廃坑内の闘い
俺様はゴブリン。ここのリーダーをしている。
この廃坑は魔鉄鉱が取れるいい場所だ。
部下の戦力が底上げされ、たまに討伐に来る人間も簡単に処理出来る。
廃坑内は無数の通路があり、太い主通路と細い通路、そしてその細い通路の上に空けた隠し通路。
これらを使って敵を撹乱、殲滅する。
この廃坑がある限り、侵入者の撃退など容易い事だった。
また侵入者が入ったとの報告。
しかもあの魔物堕ちしたゴブリンとミミック、それと狐亜人。
あのゴブリン、転生者と聞いた時は驚いた。
同時に憎いとも思った。
俺様の両親は人間によって狩られた。
弱肉強食の世界だ、よくある事だし俺の親だけじゃない、村ではよくある事だった。
だがそんな時にあのゴブリンが産まれた。
初めは言葉も話せない赤ん坊だったので、俺様も親戚の弟が出来たと喜んだものだが、そいつは元人間。
直ぐに追い出してやった。
別に俺様の両親を殺した奴じゃないのは反応で解ったが、俺様は簡単に割り切れなかった。
そんな奴が大事だと言っていた杖。
追い出してから暫く経って斥候に調べて貰ったら、案の定生きてやがった。
それに昔持ってなかった、自分の宝物だと豪語する杖を握りしめている。
癪に障った。この感情に意味は無い。
けれど奴が喜んでる姿を思い浮かべると、まるで両親を殺して喜ぶ奴等の顔が浮かぶ。
そしてその怒りの矛先が決定的になったのは一緒に居るミミックのせいだ。
事も有ろうに、そのミミックはゴブリンと友達になりやがった。
そのゴブリンはゴブリンの皮を被った悪魔だ。
楽しそうにしていると報告があった時には、腸が煮えくり返る様だった。
俺様は斥候に命じて杖を破壊する様に言う。
結果、恐ろしく丈夫で壊せなかったので、こうして廃坑まで運んできた。
そして奴が来た。
良いだろう。この廃坑で貴様ら共々殺してやろう。
一緒に狐亜人も居るようだが、見逃す理由も無い。
さて、先ずはこことここに配置をと部下に命令しようとした矢先、けたたましい轟音と地響きが廃坑を襲う。
「なんだ!何処かで崩落でもしたのか!」
斥候が慌てて連絡係に報告を送る。
「どうやら敵が入口付近にて壁を壊したようです」
「なんだと?!」
確かにここの壁は硬い。
だが入口付近には鉄鉱石の含有量も少ない為、壊すのは割と簡単だが、どうやらあのミミックは一撃で壁を破壊したらしい。
尖兵が廃坑前でやられたと聞いた時はまさかと思っていたが、あのミミックは只者では無いらしい。
斥候や偵察隊を引かせ、本隊と合流させる。
恐らくだが、奴等は壁を壊し、一直線でここに来ると思った。
入口のは試し打ちだろう。
ならば分散しているより、この最奥の広場にて身構えた方が幾分かマシだろう。
そんな嫌な予感は的中する。
けたたましい轟音はこちらに向って地響きと共に大きくなっていく。
「ふっ、来るなら来い!八つ裂きにしてやる!」
ゴブリンリーダーは自らを鼓舞する。
「うおおおおおおお回転頭突き!!」
「ぎゃあああああああああ!!!」
俺はユキとオードの誘導の下、壁を掘削していた。
ユキは罠が無さそうな場所を探り、オードは敵を感知する。
そしてオードは固有能力《幸運》を発動させている。
この《幸運》は確率操作をし、自身に不利な状況を作らせないというチート能力である。
だが欠点があり、これは常時発動出来ない。
一日1時間程度しか使えず、効果も言う程高くない。
せいぜい、崩落した石が当たらない程度である。
だがオードはその能力で石を回避。
トロッコに乗りながら《ドレイン》を使う。
《ドレイン》とは、本来生き物の生命力を奪うスキルなのだが、オードはそれを利用して壁に対して発動させている。
奥に進む程、壁の高度が増しているのだが、この《ドレイン》のおかげで壁が脆くなるのである。
理由は魔鉄鉱にある。
鉄鉱石程度では壁に疎らにあるだけで、普通の壁よりも硬い程度。
むしろ硬度にバラつきが多い為、バッシュ等の振動を与えるスキルを使えば、脆い部分から崩れる事になる。
俺は知ってたけどね。知らずに使う訳無いじゃないですかやだー。
ゴホン。
で、魔鉄鉱は当然、魔力を持った鉄鉱石なのだが、ドレインで魔力を奪うと鉄鉱石に戻る訳だ。
普通の人からしたら勿体ない行為だが、俺は普通に作れるから問題無い。
そんな時にユキが俺の中でうめき声をあげていたが、お腹でも痛いんだろうか。
一応、回復薬を渡してやるとうめき声が治まる。
うん、お腹痛かったんだな。
そして更にオードは、魔力を奪った鉄鉱石に火弾を放ちドロドロに溶かす。
その後辺りに吹きかけ、水弾で冷やし固める。
最後に地弾で柱を形成し支える。
鉄鉱石の場所はドレインで判別しているとはいえ、的確に放つそれに賞賛を贈りたい。
絶叫してるから聞こえないだろうけど。
鉄鉱石をドロドロに溶かす程火力がある様には見えないが、それを冷やし固める程冷気も感じない。
と思っていたのだが、どうやら魔鉄鉱の魔力を全て抜かず少しだけ残してあるとの事。
それにより、流動性が普通の鉄鉱石よりも良く、火力が低くても溶けやすくなっているらしい。
加工する際の知識で常識だと。ほっとけ。
固まるには時間が掛かる様だが、柱がその時間を稼いでくれる様だ。
意外と考えられた策だった。
てっきり俺は風弾でローリングバッシュの回転率を高めてゴリ押すのかと思っていた。
流石魔法使い、頭が良くて助かるぜ!
何処ぞのゴリ押しクソ野郎とは訳が違う。
そんな感じで廃坑最奥を目指して突き進んでいた。
「前方に大きな広間があるよ」
「敵も複数いるみたいっス」
「そろそろだな。皆、回復薬で回復しとけよ」
そして一際分厚い壁を壊した先には、ゴブリンが50体程待ち構えていた。
壁の破片とオードの牽制の火弾で何人かを仕留める。
だが着地地点でこちらに剣を振るうゴブリン達。
俺は咄嗟にあの失敗作を爆裂道具弾にて放つ。
爆風にて剣を弾く事は出来たが流石に折れなかったか。
そうして着地に成功する。
オードもトロッコから飛び降りたので、蔦を切り離す。
ユキも俺の中から飛び出す。
俺的には中に居た方が安全だと言ったのだが、それでは申し訳ないと遠慮された。
こうして対峙したはいいが、これゴブリンの本拠地だろ?
この数押し切れるんだろうか。
とは思ったけど、まあ何とかなるだろ。
ゴブリン達の奥に一際大きい個体が居る。
ゴブリンリーダーだ。
「おい!俺の友達の杖を奪っただろ!返せばこのまま帰ってやる!」
内心、うわぁ戦いたくないわぁ、この数やっぱりダメじゃね?と思いつつも、隣に居るオードは相変わらずオドオドしていた。
後ろに陣取るユキは意外にも静かに佇んでいるのに、このゴブリンは。
とも思ったが、ある意味追い出された形のオードにはトラウマなのかも知れない。
ここは俺が前に出るしかないか。壁的な意味でも。
リーダーは言う。
「はっ、この世は弱肉強食。わざわざやられに来てくれた奴等に手向けとして返してやるのも面白いが…。
そうだな、そこの女にゴブリンの子でも産んでくれるというなら考えてやるよ」
ユキはより俺の後ろに隠れる。
「このゲスが…ユキちゃんは渡さないっスよ!
それに杖を返すっス!」
オードも言い返す。
ただ、隣から少し俺よりに陣取るのはやめて欲しい。
いや、戦術的には正しいんだろうが。
今このパーティーを改めて分析する。
ヒーラー兼壁の俺。
遠距離魔法のアタッカーのオード。
敵を撹乱する補助兼サポーターのユキ。
ユキはまだちゃんとどんな事が出来るのかは分からない。
そこまで関係的には深い訳じゃないし、切り札も持ってると思う。
多分、疾風迅雷がそれだと思ってるけど。
だけどこのパーティー、物理アタッカーが居ないから、接近戦がかなり不利だな。
廃坑攻略が面倒なのと、偶然壁が破壊出来たからこんなところまで来たが、相手のフィールドで戦うのはやはり不利になる。
加えて人数差もある。
オードから聞く限りでは、魔物で魔法を使うのは稀だが、スキルは持ってるらしい。
つまり何らかの攻撃技はある。
あー、成り行きとはいえ何でゴブリンとバトルする事になったんだっけ?
まあ、終わったら考えよう。
ゴブリンリーダーはただ一言「やれ」とだけ言った。
それを聞いたゴブリン達は、俺達に攻撃を開始した。
先ず手前のゴブリン7体が俺に向って剣を振るう。
俺はそれを回転頭突きで迎撃する。
回転頭突きも当てる箇所で攻撃力や効果が微妙に違う。
角に当てると一番攻撃が高く、まだ縁が金属の為、剣などの迎撃に向いている。
面に当てると衝撃がより強くなる傾向がある。
壁を壊したのはこれを使った。
最後に頭の部分。
これは丸みを帯びているせいか攻撃力が殆ど無い。
衝撃も柔らかい。
けれど移動する際、曲がる時にとても重要な部分でもある。
まあそんな余談は置いといて、俺は角当てにて応戦している。
剣は弾けるが壊す事は流石に出来ない。
しかも7体同時はキツイ。
身体には剣が刺さりボロボロになる。
そこへユキがいつの間にかゴブリン達の背後を取り、その短剣を1体の首元へと振り下ろす。
そのゴブリンは絶命する。エグい。
俺は法治国家に居たからか、魔物であっても生き物を殺すというのには抵抗はある。
だが、身体の傷からも解るが敵は俺達を殺す気で来ている。
俺は覚悟も無く、ただ何となく成り行きで着いて来た感じだが、俺も敵を殺す覚悟を決めないと。
もうあんな死ぬ感覚は味わいたくないしな。
ユキは観察する。
敵の持ち物と装備、相手の数を見て。
この戦闘、どちらに軍配が上がるのか。
おそらく五分だろう。
向こうのゴブリン達は確かに優秀だ。
装備はほぼ鉄防具で剣もロングソードで固めている。
1組7体で前衛が5体、後衛が2体。
後衛は弓を持っている。
前衛の5体がミミックさんに襲い掛かる。
だがミミックさんはその全てを弾き返していた。
けれどもやはり数の差か、徐々に敵の攻撃で身体が傷ついている。
これだけを見たなら私は直ぐに撤退を決め込んでいただろう。
そう、この2体が普通のミミックとゴブリンなら…。
隣を見るとゴブリンさんは何やら魔法を詠唱している。
ここに来るまでに更に水魔法も使っていた事に驚きを隠せない。
魔法を操る魔物、それもゴブリンなのに。
もしや…このゴブリンは噂に聞く”魔物堕ち”と呼ばれる者では無いだろうか?
だが普通の魔物堕ちではこんな強さは出ない。
むしろ理性を失い、ただの魔物に成り下がるだけ。
つまりこのゴブリンは”転生者の魔物堕ち”では無いだろうか?
転生者…か。
今時は珍しく無いが、それでも世界人口から見ればかなり希少な存在。
嫌な運命だなと自分を呪いたくなる。
おっと。
どうやら魔法の邪魔が入りそうなので、適当に縮地を使い背後に回る。
縮地は転移技の1つである。
魔素を使うと転移という、長距離移動を可能にする技になるが、私が使うのは能力素を用いた能力。
移動距離は短いがその分、移動に掛かる力が少なく転移速度も早い。
何より魔力依存の転移と違い、肉体依存の縮地は私に取ってはとても使いやすい。
そうして1体のゴブリンの背後を取り、首元に短剣を突き立てた。
殺すのに躊躇いなど無い。
私はもう、親すら殺した身なのだから。
ちょっと長くなったので切りました。




