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失敗勇者の邪神転生  作者: 杜邪 悠久
66/123

SS ユキ⑧

町の広場に広がる喧騒。

ドシンッ ドシンッ

そんな重低音が聞こえ、辺りに僅かばかり振動に震える地面。


それをグランとケルビンが、殴り合いで発生させている衝撃波によるものだと理解しているのは、この戦闘を見物しているギャラリーと警備兵、ヤッカルとユキぐらいであろう。


両者、木刀が折れたのを皮切りにグランが拳戟を繰り出し、それをケルビンが相対する形で殴り合いに移行したのだ。


互いが本気で構え、そして同時に踏み込んだ。

そのはずなのに、グランはケルビンの知覚出来る速度とは明らかに異なる”何か”によって懐に急迫してくる。

それを木刀で受け止めては後ろに飛び退き距離を取り、また懐に入られては距離を取り、という防戦一方の戦闘になっていた。


大系的な種族から見ても、人間種と亜人種でその差は歴然だが、加えて狐亜人(フォクシス)は脚力に優れる為、決して遅れを取る事はそうそうに無い。

しかし、あくまでも攻撃では無く索敵や回避、又は逃走にその長所を用いる為、攻撃でそれを使う事は少ない。

それらを踏まえて見ても、今まさにケルビンが陥っている状態は異常事態と呼べるものだろう。

───本人以外では、だが。



周りの者は皆同じ思いをケルビンに感じていた。

即ち、何故ケルビンは相手の攻撃をわざわざ「当たりに行っている」のか、と。

そう、ケルビンは自分では相手の攻撃を回避し、カウンターを入れに行こうとしているのだが、周りから見れば彼は敵の攻撃に合わせて、自身の身体を攻撃へと吸い寄せているのである。

一部の者は、「ケルビンさんが手を抜いているのでは?」や、「敵の何らかの能力なのでは?」などの意見が飛び交っている。


ユキも父親の謎行動に注視していたが、不意に何かの気配を感じる。

するとギャラリー達は、先程の意見交換はどこへやら。

皆が皆、先程と全く同じ(・・)ように観戦する姿が映った。

辺りを見回しても、誰一人としてその異常を指摘する者は居ない。

どういう事だとヤッカルさんにも話をしようとすると、「あれもお仕事さ、黙って見てあげてね」と言われる。


流石にこれはおかしい。

そう思って辺りを注意深く見ていると、リベルという少年から時折変な魔力の波動を感じる。

人間種が魔力を扱う場合、まず体内の能力素を封印や呪術で使えなくする必要があるらしい。

そうして魔素を取り入れる事が可能になるとか何とか、母親が語ってくれたのを思い出す。


だが仮にリベルが魔法を行使していたとして、魔法には近代魔法と古代魔法と呼ばれるものがある。

近代魔法は威力は低いが詠唱が要らず、始動キー(ファイアーボール等の短縮詠唱)だけで発動出来る。

古代魔法は威力は高いが詠唱が必要で、時に代償があったりや魔法陣を必要としたりする。

古代魔法は口伝のみで伝承されるせいか、今使える者はほぼ居ないらしいけれど。


そう考えるなら近代魔法か、もしくは魔力を用いた能力。

けれど父親の本気の戦闘を見るのはこれが初めてだが、時折相手の能力を振り払おうとしているのか、藻掻く様子が見て取れる。


母親に聞いた話では、精神を侵食する能力や死体操作なんてものもあると言っていた。

つまり、あの能力はもしかすれば、相手の動きを操作出来るものなのでは無いだろうか?

もしそうであれば、父親がこのままグランの打撃に撲殺され、蹂躙されるのでは無いか?

動きを止められれば、流石の父親でも…と悪い方へと考えが行ってしまう。


そうこうしている内にも、ケルビンには重々しい連撃の拳圧に呻き声も上げられず、その場で身動きが取れないでいる。

グランはそれをチャンスに思ったのか、ますます勢いに乗り攻撃を続ける。

その後ろで、未だに戦闘そのものに加わらずに居るリベル。

もはや彼が何らかの能力を使っているのは明らか。

ギャラリー達もその影響下に居る為か、疑問や野次を投げかける者は皆無。


このまま、ケルビンが負けを認めれば、まだ多少の怪我で済むだろうが、試合は一向に終わる気配を見せず、またケルビン自身が言葉を発せられる状態では無い事から、やがては父親を殴り殺されるのではと、幻視を垣間見えさせる。

ケルビンのあの優しい笑顔と、母親の居ない時だけにたまにやってくれる頭ポンポン。

それを何故か思い出しつつも、ユキはその場から駆け出していた。

自分でも、それがどういう感情かは分からない。


幼少期に捨てられ、親の愛など知らず、だがそれでもマザーの感情を愛と信じて生きてきて、だけどそれすらも偽りだった。

だからだろうか?

ユキは自分では気付かない内に、”愛”というものを素直に受け止められなくなっていた。


だから彼女は父親に向かう感情を、子が親に対する『この人には傷ついて欲しくない』と思う”愛”だとは思いもしない。

たった数年の間柄だが、それでも親子として生きてきたのだから。



ケルビンは防戦一方になりながらも、しかし負けを宣言するつもりは毛頭無い。

事実、まだケルビンには余力となる能力(スキル)がある。

その名は『連縮地』。

文字通り、連続性のある高速移動であり、脚力に優れた狐亜人(フォクシス)ならではの能力。

本来の『縮地』の派生型であり、使い手もケルビンを含めても上役達ぐらいしか使えない、言わば高等技術でもある。

ただこれを使うには幾つか問題がある。


一つは、縮地に比べて魔力消費が激しい事。

一つは、身体にかなりの負担を強いる事。


前者は、本来の『縮地』は一直線に進む事しか出来ない能力を、壁だろうが天井だろうが、行き着く先は空中ですらも地面として蹴り上げられる『連縮地』。

移動能力ではかなりの性能だが、その反面、魔力消費を多大にしてしまい、一度使う毎に倦怠感に襲われる。

後者は、単純に身体スペックを通常とは違う動かし方をする為に起きる、言わばちょっと強めの筋肉痛に苛まれる。


どちらかならば戦闘に問題ないだろうが、どちらも身体に影響を及ぼすデメリットの為、使う場面が限られるという欠点があった。

しかし、この猛攻をひたすら受け続けるのは、最終的には自身の負けに繋がる。

それを思って、目を瞑り「やれやれ」と心の中で諦めた声を呟き、決意を込めて目を開けたその瞬間、自身の娘がグランと自身との戦闘に割って入る様に駆けてきたのが見えた。


普段のケルビンなら、その場で対処出来たであろうその一瞬を、瞑目と防戦の為に腕をクロスしていたせいでの視界の圧迫によって、一瞬の判断を遅らせてしまった。

『連縮地』を使おうと動こうとするが、思う様に身体に力が入らない。

そして目の前に来てしまった娘が発した「お父さんをこれ以上苛めないで!」という声に、違う意味で硬直したケルビン。


だがハッと意識を戻し、目の前の娘を庇おうと踏み出す足に力を込めようとしたその時、


パシィンッッッ


そんな音が響いた。


よくよく見れば、ケルビンの右拳は吸い寄せられたかの様に90度左に回転し、真横にいつの間にか居たリベルの掌へと吸着させている。


「グラン、流石にそれはダメだよ」

「……あ」


そこでようやく、自身の目の前の女の子を認識したかのように、少し後ずさるグラン。

リベルは優しい声音で「怪我は無いかい?」と心配する。


「あの、えっと」


ユキは自分でも何故こんな行動に出たのか分からず、モゴモゴと口を噤ませるばかり。

どう言えばいいか、自分でも心の整理が付かない。

そんな中で、リベルは察したかの様に頷き、ケルビンを一瞥してすぐユキに視線を戻し、片肘を折って目線を合わせる。


「お父さんが心配だったんだね。でも大丈夫。もうお父さんを殴ったりしないから、ね」

と笑顔で頭を撫でられる。

その言葉に自分でも分かるぐらいに、はうぅ…と気が緩む。

同時に暖かいものが自身の中に流れるような気がした。


「すまない、な。娘が邪魔を」

「いえいえ、逆に良かったですよ。ウチの相棒はなかなか脳筋なもので」

「あぁ?なんだとリベル!ちょっと表出ろや!」

「いやいや、ここ表だからね?」


先程までの冷たい空気とは何だったのか。

リベルとグランは言い合いを始めたかと思えば、ケルビン達そっちのけで戦闘を始めてしまった。

尤も、リベルは宥める方に専念しているようだが。


そんな様子を見ながらも、自身の身を初めて案じた娘に、肩で息をしながらも、たまにしか見せない頭ポンポンをしながら、「ありがとうな」と口にした。

本当なら危ない事をするな等と言ってやりたいところだが、転生者とあってそれぐらいの事は幼子でもあるまいし、注意する必要も無いだろう。

だがそれでも、自身でも困惑したかの様な素振りを見せる娘に、ようやく少しは心を開いてくれたのだなと、先程までの戦闘が嘘の様に、顔を綻ばせる。


それを見ていた周りのギャラリーは、最初は何しているんだと怒声を発していたが、リベルとグランが喧嘩を始めると「なんだコイツら?」と思い、更にケルビンの普段は鬼の様な形相で町を巡回する上役が、超デレのほっこり顔を晒している。

ギャラリーは揃って夢を疑うかのように顔をビンタした。

中には「ケルビンさんが笑顔…だと?!」や「奴が笑顔の時は狩りの時か、会議中にジジイ共を論破して意見が通ったと酒飲みながら自慢する時ぐらいなのに」とか言われている。


ちなみに酒飲みの自慢を暴露したのは、同僚のヤッカルさんだったりする。

思い切り、メキッという音が聞こえた。

それはもう、顔の形が変わったんじゃないかってぐらいの。


「ごほんっ」

ケルビンの決して大きくはない、されど明瞭に響いた咳払い一つで先程までの喧騒は鳴りを潜め、清閑さが辺りを支配する。

リベルやグランも喧嘩を止め、ケルビンの方を見つめる。


「この度は、我が娘の介入により、試合そのものを中断させて申しわけない。だが、それがなくとも、私が負けるのは確実だっただろう。よって、この者達の勝ちとし、取り決めに従いこの町での身の安全と、自由行動を許可するものとする。

異論がある者は居るか?」

目が怖い。背後に鬼が顕現している。先程の同僚の言葉の影響がまだ抜けきっていない様子。

ギャラリーこと町人達は揃って首を縦に振る。


「という事だ。流石、噂の勇者様だな。完敗だよ」

そう言って手を差し出すケルビン。

「いえいえ、僕は殆ど何もしてないですからね」とリベル。

「嘘つけっ!」とグランが言い、代表としてリベルがケルビンと握手を交わした。



亜人領に置いて、初めて人間が亜人との友好を交わした瞬間であった。

あれ(;・◇・)?

確かエタるとか何とか書いてたはずなのに、よく見ればブクマ数が増えてる…

Σ(´□`;)ドユコト?!


更新凄く遅いです。

でもありがとうございます!

これであと30日は戦えるっ

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