グラロマニカ大森林調査⑥
俺が調合に耽っていると、順々に皆が目を覚ましていた。
どうやら夜通しやっていたようだ。
こういう寝なくていい身体ってのは、寝るのが好きだった俺からすると、少し寂しいものがあるが、単純に動ける時間が増えるのはいい事なので、ミミック生も悪く無いなと思えてくる。
一番に目覚めたのはオルディン。
ゴブリンの生態は、基本的に人間と殆ど大差無いらしい。
オードも小さい頃は村に居たから知っている様で、それに別段違和感も無く暮らしていたようだが、今考えると生活水準が原始人に毛が生えた程度というだけで、人間とそこまで差が無いというのは不思議な事のようだ。
何でも、人間側から見たゴブリンというのは、人間よりも知能が低いが猿真似が得意で、自身より強い人間を真似る事で力を付けた種族、と認知されていた。
しかし、転生してみて生活してみれば、単純なだけで人間と思考は近く、食べる、寝る、以外にも家や娯楽を求める点は人間とほぼほぼ大差無い事。
また、魔物では珍しく、独自の言語を話す為、魔物の中では例外的に亜人として認められている事からも、ゴブリンが人間側に取って友好を結ぶに足る相手だとされている。
ゴブリン側としては、ただ普通の生活が出来れば満足らしいのだが。
ともかく、オルディンはそのまま川に向かい水浴びをした後、薪を幾つかと木の実を拾ってきてくれた。
俺の能力で食材も問題無いと言ったのだが、どうやら逆に気を使わせたらしい。本当にゴブリン何だろうか?
ゴブリンの方が社交的に見えるのは、ノーリンのせいだろう。
こちら側、唯一の女性にも関わらず、一番大喰らいで色香が薄い。
いやまあ、貴族ッ!!って感じで居られても困るんだが、こう…ねぇ?男の俺的にはなんかあってもいいじゃん?
……ええ、ミミックですよ、どうせ。
だけど一応女性なんだから、大の字で寝るのはどうなのか…。
とりあえず、オルディンに料理の手伝いをしてもらいながら、オード達を起こしていく。
こういう時に手足が無いって不便だな、って思う。
水面に映った自身の見た目は、まんま箱だ。
表現が箱で終わるぐらい箱である。
俺の世界のミミックでも手や舌があったのだから、この世界でもとは思うけれど、無いもんは仕方ない。
多分痛いだろうが、角でつついて起こす事にしよう。
オルディン以外の全員が、頭を痛そうに擦りながら目を覚まし、オルディンが作ったスープと焼きイモを食べながら、今日の予定を決めていく。
因みに俺は食べる事は出来ないので、余分を収納している。
詳細鑑定すると、スープがかなり美味しい事が分かり、味系の能力が本気で欲しくなった。そんな能力無いのかな?
「それにしても、夜番中ずっと調合してたんだけど、魔物どころか何も近寄って来なかったな」
まるで白昼夢の如く、昼間にあんなに魔物と遭遇したのが嘘の様に、夜番の間全く魔物と遭遇しなかった。
しかも、今朝方フェリエの方に『念話』してみると、向こうはそこそこ居た程度で、遭遇率はそれほど高くなかったようだ。
「つまり、向こう側にいた魔物がこっち側に移動してるって事か?」
「かも知れないっスね」
カニスが意見し、それに同調するようにオードも頷く。
俺もそう思うと言おうとしたところで、ノーリンが挙手をし話をするよう促した。
「確かに魔物が移動したという点は同意します。けれど、移動した原因は一体何でしょう?」
「そりゃあ、餌が無くなったとかじゃないか?」
「このグラロマニカ大森林で、ですか?」
「うーん」
真面目なノーリンに物凄く違和感を覚える。
決して大食いで割とボケボケなノーリンに、真面目な雰囲気が似合わないなんて事は無い、ああ無いとも!
カニスの変わらない様子から察するに、いつもはこんな感じなのだろうとこれ以上のツッコミはやめておく。
「私からも1つ、お話したい事がございます」
そう言ってオルディンも手を挙げる。
ぶっちゃけ言語が分かるのは、この場では俺とオードだけなのだが、翻訳は一応オードがしてくれている。
なので、全員がオルディンの方へ向き直した。
「何か気になる事でもあったのか?」
「はい。先程、水浴びを済ませた時なのですが、どうやら隠蔽魔法の気配が有ります。この先でかなり色濃く」
隠蔽魔法ってのは、確か闇魔法の一種らしい。
オードも知識だけはあるが、適性が無いと使えない上に割と高度な魔法で使い手も少ない。
逆にそれを感じ取れるのは、その適性が高い闇か光の属性持ちって事になるのだが…お前は本当にゴブリンなのか?
いや、オードの事も考えれば、この世界のゴブリンはきっと強キャラなのだろう。
あのリーダーも、ゴブリンの割には廃坑を占拠して立て篭るなんて真似してたぐらいだし。
そう言えばあのリーダーに助っ人を云々言ってたけれど、結局のところどうなのだろう。
オードも気にしてないようだが、オルディンも気にしてない、なんて事は無いだろう。
嫉妬の執念、だったか。多分だが、能力の欄に表示されてたところを見るに、称号の効果だろうか。
状態異常ならそっちに表示されるだろうし。
嫉妬…勇者…ねえ。
勇者ってのはもっと誇りと尊厳と力に満ち溢れたイメージだった。
魔物を良しとしない考え方は分かる。俺もこんな姿に転生して無ければ、きっとそうしていただろう。
けれど、亜人や同種の人間にまで危害を加えるのは何故だ?
亜人はまだ分かる。
けれど、人間にまで手を掛ける必要性が分からない。
魔王は悪で勇者は正義、物語じゃそういうもんだと思って見ていたけど、この世界では本当に勇者が正義なのだろうか。
いや、きっとその七大罪の勇者とか呼ばれてる奴等以外も居るはず。
見習い女神さんもそう言ってたしな。
「大丈夫っスか、ミストくん」
ユサユサと惚けている俺を正気に戻すオード。
見た目じゃ違いなんて分からないだろうに、何でコイツらは普通に見抜いてくるんだ?まったく〜。
「あー、いや。ちょっと女神さんの事考えててな」
「またそれっスか〜。妄想も大概にするっスよ」
「だーかーらー!本当だって言ってるだろー」
二人でまたやんややんやしていると、カニス達から胡乱な目で見られる。
それを察したオードが、呆れ気味に説明する。
「ミストくんは、なんか転生する時に可愛い女神様に出会って、勇者にはなれないけど魔物にしてあげるから我慢してね、みたいに言われたらしいっスよ〜」
「え?女神、様?」
「おう!皆も出会ってるんだろ?」
そう誇らしげに言ったら、ポツポツと声が聞こえる。
最初は小さかったけど次第に大きくなり、それが笑い声だと分かるには時間が掛からなかった。
「ちょっ!何がおかしいんだよ!」
「いや、ふふふ。だって、ねぇ?」
笑いを堪えながらもノーリンはカニスの方に向くと、こちらも笑い声を抑えながら理由を話してくれた。
「いや、一昔前ならそんな与太話信じてあげられたんだけどさ。今やこの世界じゃ神様と呼べる者は存在しないんだ。
太古には神様ってのは、実際に顕現したりもした事があったんだけど、今じゃ神どころか精霊にすら会えない。
だからミストが出会ったっていう女神も、きっと妄想か何か…」
「そんな訳無いだろっ!!さっきから聞いてりゃ、皆して女神さんを居ない者扱いして、アイツがどんな気持ちでこの世界を─」
──■に、■■■■は救えない。
──■■だった。何もかも…
怒りを顕に、声を荒げ言いかけて直ぐに停止したのを見て、カニス達からすかさず謝罪が入る。
「ごめんなさい」「悪気があった訳では無いの」と口々に告げるが、俺は生返事しか返せない。
今のセリフは、いったい…何処でそんな言葉を…。
と一瞬思考停止したが、直ぐにそんな事も忘れ虚空の彼方に消えてゆく。
そして謝罪が終わった頃、話の続きを再開した。




