ランクD試験 vs ミスト
檻から解き放たれたのは、明らかに俺と相性の悪い敵だった。
いやいや待て待て。
確かに試験っていうからこういうのもやるんだろうなーとは思っていたよ?
いたんだけど、まさか自分の苦手な相手を当てられるとは。
グラちゃん、完全に俺が苦手だと分かってて仕向けて来てるな。
多分判断力とか対応力を見るのが目的なんだろうが。
ぶっちゃけ俺の戦闘能力は低い。
ユキのような素早さも無ければ、オードのような火力も無い。
事実、道中の敵は殆どオード頼りだった。
それ故に俺がまさかこんな敵と対戦する事になるとは。
「ああ、因みにその魔物はギルドで飼っていたものですが、飼い慣らしてた訳じゃないので、言う事聞いてくれないんですよー。
いやー困りましたねー」
とか言ってきやがった。
つまり、倒さなきゃ止められないから頑張って、と言われたようなもんだ。
しかしどうやって倒すか。
目の前のトカゲは全身に炎を纏わせている。
アウリスフレアリザードとか言ったか?
どこにこんなの居たんだ。
アウリスリザードの亜種なんだろうけど。
しかしこれでは体当たりである竜巻頭突きは使えない。
道具弾主体で乗り切るしかない、か。
むしろ俺の攻撃手段、その2つしか無いんですけど?!
とか苦悩してたら、燃えトカゲが突っ込んできた。
危なっ!
紙一重で躱すが炎に触れてしまい、身体が炎に包まれる。
慌てて俺は水を上へ向けて発射し、水を被って消火に成功する。
マジか。
普通に避けただけでも致命傷レベルなのに、これ倒さなきゃいけないのか。
えー、無理じゃね。
大体、燃える度に消火してたらいつかは炭に…‥ハッ!
そうだ水だ!水を奴に掛ければきっと倒せないまでも弱体化させられるだろう。
そうと決まれば即実行。
案の定、燃えトカゲはまたこちらに突進してくる。
そして射程内に来た瞬間を狙って、俺は最大威力の爆裂道具弾を放つ。
よし!敵に命中!やったか?!
これで少しは動きも鈍…く?
な、なな、なんだと?!
確かに多量の水を浴びせたはずの燃えトカゲの炎が、弱まるどころか勢いを増していた。
どうしてだと深く考えて、ある重大なミスに気付く。
燃えトカゲは魔力を吸収したのだと。
俺の中にある水は二種類ある。
1つは能力素を溶かした能力素水。
1つは魔素を溶かした魔素水。
だが最近魔法薬ばかり作っていたせいで、魔素水が7割以上を占めていた。
そして俺は無意識に、その濃密な魔素水を相手に与えてしまったのだ。
見た目、完全に火炎と化し轟轟と音をたてながら燃え盛るトカゲ。
ヤバイ、マジヤバイ。
グラちゃんもそれに気付いたのか、結界のような能力を強くしているのが見て取れる。
だけどこれは俺の責任だし、どうにかして対処しなければならない。
能力素水の残量は少ない。
もし放ったとしても、あの火炎ではすぐ蒸発してしまうだろう。
迂闊な事をせず、爆裂道具弾で失敗薬でチマチマ削るべきだった。
失敗薬も”餅”は火に弱いし、爆発の方もこれでは…。
………いや、待てよ?
確かに失敗薬での爆発の規模は小さい。
故にダメージもあまり無い。
あのアウリスリザードでも確殺は出来ない。
だけど、もし爆発そのものが大きければ?
俺はすぐさま実行に移す。
回復薬でも自身が炭になってしまっては使えない。
だからゴリ押しも使えない。
けれど、この考えが正しければッ!
俺は体内で能力素を多量に詰め込んだ芋、パーレを魔石で粉状になるまですり潰す。
能力素と魔素が反発するので、案外簡単に粉状になっていく。
その作業をしながらも、俺は竜巻頭突きを使って燃えトカゲに追い付かれないよう、必死に逃げている。
地面の凹凸や起伏であちこち傷だらけになるが、今はそれどころでは無い。
逃げながら体内での作業を同時に行わなければならないからだ。
そうして俺は一定量のパーレの粉末を揃える事に成功する。
あとは掛けだ。
決まるかどうかは分からない。
初めて俺は死ぬかも知れないという恐怖に襲われる。
以前高い所から落ちた時は、まだ現実をはっきり認識してなかったのもあるし、なにより痛覚が無い事で、永らく死の恐怖というものを忘れていた。
それが今、俺は死ぬかも知れないという恐怖に直面している。
けれど俺は硬直したり諦めたりしない。
もう死ぬのは後免だ。
「喰らえ燃えトカゲ!爆裂道具弾!!!」
放つのは先程のパーレの粉末。
これを燃えトカゲに向かって大量に。
一瞬、燃えトカゲの方で小さな煌きが見えた、その次の瞬間。
辺りは大爆発に巻き込まれた。
アウリスフレアリザードにミストさんは水を飛ばしている。
ミストさんの体積よりも明らかに多い。
恐らくは何らかの能力だろうね。
そう思って暫く眺めていたら、アウリスフレアリザードの纏う炎が火炎の如く大きくなっていった。
驚愕だった。
周りの地面が熱で硝子状に溶けている。
こんな生態、捕獲した時や調査、研究の時でも見せた事は無い。
まさか魔力を吸収した?
いや、ミミック種は総じて能力素を保有した珍しい魔物。
魔素は身体に取り入れ無ければならない為、必然的にミミックでは魔力は使えない。
だとしたらこの個体は新種のアウリスリザードである可能性が高い。
これは最早試験などしている場合ではない。
部下達にサインを送り、防御をより強くする。
経験で目測するに、あのアウリスフレアリザードはランクC以上か。
これは自身が出なくてはいけないかも知れない、そう思っていた時、ミストさんがこちらと自身に向けて何か飛ばして来た。
それに間髪入れずにアウリスフレアリザードに向けて、何やら粉状のものを飛ばしているのが見える。
これはまさか、粉塵爆発?!
そう思った次の瞬間。
辺りは大爆発に包まれる。
轟音と爆風が暫く続いたが、それも漸く終わった。
それに気が付き、広場の方を見る。
アウリスフレアリザードは四肢どころか身体全体がバラバラに各部飛び散っている。
そして自身の身体を見るが傷1つ無かった。
爆発の中、自分達に液体のような何かが当たる感覚があった。
あれは恐らく回復薬だと思われる。
あの状況を見越してミストさんは行動したというのか。
私は今見せ付けられた光景に、暫し心を奪われていた。
危ねぇぇぇ!!
流石にあの爆発では燃えトカゲも耐えられなかったようだ。
まさか粉塵爆発ってこれだけの威力があるものだとは思わなかった。
燃えトカゲの周りがごっそり抉れていた。
あの爆発に耐えられるか分からないので、オードとユキの方向に適当に回復薬を飛ばしておいたが、どうやらちゃんと生きててくれたようだ。
ふぅ、やれやれだぜ。
しかしこれ、俺責任問題で問われるんじゃないだろうか?
内心ドッキドキしながらグラちゃんの発言を待った。
「す、素晴らしい」
何か自分の世界に入り込んでるグラちゃん。
頭打ったか?それはマズイな。
俺はさり気なく回復薬をグラちゃんの足元目掛けて飛ばしたのだが、アッサリ止められてしまった。
ヤバイ、怒られる。
「やっぱりミストさんが回復薬を掛けて下さっていたのですね」
「へ?」
「あのアウリスフレアリザードに対処する為とはいえ、回復薬まで投げ打ち討伐した貴方の勇姿、然とこの目に焼き付けました。
まさかあのアウリスフレアリザードに変異種が居るとは。
こちらのミスをお許し下さい」
何か誤解されてるが、黙っといた方が良さそうだな。
変異種、多分魔素水掛けたのがそう解釈されてる様だ。
何で?
「つきましては、貴方にランクCを与えたいと思うのですが、受け取って下さいますでしょうか?」
あれ?勘違いが更なる勘違いを生んでいる。
多分、あの変異種がランクC相当と判断されたんだとは分かるが、どうしてこうなった。
まあいいか。
ランクが高い分、クエストの幅が広がるし、高いに越した事は無いさ。
「あ、ああ。じゃあ有難く受け取らせて貰います」
何か凄く申し訳無いのだけれど、怒られるのは嫌なので黙っといた。
ユキとオードが睨んでいたから、多分二人には俺のミスがバレてるな。
やめて、俺の豆腐メンタルが絹ごしになっちゃう。




