たり前のようだが異世界じゃ結構珍しい方だと言う。
なんでも、地球みたく整備が整った道ってのはかなり珍しいみたいで、道自体も獣道を通る事が多いとの事。
一応今通っているような、土を踏み固め、馬車が通れるぐらいの幅を持たせた道も無い事は無いようだが、それでも山を掘り抜いてまで道を繋げた今代のアルストレア国王は化物だと言われるぐらいには、かなり凄い事のようだ。
それに山は凹凸が激しいところが多く、俺自身の移動が回転による移動のせいもあり、高確率でアップダウンとジャンプを繰り返す。
収納内の空間にはそんなものは影響が無いが、俺自身が割と辛い。
いや、この身体になってからというもの、この移動方法を確率させたおかげで移動も楽になり、元々人間だった前世の地球の自分と比べれば、スケート選手かって思うぐらいの三半規管の強さを得ているのだが。
それでもこうもアップダウンを繰り返していると、身体がかなり傷つく。
今でこそ『修復再生』や回復薬があるものの、最初期の頃の俺のボディはかなり傷だらけだったのではと少し怖くなる。
そういやあの頃に比べると、いつの間にか坂道でも苦労せず登れるようになっているのは、地味だが凄い進歩だと思っている。
昔のジャンプ移動もどきが少し懐かしくもあり、まだそんなに日は経ってないはずなのに、随分慣れてしまったものだと感傷に浸る。…オードの嗚咽音さえ無ければ。
そんな『道』っていいなーと謎の思いを胸(なんて無いが)に走り続ける事30分ぐらい。
腕時計やスマホで時間を確認したくなるのはもはや現代人の習慣だなと苦笑した辺りで、周りの景色が変わりつつある事に気付く。
辺り一面森だったのが、広大な草原に変わり、更に奥には小麦畑だろう黄金色に揺れる作物が見えてきた。
森とは違う吹き抜ける風に心踊りながら、黄金色の波に通る道を駆けていくと、地面が土ではなく石畳に変わっていく。
地球と比べればかなり粗雑な造りだが、これはこれでいいなと思う自分もいる。
そうやって楽しんでいる俺の耳に聞こえる、今にも吐き出しそうなオードを収納すべきか悩んでいたところで、目の前に石造りの立派な門が姿を現す。
門の前では行列が出来、入国審査の順番待ちだと思われるそれは、アルストレアではそういや見なかった光景だと気付き、フェリエに訊ねる。
「そういや、アルストレアに入る時も検問みたいなのがあったんだが、行列どころか人が全然居なかったな。ありゃ何でだ?」
するとフェリエは少し考えユキを一瞥した後、ハァーと溜息をつく。その際、ユキが少し視線を逸らしたのは何でだろうか。
「今代の国王の意向でね、アルストレアへの入国を極端に減らしているのよ。なんでも戦争をする為に出国を禁止して、入国は商人や物資運搬だけに留めているとか」
「俺達は普通に入れたけど?」
「ユキちゃんは…まあ、特別だからね。本来なら出る事も不自由するのだけど。
出国の際はアタシも居たから、きっとフェリエちゃんの魅力にノックアウトしたのよ」
「はいはい」
はいはいって何よーぷんぷん、みたいな愚痴が聞こえるが今は無視だ。関わってはいけない。
確かにギルドでも一目置かれているのは、グラちゃんの反応から見ても明らかだ。
そういや、グラちゃんって呼び方、まさかフェリエにそう呼ばれたいからか、もしくはそう呼ばれているから言ったんじゃ…。
ともかく、ユキが割と王国にとって重要な立ち位置に居るんだろう、そう思う事にしよう。
そんな会話で盛り上がっていると、行列の最後尾辺りから魔物が出たぞー!みたいな声が上がっている。
どこだ?とか思ったがそれも一瞬のこと。うん、俺達の事だね知ってた。
すぐさま衛兵が駆けつけるのを見て、どうするんだと話をしようかと思ったが、ハル達が外に出してくれと言ってきた。
衛兵がもうあと少し目の前に差し迫るかってところでハル達が虚空から、まあ俺が口開けた瞬間に飛び出てきたんだが衛兵には少し遠かったので虚空から現れた風に見えたそれが、更に場の緊張を高めてしまった。
だがハル達は恐れずに衛兵に向かい、何やら話をしている。
既に衛兵は4,5人おり、半月型で後ろの門を守る形で陣取っている。
ハル達はそれすらも気にせず、ギルドカードを見せて話を進めると衛兵の一人がこちらに近づいてくる。
そしてこう問われた。
「アルストレア王国の大商人フェリエ様と同国、ギルドの疾風と謳われたユキ様、並びにその使役する魔物で間違いございませんか?」と。
多分、ハル達が適当に言ってくれての事なのだろう。
確かに俺もスライムを(偶然)テイムした事だし、魔物を使役する事は普通の事なんだと思う。
アルストレアでは見なかったが、行列を見ると檻の中に入れられた魔物を連れる商人が何人か見える。
多分、奴隷かペットみたいな扱いなんだろうなあと、今の自分から見れば少しイラッとする光景だが、自分が人間だったらと思うとそれが異世界の普通なのかなとも思ってしまう。
ただ問題なのは、俺達が檻にも入れられずに普通に並んで来た事を疑問視されたってところだろう。
本来そういう扱いをされているのならば、手錠や首輪ぐらいはあってもいいものだろうし。ミミックに手錠や首輪を掛けるってなんだよ。いやいや。
「ええ、間違いないわ。騒がせてしまってごめんなさいね。アタシ、放任主義だから」
「いえ、問題無いのであればいいのです。近頃、アルストレア王国でも戦争の為に魔物や亜人を使役する動きがあるとかで。
おっと、話が過ぎましたな。どうやら彼等もギルドでの任務を受けた者達だと、今伝令から連絡があったようですので、身分証明も確認致しました」
どうもハル達の話が本当かどうか疑っていたらしく、自分達はここの町でクエストを受けた者だと言ったようだ。その確認が取れたって事で、衛兵達も得物を仕舞い、そそくさと門へと戻っていく。
先程からフェリエと対応している衛兵さんが、まさに今確認も取れましたので…と行列をスルーして俺達を案内してくれている。
この行列に並ぶのはちょっと、と思っていたが、結果的には早く町に入れそうで何よりだ。
最も、こんな扱いは二度目は来ないでほしいな。…ムリダローナー。
そんなこんなでやって来ました!交易都市ガレット!
門をくぐった瞬間から漂う、パンの焼けるいい匂い。
屋台が立ち並び馬車が行き交い、そこら中で商人達が買い付けやら商売をする姿が目に付く。
どうやら小麦の生産に力を注いでいるのか、パン関係の店が多く、フェリエに聞いても特産になるほどの人気があると言う。
オードが酔いから復活したかと思えば、俺に金を請求し買い食いを始める始末。
差別や偏見で追い出されるかと心配したが、どうやら商人達は金を持ってきてくれれば、ある程度対応してくれるようだ。
もちろん、客の善し悪しは見ている気がするが、今のところオードに何か危害を加える素振りは無い。
最も、オードの隣ではカニスが「おっちゃんオマケしてよ」「おうカニスか、久しいじゃねーか」とか会話してる辺り、そんな気にする必要は無い気がしてきた。
ドルガの方は職人気質のせいか、行き交う馬車を見て感心していた。
馬車なんて珍しいもんじゃないんじゃ、とも思っていたのだが、どうやらこの馬車の造りは異世界人がもたらしたものらしい。
いままでの馬車は、木製で屋根無しの荷車みたいなものだったらしいのだが、今行き交う馬車はどれも布やら木製の屋根で、各場所に鉄っぽい金属の繋ぎも見られる。
こういう細かい技術を異世界人から吸収しているようで、世界の文明を進める上で、貢献しているのだと饒舌に語り出す。
しかしこういう恩恵がある一方で、兵器や戦法の類いで人々を脅かす知識もある為、一概に誰しもが異世界人を好いているとは言いきれないとの事だ。
と、各々が好き勝手に行動する現状だが、元々の目的があるだろと皆を制し、それならギルドから馬車を手配して貰った方が確実だと言う事で、ハル達の依頼達成の報告ついでにギルドへと足を運ぶ事にした。
その時小声でルルが「大丈夫だから」とミィの肩に手を回し、支えているのを俺は見逃さなかった。




