合流②
───チーム"白銀の風"
白銀の風一行はミスト達Aチームよりも先に異変に気付き、全員が全速力で合流を目指し歩を進めていた。
ユキは狐亜人の恩恵で長距離移動にかなりの力を発揮でき、また感知能力も有している為、先頭に立ち、チームの目として周囲を警戒していた時だった。
突風が吹き木の葉がザアアアと舞い散った。
グラロマニカ大森林は半月状に山で囲われているのもあるが、今居る場所はノーデンス大聖洞付近な為、その直下の陥没した地面を含め辺り一帯が低地になっている。
その低地に向かって魔力が溜まり、更にその魔力が陥没した地面に流れ込み、頭上のノーデンス大聖洞の能力素と反発する事で、突風が起こる事がある。
逆に言うなら、それ以外で自然な風が吹くのは皆無であり、何故か山々から吹き降ろす風すら、森の奥地に届く事は無い。
それはグラロマニカ大森林では常識であり、何の不思議も無い事である。
つまり今、ノーデンス大聖洞から少し手前まで戻ってきている白銀の風の位置から東側、丁度ミスト達が担当しているはずの方角から吹き込む風に違和感を覚えた。
なのでユキは皆に片手を突き出し合図を送り静止させ、自身は適当に目に付いた高そうな木に登る。
ぴょんぴょん、というよりはシュッシュッ、とまるで忍者のような素早い動きで数秒もしない内に天辺まで登ると、今度は千里眼を限界距離まで使いジッと辺りに意識を集中させる。
微かだが、高魔力の何かがぶつかったような余波を感知したその方角を見る。
すると東の空に突如として小さな竜巻が昇っていった。
距離にして10〜20km、ミスト達の移動速度(主にミストが収納を使って全員を運んだ際の)を加味しても、大きく目的地から外れた場所にいる。
グラロマニカ大森林の調査が目的の一つだとは言っても、最終目的地のノーデンス大聖洞から外れた場所に居るのはおかしい。
いや、あれがミスト達が居るとは限らない。
もしかすると風を起こせる魔物が居るのかも知れない。
だが、風を起こすだけならミストにもオードにも出来る事ではある。…ミストの属性が無な為、竜巻を起こす程には至らないであろうが。
だが、情報を得るにも合流するにも、竜巻が巻き起こった場所に行くのは必要な事だと感じたユキは、木の天辺から飛び降り、地面に幾分かのヒビを入れて着地した。
そして先程の光景を説明すると、
「多分だけど、アタシ達が探そうとしている敵と何かが戦闘していると見るべきね。その何かってのは、おそらくミストちゃん達でしょうけど」
「でも、確証は無いです」
そうだ、確証は無い。だけど胸騒ぎはする。
ただ、その胸騒ぎはざわりざわりとした恐ろしい事が起きる前兆というよりも、ドクンドクンとしたものに近い。
もしあれだけの幻術が使える者ならば、並の戦闘力より少し強いミスト達でも勝てるかどうかは分からない。
いや、楽観視し過ぎなんじゃないだろうか。
私はいつの間にか、あの二人ならなんでも越えられるような、そんな気になっていたのかも知れない。
あんなに穏やかに、楽しい時間を過ごさせてくれた彼等を特別視しているんだろう。
ほんの少しの間だけど、それでも初めて親以外で安心出来る居場所がそこにあった。
確か昔もそんな事があったような───
──やっぱりダメか、仕方ない。
──少し辛いかも知れないけれど。
──これも世界平和の為なんだ…さよなら、ユキ。
「ユキちゃん!聞いてる?!」
ハッ、と気付き振り向くと、皆がフェリエにしがみつき、おんぶに抱っこしている謎の状態に思わず呆気に取られた。
「えぇと…ごめんなさい、聞いてなかったです。皆さんは一体何して…」
「ち、違うんだ!僕は決して疚しい事をしている訳では」
フェリエの腰辺りにしがみつきながら、首を振るハル。
「ぷっ。男色とはまたまた特殊な性癖だし」
左腕に腕と足をガッチリ固めたルルがハルを茶化す。
「はわわわ。落ちちゃう、落ちちゃいますぅ」
落ちそうな恐怖からかいつもより流暢に喋る、肩車されているミィ。
何故こんな状態になっているんだろうと悩んでいると、その答えをフェリエが教えてくれた。
「今すぐそこに行くわよ!大丈夫!アタシなら全速力出せば二分ぐらいで急行出来るわ!」
どうやら移動の為に皆、フェリエにしがみついてると察する。
ただ、フェリエの目が明らかに「さあ早く」と言ってるが。
「あの、なら私は自分で」
「何言ってるのよ。アタシはあなたみたいに索敵能力は無いわ。アタシに合わせて案内しながら進むよりも、アタシが足になってユキちゃんが目になってくれた方が効率いいじゃない」
言ってる事は正しい…気がする。
だが言いかえれば、オッサンに少女がしがみつくという事案が発生する。
しかも、そのオッサンは事もあろうに胸の位置にしがみつけとジェスチャーしている。
このまま議論したいところだが、仲間の窮地にいち早く駆けつけたいユキは妥協に妥協を重ね、フェリエの背中に陣取る。
「んもう、照れ屋さんね」
返事は返さず、しかし急ぐように背中を二回程小突く。
小さい溜息をフッと吐き、軽く身体の力を抜くフェリエ。
その後、フェリエは自身に身体強化を掛ける。
『身体強化』
文字通り、自身の身体を強化し攻守共に効力を発揮する。
ドーピングなどとは違い、デメリットは存在しないが劇的に能力が上がる訳でも無い。
良く言えば絶好調の自分が常に発揮され、悪く言えば異常な力を手に出来る訳では無い、そういう能力。
レベルは効果時間に影響する為、幾らレベルを上げようとも時間が延びるだけでそれ以上特に何も無い。
そんな訳で割と普及率の高い能力ではあるが、それが転生者が使う場合少し意味が違う。
転生者は、生前の能力や魔法を引き継いだ別の身体であり、成長中の身体である。
更にそれが魔物の場合、人間では出せなかったポテンシャルを発揮できる。
そもそもが人間よりも元々の能力値が上な魔物が更に絶好調を維持し続ける能力を発動する。
つまり、どうなるかと言うと───
「「「「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
簡潔に言えば、思っていたよりもずっと速かった、である。
ミィがその弾けんばかりの膨らみに風の影響をダイレクトに受け、
ガッチリと掴まったはずのルルが振るう腕の遠心力と動かす早さに耐えられず吐き気を催し、
腰にソフトに掴まってたハルが今は全力でフェリエのお尻とキスを交わし、
そしてユキは、風の加護を十全に使い、フェリエの風の抵抗を減らし自身の影響も最小限に抑えていた。
こんな事ででも経験の差が出たと言える。
ただ単に、薪割りなども素手でやる様な者が、ただ全速力で走る、なんてのも普通じゃないんだろうな、と思っただけであるが。
そんな混乱に包まれながらも、的確に風の流れで位置を掴みフェリエへと指示する。
右なら右側を、左なら左側の背中を叩く。
そう何度かした後、前方に一組の集団を察知する。
全員が傷付く中、巨大なトカゲとそれを操っているであろうドワーフの騎手。それを相手取る、よく目にした、しかし何処か雰囲気が別物の箱。
それをフェリエも目視したらしく、全員に声を掛ける。
「皆、前方300付近に敵2。ミストちゃんがそれとやり合ってるわ」
「じゃあ、とりあえず気付かれないようにここら辺から隠密に近付いて奇襲を」
そう提案したハルだが、フェリエは止まる気配を見せない。
他の二人も慌てるが、ユキは『それ』を正確に感知する。
「うまく隠れているようだけど、アタシの目は誤魔化せないわよ」
そう言ってフェリエは振るう。
身体強化の上、身体狂化の一薙を『それ』に向けて。
なんだかんだで二週間。
仕事量がまた戻ってしまって忙しさが。。。
まーた更新が落ちます。いつも遅いんですけれどね。
早く森出ろよ。




