廃坑内の闘い ③
オードはまだ若干顔色が悪い。
それなのにオードは俺よりも前に出て相手を睨みつける。
ゴブリンリーダーもまた、オードを見つめる。
2人の間に重々しい空気が流れる。
俺はどう止めるかを考えていた。
まず相手の戦力が分からない。
俺の詳細鑑定には穴がある。
草や石を一度鑑定すれば、辺りの物も鑑定出来るのだが、魔物などは何故か個体毎に鑑定を掛けなければならない。
また、前に石を鑑定した時に微弱な魔石だった物を、ある程度成長する収納で放置し、再度鑑定すると魔結晶になっている。
つまり成長する事の出来る物や人だと、個別に鑑定をしなければならない、というちょっと微妙な制約が存在する。
魔物や人は名前や能力がコロコロ変わるし、個体毎に鑑定しなきゃならないのには納得だが。
「オード…相手は仮にもお前の種族のリーダーなんだろ?」
「そうっスよ」
「勝てるのか?」
「さあ…どうっスかね」
「取り返すだけなら俺達だけでも行けるって訓練もしたけど、決闘は流石に分が悪いと思う。
だから杖は諦めて…」
「諦めないっス!!」
オードが怒鳴った。
そもそもいつもおちゃらけているイメージしか無かったのに、初めて俺の前で怒る姿を見せた。
「あれは…あれは師匠が…お父さんの杖を模して作ってくれた形見のような物なんス!
あれだけは…あれだけは!!」
「ハンッ!あんな古ぼけた杖の何がいいんだか。
ああ、怖じ気付いたなら帰ってもいいぜ?
土下座でもしながら、ごめんなさいっすーとでも言って貰おうかな〜?」
「………ミストくん、ユキちゃん。
オイラが闘ってる間に外に出るっス。
ここで奴と決闘していれば、周りは雑魚っス。
オイラの闘いに2人を巻き込むのは」
「もう巻き込まれてるよ!今更かっ!」
「でも…」
「お前が倒れた時に回復役が居た方がいいだろ?」
「ミストくん……トゥンク」
「トゥンクを発するなトゥンクを」
「2人とも楽しそうだね」
「おうよ!ボケかましあってる方が性に合うからな。
だから必ず勝てよ!」
「…………分かったっス」
「友情ごっこは終わったか?」
「ああ、主人公は絶対勝つっス!!」
そう言ってオードが構えたのを皮切りに、2人の闘気で空気が震える。
初めに攻撃を仕掛けたのはオード。
オードは火弾を拳の周りをクルクルと回転させる様に滞留させながら、相手の身体を殴りつける。
だが相手はそれを剣の腹で受け止めた。
同時に石ころを投げつけるゴブリンリーダー。
俺はそれが魔鉄鉱だと見抜くが、オードにはそれが分からない。
普通の石ころに見えるそれは、実際はかなりの重量があるが、当たった所で然程ダメージは無いだろう。
だが、相手の狙いは魔鉄鉱を加熱する事にある。
ここに来るまでにオードがやっていた、魔鉄鉱は少ない火力でもドロドロに溶かせるという性質。
それをオードに目掛けて投げつけたのだ。
拳に纏わせた炎でオードは迎撃するが、それが魔鉄鉱であり、自身の手を溶けた魔鉄鉱が焼け焦がすのに気付いたのは、かなりの火傷を負った後だった。
「ぐぁあああああああああああああああ」
肉の焼ける臭いがする。
オードは地弾で砂を精製し、魔鉄鉱を落とす。
その後水弾にて患部を冷やす。
だが、オードの手は赤く爛れている。
「くっ……うぅ……」
「ふっ、魔法が使えるからと言っても所詮はその程度か。
やはり魔物堕ちする様な輩は追い出して正解だったな」
だがオードは諦めない。
今度は自身と相手の周りに風弾で風を纏わせる。
本来のこの技は物を加速させる魔法だ。
投げつけた物の速度を上げたり、騎乗時、風の流れを操り抵抗を少なくしたり等、補助的な面が強い。
そしてオードはこれを、自身の周りに窒素と二酸化炭素を集め、自身と相手を大きく包む様に壁を作る。
これと逆に酸素はその空間内に注ぐ様に充満させていく。
傍から見ればただただ突風が吹き荒れている感じにしか見えない。
だが、俺は空気すら鑑定をする事が出来る。
主に空気中の魔素を測る程度なのだが。
今回、そんなどうでもいい事が、オードのやろうとしている事を理解出来る要因になったのは言うまでも無い。
だが、これは…
「ハッ!で?この程度の風を起こして何が出来るってんだ?
廃坑内を涼しくでもしてくれるつもりか?」
「いやぁ、逆に暑くなると思うっスよ。燃え盛る意味でっスけど、ね!」
オードはそう言うと、その酸素が満ちた空間へ向けて火弾を放つ。
酸素で満たされたその空間だけ、勢いよく燃え盛る。
同時にゴブリンリーダーの身体から火柱が上がる。
「あがががごががごがが」
「やられたらやり返す、基本っスよ!
ただ酸素を圧縮出来ればもっと効率良かったんスけどね。
濃度もまだまだっス。
痛みと魔力量的にこれが最大火力っス!」
久々のドヤ顔。逆に安心する俺。
今回酸素で良かったが、水素とか集めていたら…。
いや、考えないでおこう。
最悪、ユキを飲み込んでローリングだな。
と相手を見る。
流石に黒焦げになり動けない……と誰もが思っていた。
「ぐぅぅぅ…キサ、マ……許サナ、イ」
「ま、まだ動けるんスか?!」
オードが驚くのも無理は無い。
相手側の部下ゴブリン達ですら驚いていたのだから。
「殺す…憎い…奴を……殺せ…」
そう言って立ち上がりながら呟くゴブリンリーダー。
だが違和感があった。
奴が呟いている言葉の中に「奴を殺せ」や「殺さなくては」みたいな発言がたまに含まれているのだ。
もし本当に憎い相手なら、「殺したい」では無いだろうか?
オードの方を見ると、どうやらあっちも違和感に気付いた様子。
何処を見ているのか分からない、焦点の合わない目になるゴブリンリーダーにオードは水弾で、足元に泥濘を作り体勢を崩させる。
そして俺はすかさず近付き奴を飲み込む。
周りのゴブリン達がいきり立つが今は無視だ。
詳細鑑定を使い奴を観る。
個体名:リーダー
種族:ゴブリン
属性:無
称号:ゴブリンリーダー
職業:族長
固有能力:無し
能力:バッシュ、思考加速、嫉妬の執念
魔法:無し
能力の中に《嫉妬の執念》なんてのがある。
他のゴブリン達を見た時はバッシュやハント、回避補正だったのに。
おそらくこれが奴の状態異常を起こしている原因だと思われる。
「オード、どうやら嫉妬の執念なんて能力がある。
これが多分、コイツをおかしくしてると思うんだが」
「「嫉妬…」」
オードが固まる。
と、後ろに居たユキも同じ台詞を言った。
どうやら当たりらしいが、何か思う所があるのか?
「…私の能力なら治せるかも知れない」
そうユキが言う。
「じゃあ」
「でもいいの?そのゴブリンさん、リーダーの事嫌いなんでしょ?」
オードは少し考えてから、
「いや、治してあげてほしいっス」
「いいのか?コイツ、お前を殺そうとしてた奴だぞ?」
「……多分、オイラの予想が当たってるなら、リーダーはきっと」
言いかけて止める。
何なんだ、気になるじゃないか。
が、まあ後でいいかとリーダーを吐き出す。
ユキはそのリーダーに能力《強奪》を発動させる。
俺は名前的に相手の持ち物を奪う効果だと思っていたが、どうやらこれは相手の状態異常を奪う能力らしい。
奪った後は自身にその効果が降り掛かるらしいが、回避補正のおかげで霧散するとの事。
便利な能力をお持ちで…。いいなぁ。
顔から憎しみの色が消え、辺りを見回すゴブリンリーダー。
そして何かを悟る。
そこへオードが語りかける。
「リーダー、久しぶりっスね」
「………あの時のガキか。俺様は何を」
「リーダーは今迄、何者かに操られていたんスよ」
「……………成程な」
「察しているとは思うスけど、奴とはどこで?」
「両親が殺された時に近くに俺様は居た、多分その時だろう」
「そうっスか」
「なあ、ガキ」
「今はガキじゃないっス!オードって名前を付けてもらったっス」
「……名を?」
「そうっス!友達のミミックのミストくんにっス!」
俺の方を一瞥するがすぐに視線を戻す。
「オード」
「なんスか」
「今迄すまなかったな」
「……それは村を追い出した事っスか?
それとも、今迄魔物が来ない様に監視を付けてくれてた事っスか?」
「……ッ!何故それを」
「知ってるっスよ。リーダー、村の皆の意見を聞いて、オイラを追い出した事に責任感じていたんスよね?
幾ら転生者と言っても身体は子供っスよ。
そんな子供が、あの森の中で生き残るなんて普通出来ないっスよ。
そもそも、魔物が1体も来ないなんて変じゃないっスか」
「だがどうして監視まで気付いた?」
「何も子供の身体だからって、能力の鍛錬を怠ってたわけじゃないっス。
村に居た頃はまだ魔力察知しか出来なかったっスけど、追い出されてからは魔力探知が出来る様になったんスよ」
「……そうか、そうだったか。杞憂だった様だな」
そして暫く沈黙が続いた後、ゴブリンリーダーは語る。
「今回、お前の杖を奪えばここに来るのは解っていた。
ミミックが仲間になっていたのは予想外だったが」
「闘ってる時も、止めを刺す機会があったのに、攻撃して来なかったりしたから、何の罠かと警戒してたっス。
結局本当の目的は何だったんスか?」
「…オード、俺様の後を継ぎ、族長になってはくれないか」
周りのゴブリン達がざわめく。
「静まれ部下達よ。
俺様も長年ゴブリン達を守護してきたが、最近ではこの森にも転生者が闊歩し、森の生物が危機に瀕している。
それらを対処してきたが、私ももう歳だ。
幾ら強いと言っても衰えは来る。
何よりゴブリンは短命だ。
繁殖力で種は滅びずとも、頭が居ないのではいずれ滅ぶ。
俺様はお前が産まれた時、内心とても嬉しかったよ」
「リーダー…」
「だけどな、村の奴等は転生者に雑魚だ何だと言われ、斬り捨てられた者が大半だ。
現に俺様もこのザマさ。
だからお前を遠くに追いやるしか無かった。
だがお前はそれすらも見抜いていたなんてな」
「当然っスよ」
オードは涙ぐむ。
自分でやったとは言え、リーダーの火傷は深い。
もう、永くは持たない。そんな状態だった。
「お前は俺様を倒したんだ。
村の奴等が何を言おうが、お前は今日からリーダーだ。
後の事はお前に任せるぞ」
「うう…リーダー…」
「勝った奴がなんて顔しているんだ、全くお前は昔から泣き虫で」
と思い出話を語ろうとしているその時、
「爆裂道具弾!」
俺は空気を読まず上位回復薬を2人にぶっかけた。
「わっぷ、何事っスか?!
うわっ!身体から煙が!?酸っスか?!」
「くっ…あのミミック…なんて非道な……ん?」
「回復薬使った相手に非道とか、どこのアンデットだ」
「あ、あれ?ミストくん、これって」
「上位回復薬だ。別に俺からすれば沢山ある物だし貴重品でも無い。
それにそこのゴブリンリーダーが悪い奴じゃないってのも分かったし。
大体この湿っぽい雰囲気、超キツイ」
「ぷっ…アハハハハ。流石ミストくんっスね!」
「だろ?」
ゴブリンリーダーは未だ状況を理解していない。
オードと俺は笑う。
ユキはそんな俺達を静かに見ている。
周りのゴブリン達は狼狽えている。
そんな中オードは言う。
「さっきの話っスけど、オイラはリーダーみたいにはなれないっス。
だからさっきの話、少し保留していいっスか?」
「保留、だと?」
「今は少しミストくんと冒険がしたいんス。
今回の事で落とし前も付けに行かなきゃいけなくなったっスからね!
だから、それが終わったら、その時に改めて考えさせてくれないっスか?」
「……………」
ゴブリンリーダーは俺を見る。
先程の睨みつける様な眼差しでは無く、俺を見極める様な目で。
そして決心したのか、オードに一言、
「分かった、待っていよう」とだけ言った。
そうして、この闘いは幕を閉じた。
何処かで切ろうと思っていたのですが…。
間違いがあったので訂正しました。




