SS ユキ
残酷な表現が有ります。
苦手な方は飛ばして下さい。
今日も父に蹴られた。
母に殴られた。
店主にはどやされ、道行く人々には唾を吐きかけられる。
私はどうして生まれてきたんだろう?
私はとある教会で育った。
マザーの話では私は赤ん坊の頃、教会の前に捨てられていたらしい。
だから本当の親の顔など知らない。
知りたくも無い。
読み書きを覚え、教会での仕事をしていると神父様が来て、私を引き取ってくれるという人がいると伝える。
私は教会でもっと働いて恩を返したかったけど。
でも、教会に居るよりも引き取り手の所へ行った方が教会の為になると、私はそれを快諾した。
新しい親は両方とも30過ぎの夫婦だった。
とても笑顔で優しそうで近所の評判も良かった。
そんな夫婦は、身寄りの無い子供達を引き取っていた。
だから家の中には私以外にも数人の子供達が居る。
だけどどうしてだろう。
何人かはとても暗い表情をしていた。
数日経ったある日、数人居た半分の子供がその家から姿を消した。
何があったか聞こうとしたが、周りの子も両親も何も言わない。
いつもと変わらぬ生活がそこにはあった。
違和感はあったけれど、私はそれをスルーしてしまった。
そして私が10歳になったある日、部屋の掃除をしているとベッドの下に扉があった。
私は好奇心に駆られ、中を覗いた。
地下に続く階段があったが、何故かその先から腐ったような臭いがした。
そこでやめておけば良かったかも知れない。
けれど、私はその先へと足を運んだ。
凄惨な後継だった。
前に居た子供達がそこには居た。
腐敗し、手足がもがれ、目玉が飛び出した、そんな死体がそこにはあった。
拷問を受けたような跡があり、1人は全ての爪を剥がれ、そこに唐辛子で有ろう液体が塗られていた。
1人は全身に夥しい数の裁縫針を刺され死んでいた。
1人は全身の皮が無く、鉄格子を掴んで硬直していた。
これは一体なんなんだ?
私は一体何を見ているんだ?
混乱し、発狂しかけた私の背後に足音がする。
「ありゃ、どうして君がここに居るのかな?んん?」
その声は毎日聞いている、暖かい声だった。
でも今は違う。
背中に汗が滲み、私は勇気を持って振り向く。
そこには、私を引き取ってくれたあの優しい父親が、他の子供の髪を掴んで立っていた。
左手にはナイフと蝋燭。
父親が話し掛けて来た。
「お前は優秀な子だ。本当なら引き取って直ぐ遊んでやろうかと思ったが、私達を心から信頼した頃に壊した方が面白いと妻が言ってな。
…ん?おやぁ?」
私はあまりの恐怖に漏らしていた。
歯をガタガタと震わせ後ずさる。
だが身体は言う事を効かず、思う様には動けない。
「アハハ、ああスマンなあ?怖がらせるつもりは…まああったんだけどな!アハハハハハハハハ!!」
地下室に響く父の声に私は恐慌する。
「お願い……します、お願いします!
何でもしま、す。言う事、もちゃん、と聞く、か、ら、殺さないで…殺さないで…」
いつの間にか私は懇願していた。
あの子供達の様にはなりたくない。
ただそれだけを願って。
「なら取り引きしよう」
「取り、引き…?」
「ああそうだ。お前は自分の命を金で買え。
私達に金を払い続ける限り、お前には何もしないと誓おう」
私は頷く。ただそれしか出来ない。
「ああそれと、教会に助けを求めても無駄だぞ?
あの教会は我々と繋がっているからな。
無料で子供達を提供してくれるんだ、金を寄付してやるのは当然だろう?」
私は絶句した。
あの優しかったマザーが。
あの凛々しく清らかな神父様が。
こんな奴等と同じだったなんて…。
私はそれから必死に働いた。
少しでも稼ぎが少ないと暴力を振るわれる。
朝は新聞配達、昼はパン屋で夕方は酒場へ。
それでも足りないと父親が言う。
それを聞いた母親は「じゃあ身体を売ればいいのよ」と言う。
私は夜、身体を売った。
アッサリと純潔も失った。
身体を売る様になってからは暴力は少なくなったが、身体の見えない部分や身体を汚される日々。
それでも私は生きたい一心で耐えた。
最近では余裕が出来ていた。
今は稼ぎから少し金を抜き、コッソリ貯めている。
今日、この街からこのお金を持って旅立とうと思っていた。
もうあんな場所には戻りたくない。
だから私は普段通らない路地裏を通っていた。
それがよくなかった。
路地裏で複数の男達、浮浪者に絡まれた。
貯めたお金と楽しみにしていたパン屋での余り物、それを奪われた。
抵抗虚しく身体を汚された。
男達は満足したのか、何処へともなく消えてゆく。
仰向けになっていると雨が降ってきた。
私の悲しみを体現したような。
そこで私の中の何かが深く落ちてく感覚を覚える。
そのまま家に帰ると玄関先で父が私を殴りつけた。
「お前、こんな泥だらけで家に上がる気か!」
私は何も言い返せない。
「それに、私から金を抜いていたそうだな?」
そう聞かれ、ビクンと身体が跳ねた。
後で知ったが、この男はこの街の領主だった。
そんな男は浮浪者の噂を聞きつけ、私が金を抜いていたのを見抜いたそうだ。
あれは私が稼いだお金なのに、なぜ私が糾弾されなければならないのか。
なぜ私だけこんな、こんな、こんな……
私の中の感情がどんどん黒く染まる。
父は地下室に私を連れて行こうとした時、机の上にあったパン専用のナイフに目が行く。
それを取った私は無造作にこの男の首筋に立ててやった。
何回も、何回も、何回も───
私はそのまま家を出る。
着いたのはあの教会。
ふとマザーの顔が見たかった。
そう思っているとマザーがそこにはいた。
「久しぶりだね、マザー。何年ぶりだろ?」
私の口調は優しい。
だが手には血が付いたナイフを握りしめ、服には鮮血がべったりと付着している。
そんな私を見てマザーは退く。
「どうしたのマザー?話をしようよ」
もう私は人の皮を被った何かになっていた。
もう何も信じられない、でもマザーなら。
そう思っていたのに。
マザーは狩猟用のライフルを取り出し私に向ける。
「あなたは罪を犯しました。それをちゃんと認識しているのですか?」
「マザーこそ、私をあの男に売ったじゃない。ただの正当防衛だよ」
「そうですか…私はあなたの事、娘の様に可愛がっていましたよ」
嘘ばっかり。
嘘、嘘、嘘、嘘。
マザーはライフルを引くのを一瞬躊躇った。
だが私はマザーが躊躇ったその一瞬に、マザーの首筋を切り裂いた。
「どうして……私はあなたを…」
マザー、ありがとう。
私も大好きだったよ。
私が唯一家族と思える人だった。
後ろで気配がする。
振り返ると母親と神父様がそこには居た。
母親と神父様は愛人関係で、こうして父親の目を盗んで教会に通っていたのを知っている。
「ちょっと!アンタ何やってるのよ!」
「ああああ…マザー…どうして…」
神父様は顔が青くなっている。
母親は怒鳴り散らしている。
ああ、五月蝿いなあ。
そう思っていた私が次に意識を取り戻すと、神父様と母親が私の足元に転がっていた。
首から下が無く、何度も引き裂いた様な跡がある。
私はそれを見ても何も思わない。
ただ、見たくないなと思った。
私は教会を出た。
昔、マザーが1度だけ連れて行ってくれた、街が見渡せるあの丘に行こう。
不意にそう思った。
雨の中歩き続ける。
右足を引き摺り、手をだらんとさせながらも。
マザーと過ごした思い出に浸った。
あの頃は楽しいと思えた。
高い木に登って降りられなくなった時は、マザー、カンカンに怒ってくれたっけ。
教会の十字架にぶつかって落としてしまった時は、神父様が宥めてくれたなぁ。
頑張って読み書きを覚えたら、マザー…泣きながら、喜んでくれて、、、
私は倒れていた。
雨の中、体力も尽き、気力も尽き。
あれが走馬灯というものなんだと、薄れ行く意識の中そう思った。
私の人生、もし次があるのなら、私は────
気が付くと私は知らない天井を見上げていた。
身体は動かせない。
けれど、とても柔らかいベッドに寝かされているのは解る。
ここは病院だろうか?
そう思っていると誰かが入ってくる。
やってきたのは顔立ちは人間、だが頭から狐の耳が生えた1人の女だった。




