次の目的地は
「そしてフェリエちゃんは、アルストレアで商人として成功し、グランと共にアルストレアの三柱として国を掌握するのでしたー」
「でしたー、じゃないわっ。最後だけふざけるんじゃねぇよ」
「えー、だって何か恥ずかしいじゃなーい」
「お前が言ってきたんだろうが元はと言えば!」
話はとても真剣だった。まるで懐かしい物を見た時のような、けれどもう手に入らないかのような淋しさを持った瞳。
きっと、話以上に色々あったのだろう。
最後のは、明らかに声色がふざけてたが。
「ともかくだ、今の話から察するに、その魔獣が纏っていた黒い靄が、俺が言ってたのが同じ種類のものなんじゃないかって事だよな?」
「だと思っているわ。正直、遠目から見たあなたの強さも以前より遥かに延びているわ」
「うーん、けどなぁ」
フェリエの言う通りであるなら、あの黒い靄は俺がずっと持っていて俺が死んだ事が多分トリガーになって、悟りを開いたみたいなものなんだろうが。
でもフェリエの話を聞く限りでは、あの黒い靄はその魔獣が纏っているだけのものだと思う。
決してそこに意思は無く、じゃあ俺が見たあの靄は…
いや、最後の方で靄の塊、亡霊みたいなものになったとも言っていたか。
紅く光る瞳に鋭い牙……うーん。
俺が考えを巡らせている間に、ユキやオードとも話を重ねていた。
「つまりあの国王を倒す仲間って事っスね」
「倒したい、って訳ではないわ。アタシの目的はリベルの救済ってところね」
「救済…ですか」
「そ、救済。昔はまだ天然で馬車正直な部分があったんだけどね。なんであんな風になっちゃったのか」
「…彼は多くの命を消し去りました。それでもですか?」
「それでもよ、ユキちゃん。最終的に色々な人を敵に回すんでしょうけど、アタシはリベルタを元の優しいリベルに戻したいと思っているわ。
───例えどんな手を使っても」
最後にフェリエは小声で何か呟いたようだが、俺とオードにはその声は届かないでいた。
唯一、五感の優れたユキだけがその言葉を拾ったが、何故か俺達に教える事はしなかった。まあ、特に問題ない言葉だったと判断しよう。
フェリエは話終えると「早く寝ないと夜這いしちゃうぞ♡」と言って舌なめずり。オードがビクッとしていた。
逃げるように天幕へと向かうオードを見送りつつ、フェリエもゆっくりと同じ場所へ向かう。
ユキもコップを傾け一気に飲み干すと、「ミストおやすみ」「おう」と声を掛け合うとフェリエの後を追った。
誰も居なくなったのを確認し、俺は先程の話の整理をしていく。
あの話はきっと嘘じゃない。全て真実だろうし俺達を騙す気も無いとは思う。
だけど、全てを話した訳でも無い。あれはあくまでもリベルとどうやって出会ったかというだけで、助ける動機じゃないはずだ。
確かに命の恩人だから恩を返したいってなら話は別だが、どうも違う気がする。
まあ、言いたくない事をわざわざ聞くのもどうかと思うが。
ひとまずそっちは置いておこう。問題は黒い靄の方だな。
フェリエの能力が考えを読むものじゃなく、記憶を読むものだったなら、一番手っ取り早いんだがなあ。
多分だが、これも違う種類な気がする。
けれど、一度倒したはずが黒い靄の塊になった、ってのは引っかかるな。
つまりこの黒い靄は、命のストック的なものだったんだろうか。
だとしたら、何故俺の力は強くなった?
そもそも俺の場合、ライムが融合した結果の蘇生だろうが。
じゃあ一体…
があぁぁぁぁぁぁ!分からんっ!
あー、もうこの話オシマイッ!
とりあえずの目標はそのリベルって奴に直接会って話を聴く。無理ならオードの仇って事でぶん殴る。シンプルイズベスト!
そしてその後も悶々と考えつつも、一人夜空を見ながら延々と朝まで考えに耽っていた。
「んんー。ミストちゃんおはよ〜」
「おう。相変わらずお前らは早いな」
「皆爆睡っスね」
「きっと昨日の疲れが出たんだよ。でもそろそろ起こさなきゃね」
「ユキちゃん手伝うっスよ〜」
朝早く、そろそろ日曜アニメが始まるぐらいの時間だなあと体内時計が鳴り始めた頃、いつもの三人が起きてくる。
フェリエとユキは主に食事を作る為、オードは朝の鍛錬の為に早起きを心がけている。
なのでフェリエが鍋を用意し、俺は各食材と器を出し、その後オードと一緒になって鍛錬に励む。
ちょっと前まで、オードの攻撃パターンを見切るのも三回に一回は当たる始末だったが、今の俺には全ての攻撃の軌跡が視認出来るほどになっていた。
ま、視認しても全体攻撃とかは避けられないんだけどな。
特にオードは、魔法と魔法を纏った近接攻撃の搦め手が凄く上手い。
近接攻撃を受け止めようとすれば、左右上下色々な場所から魔法が飛んでくる。
こういうのを見ていると、やっぱり魔法ってこうだよなあと憧れてしま…げふっ。
「ああ!大丈夫っスかミストくん!」
「お、おう。今のは俺に効く」
少し油断すると魔法が全弾命中して身体がミシミシ言うので、まだまだ余裕ってほどではない。マジで。
そうこうしている内に、ユキが俺達を呼びに来た頃には、鍋を全員が囲い座っていた。
ハルとミィが若干顔色が悪いのと、ノーリンが明らかに寝起きなのはスルーしとくか。
「二人共遅いわよ。フェリエちゃん特製スープが冷めちゃうじゃない」
「久々のガッツリした鍛錬だったからな。スマンスマン」
やり取りしながらフェリエは各自器にポトフっぽいスープをよそっていく。
因みにこの木製の器は俺が作ったものだ。体内での作業もライムが融合してからはかなり早くなっていて、調子に乗って作ったものだ。割といい出来。
スープを飲み、途中オードがトカゲの肉を焼いて皆に配り、と楽しい朝食を取っていたが、ドルガがいきなり立ち上がった。
「ここまでの優遇、感謝する。じゃがワシにはすべき事がある。だからこれにて失礼す、がふっ」
立ち去ろうとしたドルガの足をフェリエは手で掴み、そのせいで思い切り地面に顔面を打ち付ける。超痛そう。
「ぐぅ…何するんじゃい!」
「何処へ行く気?」
「決まっとるわい!あの狂った国王を殺しに行くんじゃ!」
「少し落ち着きなさい、相手の力量も知らずに行って勝てるものでもないでしょう。あなたは一度完全に負けているんだし」
「そんなもの、やってみんと分からんじゃろ」
そう言って無理矢理振り払うと、ケビンJrの元へ駆け寄ろうとするドルガだが、その動線に俺が立ちはだかる。
「ミスト。お前さんまで阻むというのか」
「いーや。邪魔する気はない」
「だったら何故」
「何故も何も、わざわざ仲良くなった奴を死にに行かせるのは反対だってだけだ」
「甘ったれじゃな」
「俺は甘ったれでクソッタレだよ」
ジリジリと距離を図るドルガ。目には本気の攻撃の意思が見え隠れしている。
後ろのケビンJrはどうやら主とは違って、ドルガ一人で行こうとしている状況に戸惑いがあるようだ。昨日何かオードと話したせいかな。
言ってる間に、ドルガは愛用だと言った槌を高く振り上げ、地面ごと破壊せんと思い切り振るう。
だが、それが俺に届く事は無かった。
『地璧』
オードがドルガを囲うように、俺と分断させるように放ったお陰で、攻撃は遮断された。
「二人共、そこまでにするっスよ」
「いやぁ悪いなオード」
「ぐぬう」
ドルガは壊そうとするが、ヒビ割れる度に魔力を込め修復していくのを繰り返す内に、諦めて白旗を上げる。
「全く、頑固者め」
「お互い様っスよ」
「さて、落ち着いたかしら」
「ああ」
再び座り直し、今度は今後の予定について話始めた。
「ハルちゃん達とオルディンちゃん以外の皆は、目的はリベルの打倒、これで間違い無いわね?」
「そういやオルディンを朝から見掛けてないな」
「自分じゃ力になれないからって、オイラに挨拶だけして他のゴブリンの村に行ったっスね」
「なんでそんな大事な事…」
言いかけたが元々こちらが案内を頼んだ訳で、少しの間旅を共にしたからと言って、この先までずっとと言う訳じゃなかった。
けれど、挨拶ぐらいはしておきたかったな。
「でね、次の目的地はガレットに行こうと思うの」
「え…それって」
ハル達が反応しているが何処だそれ?
「ええ、あなた達が依頼を受けた町よ」
ガレット。
交易が盛んでアルストレア周辺では一番大きな町であり、ギルドの支部も存在する。
食材や武具の調達も比較的安く、拠点を構えるのに適している。
ハル達が依頼を受けたのもこの町であり、フェリエ達は道中この話を聞いていたようだ。
「ここからならガレットに行く方が近いし、そこから馬車を使えばアルストレアへ徒歩で向かうより断然早いわ。
で、ドルちゃんはどうする?」
「……町に着く前にドルちゃんだけはやめい」
作者夏バテる。




