魔法薬・改
オードの初期拠点までの道のり。
相変わらずオードとミストは漫才を繰り広げ、ユキがそれを静止させる。
それを何も言わずに着いていくフェリエ。
フェリエの同行は許可したが、未だ完全に信用した訳じゃない。
ギルドマスターからの特命であったとしても。
一応手の内は明かしたという体裁になってはいるが、実際には完全に鑑定しきれた訳では無い。
俺の持つ鑑定は、鑑定される本人の意思が少し反映される。
どういう事かと言えば、例えば真名。
オードやユキは表示出来ないと出たが、あれは別に俺の能力が弱い訳じゃない。
本人がそれを嫌がる等の抵抗行為をすると、その項目は表示されない。
これはその事を不思議に思った俺が二人に聞き、実験して解った事だ。
なのでフェリエは真名もフェリエだったので隠す必要は無いが、能力や魔法を故意的に隠してる可能性は充分あった。
まあ、あれだけの強さでまだ更に何か隠されていると言われると、ちょっと悲しくなるが。
だが今の所、ユキの監視に来たのは察したし、ギルドマスターが気にかけていたのも知ってる。
なんでかは知らんが。
別に危害がある訳でもないし、まぁいいかといつも通りスルーの方向でいた。
フェリエはというと…
この子達はいつもこう何だろうか。
フェリエは余裕そうに見えてその実、内心動揺しっぱなしだった。
確かにユキの監視、そしてついでにミストとオードも観察して来い、みたいな内容。
自身もミストの能力には興味があったし、その理由が知れてこれは商売に活かせるな、とか思っていたのだが。
まさかここまで非常識な者達だとは思って無かった。
拠点までは急ぐ必要も無い。
ゴブリン村と兼ねて様子見しに行くだけなので、ゆっくり5日程掛けて向かうと言っていた。
鑑定屋で知った自分の新たな可能性、スキルや魔法を試したかった為である。
そして小腹が空いてきたと言ってオードが森の中に入って行った。
幾らオードがランクCの資格を得たとは言え、この森は危険だから一人で行かせるのは、とアタシは言った。
オードはこの森に住んでたんだし、大丈夫っしょ、と言って芋を取り出していたミスト。
オードなら大丈夫、と何事も無いかの様に焚き火の準備をするユキ。
二人からすれば慣れた事なのだが、フェリエからすればこの行動は薄情な奴等だと思われる行動だった。
この森は平均ランクはDと弱い魔物が多いものの、ノーデンス大聖洞や魔力の滞留しやすい地形のせいで、魔物が予想よりも強くなる傾向があった。
ギルドマスターと旧知の仲であるフェリエは、ギルドからの情報や自身持つのルート、更に昔は自身も流浪のハンターとして馴らした経験から、この森の危険度には注視していた。
そんな森に一人で入って行ったオードに対してのこの反応。
当然と言えば当然であった。
が、そんな心配を他所にオードが帰ってくる。
手にアウリスポイズンリザードを携えて。
いやいやいやいや。
待て待て。
確かにアウリスポイズンリザードはランク的にはDの魔物。
ランクCであるオードなら狩る事は出来るだろう。
しかしオードは魔法使いであり、接近戦が苦手。
対してアウリスポイズンリザードは接近戦が得意。
この鬱蒼とした森の中では魔法も充分に効果が発揮出来ない。
なのでフェリエは野草でも取りに行ったんだろうと思い込んでいた。
「いやあ、今回の敵はそこそこ強かったっス」
その発言を聞いてフェリエは心の中で突っ込む。
(そんな訳無いでしょうが!!)
当たり前である。
幾らランクに差があったからと言って、ランクCの冒険者がランクCと1対1で戦えるか、と言われるとそうではない。
あくまでも強さの指標となるだけで、地形や装備、アイテムの数、パーティーの数に応じて戦況も変わる。
それにランクDの魔物でも、ランクDの冒険者パーティー四人が適正と言われている。
ランクCであっても、1対1で勝てはする。多少の重軽傷を受けて。
だがオードには擦り傷1つ無く、またアウリスポイズンリザードもよく見れば3体も狩っていた。
明らかにおかしい戦力であった。
(グラン…あれがランクCっておかしいでしょ!
ギルドの体裁保つ為とかだろうけれど。
あれ、明らかにランクB以上あるじゃない!)
そしてそれは他の面々にも言える事だった。
ミストは戦力的には確かにランクCが妥当と言える、最初はそう思っていた。
だが道中の魔物をただのバッシュで薙ぎ倒していた。
いや、正確にはバッシュ系統の能力なのだが。
けれどそれは関係ない。
何故ならバッシュという技は、あくまでも衝撃を加えて脳を揺らし、正常な判断を鈍らせるという事に特化した技。
なので敵を吹き飛ばす、なんて効果は無い。無いはず。無いはずなのに。
そもそもミミックという種からしても非常識な存在だった。
ミミックは洞窟等で待ち構え、宝箱や骨董品に擬態し紛れ、相手が油断してきた所を狙う受動型の魔物。
ミストは転生者?という事なので、その辺りの常識が無いのはいい。
しかし、それ故にミミックは戦闘向きの個体では無い。
オードはゴブリンなので多少は戦闘に向いた体躯をしているが、ミミックは移動力も殆ど無く、攻撃力も無く、近接しか出来ないという。
魔物では最も狩りやすい部類の種族。のはずだった。
それが自ら回転し、その勢いで敵を薙ぎ倒すミストを見て内心驚くフェリエ。
商人足るもの、表情には決して出さない。
だが自身の常識と照らし合わせても、あの機動力と攻撃力、更には遠距離技まで持つミストもまた”非常識”の一人だった。
そして監視の主目的となっている少女、ユキ。
この子も二人の陰に隠れてしまっているが、戦闘力は普通のランクCの物では無い。
ただ二人が異常すぎるだけで。
ユキの戦い方はヒットアンドアウェイ、つまり一撃離脱。
攻撃を着実に、尚且つ相手の弱点を見極めて。
とても戦闘慣れしており、敵を殺す事にも躊躇は感じられない。
余程の死地を踏み越えて来たのか、それとも…。
とにかくランクCのみのパーティー、しかも3人であるにも関わらず、護衛という体で潜入したのは失敗したんじゃないのか、とフェリエは思っていた。
自身が過剰戦力なのは明らかだが、そのパーティーも過剰戦力である。
やっちゃったかしら?と思いつつもパーティーと共に、目的地である拠点までの道のり。
ミスト達からは技の練習役になってくれと頼まれていた。
交換条件に、いつもオードとユキが飲んでいる飲み物が気になり、あれをアタシにも頂戴と言って。
勿論、あれが魔法薬と知ってるが、何やら自身が知ってる色では無かった。
どうやら二人用に作ったものらしく、あまり数が作れないとの事なので。
これは商売出来る物だろうし、味見だけしたら収納に仕舞って後で売ろう、そう考えていた。
…全部飲み干してしまった。
何だこの甘美な味は?
フルーティに香るこの匂いは?
さっぱりと後を引く喉越しは?
それは品種改良により生み出されていたミストの新作、名付けて魔法薬・改であった。
魔法薬の効果よりも味にこだわるという本末転倒な代物で、魔法薬を作る際、市場でこっそり買っていた果物の種と、野生で取れるファナシーと呼ばれる野オレンジを掛け合わせたファナシールと命名したそれをベースにして。
ミストは飲食が出来ない為、味は鑑定を常に使っての作業だが、高品質の物が出来たと自負していた。
後味さっぱりで甘く美味しい魔法薬。
特に売る目的ではなく、二人を思って作ったものなので、量産も二人分が賄える程度にしか作って無かった。
なのでフェリエに売るというのも念頭に無かった。
まあ、改良が終わったのは村に近づいた辺りなので、どの道売る事は無いのだが。
だが、この味を求めた魔法薬・改は、魔法薬としても異例の効果を持っていた。
魔法薬・改
魔力が大幅に回復する。その後一定時間の間、回復が持続する。
魔素吸収許容量が大幅に増える。
魔法薬・改自体は元は中位魔法薬なので、回復量もそれと同じだとミスト本人は思っているが、フェリエの審美眼の前ではそれが上位に匹敵している事を示している。
おそらくミスト産の畑からの作物の為、魔力が予想外に大きい為であろうが、それを知らないフェリエからすれば最早このミミックの価値と評価は、自身の今迄培った技術と財産全てを注ぎ込んでもお釣りが来るぐらいの、それ程の驚異的価値があった。
本人はジュース作っただけの感覚だろうが…。
なので技の練習台になる役目を必死でこなした。
それはもう、必死で。
利益抜きであの魔法薬・改は、自身用も含めて多く欲しかった。
それを顔に出さない様にするのが苦行だったが。
交渉の末、二人より少し多めに貰える事になった時は、心の底からガッツポーズをしていた。無意識に。
フェリエは無意識の為か気づいて無かったが、ユキとオードからは「何この人?」「そんな嬉しいものなんスかね?」と口々に言われていたが。
フェリエは護衛がまさかこんなに楽しくなるなんて、夢にも思って無かったと気分ウキウキであった。
何かフェリエがユキとオード用のジュースを恨めしそうに見ている。
まあ、あれは特別に作ったやつだしな。
でも飲みたいとか欲しいとか言わない辺り、一応護衛としての面目は保っているんだろうか。
だけど視線が痛い。
そんな熱い目で見られても、オッサンの熱い視線なんて誰が喜ぶんだ。
しかし何か方法無いものか。
このままだと蕁麻疹が出そうだな、ミミックだけど。
ああ、そう言えば新たなスキルの試し打ちがまだだったな。
効果は見たが、結局実際に使った訳じゃない。
レベルも高いし、練習台と訓練に付き合って貰おう。
そうすりゃ報酬寄越せとか言ってくるだろ、大商人なんだし。
それにしても、ちゃんとお願いしたら思考は読まないでくれるんだな。
さっきから普通に着いて来てるし、特に変わった事もしてない。
うーん、やっぱり杞憂だったのかな?
まあ、どの道考えても仕方ないし、適当に思い付いた風装って練習台頼むか。
「そういやオード」
「ん?何っスか?」
「実はスキルの練習ってか、訓練をしたいと思うんだが」
「オイラも試したいと思ってたんス!流石ミストくん」
「だけど俺の能力、どうやら広範囲技だしユキはこういう相手とか苦手だよな?」
「…そうね、広範囲を捌くのは難しいし」
「じゃあオイラが相手するっス!」
ユキもどうやらこちらの思惑に気付いたのか、話を合わせてくれる。
オード、少しでいいから空気読む魔法覚えて!
「いや、せっかく護衛として高レベルの者が居るんだし、フェリエに練習役を頼みたいと思うんだが、皆どうだ?」
表情が出せないのはこういう時厄介だな。
「そういう事ならお願いするっス!」
「強い相手に指南を受けるのはいい事だね」
「という事なんだが、引き受けてくれないか?」
「あら、アタシは安くないわよ?」
「何か条件があるのか」
「そうね、ユキちゃん達が飲んでるの、あれを貰えるなら頼まれてもいいわ。前払いでね」
チョロいな。思ってたよりチョロかった。
そんなに欲しかったんなら言えば渡すのに。
また面倒なのが増えたな…。
「解った、じゃお願いする」
「ふふふ、交渉成立ね〜」
その後、スキルの確認をしていたら、ジュースをもっと欲しいと言ってきた。
多分味を占めたんだろう。
了承したらめっちゃガッツポーズしてた。
それでいいのか、大商人。
これが拠点までの5日間の主な内容だった。
マジックジューサー・ミスト




