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失敗勇者の邪神転生  作者: 杜邪 悠久
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SS ユキ⑨

───試合後の駐屯地内 建物の一室


先程行われた試合の事後処理をすべく、この部屋に戻ってきたのは、リベルとグランを引き連れながら未だほっこり顔を隠せてないケルビンとその娘ユキ。ついでにヤッカルと警備兵。

尤も、ヤッカルは試合そのものに参加してないにも関わらず、死んだ目になっている。何をそんなに怯えているのだろうか。



あの後、町内又は亜人領の狐亜人(フォクシス)が管轄する区域内での自由行動を認められた二人だが、今すぐに自由になる訳では無い。

今回の事の顛末を報告し、亜人領の領主様に許可を貰ってから初めて自由の身となれる。

では逆に勝手にそんな取り決めをして、ケルビンの立場は危ぶんだりしないのか?と問われれば、そこは問題無かったりする。

領地そのものは決して広くは無いものの、それでもその中の一区域の警備を任され、その中で上役としても活躍をしているケルビンを領主や長老会、或いは貴族にまで一目置かれており、よほどの傍若無人な振る舞いでもしない限りは割と恐ろしい権力があったりする。

もちろん、それを安易に使う事が殆ど無い故に、今回の一件は”らしくない”行動な為、同僚などもからかいに熱が入ってしまったのだろう。


「で、ではケルビンさん。我々は領主様に報告をして参ります」

「ああ、頼む。それとこれも適当に治療してやってくれ」

「…はっ!」


これ、とは勿論ヤッカルである。

この後、警備兵達の中でヤッカル=勇者説が流行ったりしたのは余談か。

短い返事と共に、ヤッカルを抱えて部屋を出ていく警備兵達。

部屋に残ったのはリベル、グラン、ケルビン、ユキの四人だけである。


「先程の戦い、見事だった。そして我が娘を守るべく動いてくれて改めて礼を言う、ありがとう。そしてすまない」

そう言って真っ直ぐリベルの目を見たケルビンは、娘の命の恩人へ頭を下げる。

「いえ、頭を上げて下さい。僕はただ、」

「君の能力は動くと発動出来ないのであろう?」

「……」

「君の能力は察するに『意識誘導』と見ている。意識を別の場所に誘導したり、洗脳して記憶を改竄したりする能力だったか」

「あはは…やっぱりバレてました?」

「あの場で動くのは、君に取ってもリスクある行動だろう。それを解っていながらも娘に攻撃を当てまいと、自身に意識誘導した君の判断を評したいのだ」

「…分かりました。礼は受取ります。けれど一つ訂正するなら、僕の能力は『意識誘導』ではなく『意識収束』というものです。

誘導は色々なところに細かく意識を持っていける能力だったと思います。

ケルビンさんの言う、洗脳や記憶の改竄も出来るでしょう。

けれど僕の能力は、1箇所に周り全ての意識を収束させる能力です。

戦闘中に行っていたのは、あなたのグランの攻撃への意識収束とグラン自身が戦闘以外への意識を無くすという事だけです」


そう、つまりケルビンが攻撃を避けなかったのも、リベルへ意識を向けようとしてもグランに引き戻される、又はギャラリーの野次が止む不思議な光景はこの能力にある。

『意識誘導』の前提能力である『意識収束』。

『意識誘導』のような自由な操作が出来ない欠点はあるものの、戦闘に使えばこれほど脅威なものは無い、とはリベルの弁である。

味方や自身に使い、周囲の余計な情報を無くし、戦闘のみに意識を収束させる事で、亜人とすら拮抗する戦闘力を持たせられる。

敵に使えば回避を遅らせ、判断力を鈍らせ、周囲を確認出来ず、相手の攻撃に自ら当たりに行くという、正に対個人戦に置いてはリベルの弁に間違いは無い様に思える。

……その能力発動者が動けないという問題さえ無ければ、だが。


この能力には発動者本人も意識を集中させる必要があり、自身強化程度ならその必要も無いが、敵に永続的に能力を掛け続けるにはかなりの精神統一を余儀なくされる。

その為、発動中は全く動けず1対1では明らかに停戦状態になる、微妙な能力である。

だが今回の様に、2対1にする様に『意識収束』させる事でこの欠点を解決していたりする。

実は最初から2対1で戦う事に固執する様に誘導されていたとは、と逆に感心するケルビン。



「それに、父親思いの優しい娘さんに怪我なんて負わせてしまったら、本当の意味で亜人の方とは友好関係は築けないでしょうしね」

と、戯けて見せるリベルの横で「怒らせたら怖そうだしな」と小声で呟くグラン。

「そういう事は言うもんじゃない!」「小声だから大丈夫だ!」などと、先程のシリアスな雰囲気はどこへやら。

喧嘩に発展しそうな、けれども仲のいい二人を見て、ユキはこんな関係もいいな、と憧れやら羨望の眼差しを送っている。


それに気づいたケルビンは、自由行動は取れないが二人を監視付きでなら町を案内出来ると言って、ユキにその役目を与えた。

少年二人は、いや、僕達はまだ信用出来るものでも無いでしょうし、万が一の時の責任が、などと言っている。

「大丈夫だ、問題ない。町の者は私の娘の顔はよく知っている。万が一そういう事態になれば、お前達の首を飛ばしに行く」と若干親バカが出てるケルビンだが、先程の戦闘力を見た後なので背筋が寒くなる少年達。

それもすぐ、二人を室内ばかりに閉じ込めたくないのと、娘さんが先程から自分達をキラキラした目で見ていたので、遊ばせてやりたいんだろうという思いを感じて、一応信用はしてくれているんだろうなぁ、と冷えた背筋が温かくなる。


「ではご好意に甘えさせてもらいますね」

「ああ、存分に見て回るといい。ユキ、夕刻には戻ってくるのだぞ」

「…うん、ありがとう、お父さん」


こうして二人の少年を外へと連れ出す娘。

一人部屋に残り、書類整理や報告案件等に目を通しながら、先程の試合の事を思い出す。



───お父さんをこれ以上苛めないで!


両手を目いっぱいに広げて、自身の目の前に立つ娘。

今まで距離を感じた事はあれど、あんな風に自分を庇うような温かさは見せた事が無かった。

ようやく、少しは心を開いてくれたのか、と口元が弛む。

加えて、うぉぉぉぉぉっ!!成長したなぁぁぁ!!という叫び声が部屋から漏れ出す。

通路を通っていた警備兵や巡回兵達が、普段聞きなれているはずの鬼上司の声に唖然になるやらビクッとするやら。

普段が厳格に見えるせいで、同僚からも珍しいと言われる始末なのに。


その後も部屋から漏れ出す親バカっぷりの発言が、通路に何時までも木霊していた。

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