魔物の地位とドン・チャチャチャ
リューガ村から更に2日半ぐらい掛けて、俺達は漸く王都へと到着した。
検問所があった所よりも更に高い防壁の一角にある、大きな門を潜る。
そこはまさに俺が夢見たファンタジーが広がっていた!
「おおおお!!ここが王都か!」
「ミストくん、彼処!城っス!」
「スゲー!ファンタジーを久々に感じるこの嬉しさ!」
──王都リベルタス。
自由を謳う、世界最大規模の市場が並ぶ。
街の中心部は小高い丘になっており、その上に白く美しい城が聳える。
”自由”とあって、売られている物は多岐に渡る。
野菜、果物、肉、魚。
船や馬、武器に防具に何でもござれ!
屋台が立ち並び、芳しい匂いが食欲を唆る。
ま、俺は気分だけだけどね。
「しかし、思ったより賑わっているな」
「そうっスね。もっとどんよりしてるかと思ったっス。
ところでユキちゃん」
「何?」
「どうしてオイラ達、フードなんか被らなきゃいけないんスか?雨でも降るんスかね」
「………うん、ちょっとね」
オードが屋台を見てはしゃいでる隙を見て、俺はユキに声を掛ける。
「魔物の立場が悪いのか?」
「……どうしてそう思うの?」
「視線がな。あと、こんなに人は居るのに、亜人らしい奴を殆ど見かけない。
ギルドで魔物も加入出来るとか聞いてたから、もっと互いの距離が近いと思ってた」
「建前上ではギルドは何者でも拒まない。
けれどね。知性がある魔物っていうのは、魔物堕ちした転生者の事なの。
だけど魔物堕ちは刑罰にもなってて、だから…」
「ああ、いいよ。もう分かったから」
「ごめんなさい」
「だから大丈夫だって、な?」
ユキは聞けばちゃんと答えてくれる。
それが信頼の証なのかは分からない。
けれど俺は仲間を信じたい。
だからこれ以上を話してもらうのは酷だろう。
話したくなった時に話してくれればいい。
まあ、うっかり聞いちゃうかも。
だが思ってたよりも居心地の悪い国だな。
用事を済ませたらすぐ王国を出るのも検討かな。
あと、俺は完全擬態を使っている。
流石に能力素を止める技術は持って無いので、冒険者や能力持ちには俺の姿はバレてしまうが。
今の所、道行く人には気づかれていない様子。
と、オードを呼び寄せとかないと。
「オード!そろそろ戻って来い!」
「はーいっス」
「ところでギルド加入って金は要るのか?」
「ううん。加入は試験があるだけだから、お金を工面する必要は無いよ」
「そっか。じゃ先にギルド行ってから回復薬とか売り捌いて鑑定屋に行く流れかな」
「おっけーっス」
「あの」
「ん?どした?ユキ」
「私、少し用事があるから、先にギルドに向かってて」
「…分かった」
「ありがとう。場所は城の近くの赤い屋根がそうだから。
じゃ、また後でね」
それだけを言うとブワッと風が舞い、ユキは走り去っていく。
「あの速度で走れるなら、確かに半日で着くな」
「そうっスね」
「んじゃ、とりあえずギルド行って試験クリアでもしとくか」
「ユキちゃんと同じランクになって、ミストくんにドヤ顔決めてやるっス」
「ほほう、その勝負乗った!」
そんな感じで俺とオードはギルドへ向かった。
思えばオードと二人旅をするのも久々な気がする。
それだけユキの存在が大きかったって事だな。
あと魔法薬。うん。
「あれがそうじゃないっスかね?」
オードが指差す方向には、城が立つ丘の麓で一番大きな建物。
屋根は赤く貴賓館の様な様相をしている。
「でっか」
思わず声に出すぐらいの存在感を漂わせていた。
完全擬態を切り、中へ入る。
ずっと発動しててもいいが、恐らくバレるだろうし、顔を見せなきゃ試験も受けられない。
目立つだろうが、そんなもん入社試験の面接の方がマシじゃ!
あの頃の黒歴史を思い出して、若干萎える。
気を取り直し、奥のカウンターまで行こうとするオードに着いて行く。
中には待合室の様な構造で、机と椅子が並べられている。
カウンターの隣には貼り紙が所狭しと貼られた壁。
奥のカウンターの上には、ペナントで旗のマーク、道具袋のマーク、筆のマークが書かれている。
ユキによれば旗がクエストや冒険者への受付、道具袋が報酬等クエスト達成時の報告、筆は試験や国からの要請の対応をする雑務全般を受付するのだそうだ。
なので今回は旗のマークが書かれたペナントのカウンターへ向かう。
だが、一人の男が立ち塞がる。
「あ、すいませんっス。通して欲しいっス」
「あぁ?なんだって?」
コイツの顔、まるで弱者を蔑む様な顔をしている。
「ギルド加入に来たから通して欲しいっス!」
「魔物が?ギルドに?ハハッ!おい聞けよ皆!
咎人様がギルドに入りたいってよ!」
「ぶははは!マジかよ」
「ギルドは魔物風情が来る所じゃない」
「何なら今ここで討伐しちまおうぜ!」
解ってはいた。
ユキが黙っておきたいのも解る。
俺だけならまだしも、オードにも誹謗中傷の嵐。
多分ユキも同じ経験をしたんだろう。
全く、話してくれりゃいいものを。
でも考えてみれば、こんな国に居る理由は何なんだろう。
分からないけれど、この国でランクCにまで登り詰めて、有名になって。
大変な道のりだっただろう。
いや、逆に考えれば、実力さえあれば問題無いって事だ。
そうだ、気楽に行こう。
オードの方を見る。言葉は交わさない。
それでも意図を察してくれる。
付き合いは短いが、何故だかオードとは以心伝心だ。
「さて、じゃとりあえず退いてほしい」
「ぷっ、箱がパカパカしながら喋ってるぜ!」
「歯も舌も無いミミックかよ!だっさ」
「首領!やっちゃって下さいよー」
ギルド内、俺達から見て右側に居たパーティーの一人が、こちらに向かって来る。
身長は2メートル近くあり、かなり巨体の大男。
首領とか言われているし、多分強いんだろう。
俺達はユキしかギルドの人間を知らないし、ユキは亜人だから人間がどのくらいの強さなのかは分からない。
見た感じかなりの経験者、が第一印象かな。
「てめえらみたいに魔物のクセして知性持ってる奴なんざ、どうせ遊び半分に決まってる。
もしくは自分の腕が弱すぎて、薬草採取のクエストで日銭稼ぎかぁ?」
なるほどー、薬草で稼ぐのはアリだな。
でも回復薬にして売った方が高そう。悩むな。
とか思ってたら、カウンターに居たお兄さんが声を掛けて来た。
「ギルド内での私闘はお止め下さい」
「ああ?俺を誰だと思ってんだ?
ランクD 岩投げのチャチャチャを知らねえ訳が無いよな?」
「「ぶはっ」」
同時に吹き出す俺達。
いやいや、その見た目で名前チャチャチャって(笑)
首領チャチャチャ…うん。いいと思うよ。
俺の感性がおかしかったと思ったけど、よく見たら周りの人もちょっと笑ってる。
居るんだなーこういう人。
「てめえら…魔物の分際で…」
ワナワナと震えている。
ヤバイな、怒らせ過ぎたかな?
「地創造!」
ドンチャチャチャがそう言うと、腰に下げていた道具袋から魔鉄が掌へと集まり圧縮されていく。
「ヤバイっス!あの能力、凄い勢いで魔鉄粉を固めているっス!」
「見りゃ分かるよ!…全く、俺達は正当防衛主張するぞ?
そもそも吹っかけてきたのはお前の方なんだからな!」
「ハハッ!滅せられる前に教えてやろう。
オレが持つ能力は砲弾投擲、物を砲弾の如く飛ばす力だ。
粉々になる前の手向けだ」
「なるほどー、その魔鉄鉱が粉々になるんだな、覚えとくよ」
ピキッと額に青筋が入る。
ギルドの役員も止めに来ない、って事はなかなか強い人なのかな?
しかし技の出が遅いな。
砲弾っていうから速いのかと思えば、どうやら弾を作るのに時間が掛かってる様子。
1度攻撃を見てみて強さを測りたかったんだが。
油断してる訳じゃないけれど、めっちゃ遅い。
投擲って事はユキのアレと同じなんだろうけど、ユキはかなり早かった。
まあアレは俺達が飛ばされたんだから速いのは当たり前なんだろうが。
いやしかし遅いな。既に手向けだ!って言ってから20秒近く経とうとしてる。
オードなんか横で欠伸してるぞ?
うーん、どうしよう。
とりあえずオードと相談しようと思ったその時、満を持して砲弾が放たれる。
俺達に命中し、砲弾が粉々になり煙が舞う。
「フハハハハハハ!!やっぱり魔物だな、無能め!
俺の溜めの隙を付いてさえ来ないとは。
とんだ臆病者だな!」
「らしいぞオード」
「えーオイラっスか?」
「はっ?」
そこには平然と立つ俺達。
馬鹿な!とかあの岩投げのチャチャチャの砲弾を直撃したのに!とか言ってる。
いやいや。あの程度、爆裂道具弾とオードの風壁が有れば喰らわんよ。
むしろあんだけ溜めてたのに、俺とほぼ同威力ってどういう事だよ。
最悪、回復薬使う用意もしてたのに。
こりゃあんまり人間って強くないのかもな。
ドンチャチャチャが何やらギルドの人間に訴えてる。
「オレは魔物の脅威からこのギルドを守ろうとしたんだ!
アイツらはギルドを襲った、今すぐ奴等を捕獲するんだ!」
やだなー。負けたからって悪者扱いされるの。
やっぱり数の暴力っていうのか、どこの世界言っても本質は変わらないよな。やれやれ。
「クソ!何で誰も動かないんだよ!!
魔物は悪、そうだろてめえら!」
「そ、そうだそうだ!首領の言う通りだ!」
「よし、アイツらを捕まえろ!」
「おおー!!」
うむ、逃げよう。
そう思い、竜巻頭突きを構えたその時、
「何してるの?チャチャチャ」
ドンチャチャチャの首筋に当てられた短剣。
ユキが冷たい眼で睨みを利かせていた。
「ハッ、ユキさん」
「ここはギルドの中、如何なる場合であっても私闘は許されない。どういう意味か解る?」
ガタガタと震え、歯を鳴らすドンチャチャチャ。
余程罰則が厳しいのか、その顔は真っ青になっている。
「今後、魔物だからと追い出す様な真似をするなら……容赦無く首を落とす」
「す、すいやせん!姐さん!」
えーー。どんな立ち位置なんだあのオッサン。
めっちゃ立場低いなオイ。
調子に乗せられ、一人暴れて、助けて貰えず、少女に怒られるオッサン。
なんかオッサンが微妙に可哀想に思えてきた。
頑張って、名前は明るいよ!
「遅れてごめんなさい、ミスト、オードくん」
「いやいや、心の中でグーサイン出したから大丈夫」
「?」
「こっちの話だよ」
「お帰りっス!ユキちゃん!」
「ただいま」
「おい、あの魔物達、ユキさんの知り合いみたいだぞ」
「マジかよ…。ユキさんの知り合いなら手を出すのは不味いな」
と遠くの席で話しているのが聞こえる。
これはオードの風壁の応用で、室内に風の流れを作り、その風の終着点にオードが居る。
その風には魔力が込められており、術者に風を通じて音を伝えるという、何でこんな使い方をサラッと思い付くんだこの羨ま天才野郎は!という技である。
村から王都までは魔物も出ず、暇だった為、俺達で意見を出し合いながら完成させた技法だ。
まあその大半はオードなんだけどな。
しかし、ユキって有名なんだな。
さっきのオッサンとユキではかなり差がある様に感じた。
ランク1つ変わるだけで、それだけ強さが変わるって事なんだろうな。
そうこうしていると、奥から如何にも私偉いですよ!みたいな委員長とかしてそうな人が出てきた。
「やぁユキさん、この度は長旅ご苦労様です」
「いえ。今回はのんびりし過ぎてしまい申し訳ありません」
ユキとあんなにフレンドリーに喋ってる所を見ると、なかなか信用出来そうである。
「いえいえ。ギルドの者達が無事に帰ってくれる事の方が、私は嬉しいのです。
ところで今日の用件は何でしょうか?」
「前回のクエストの報告と……。
あと私の仲間二人を加入させて頂きたいんです。
けど、魔物はダメでしょうか?」
男は首を横に振る。
「いいえ、その様な規則の一切など、私は存じ上げません。
ギルドは来る者は拒まずの精神で運営しております。
なので魔物であっても、貢献して頂けるのなら、私達は全面的にバックアップ致しましょう」
「有難うございます」
「いえいえ。他ならぬユキさんの頼みです。
では御二方、試験に参りましょう。
準備は宜しいでしょうか?」
「おう!」
「何時でもおっけーっス!」
俺達はギルドの奥の修練所にて試験を受ける事になった。




