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失敗勇者の邪神転生  作者: 杜邪 悠久
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フェリエとリベル 後編

拡散光弾(フォース)!!』

フェリエは臆する事なくそれを放った。幼き頃使った光弾(ホーリー)。その実体は魔力で光を包む事で魔素にその性質が移り発光するようになる。それを圧縮したものを更に速度を付けて飛ばしたものがそれである。

更に研鑽を積んだフェリエは、多重にそれを操る事が出来るようになっていた。

その光弾で石ころをリフティング出来、鍵穴を開けるという精密制御が出来る程度には。


だからその男にも、出来るだけ多角に死角を突くように放った。

これで行ける!そう思ったフェリエだが、次の瞬間、全てそれを潰され急迫し押し倒され、首筋に当たる冷たく鋭い感触に晒されるまで自分は凄いんだと、そう錯覚していた。


フェリエは気付いてなかった。

男とフェリエの間にある、"戦闘経験"という差に。

家族にも見張りにも悟られぬほどの手際で、そこそこと言われても最近力を付けてきた商家の中庭に入り込める程の手練。

その情報を知っていたにも関わらず深く考えず行動したフェリエ。自身の浅はかさを悔みつつも、現状打破の手立てを考える。

この時間なら両親のどちらかは店頭へ、片方は食事の用意を使用人にさせ、手ずからフェリエの下に持ってくるはずだ。

だからまだ、誰かに見られる心配は無い。

ならば、今は目の前の男を排除する方が先だ。


幸い、相手が理不尽な行動や盗賊などの賊物だった場合、例え殺してしまったとしても罪に問われる事は無い。

ならばとフェリエは、未だ小規模でしか発動した事の無い魔法を自身を包み込むが如く、それを展開しようとした。

この時それをしてさえいなければ、まだ自分は商家のあの部屋から見える中庭の景色だけが、自分が生きる世界だと思っていられたのかも知れない。



大魔を祓う煌めき(セイクリッドフォース)

小さく呟いた言葉を男は耳にした。


男とて大事な商品に傷は付けたくなかった。それでは価値が下がってしまう。

商家に物を価値を見極める天才が居るとの話はよく聞いていた。

なんでも遺跡から出た魔道具の使い方を見抜いたり、魔物から出た魔晶石の内包される魔力量を測れたり出来ると。

確かに商家ではそれ専門の魔道具だったり、特殊な能力を持つ商人が居ない訳ではない。

だが、地元では確かに有名ではあるが、総評としてはそこそこな商家。そんなところから果たして天才など出るのだろうか、そう疑問に思い諜報に努めた男は鑑定屋に行き着く。

あの夫婦が子供を店に置かなくなったのは、あの鑑定屋に行った後からだと。


そうして見つけた、魔法の才。

なるほど、確かに商家が必死になって隠す訳だ、と。

アウリスの地では魔法は忌むべきもの、それを商家の子供が扱えずとも適正があるなどと言われればどうなる?

無論、商家は潰される事になるだろう。最悪、評議会に掛けられて一家全員処刑か。くくく、なんてツイてるのか。

そして男は忍び込んだ、その子供が居る商家の中庭に。

諜報と潜入など男には児戯に等しいものだった。そして運よくその子供と出くわす。いや、勿論時間帯を合わせ図ったものだが、こううまく行くと気分がいい。

そして男は夢想する。この仕事が終わったら、どんな贅沢をしようか、どんな遊びをしようか。


しかし、それは叶わない。

男は意識する間もなく、塵芥へと姿を変えた。

救いだったのは、男が見た最後のものが、灰燼と化す自らの手足ではなく、幸せを夢想する走馬灯だった事だろう。


フェリエは消えゆく男に自然と安堵していた。

だが、その油断がいけなかった。

安堵した瞬間、魔力制御に少しだけ歪みが生じた。ほんの少し、小さな小さな歪み、それが命取りだった。


自身を包み込む光は、中庭をすっぽり覆う程の大きな光のカーテンを造り上げていた。

慌てて魔法を解くフェリエ。だが少し遅かった。

母親にその事がバレてしまった。目撃されてしまったのだ。



そして時は流れ、今─林での出来事─に至る。

両親も最初は隠蔽を図ったらしい。幾ら魔法を密かに練習していても、大事な子である事に変わりは無い。

だが、あの時放った光は目撃者を多く出していた。

両親は能力によるものだ魔道具の暴発だと言い張ったが、噂は明後日の方向へと連鎖していく。

そして例の鑑定屋から情報が漏れた事もあって、すぐさま真実に近い噂も流れ始める。

このままでは不味い。そう確信した両親は苦渋の決断を実行した。


その日、実に5年ぶりに外界へと外出許可が出たフェリエ。

両親が良いところに遊びに連れて行ってくれるのだと言う。

馬車の中では、久々の外出に心弾ませるフェリエとそれをやれやれと微笑む両親。

だが、フェリエには分かっていた。この後の結末を。


林の奥の奥、馬車を止めさせた母親と後ろから忍び寄る父親。

こうなるんだろうとは覚悟していた。魔法を極めようと思ったのも、いつかこうして破門され、外界で生きていかなくちゃならない時の為に。

魔法の才を知ってなお、自分を5年にも渡り匿い続けて来た事。

全て自分を守る為だと今なら分かる。


だから、父親がどんな顔で自分の後頭部を殴ったのか、母親がどんな顔で見ていたのか、きっとそれは──



林の中、薄れ行く意識の中で見た最後の顔は、ニンマリと笑う両親の顔だった。

けれど、両親の頬は微かに震えていた。

決して泣かぬように。決して悲しまぬように。

父親は手を伸ばすが、固く、固く、血が滴る程強く握り拳をして手を引っ込める。

母親は笑顔を崩さず、父親の腕に寄り添い支えていた。


別れの言葉はただ一つ、『生きろ』。

そうして馬車は林の外へと戻っていく。

それを見送ったフェリエは意識を闇に落とした。



暗い暗い林の中でフェリエは目を覚ました。

辺りは真夜中なのか、月の光が木々を差し込み、されど不気味な雰囲気に身を縮める。

両親の顔、仕草、言葉。今思い出す全てがフェリエに温かさと勇気をくれる。

だからフェリエは、馬車が来た逆の方へと歩みを進めた。


夜の森を進むなど馬鹿のやる事だ。

動かず朝になるまで待つのがいい事は分かっていた。

だがフェリエは大魔を祓う煌めき(セイクリッドフォース)で自身を守りながら、光弾(ホーリー)で道を照らしながら進んだ。

朝になっても、昼になっても、夜になっても。

林は森に変わり、森が岩場に変わり、岩場が山に変わり。

魔法を学ぶ傍ら、勉学の中で行商の術と野営の仕方を嫌という程頭に叩き込んだフェリエには、サバイバルの経験は無くとも知識だけなら豊富にあった。


そうして進む事何週間、遂に一本の道に出た。

足跡の痕跡を見るにまだ新しい、人間のもの。

この道の先は確か魔族領だったと記憶しているが、つまりはこの足跡は…


嫌な気配がした。とてもとてつもない大きな気配。

覚悟を決め、後ろをバッと振り向くフェリエ。

だが、予想外にも何も居らず、ホッとして最近の疲れが出たのかと苦笑しつつ先程の方向へと視線を戻すと…。



そこには一匹の魔獣がいた。

周りの木々よりも更に二回り程も大きい、獅子のような姿をした黒い靄を纏った魔物。

目は紅く、生えた二本の牙は長く鋭い。

ただそこに居るだけで、木々は枯れ、大地にはヒビを入れる。

直感で解った、自分は今から死ぬのだと。

自身の死期を悟り、手を耳に押し当て固く瞑った瞳。最後に思うは両親との思い出。

例え軟禁され、不自由な生活だったとしても、それが不幸だと思っていた訳ではなかった。

そんな想いを胸に目を瞑っていたフェリエは異変に気づく。

待てども待てども自身に痛みは走らず、もはや既に死んでしまったのかと目を開くと───




グガァァァァァ!!


目の前の魔獣は悲鳴を上げ後ろに飛び退っていた。

魔物特有の黒い血は、その魔獣自身が真っ黒い為よく分からなかったが、確実に傷を負っていた。

そしてその傷を負わせたであろう、まるで二つの剣を逆さに繋げたような…確か両剣や双刀などと呼ばれる武器を持った青年。

そしてその傍らで何やら補助能力を使う青年。

この黒い靄を纏った魔物も初めて見たが、それをたった二人で退ける程の腕前を持つ者を見たのも、これが初めてだった。


そのうちの一人、補助能力を掛けていた青年が、両剣で魔獣に攻撃を仕掛ける仲間を見やった後、こちらに歩み寄ってきた。

恐怖からか、足元が覚束ず立ち上がろうと懸命に足を動かそうとしていた自分に、スッと手を伸ばし言った。

「もう大丈夫。落ち着いて。ボク達が居れば怖くなんてないから、もっと力を抜いて、ね?」

そう笑顔で声を掛けられた。

その瞬間、自分でも驚くほど身体が軽くなるのを感じた。

思えばずっと、あの林に行く馬車の中から気を張り続けていたんだと、やっと気付いたのだ。

自分でも覚悟していたはずなのに、いざこうなると気が抜けなくなる。そんな経験を初めてした瞬間だった。


そんな初体験をしている間に、両剣の青年は見事敵を屠る事に成功していた。あれほどの巨体に傷を負わせる事自体、この青年は人間なのかと疑うほどである。

それを退けるではなく倒してしまうとは…自分の見識も狭いものだなと苦笑してしまう。

魔獣を倒し終わった青年は敵の生死を確認し、赤毛の青年とフェリエの方へと駆け寄ってくる。

「いやぁ、マジ強くね?」とか言いながらおちゃらけて笑う青年の後ろで骨が鳴るような音が聞こえる。

素早く振り向き、青年が見たものは、紅く光る瞳に鋭い牙が浮かんだ、先程倒したはずの魔獣の姿。

だがよく見れば、黒い靄がその魔獣の形を成しているだけで実体は無い。

そしてフェリエだけがその時聴く事になる。その魔獣の"声"を。


──チガウ

──ドコヘイッタ

──ハヤク……ハヤク…


まるで何かを探しているような"声"。

その"声"は二人の青年でもなく、ましてや自分の声でも無い。

まるで頭に直接響く、そう、念話に近い感覚。

魔道具の中にその類いに触れた事があるが、それよりも更に奥、魂を直接震えさせるかのようなそんな力。


フェリエが唖然としていると身体を誰かに揺すられている。

ハッと意識を戻すと、先程の赤毛の青年が肩に手を伸ばし「大丈夫?しっかりして!」と声を掛けている。

吐く息を感じるほど近い顔に、若干戸惑い目を背けるが、それが幻覚に掛かった症状だと思ったらしく、フェリエの顎に手をやり顔の向きをその青年の方に向け、じっと顔を直視する。

その真面目で真剣な顔に、頬の紅潮が抑えられず、顔に熱を灯す。

それを見た赤毛の青年が「来てくれグラン!この子の顔が真っ赤なんだ!多分あの魔物の魔力にやられ…」

そこまで言い切ったところで、両剣の青年─グラン─はハァ〜と溜息を一つついた後、両剣の柄を90°回転させたかと思うと、そのまま剣身を赤毛の青年に振り下ろす。

ゴンッと鈍い音と共に痛ったぁ…とフェリエの顎から自身の頭に手をやる青年。涙目になりながら、グランに何するんだと問いかけると、「よく見ろ。既に正気だろうが!」と放つ。

「いや、先程の頬の紅潮…魔力に当てられすぎて…」「リベルが顔を近づけるからだろうが!この天然タラシが!」と何故だか喧嘩が始まった。


話について行けず、オロオロとするフェリエに二人が気付き話掛ける。

「大丈夫?怪我は無い?」

そう言って少し距離を保ち話掛ける赤毛の青年─リベル─。

「あの、さっきの魔物は…」

「ああ、あれならどっか行っちまったぜ。何だったんだろうなぁアレ」

肩に両剣の剣身をポンポンと叩きながら、明後日の方向を見やるグランに、ようやく気が抜けた。

そして予想以上に疲労が溜まっていたフェリエはそのまま二人の前に倒れ込む。

その後の事はよく覚えていない。


後にフェリエの強い懇願により、二人の冒険に着いていくと決意し、アルストレアの三英雄として語られるのは、まだ遠い未来の話。ただ、その一人は災厄を産み落とすとされる大罪に染まるのだが。

お盆なのに仕事って…。

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