魔物堕ち
「しかし魔法やらスキルやらの次は呪いと来たか。もはや何でもアリだな」と愚痴気味に言う俺。
別にちょっと羨ましいとか思ってないもん。ホントだもん!
「ははっ。まあ呪術師も結構レアだもんなぁ」
「そうなのか?」と食事の後片付けをしている手を止め(手を止めは言葉の綾だが)カニスの方を向いた。
「世界全体で見るなら、割と数は居るんだけど、基本的には貴族連中が発現する事が多い。
だから魔物堕ちの際も出張ってデカイ顔して…」
「ん?魔物堕ちと呪術師に何の関係があるんだよ」
「ああ、ミストさん達は生まれてまだ日が浅いんだっけ。
概要は概ね聞いている通りだと思うんだ。
魔素を過剰に体内に取り込む事で魔物へと堕ちてしまう現象」
「で、魔物堕ちは咎人の刑にって話だろ。だから貴族がデカイ顔をしたがるのは解るが。
別に呪術じゃなくても魔素を送るだけなら…」
と言いかけて、カニスが口元に人差し指を立てる。
なので俺は黙ってカニスの話を最後まで聞く事にする。
「勿論、魔素を送り込むなら魔法使いに頼めばいい。
そもそも呪術は能力に分類されるんだけどね?
論点はそこではなく、魔物堕ちになった人間ってどうなるか知ってるかい?」
「どうって…異世界人がなると100%記憶を引き継いで」
「この世界の人間だと?」
「………ん?」
そう言われて気付く。
魔物堕ちという刑は魔物に堕とすという刑だが、逆に言えば記憶も無く魔物に堕ちるだけならば、それは刑としてはある意味軽いのでは無いか?
確か魔物に堕ちると自我が無くなるって話だったし、それなら自我も記憶も無くしてしまえば、変な話だが安楽死と同じ様な物では無いのか?
魔物と自覚するからこそ、この刑は成り立つのではと気付いてしまった。
「多分、察してもらえたかと思うけど、この刑は魔物に堕ちた者が自身が人間だった、みたいな記憶を持って魔物堕ちしないと刑とは呼べない。
そして魔物堕ちすると、異世界人以外、つまりはこの世界の住人ではほぼ100%記憶を失ってしまう。
これをどうにかしようとしたのが」
「呪術、か」
カニスが言い切る前に俺はそう呟く。
「ああ。呪術によって仮初めの記憶を魔物堕ちした直後に与える事で、その魔物を咎人たらしめる。
流石に宮廷の呪術師でも、魔物堕ちする前に掛けても記憶そのものは継承されなかったそうで、堕ちた後に与えるという形が定着したそうだよ」
なるほどな。
魔物堕ちした者が知性ある魔物という呼称があったり、魔物の方が人間より強いという話を聞いてからは、逆にそれはどうやって抑えているのかと疑問に思ってはいたが、呪いでそれを制御させているのか。
魔法もある世界なのだから別に驚きはしないが。
だがノーリンの危ないお料理から魔物堕ちに繋がるとは思わなかったなぁ。
いやいや。別にノーリンの料理は危ないってだけで美味しくはあるらしいんだから、何故そんなにむくれた顔でこちらを凝視しているんだ。
そう言えば俺には顔が無い。つまりは表情も無い。
水鏡で見たその姿は完全に箱そのものだ。
なのに何故か皆俺の今思っている表情を当ててきやがる。
だから前にオードにそれとなく聞いてみたら、内包している能力素や魔素は感情にも影響されるらしく、微妙な変化ではあるが揺らめきがあるとの事。
それが俺は分かりやすく揺らめくので、皆はそれを薄らとだが感じ取れるらしい。
因みに、オード、ユキ、フェリエには完全に筒抜けているレベルだとか。なんてこったい。
まあ、要するにノーリンの境遇を知りつつも魔物堕ちの仕組みを知れたのは良かった、のか?
まあ被害があるのは食べる側の奴等だし、そこら辺はやんわりと流しておこう。
一応解呪薬を掛けてもすぐ消える訳ではなく、時間が少し掛かる。
掛けてすぐ食えるオードはおかしいんだと。
まあカニス的には食べられるだけでもそれは幸せな事なので、パーティーを組んだ初期頃は無心で頬張ったと。
しかしすぐに呪術の事を聞くと今度は錬金術師を目指し、遂には会得困難とも言われた解呪薬を自作してしまうに至った。
何がカニスを突き動かしたのか。
「ん?会得困難って材料がって意味か?」
「いんや。解呪薬なんて物を作れたら、それこそ貴族連中が黙ってないからな。国では禁忌の外法として知られているよ」
サラッと爆弾を投下していくカニス。
えぇ…解呪薬って作るの禁じられてるのかよ。
確かに知性ある魔物の、偽りとはいえ自我を持たせる為の記憶を消せる解呪薬なんて物をそれに使えば、理性が無くなり暴れだすのは考えるまでも無いだろう。
まあ普通は魔素水なんて物は一部の地域でしか入手出来ない様だし、魔石も俺は普通に使ってるので気にしてなかったが、どうやらこれもダンジョンに潜る等危険な場所でしか採取出来ない物らしい。
アウリスリザード自体はランクD程度なら、ある程度簡単に狩って来れる様だが、その肝はとても腐りやすく新鮮な肝を使わなければ効果がグンと低下してしまう。
更に薬草も一部地域でしか入手出来ず、その汁となると結構な数を揃える必要がある。
上記の理由からも、解呪薬1つ作るのにどれだけの労力と知識が必要になるか、計り知れないものである。
こんな物を作れるカニスは天才なんだなぁとフワッとした感想を抱くミスト。
尤も、それら素材を常時1000ずつ程保持しながら更にレシピを教えて一発で作り上げてしまうミストこそ、本当に計り知れないものなのだが。
本人は適当にやって適当に作れた感覚であり、カニスにもそれが道中でも垣間見えていた為、突っ込む事は諦めている。
「という訳で、出来ればミストさんに作って貰えて超ラッキーって感じだよ」
「素材が素材だし、まあこのくらいならな」
食事については俺も思う所があったし、新しいレシピを習得させてもらったのだから、このぐらいやらねば箱が廃る。
「でもミストさん、収納の整理はもうちょいどうにかした方がいいと思うよ?」
前に中身の素材を錬金術で使えるか、調合出来るかを確認してもらう約束をしていたので、ワームとの戦闘後についでにと中身をざっくり確認してもらったのだが。
カニスは宝の山だと言っていたが、次第に微妙な顔色になる。
それは俺の《一括整理》の能力に問題があった。
頑張って二日に一回のペースに。
毎日投稿とは|壁|д・)ジー
やはり仕事量が減るという噂はエイプリルフールだった様です。定時はまた夢か…
眠気がヤバイのでまた投稿が空く気が…す…zzz




