SS 最果ての魔術師3
あれから60年余りか。
私も年老いたものだ。
延命魔法で生きながらえてはいる。
完成も見えている。
だが、だがあと1歩届かない。
ほんの少しで届くだろうその領域に。
私は疲れてしまったのだろう。
心の支えだった彼女はもう居ない。
労苦を分かち合った友は処刑されたと風の噂で聞いた。
私の研究も完成間近だろうが、その前に私は寿命を全うするだろう。
もういい。もう疲れた。
私は何をこんなに頑張っていたのだろう。
蘇生魔法。確かにこんな事が出来れば…。
だが結果は分かっている。いや、解ってしまった。
膨大な魔素と術式に、身体が魂が耐えられない。
いくら魔法で耐性を作り、身を守り、辺りの魔素全てを使ったとしても、私はそれを成功させる事は出来ないだろう。
それを理解してしまった。
こんな倦怠感に襲われるのは何十年ぶりだろうか。
ああ、眠い。
瞼が重い。
もう…私は…
その時だった。
天から一筋の光が、私の隠れ家の屋根を突き抜け落下してきたのは。
「い、一体何事じゃ!?」
慌てて飛び起きる。
まさか王国の手の者か!?
もう闘う意思など残ってはいないが、あの少年と対峙したなら今度こそ心中を成功されてみせる。
それぐらいの足掻きはしてやろう。
私から全てを奪ったのだから、その程度は彼女も許してくれるだろう、と。
だが、光の中から現れたのは1人の赤ん坊だった。
私は思わず鑑定玉を覗く。
この鑑定玉には能力《鑑定》が封じられており、鑑定を持たぬ私でもそれが行える。
使う事はもう無いと思っていたが…。
個体名:無し
種族:人間
属性:光
称号:無し
職業:従者
固有能力:魔力察知
従者…。
これを見た私はこの子を処分するか迷った。
この従者という職業、王等に仕える者が持つ物なのだが、これを赤ん坊の時から持っている場合、これは勇者の従者、つまり転生者であるとされる。
つまり、この子はあの少年の従者になり得る存在。
赤ん坊と言えど、後の世には危険な存在。
だが同時に、魔王を倒す可能性を秘めた者。
無下に扱う事は出来ない。
熟考した結果、私はこの子を育てる事に決めた。
別に育児が得意という訳でも無い。
元より彼女との子を成した事も無い。
だが、そんな私に、生きる意味が無いこの私に、まるで天が授けてくれた様な錯覚をさせてくれる。
例えこの子が罠で私を殺そうとしても、もう私に生きる意味等残ってないのだから。
せめて、この子を育ててみよう。
気の迷い。後悔するかも知れない。
私はそう思ったがもうどうでもいい。
孤独が長すぎたのだ。
それを紛らわせる為、研究に没頭していたが、それももういい。
なら、この子を我が子と思って………
「……お…さ…」
誰じゃ?
「……起き………さん」
誰かが身体を揺すっておる。
「……起きて下さい、お父さん」
「…まだ眠いんじゃ。もう少し、あと5時間…」
「お父さん…毎日そればっかりじゃないですか。
ほら、カーテン開けますよ」
眩しい…。うう、酷い息子じゃ。
「もう、朝ご飯が冷めるので早く降りて来て下さいね」
…何じゃ、私は遠い昔の夢を見ていた気がする。
何だったかな?
一階へ降り、私は息子の”メーヴァ”と一緒に朝ご飯を食べる。
「お父さん、今日は一段と眠そうですね。
また魔術の研究ですか?」
「ああ、前に言ってた蘇生魔法をな」
「やっぱりお父さんは凄いです。僕ではまだ四元素魔法しか操れなくて…」
「何を言う。四元素魔法でも普通なら半生を掛ける程の魔法だぞ?
それをたった15年で会得してしまうとは、とんだ天才じゃよ」
「いえ、僕はまだまだです。いつかお父さんの得意技を継いで、薄氷の魔術師と呼ばれるのが目標です」
「戯けぇ!薄氷はまだまだお前には早いわい」
そう言って楽しく笑う親子。
血の繋がりなんてそこには無いけれど、それでもその姿は親子と呼べる程の仲になっていた。
この子の名はメーヴァ。
私の得意技である《薄氷》を指す言葉。
精神的にも肉体的にも強い子にと名付けた。
文字通り、この子は凄まじい成長を遂げた。
元々魔力察知という、辺りの魔素の流れを読み取れるという、初歩の魔法のような固有能力を持っていた事が始まりだった。
私は面白半分で、メーヴァに魔法を教えてみた。
普通、魔法は適性が無い属性を使う場合、習得に時間が掛かる上に威力や効果が減少する。
この子の適性は光だったが、私の得意技である薄氷の属性、水が適性だった私は水魔法を教えた。
そしたら何とたった1日でそれを習得してみせたのである。
正に魔法使いとしての資質の塊だった。
それからは私は弟子が出来たかの如く、メーヴァに色々な魔法を覚えさせていった。
メーヴァは特に火魔法と水魔法に秀でているのが解った。
火弾を手の中に滞留させて拳に乗せ放つ、等という魔法を物理技に変えるという発想の転換には、私も驚きを隠せなかった。
この子はいずれ私を超すだろう。
そうなるまではこの生活を楽しみたい。
……楽しみたい?
フフッ、私もそんな事を思える様になったのか。
私が欲しかったのは、本当は彼女じゃなく、私を支えてくれる誰かじゃないのかと、今になって思う。
私もまだまだじゃな。
これを食べ終わったら、久しくやってなかった模擬戦闘で稽古でも付けてやるか。
あとそろそろ食糧が尽きそうだったな、買い出しとそれから…
前触れも無く、家が轟轟と燃え盛った。




