正体
トカゲの攻撃を捌いていた俺達の遥か遠くから、フェリエ達が丁度トカゲの右斜め後ろ辺りから木々を避けながら走って来たのが見える。
若干掴まってる奴等が今にも吐きそうな顔してるが。
そう思って見ていたら、フェリエがとても早い手刀を衝撃波を従えて飛ばして来た。
あんな早い手刀、俺じゃないと見抜けないね。
とボケかましてる場合じゃねえ!
あぶねっ!とゴロゴロと転がりながら、攻撃するにしてももう少しやり方があるだろ!、と文句と突っ込みを入れるべく起き上がりながらフェリエの方を向こうとして、俺は動きを止める。
フェリエが攻撃を放った相手は、トカゲでもドワーフでもなく、俺達の後方に『それ』は居た。
フェリエの高速手刀の衝撃波でボロボロになってはいるが、この姿は正しく─
「アウリスパララバット」
俺達も道中、正確にはオードとユキとの王都までの旅の中でだが、遭遇した事がある。
確か噛まれると麻痺する奴だったはず。
何故こんなところに?とか、何処から沸いた?など疑問に思ったが、直ぐに今は戦闘を優先するべきだとトカゲへと向き直すと、先程まで理性を失った猛獣のような雰囲気が一気に萎え、代わりに困惑しているようなそんな動揺を思わせる仕草をしている。
上に乗るドワーフも、キョロキョロと辺りを見回すだけで攻撃してくる様子は無い。
「一体どうなってんだ?」
「あら、やっぱり気付いてなかったみたいね。でも間に合って良かったわ」
疑問に首(なんて無いが)を傾げていると隣にまで近寄ってきたフェリエが声を掛けてくる。
「うん、とりあえず皆を下ろしてやってくれないか?」
ユキ以外は全滅していた。
ミィは目を回し、ルルはマーライオン、ハルは頬を赤らめ、見る人が見れば誤解しそうな何かに目覚めていそうな顔をしている。
うん、疲れてるだけだと思うけどね?
そんなグロッキーな三人を下ろし、それでもなお攻撃してくる気配の無いトカゲとドワーフを尻目に、フェリエに話の続きを促す。
「あれってアウリスパララバットだよな。どっから沸いた?てか何であれを倒してから、トカゲ達の様子がおかしいんだ?」
「んも〜、アタシも無茶して走ってきたんだから、少し休ませて欲しいわ〜」
そう言って以前オードがしたように、俺を枕代わりに寝ようとするフェリエへ回復薬をぶっかけてやった。
若干頬を膨らませ両手を握り顎の辺りに添えて、
きゅるるるん♪
みたいな効果音を出したフェリエに、イラッときて回復薬を乱打した数十秒後、ようやく脳ミソも回復したのか、話を続ける。
ちなみに効果音はそういう道具があるらしく、大収納から出した物で、密かに握り拳の中に忍ばせたものだ。手品師かお前は。
「うんうん、どうやら怪我もしてないようだし、お姉さん安心したわ」
「要らんボケを噛ます余裕があるなら、この状況を説明して欲しいもんだね」
「はいはい、せっかちね」と一拍置いてから今度は真面目な声音で説明する。
「アタシがあのバカと出会ったのは、サボり魔とバカが旅をしていた時でね、」
何の話だ?と突っ込もうと思ったが、いつものおちゃらけた様子が無かった為、とりあえず聞いてからにしようと言葉を飲み込む。
「二人は色々な国や地域を旅したそうなんだけど、そのキッカケを作ってくれた人が居たらしいわ。
その人は亜人だったみたいだけど、どうやらその人は転生者でしかも異世界人って、どこでそんな出会い方したのって、そりゃあもう笑ったわ」
「………ぁ」
小さな声だったが、フェリエの後ろの方から微かな声が漏れた。
しかしフェリエは構わず続ける。
「そのキッカケの少し前、彼等は種族的に対立していたせいか、一度試合と称した決闘をしたそうよ。勝敗は途中でそのキッカケの人の娘が止めたせいか、引き分けだったようだけど。
その戦いの中で、あのバカは『意識収束』っていう能力を使った。けれど、十全に働かなかった。
ただ相手の攻撃を一箇所に集める事しか出来なかった」
「ッ!?フェリエ、さん!それはどういう…」
声を荒らげたのはユキだった。多分、そのキッカケの人の娘ってのは…。
てか、あのバカやサボり魔って…ひでぇな。それとも信頼の証か。
名前からして効果はそこそこ予想出来るが、十全に働かなかったってのはどういうこった?
「あのバカも国王だからね、知ってる人は知ってると思うけれど、通称リベル、旧名リベルタ=ルルベル、そして現リベルタ=アルストレアの能力『意識収束』。
対象の意識を操る幻術みたいなもので、相対した者の意識を無意識に別の方向性を持たせて操る能力。
上手く使えば扇動するのも簡単、隠密行動すら余裕の能力だけど、発動中は動けないという弱点がある。
けれど、これは本来全く動けないなんて能力じゃないのよ。
本人もそれに気付いていたらしいんだけどね、断続的に掛ければ少しずつだけど動く事は出来るの。
けれど、それがその人とは出来なかった。何でだと思う?」
「何でって…」
ユキを俯き考え込む。
その人がどんな人かは分からないし俺が知ってる人じゃないのは分かる。
フェリエの口振りや目線を見れば、それはユキだけに問うような言葉。
だがチラリとこちらを向く瞬間がある。いやいや。
俺が知らない人なのに、分かるでしょ?みたいに向かれてもな…。いや、この会話の中に手掛かりでもあったのか?
そもそも、この会話の趣旨はトカゲとドワーフの場所から突如沸いたアウリスパララバットへの疑問。
そして、トカゲとドワーフの様子の変化。
トカゲとドワーフ…キッカケの人…ってまさか。
「転生者、なのか」
「あら、予想外の方から予想打にしない答えが返ってきて、お姉さんびっくりしたわ」
手の平を大きく広げ、顔の真横辺りに持ってきてわざとらしく驚くフェリエ。
茶化すなと言いたいところだったが、しかしだからなんだと言うんだと思っているとユキが思わず声をあげる。
「転生者に、能力は、効かない」
擦れそうな声でそう告げるユキに、フェリエが少し訂正を加える。
「正確には転生者には能力や魔法は効きにくい、ってところかしら。特に異世界の転生者はね。
理由は不明。研究チームも各国で立ち上げられてるみたいだけど、成果は無し。だから異世界人の転生者は戦争で重要な駒になる。
このトカゲちゃんとドワーフちゃんもそれに利用される予定だったみたいね」
「いや、いやいや。何か色々と話が明後日の方向にぶっ飛んでるけど、結局どういう事なんだよ」
堪らず聞いた。だって、何かいきなり戦争とかデカイ話になるんだもん。どういう事だってばさ。
「だからそのアウリスパララバット、"だったもの"ね。それは言わば常に影からこのトカゲとドワーフを操り続ける媒体なのよ。
このコウモリ、噛まれると麻痺するって触れ込みだけど少し違ってね。
噛まれると血液に乗せて脳に魔力を送り込んで幻覚を見せる、というのが本来の力なの。麻痺はそれの副産物でそう感じるだけ、思い込みみたいなものよ。
そのコウモリに更に『嫉妬の執念』という能力を被せる事で、目に映る全てを攻撃せよ、なんて命令でも出していたのでしょう。
コウモリの魔晶石自体にも細工してたみたいだけどね」
つまり、このコウモリは幻術が元々使えて、それをトカゲとドワーフに掛けていたって事なのか。
いや、俺達にも見えてなかったって事は、何処かで噛まれていたか。…あの幻術が一帯に広がっていた場所か。
最初から見えてなかったって事は、どうやらおびき寄せられてたって事か。
しかし妙だな。それならオードの魔力感知に引っ掛かるはずなんだが。いや、魔晶石に細工したってのはコウモリを操る事じゃなくそっちの方か。
フェリエや多分ユキもか、には見えてたようだし。
つまり魔力を感知出来るオードでは感知出来なかった理由は、視認が出来ない能力だから、だな。
ユキの千里眼とフェリエの万里眼は実物を視認する能力だったが、オードは実際見えてる訳じゃない。
つまり幻術の一帯の中にでも隠れていれば、オードの能力では見つからない訳か。してやられたな。
「流石だな、恐れ入ったよ全く」
「うふ、嬉しいわ。デレ期かしらね」
「……万里眼か、俺も欲しいよ」
「ふふ、索敵能力は確かに凄いけれど、広すぎるのも使い勝手が悪いものよ。それにアタシはあなたの能力の方が魅惑的だわ」
「隣の芝は青いもんだな」
「ええ、そうね」
なんて談笑していると、ようやく理解したらしいオードが声を掛けてきた。
「なるほどぉ、そういう事っスね」
「そういう事よ〜」
「どういう事だよ適当か」
「後ろの皆には説明しなきゃいけないみたいだけど、話を少しでも理解してくれるのは有難いわ〜」
後ろを見ると頭に大量の?マークを浮かべつつも、仲間の介抱なり回復なりをしているハル一行+オルディン。
そしてそれを未だ唖然と見ているトカゲ。
あとドワーフ…が、消えている。
と思って辺りを見渡そうとしたが、直ぐ近くのあの広場を見渡せる小さい崖に佇んでいた奴に話し掛けようとして、しかし先に向こうから声を掛けられる。
「これは、どういう事だ…ワシは、ワシは一体、何をしていた。
答えてくれまいか、強き者達よ」




