ランクD試験
俺達は修練所という、普段は鍛錬やらスキルの講習会が行われている場所へと案内される。
本来なら、筆記で必要事項等を記入し、ランクを見極めてから試験という流れだったが、あの喧嘩を見てランクDの試験を受けさせてくれるとの事だった。
てか、この人ギルドマスターだった。
ガチのお偉いさんだった。
喧嘩の最中に来なかったって事は、結構忙しい人なのかも知れない。
ユキのおかげか、将又物珍しさか。
ギルドマスターさんは頻りにこちらに話を振ってくる。
「いやぁ、ギルド内で魔物と喧嘩していると聞いた時は何事かと思いましたよ」
「向こうから吹っかけて来たので正当防衛を主張したい」
「ああ。それは役員から話を聞いておりますのでご安心ください」
「どうだか。魔物には随分排他的みたいだし」
ちょっと皮肉っぽく言うと、ギルドマスターは苦笑した。
「いやはや、これは手厳しい。
ですが、この国では魔物は全て悪だという考え方が浸透しておりまして…。
おっと、こちらが修練所になります」
話を逸らされた気がするが、目的はこちらなので素直に中へと入って行く。
修練所というから、弓道部が使ってる的当てがある場所を連想していたのだが…
目の前には巨大な円形の広場があった。
広場と言っても、所々に岩や木があり、人口的に作られた自然が広がっている。
「では試験に移りましょうか」
「よろしくお願いします」
「よろしくっス」
軽く挨拶をした後、ギルドマスターは話を始める。
「あ、そう言えばまだ名乗っていませんでした」
舌を出してテヘッって感じで戯けるギルドマスターさん。
お茶目かっ。
「私、当ギルドのマスターを務めております、グラン・ツェルトと申します。
気軽にグラちゃんとでもお呼び下さい」
Vサインを片目に当てながら指を開いたり閉じたりするギルドマスター改めグラちゃん。
お茶目かっ。
「御二方のお名前も是非教えてもらえないでしょうか?」
「はいはーい!オイラはゴブリンのオードっス!」
「…ミミックのミストだ」
「オードさんにミストさん…」
メモ帳を取り出し記入している。
多分、あれが必要事項の記入なんだろう。
字が書けないであろう俺達に気を使ってくれたんだろうか。
「あとは冒険歴や功績等があるなら、評価に含めますけど…
どうやら無い様なので、ちゃっちゃか試験に移りましょう」
なんだろう、この人。
物凄く真面目な顔立ちなのに、言動が…。
いやいや。気にしちゃいけない。
「試験ですが、まあこれも本来ならランクFから加入して頂き、幾つかのクエストを熟した後、昇級試験とするのですが」
「ユキの知り合いだと優遇されるのか?」
「いえいえ、先程のチャチャチャさんのランクはご存知ですか?」
「ランクDだろ?」
てか自分で言ってたし。
「ランクについてはどの程度認知されている感じでしょうか?」
俺は以前ユキが話してくれたランクの解説をそのままグラちゃんに伝える。
「大まかにはその見解で合っていますね」
「ん?相違点でもあるのか?」
「ええ。例えばランクDの魔物が居たとしましょう。
その魔物に対してランクDの冒険者が一人。
この場合、どちらが勝つと思われますか?」
「ん?互角じゃないのか?」
「いいえ、条件が人間側に有利であっても、この場合はほぼ確実に魔物が勝つでしょう」
「成程な。
つまり、魔物とランクが同じだからと言ってそれを単独で討伐出来る訳じゃないのか」
「そうなりますね。
ランクDの魔物でしたら、大体ランクDのパーティー4人ぐらいなら倒せるでしょう」
「だからランクDからの試験なのか」
「はい、チャチャチャさんと互角に渡り合えるという事は、貴方方は少なくともランクD以上であると思われます。
ですので、この試験に受かれば晴れていきなりランクDからの任務が受けられますよ」
「よっしゃ!じゃあ早いとこその試験とやらを始めようぜ」
「オイラ頑張るっス!」
「では最初はミストさんからお願いします」
そう言われ、広場の中央辺りに立たされる。
「ではこれより、冒険者ミストのランクD昇級試験を執り行います」
そう言ってグラちゃんが役員の人だろうか?に合図を送る。
グラちゃんを始め、ユキやオードは役員の張った結界のようなものに守られている。
そして役員達が何やら大きい檻を押してくる。
何やんの?
「ギルドで最も多い仕事は情報収集、採取、あと一つはなんだと思いますか?」
それを聞いて試験内容を悟る。
もしかして………
「そのアウリスフレアリザードを倒すのが今回の試験になります」
そう言って檻から解き放たれたのは、道中よく見掛けたあのトカゲの、赤く燃え盛る姿だった。
「グランさん、ギルド内で喧嘩が!」
そう報告を受けたのは丁度昼過ぎ辺り。
そろそろ一息入れたいと思っている所に、チャチャチャという冒険者と魔物がギルド内で暴れているとの報告だった。
チャチャチャはランクDの冒険者で、砲弾投擲という能力で魔物の群れを一掃する程の手練で、ギルドでも名が知られている。
そんな彼がギルド内で喧嘩?
確かに粗暴な面もあるが、頭も冴えるし状況把握能力もある方だ。
ギルド内での喧嘩や闘争は御法度としている。
彼がそんな事をするとは思えないが。
現場を見に行くと、ユキさんが場を収めてくれた後だった。
ユキさんは亜人でありながら、このギルドでは知らない者が居ない冒険者の一人。
確かチャチャチャさんともパーティーを組んだ事があったはず。
仲裁に入るのは自然に思えるが、彼女の様子が少し変だった。
変、と確証して言える訳じゃないが、何やらチャチャチャさんを睨んでいたような…。
仕事のし過ぎで疲れているんでしょう。
まだ書類整理が終わってないが、ユキさんの話を聞いた所、あの魔物二人に試験を受けさせてやってほしいという。
しめた!これを口実にサボろう!
そうだよ、私は書類整理よりも魔物さんをご案内しなくては。
ギルドマスターの名折れというものなのだよ、と部下に説明し、強引に試験に立ち会う事になった。
若干部下の一人が仕事やれよという目で睨んでくる。
もう2日も缶詰なんだよ?外の空気吸わせてよ!
そんな視線でウィンクをすると、部下は諦めた様に普段の業務に戻っていく。
さてさて、では試験と題して魔物さんの戦いぶりでも見せてもらおうかな?
はっきり言ってギルドに魔物が来るのは、あのいけ好かない勇者が国王に戴冠してからめっきり来なくなった。
それもこれも勇者教とかいう、頭おかしい宗教のせいだ。
何が魔物は全て悪、亜人も半分は魔物だから悪、と。
ギルドには魔物も亜人もいる。
彼等は彼等の特技を活かした任務に付いて貰っている。
魔物達の立場はこの国じゃあ最悪だが、私にとっては大切なギルドの一員だ。
だからこの魔物さんも出来れば贔屓してあげたい。
こんな事思ってるのがバレたら、また部下にお仕置きで缶詰にされるな。
うーん、何かそれっぽい内容でランクDの試験を受けさせてやらねば。
ああ!あれの討伐を試験にしよう!
そうとなればまずは………あ。
そう言えば名前聞いてない、というか名乗ってない。
待て慌てるな。
ここはフレンドリーにうっかりしてたぜ感を出して乗り切ろう。
テヘッって感じで舌を出した所を部下に見られる。
部下が物凄く顔を顰めている。
違う違う、ちょっと名前聞いただけじゃーん!
更にグラちゃんと呼んでね、これはなかなか好評の様だ。
ミミックのミストさんは表情というか、見た目が完全に箱に擬態しているので全く読めないが、ゴブリンのオードさんはグーサインをしてくれている。
部下は額に青筋を浮かべているが。
ヤバイ、そろそろ真面目にしないとギルドマスターとしての威厳が保てない。
最悪また書類整理に戻される。
嫌だー!働きたくないー!
お?漸く部下達が生態調査の名目で捕らえてきた魔物を連れてきた様だ。
巻き添えを食らわぬ様、ユキさんとオードさんには中級防御を掛けておく。
さて、ミミック種には炎は天敵。
彼は一体どんな戦闘を見せてくれるのか、楽しみで仕方ないですねぇ。




