SS ユキ⑥
町の中にある駐屯地内の建物の一室にリベルとグラン、そして私のお父さん──ケルビンが居た。
部屋には机と簡易ベッド以外の物が無く、殺風景な印象を受ける。
元々は町の不祥事や事件を起こした者の反省及び尋問する為の部屋であり、小さな風通し用の窓があるが脱出を試みる事が出来ない造りになっている。
というのも、亜人は人間種よりも遥かに身体能力に長けた者が多く、建物であっても外壁を無理矢理破壊したり、異常とすら思える脚力を持っての逃走を試みる者が後を絶たない。
その為、小窓には鉄格子では無く、代わりに極細の鋼糸で覆っており、建物の壁自体も"絶衝石"と呼ばれる衝撃を分散させる素材を用いて造られており、例えそれが噂の勇者であっても脱出は容易では無いだろう。
ただ、その部屋の扉には"透過晶"という貴重な水晶が用いられており、魔力を流す事で流した側の方からだけ向こう側を透過するという、所謂マジックミラーの働きを備えている。
共に居た警備兵の一人と私、そしてお父さんの同僚ヤッカルさんが調書役として外で待機している。
会話内容を聴くのなら中の方がいいのでは?と思ったが、どうやら"透過晶"には音すらも透過する能力があるようで、警備兵が常に魔力を流しながら訝しい表情を向けながらも静かに耳を傾ける。
それというのも、ここに来る道中はやはりというか、町に連れていく事を決定したお父さんに警備兵達が猛反発したのだ。
町へ他の亜人を入れた前列は幾つかある。
だが人間は亜人そのものを忌避する傾向が強く、余程の事が無い限り互いに領地へ侵入する事は無い。
例え侵入する事があったとすれば、亜人狩りや戦争ぐらいのもので、当然人間達に対する警戒も強い。
それは勇者と呼ばれる二人の少年達も例外では無い。
一応噂では、リベルは異世界人らしく亜人達との抗争や関係性、考え方や価値観を充分には理解しておらず、有効的な関係を築けると信じている。
なので他種族との和平を望む旅をしている、そう噂されていた。
実際には少し違い、成り行きでそういう流れになっただけで、そんな高尚なものでは無い、と語るリベル。
だが、亜人に対して隷属させたりする気持ちは無く、あくまで対等で有りたいと紡ぐ少年の濁りの無い瞳に、警備兵達も口を噤む。
そして反論するのを諦め、しかし警戒は解かないまま町へと連れて帰った。
現在この一室を借り、当事者であり町の有力者でもあるケルビンが、捕虜を尋問するという建前の下、二人の少年と話をしている。
グランも最初はベッドで横になっていたが、途中で目を覚まし、周りの変化に混乱しつつも、リベルの説明と状況整理をする。
落ち着いたのか、リベルの隣の椅子に座り、対面のケルビンをまじまじと聞くグラン。
時々相槌を打ちながら、自分達がどうして川辺に居たのか、リベルの説明に自身の意見を付け足している。
そして一段落着いたところで、ケルビンはホッと溜息を一つ吐き、少し安堵した様な笑みを零した。
「なるほど…。では改めてだが、内容の確認をする。認識を間違えていたりした場合は、遠慮せずに言って欲しい」
「分かりました」
「うむ。君達二人はかの魔王が人間達の領地へと進軍している情報を得た。
それを許しはしないと国王陛下から、直々に殱滅せよとの命を受けた君達は魔族領へと侵入。
しかし深手を負い、川へ飛び込み逃走を図ったが、二人とも気力を失いこの亜人領へと流されてきた。
これで間違いないだろうか?」
「はい、間違いありません」
「ああ、間違い無いぜ!」
そう二人の少年は迷わず答えた。
「そうか…」と呟くケルビン。そして腕を組み瞑目し、唸り声を上げながら考えを巡らす。
この少年達が言う様に、最近魔王達が力を付け進軍を行う様になったのは耳にしていた。
この亜人領にも似たような事案は幾つか発生している。
なので今回の事もそれが真実であろうというのは確信している。
だからと言って、話に辻褄が合うと言って鵜呑みにする訳には行かず、またこの少年達が巷で噂の勇者かどうかの確証も無い。
先の話で、国王から直々に勅命を受ける程の実力者であるから、勇者と呼ばれる程度には強いのであろうが、見た目12、3歳ぐらいの少年である。
この世界での人間の成人は15歳であるから、目の前の少年達も少年と呼べるかどうかは疑問だが。
それよりもその若さで"勇者"等と呼ばれる程の強さがある様にはどうしても見えない。
ここに相手の心を読む、等という能力を持つ者でも居れば、事の真相も解るというものだが、生憎そんな便利な者は居ない。
だが優れた動体視力を持つ狐亜人を持ってして、先程から一度も逸らされる事の無い瞳を向けられては、薄目で観察し隙を探ろうとしている策程度では埒が空かない。
やはりここは、という事だろうか。
また先程よりも深い溜息をついた後、ケルビンは腕を解き二人の少年達と話を始める。
「事情は分かった。確かにここ最近、魔王達による進軍は我等亜人領でも度々見受けられている。君達の話にも嘘は見られない」
パァっと明るい表情になる二人にケルビンは「だが…」と続ける。
「君達二人が本当に巷で噂となっている勇者かどうか、その真偽も含めて一つ手合わせを願いたい」
「手合わせ、ですか」
リベルがそう呟く横でグランが、
「つまり俺らが嘘付いてる可能性があるから、それを強さで証明しろ。もしうっかり殺してしまったとしても、証明出来ない俺達が悪い、そう言いたいんだろ?」
「ちょっ、ちょっとグラン!」
そう言ってのけるグランと慌てて無礼を働く少年に、謝罪をさせようと頭を下げさせまいと奮闘するリベル。
「いや、そちらの少年の言った通りだ。我々との手合わせでそちらが勝てば、君達を勇者として認めこの町での行動を許可しよう。
しかし、もし負ければ最悪処刑も有り得る。何せ領地への無駄侵入だ、そこそこに重い罪を課せる事になるだろう」
そう言うケルビンだが、実際にはこれは建前である。
自身が実は転生者であるケルビンは、同じく転生者と噂のリベルに同情やら安堵感やらを抱いていた。
だが種族上、現在は人間と亜人は敵対関係にあり、またケルビン自身が町の上役という事もあって、建前では二人の実力試しという形を取った。
勿論、手を抜く気は無いのだが、ケルビンは場合によってはわざと負けようと、負け易くしようとこういう提案をしていた。
勝てば官軍、負ければ賊軍…とは違うが、ケルビンは腕っぷしもそこそこ強い。
そんなケルビンを負かす事が出来るなら、彼等の強さも多少は認められ、町の者も認めるだろうと。
しかしケルビンは信じてはいなかった、勇者と噂される二人の強さが偽り無き事を。
どんどん投稿間隔が…
エタる未来が視える。




