嫉妬の勇者
ミスト達と別れ、一人行動するユキ。
私はその足で城へ向かう。
本当は行きたくない。
だけど私に選択肢など無い。
どうして私はこんな事になってしまったんだろう。
答えなんて出ないのに、私はそれだけを考える。
城へ到着すると門番が門を開けてくれる。
中へと進み、大臣が私を最上階のある部屋まで案内してくれる。
部屋の前まで来ると、大臣は足早に去って行った。
私はあと何度ここに来なければならないのだろう。
だけどそんな気持ちを悟られてはいけない。
私は扉を開け、中に入る。
中にはこの国の王、リベルタ=アルストレアが待っていた。
部屋は真っ赤に統一され、壁や棚には容器が並んでいる。
ベッドの方には、一人の影が佇む。
グラスには赤い液体が入っており、それを傾け恍惚とした表情でそれを味わう青年。
一口味わったところでこちらに気付いた様だ。
「やぁやぁ。お帰り、ユキ」
とても優しく笑顔で語り掛けてくる。
私はそれだけで背筋に寒気が走る。
「討伐依頼、完了しました」
私は短くそう伝える。
「有難う、ゴブリン退治なんて君クラスには簡単過ぎたかな?」
そう。今回の討伐依頼はギルドから依頼が回ってきたが、その実この男から受ける様に言われたクエストだった。
ゴブリンを殺せ、ただそう言われた。
だが廃坑さえ取り返せたならば、文句は無いと思っていた。
けれど、あのゴブリンに付いていた”嫉妬の執念”。
この能力に見覚えがあった。
「まあ、どうやらあのゴブリンも目的を果たしてくれて、そこそこ使えるなと思っていたのに。
全く、残念でならないよ。
そう思わないかい?ユキ」
こちらに話を振ってくる。
恐らく検問所から既に連絡は受けているんだろう。
「何の事か、分からない、です」
私は平静を装い答えようとするが、口がうまく回らない。
「いやいや、僕は言ったじゃないか。
ゴブリンを殺せ、と。
なのにそのゴブリンが入国してる、なーんて噂を聞いたもんだからさ」
「……廃坑に居たゴブリンとは違います」
「うーん、君も反抗期なのかな?それとも」
青年はゆっくりと私に近寄り、片手を肩に置き耳元で囁く。
「君の両親、殺してもいいんだよね?」
冷たく、ただ冷たく。
ニヤリと嗤い、こちらをジッと見詰めてくるそれに、私は恐慌する。
「だ、ダメ、それだけは…お願い、します」
声が上手く出せない。
身体は硬直し、だが目線は外す事が出来ない。
私は両親を人質に取られている。
両親を解放したいなら、王と王国に尽くせ、と。
そして毎月上納金を支払え、と。
だから私は、この人の意思に従わねばならない。
だから私は、お金を沢山集めなければならない。
やっと前世での過ちから抜け出せると思ってた。
私の両親は、私の知らない愛情というものを教えてくれた。
私を転生者と知ってもなお、過去は過去であり今じゃない、過去に過ちがあるなら今を強く生きろ、そう言ってくれた。
私はあの二人を守りたい。
それがいつかと思っていたのに。
「アハハハ、そんな緊張しなくても大丈夫だよ」
そう言ってポンと頭を撫でる。
だけどそれに温もりは感じない。
まるで氷にでも触れられたかの様な、そんな感覚。
「君がちゃんと任務を遂行してくれるなら、僕も何もしないから安心してよ!」
笑顔。もうその顔を何度見ただろう。
私はこの笑顔を見る度、自分は弱くて何も出来ない、守りたい人すら守れない非力さを感じてしまう。
圧倒的な力の差、それが彼”嫉妬の勇者”の余裕。
「検問所からの話では、君はそのゴブリンと一緒に行動してるようだね。
丁度いいから、そのまま監視と報告をお願いね」
「………殺すんですか?」
意を決して振り絞り問う。
この程度の行動でも首が飛ぶ危険がある。
だけど私は、あの二人は失いたくない。
短い旅だったけれど、私はあの場所に温もりを感じていた。
「ふふふ、そのつもりだったけどね。
どうやら面白い子がいるみたいだし。
今は監視だけをお願いするよ。
また何か有ればここへ来てもらうだろうけどね」
私は従う。
私に選択肢など無い。
ただ黙って任務に務める。
そうすれば、私に愛を教えてくれた両親を助ける事が出来るのだと、そう信じて。
私は王城を後にした。
気持ちを落ち着けてギルドへと向かう。
二人の監視…恐らくオードよりもミストの事が気になっているんだと推察する。
あの二人には、迷惑掛けたくないな。
ふと、そう思う自分が居る。
仲間なんて今まで考えもしなかったのに。
私は私自身の変化に驚いていた。
私も漸く変わってきたのかな?
そう思う。
ギルドに着き、中へ入るとチャチャチャとミスト達が戦闘していた。
何故こんな事にと思ったが、チャチャチャの道具袋から違和感を感じる。
国王の部屋でよく嗅ぐ匂い、それがあの道具袋から発せられている。
あの王の事だ、喧嘩に見せかけて二人の事を観察しに来たのだろう。
だけどそうはさせない。
私は自分でも驚く程の速さで行動していた。
チャチャチャの首筋に剣を突きつけ、静止をする様に脅す。
それと同時に道具袋に向けて《強奪》を使う。
案の定、あのゴブリンに似た感覚が身体をビリビリと走り抜けていく。
どうやら正気に戻せたようだ。
ミストの方を見ると憐れみのオーラを放っている。
気付かれてはいない様で一安心するが、チャチャチャは何度かパーティーを組んだ仲なので、そういう扱いはやめてあげてほしい。
二人に声を掛けると何でも無いという感じで返してくれる二人に安堵感を覚える。
この二人と居ると、何故だかとても安心する。
と、奥からギルドマスターが出てきた。
普段は書類整理に追われ、なかなか下には降りて来ないのに。
チャチャチャとミスト達の喧嘩を聞きつけて来たみたいだ。
軽く挨拶を交わし、二人を加入出来ないかと尋ねる。
すると何故かギルドマスター直々に試験に立ち会う流れになった。
魔物が珍しいのもあるけれど、それ以上にマスターが試験官を務める方が珍しい。
何か思惑があるのかと疑ってしまう。
そんな気持ちのまま、修練所にて試験を行うと言って私達はマスターに着いて行った。




