SS 最果ての魔術師 終
家を丸々包み込み、出入り口や窓がガッチリとロックされた状態になっている。
息子のメーヴァと私は直ぐに消火に移る。
「来れ水流よ!我がメーヴァの名の下に大流を巻き起こさん!
水禍流!!」
「来れ奔流よ!私が真名ラムズ・ヴィルキシオンの名に於いて命ず。怒りを鎮め身を清め濁流を洗い流さん!
水神飽禍!!」
私が巨大な水塊を家を丸ごと包み込み、メーヴァが辺りを消火する。
阿吽の呼吸で一瞬にして鎮火する。
ふっ、やる様になったな。と私は笑う。
息子の成長を見るのは、最早私の生き甲斐と言っても過言では無かった。
そこに1人の少年と大勢の人影が姿を現す。
そう、アルストレア王国現国王とその配下であった。
「やぁ、久しぶりだね、薄氷の魔術師さん」
その少年は優しく笑う。
だが私はその表情にゾッとする。
「お父さん、この方はアルストレア王国の国王陛下では有りませんか?
お知り合いだったので?」
息子は尋ねる。
昔の事は何も話しては居ないが、この少年が国王に戴冠した話は聞いていた。
この子は何も知らない。
何も知らせないまま平和に育ってくれるのが一番だったが。
「へぇ、お父さん…ねぇ。君はお父さんの事好きかい?」
少年は尋ねる。優しい笑みで。
「はい!自慢の父です!」
「そっかそっか。いい息子さんだね」
「メーヴァ。逃げなさい。この少年は敵だ。
私が時間を稼ぐからその隙に東の峠まで…」
私の腹には燃える赤い手が刺さっていた。
いや、背中から貫かれていた。
最愛の息子の手によって。
「ぐ…うぅ…貴様…な、にを……し…た」
擦れる声を振り絞り、私が睨むのは息子ではなく、あの少年に向かってだった。
「隠して仕方ないけれど、貴方程の魔術師ならば何をしたのかなんて想像ついているんじゃないかな?」
……洗脳か。
恐らくは能魔融合による何らかの力だろう。
途中から違和感はあった。
何故こんな状況にも関わらず、息子は奴と会話などしていたのだろう。
いや、それすらも奴の…
私はその場に崩れ落ちる。
如何に大魔術師と称された私であっても、物理的に負わされたこの怪我は致命傷であった。
「あ…ああ…お父さん、ボク…そんな…」
息子はどうやら正気に戻ったようだ。
いや、戻されたと言うべきか。
奴は笑う。優しさの欠片も無く。
「アッハハハハ!これで王国に邪魔者は居ない。
安心しなよ。君の息子の心ももうじき壊れる。
そうすれば家族皆、あの世で楽しく暮らせるさ!
フフッ、フハハ、アッハハハハハハ!!」
少年は軍勢を引き連れて転移していく。
息子は私の姿を見て泣き喚いている。
もう今にも心が壊れる、そんな魔素の流れが見える。
「メーヴァ。よく聞きなさい」
「お…父さん?」
「メーヴァ。お前には魔法の才がある。人を癒せる優しさもある。
あの少年は、私が昔逃げ、目を逸らしてきた罪なのだ。
私はあの時、奴を何とかせんと行動するべきだった。
あの少年は私の延命魔法に興味を抱いていた。
恐らくは奪うのが目的だったのだろう。
だが私は彼女を取った。
それが私にとって一番だったからじゃ。
彼女さえ居ればいいと、周りを見ようともしなかった私への罰なのだろう。
だからお前には、もっと世界を見て欲しい。
もっと世界を知って欲しい。
そうした上で、それでも私の息子だと言ってくれるなら…
私はとても幸せだ、幸せだった。
こんなに幸せな日々を過ごしたのはお前さんが居てくれたからじゃ。
ありがとう……ありがとう」
私は縋りつく息子の頭を撫でながら、ある魔法を唱える。
有りったけの魔力を込めて。
本来なら、生きた者に使う魔術では無い。
だが浸食が如何せん強すぎる。
このまま放って置いては身体さえも壊れるだろう。
私の伝えたい事は伝えた。
不器用で上手く伝わったか、心配になってきた。
ふふふ、私も変わったものだな。
これが親の気持ちか。
私にも大事な家族が出来たよ、フィーゼ。
私の…私達の息子の話をしよう……
そうだな…あれは昔……術の研…を……
この日、最果ての地と呼ばれる地域に大規模の魔力爆発が起きる。
その中心部に2人の遺体を確認。
1人は元アルストレア王国の大魔術師である
”薄氷”の魔術師ラムズ・ヴィルキシオンと判明。
魔素が抜けきっており、魂が完全に壊れている。
もう1人の遺体はその息子であると推測される。
だがその少年の遺体には有り得ない程の魔素が帯びており、例え転生したとしても魔物堕ちしてる可能性が極めて高い事が、
調査騎士団により明らかとなった。
両者とも魂の回収は不可能と断定。
「蘇生魔法、そんなモノが有れば回収したかったけど。
まあいいか。報告ご苦労。
じゃあ皆〜、王国へ戻るよ〜」
高台から見下ろす少年は背を向け転移する。
後に残るは抱き合う二つの遺体───




