SS ユキ③
私は7歳の誕生日を迎えていた。
この地方では珍しく、雪の降る日。
私の名前の由来になった、雪。
それだけで嬉しく思った。
この頃になると、両親が働きに出掛けている間の家事は、殆ど私一人で出来る様になっていた。
まだ私には殺した感覚が残っていて、両親にも未だ深く関わろうとは出来ないでいた。
けれど、父はただ強く前を向け、と。
母は優しく撫でてくれる。
あの時、殺した事に悔いは無い。
けれど、殺した事実には罪悪感を覚える。
私は誰かを愛せる資格など、誰かに甘える資格があるのかと、どうしてもそう思ってしまう。
私は私が嫌いだ。
私は私が許せない。
けれどそれが間違いだったとも思いたくない。
私はどうしたいのか。
私はどうすれば良かったのか。
私が我慢し続ければ良かったのか。
私は、私は、私は、私は、私…
「ユキ?」
そう呼ばれてハッと振り返ると、そこには母がいた。
そうか、もうこんな時間か。
仕事から帰宅した母は、私が昔の事を考えていると、フッと微笑むと同時に抱きしめてくれる。
私はこの人が好きだ。
マザーのような温かさがある。
でも、この人もマザーと同じ”偽物”では無いのか。
私は”本物”を疑い、信じる事が出来なくなっていた。
けれど、母は言う。
「あなたを鑑定屋に連れて行った時、転生者だって知った時はお母さん、びっくりしちゃった。
多分、ユキは前世で悲しい目に会ったのね。
お母さんにはそれは分からない。
でもね、あなたは私の娘なの。
だから、もし苦しんでいるなら、お母さんにもその苦しみを分けてくれないかな?
ユキが私をお母さんと思ってくれる様になった時でいいから、急がなくても大丈夫よ。
親子なんだもの。ゆっくりでいいから、家族になろう。
ね?ユキ」
そう言って母は私を抱きしめる。
私はこの人が好きだ。
私に優しさを教えてくれる。
私に愛を与えてくれる。
こんな汚れた私にも、臆せず正面から受け止めてくれる。
私はこの人と…お母さんと正面から笑って話せる様になりたい。
いつかでいい、今じゃなくていい。
暫くしてお父さんが帰ってきた。
お父さんは警備隊の一員で、割と遅く帰ってくる。
そしてお母さんとお父さんと私とで、少し遅めの夕食を取る。
「あのね、お父さん、お母さん。聞いてほしい事があるの」
私はこの両親に嘘を吐きたくないと思っていた。
だから、私は前世の、愛していた人を手に掛けてしまった事、両親を殺した事を正直に、思い思いに話した。
途切れ途切れに話をする私に、お母さんは真っ直ぐに私を見ながら相槌を打って聞いていた。
お父さんは腕を組み、目を閉じながら黙って聞いていた。
「ごめんなさい」
そう最後に私は言って話を終えると、お父さんが目を開き私に聞いた。
「何がごめんなさいなんだ?」
「私、私、は、お母さんとお父さんの愛情を受け取る資格なんて無くて」
「それは違う」
お父さんは顔は険しくもとても穏やかな声で言う。
「ユキ、君が前世で両親を殺さなければならない程、心が壊れそうになっていたのは、きっと理解出来ない。
簡単にユキの心が解るなんて思ってはいない。
けど、愛情を受け取る資格が無いなんて事は絶対に無い。
ユキ、ユキは父さん達の事が嫌いか?」
私は首を横に振った。
「父さん達もユキの事が大好きだ。
前世でお前がどういう生き方でどう歩んで来たなんて関係ない。
父さん達には今のユキしか知らない。
だから私達は今のユキを愛そう。
もしそれでも、過去を忘れられなくて苦しんでいたのなら、それを忘れずに次に活かしなさい。
分かったね、ユキ」
お父さんは諭す様にそう言った。
私はこの人が好きだ。
口数は決して多くないけれど、迷った時は必ず力を貸してくれて、間違ったらちゃんと叱ってくれる。
私に強さを学ばせてくれる。
私の前を歩いてくれる。
私は私を許せる私になろう。
罪も悲しみも愛も勇気も優しさも。
全てを背負って生きていこう。
私を好きだと言ってくれる二人が居るのなら、私は私を好きになろう。
今日この日を境に、私は真っ直ぐに前を向いて歩き出した。




