SS リベル⑳
あれから更に長い年月が経った。
あの夜から一夜明けると、僕は裏切り者討伐の更なる功績だとかで新たな王国軍直轄戦術軍軍師とかいうものに就任した。
ラムズさんがアルストレア王国軍直轄魔導軍軍師、とかいう名前だけ見るとなんか凄そうな職業(まあ形だけのお飾りかも知れない)に就任していた事を考えると、一応力ある者がならなきゃいけない事にはなっているらしい。
お陰で僕の今の噂を統合すると、"魔王討伐した三強、子爵位軍師勇者"とかもうなんかよく分からない事になっていてヤバイ。噂が誇大広告過ぎて、いざ皆の前に出た時にガッカリさせてしまったらと思うと夜も寝られない。最近それがストレスになっているのか、寝た時と起きた時に服装が変わっていたり、変な場所で寝ていたりしても、それは"不自然な事では無い"のだ。
王宮に割と近い場所にある軍の演習場で、僕は軍師の仕事の一貫として兵士や騎士達に剣術の指南をしている。はっきり言って騎士達の方が剣術は能力的にも上なのだが、それよりも『意識執束』による回避を見たいのだとか。確かに離れて見るのと実際に戦闘して見るのでは、圧倒的に違うものがある。
そうして僕は何十人もの相手との組手を終えると、皆一様に顔を綻ばせてお疲れ様でしたと声を掛けられる。これがこの頃の日課になって来ている。他にも侍女や神官、文官達など王宮に仕える者に挨拶を交わしていく。
すると前から見知った顔が近付いて来たので手を上げ小さく振ると、向こうもそれに気付いたようで小走り気味に笑顔で向かって来る。
「久しぶりー!リベル、今日も訓練してたの?」
距離はあったものの、息切れもせず近付いてきたのは、最近商会を立ち上げたと聞く魔王討伐の仲間フェリエ。彼女は元々、この国から少し離れたところの商家の娘で、魔道具を専門に取り扱っていた知識を元に、国に居る若い衆を集めリエール商会を作ったそうだ。なのでこのところ領地のあれこれも相まって忙しい毎日を送っているはずなのだが…王宮にもルート開拓って感じなのかな?
「ああ。なかなか大変だけどね。良ければゆったり話したいし、僕の部屋にでも来る?」
「いいの!?行く行く!!」
積もる話も沢山あるので、立ち話も何だしと僕の領地へ遊びに来ないかと軽く言ってみたら凄く食いつかれた。
魔王討伐後、フェリエは昔よりかなり明るく快活な女の子になっている。年相応になっただけとも言えるか。
ちなみに僕らが魔王討伐したのが12、13ぐらいだったのだが、フェリエに後で確認したところ、僕らの二つ上、つまり15歳だった事が判明。グランは項垂れ僕は苦笑いしたがフェリエ的には対等で接して欲しかったみたいで、今も敬語とかは使っていない。一応爵位的には僕もグランもフェリエより上だが、僕ら的にも敬語とかは嫌だって事で、関係性は全く変わっていない。
昔の事を懐かしく思っていると、領地にたどり着いていた。道中、有名になった事で色々な人々に声掛けされるものの、前世のように気分を害する事は無かった。
しばらく昔はこうだった、あの時はどうだったかなどと話をしていると、僕の領地に立つ大きな屋敷に到着する。
大きいだけで碌に使いもしない部屋ばかりの屋敷だけど、領民からは「領主の力を見せ付けてやるのです!」とか、執事からは「領地に見合うだけの屋敷を持つ事も他領への牽制になりますので」とか言うが、別に僕としては10坪の部屋でこじんまり閉じこもりたいのだけど。如何せんその辺りが見識の差なんだろうか。
ちなみに仲間二人は僕の方が変だと言われた。大きい部屋ってなんか苦手なんだよ…。
「ここがリベルの部屋?」
「ああ。もう少し狭ければもっと良かったんだけど」
「まだそんな事言ってー!子爵様で勇者様なんだから、もっと威張り散らしてもいいのよ?なのに領民の税は下げるし、領地の開拓も率先してやってるし…なんていい領主なんだよ!って」
「あはは、グランが?」
「うん」
「最近グランも活躍しすぎて多忙で頭がオーバーフローしてるんじゃないかな」
「かも知れないわね」
グランはその後、ギルドに籍を置く事になった。あれから話し合いを重ね、僕らは結局国から離れないという決断を下した。そしてフェリエは商会を、グランはギルドで武勲を幾つもたて、僕は軍師と領主として割と平和な日々を過ごしている。
グランとフェリエにも領地はあったものの、グランは早々に「俺には無理!」と国に領地を返還してしまった。その時に爵位も返すはずだったのだが、国王陛下はグランの爵位を取り上げる事はしなかった。宰相様に聞けば、国としても僕ら三強の噂が留まる事を知らず、ラセンローグ大陸の中のアウリス地方に置いては英雄として吟遊詩人が語り継ぐなど、もはや知らぬ者はいないというほどである。
もしそんな三強の一人であるグランが爵位を返し、国から離れてしまえば、政治的にも軍事的にもあまりよくない事になるらしい。まあ、簡単に言えば有名人に居てもらえるだけで収益が上がるから、形だけでも名前だけでもいいから残ってくれ、みたいなものだ。
なので領地の代わりとしてギルドでの活動を認める事と赤札、黒札と呼ばれる難関依頼の毎月一つ受注する事を条件に、爵位や地位などはそのままに各地を転々としている。
赤札黒札は成功とかは関係無く、ただそれを受ける事自体が凄い事のようで、国としてはいい宣伝になっているとか聞いたっけ。マッチポンプはどうかと思ったけれど、グランは真面目にそれを本当にこなしてしまっている辺り、国としても予想外な事態とも言えるけれど。
「でもそれを言ったらフェリエだって大変な時期じゃないの?」
「そうだけどね…あのリベルが提案してくれた交通整備、凄く役立ってるよ」
フェリエの言う交通整備というのは、文字通りの意味なんだけど、じゃあどうしてそんな事をしていたかと言えば、フェリエは商会を新たに立ちあげるに当たって、販売ルートの確立という問題に直面していた。というのも、今使われている道では野盗や魔物も多く、それでいて山越えやら迂回やらでフェリエ達がやろうとしている新鮮な野菜などを各地へ運搬するという、この世界では割とありそうで実は無かった事を実現させる為には、どうしても新しい道の開拓が必要になったのだった。
勿論、フェリエは商会や領地を駆け回り人手を集めたものの、たかだか一つの領地程度で出来る規模を超えていた。そんな事を酒が入ったフェリエがポロッと零した翌日、僕は国王陛下に直談判していた。
「国王陛下、折り入ってお願いがございます。僕の提案する交通ルートの開拓、これを国中の民でやり遂げたいのです」
そしてそれは直ぐに実行された。驚くほどアッサリと。
もっとひと悶着あるのかと思って覚悟してきたのに、まさかその直談判から翌々日には会議が開かれ、その中にフェリエとグランも混ざっていた。
グランはまたコイツか、みたいな顔をして遠い目をして。フェリエは顔を真っ赤にして、それを心配した仲間の商会長達にボディーブローを決めてたり。
いや、別にフェリエだけの為じゃない。これは今後の生活にも大きく関わってくる事だ。これが成功すれば、各国との交流ももっと盛んになり、貿易もしやすくなり、国は一段と発展を遂げるだろう。
そして僕はその会議の中で、発案の第一人者としてルートを自由に決めたいと申し出た。反論する者は誰もおらず、ボクの書いた図面通りに道は開拓されていった。
「あったね、そんな事」
「もう!凄い事なんだよ!?国中の人間を動かすなんて」
「それは僕が凄いんじゃなくて皆の頑張りが」
「はいはい」
そんな訳で僕らは昔話に花を咲かせている。途中、フェリエが仕入れたという紅茶や僕の領地で栽培された嗜好品である砂糖を使ったケーキなんかを食べながら。
「そう言えばもうすぐグランも戻ってくる事だし、たまにはまた三人で何処かに行きたいね」
「あ、それなら…」
フェリエがふいに言った言葉に反応するように、書斎の奥から一枚の紙を取り出し見せる。
「これは?」
「昔魔王が居た場所に変な魔力の滞留を確認したんだ」
「ッ!それって!」
「いや、別に魔王が復活したとかじゃないんだ。けれど調査は必要みたいでね。半端な戦力は送れないみたいだし、グランも帰ってくる事だし、皆でどうかなって」
「つまり調査にかこつけて三人でまた探検しないかって事」
「ふふふ、人聞き悪いなー」
「どっちが」
僕らは笑い合った。久しぶりに三人が揃い、そして外出するのは実に何年ぶりになるだろうか。確かあれからもう15年ほどこの国に居るのか。長いものだな、そう思うと。
───お陰デ準備は全テ整ッタよ
グランが帰る予定の一週間前。
僕はここ、元王宮魔術師ラムズの部屋を訪れていた。
ラムズの部屋は当時のままの姿で今も存在している。建て直しも検討されたが、ボクが魔術的な問題があるかも知れないと言って現状維持だけするようにとお願いすると、離宮には最低限の兵士だけを置かれ、誰の手も加えられないように関係者以外立ち入り禁止となった。
そしてボクはあの後、彼の部屋を調べあげ見つけた。魔法陣による転移の方法を。
本棚と寝具には特殊な魔術が施されており、適当に弄っていると急に周りの景色が変わった。
そこは昼間かと思うほど眩しく光る、アクアマリンのような色をした水晶が一面に広がる空間。そこには魔法陣や書物がそこかしこに散らばっており、異様な空間と化していた。
そして見つけたのだ。彼の魔法と彼が研究していたものの全てを。
彼は延命魔法という、自身の寿命を伸ばす魔法を使える。それは彼にしか使えず、彼もまた誰かに使う気は無かったらしいが、どうやらそれは間違いだったらしい。
書物の中には彼の日記のようなものもあり、苦難と挫折の日々が綴られる中に、ある者の名前が書き記されていた。
その名はフィーゼ。かつてのラムズの妻であり、魔導軍軍師となったその日に亡くなったとされている。だが、この記述にはおかしな点が幾つかあった。それはこのフィーゼという名前が過去の記録にも何回も出てくる点だ。どういう事なのかと思っていたが、最初は転生者なのかな?と思った。
しかし転生先はランダムな上、フィーゼが異世界人という記述はなく、エルフの国で出会った事だけが書かれている。そして何度も出てくる『転生先を固定し、永劫の時を生きる方法』と『蘇生魔術』。一体彼は何をしていたんだ?そう思ってボクはここに通いつめた。
元の場所に帰るのは割と簡単に出来た。適当に魔法陣を弄り、最終的にはそれらを使いこなすまでになった。
そして見つけ出したのだ。外壁に魔法陣を仕込み、国民と魔物、つまりは能力素と魔素を融合させ、蘇生魔術を生み出すという禁忌を。
あの魔素の奔流は防壁だと思っていた。国民が減っていたのも、魔物との戦闘とかではなく、魔法陣の触媒として利用されていただけだった。
書物には最後こう記されている。
『儂はただフィーゼにもう一度笑いかけて欲しかっただけなのだ。仮初の生命では無い、本当のフィーゼに』
「やぁ、久しぶりだね、薄氷の魔術師さん」
僕は何故か、そこに立っていた。
僕じゃない記憶と僕じゃない身体が、まるで僕のように動いている、そんな感覚。
僕はどうする事も出来ず、ただその光景を見ている。
きっとあの時だ。
魔王を倒し、洞窟を出ようとした瞬間、僕はそれに触れた。
──お前に全てを教えよう、そして共に来い
その後、僕は夢を見た。激しい戦乱の世で、対立する二人の映像。一人は如何にも勇者って感じの人で、もう一人も同じようなのに何かが違う。
記憶は朧気だったが、それだけは何故か鮮明に記憶していた。
そしてその頃から、僕の中には僕じゃない『ボク』が潜むようになった。
『ボク』は目的を持って行動しているようだが、僕は『ボク』が出ている間、眠ったように記憶が曖昧になっている。
それの影響もあるのか、一部の能力、例えば『意識収束』は『意識執束』になっていたりと、僕自身を徐々に侵食し始めていた。
そして今日、意識がはっきりとしたと思えば、目の前にはラムズさんが居た。同時に彼が国で行った非道の記憶も頭に流れ込んでくる。どうして…こんな…
そして別のシーンに切り替わる。今度は国王を後ろから剣で突き刺す映像。それを引き抜き笑う。その手に持つ剣を見て、僕は頭を抱える。持ち手の部分に蔦を模した柄が見える。この剣が僕の愛剣だと認識してしまう。
国王を刺しても周りは何も言わない。まるで人形のように、あの魔王が周りの魔物を操った時のように。
更にシーンは変わり、道の開拓の図面を引いているのが見える。まるで魔法陣を描くように書かれた図面。そこには僕という存在を国民が認識しなくなるという一文が添えられていた。
僕が知らない間に、『ボク』はどんどん取り返しのつかない事態を引き起こしていく。
そして遂に、ラムズさんの隠家である"最果ての地"と呼ばれる、木々も山も谷も無い、何も無い不毛の地へ騎士達を転移させ連れて来ていた。隠家を見つけるや否や、騎士達は一斉に火矢を放つ。中からは慌てた様子でラムズさんとその息子さんが姿を見せ直ぐに消火する。
「お父さん、この方はアルストレア王国の国王陛下では有りませんか?お知り合いだったので?」
自分の家が焼かれたにも関わらず、その子はそんな事を言い出したのを見て、『ボク』が能力を既に掛けている事を察した。
──駄目だ!ラムズさん、気付いて!
心の中でそう叫ぶも、彼にその声は届かない。そうしている内にその子はラムズさんを刺してしまい、その瞬間に能力を解いたのか、わなわなと震えながらラムズさんを見つめていた。
──どうして…どうしてこんな…
「アッハハハハ!これで王国に邪魔者は居ない。
安心しなよ。君の息子の心ももうじき壊れる。
そうすれば家族皆、あの世で楽しく暮らせるさ!
フフッ、フハハ、アッハハハハハハ!!」
『ボク』は笑う。『ボク』とは誰なんだ。どうしてこんな酷い事をするんだ。何が目的なんだ。僕をどうしたいんだ。
そう問い掛けるも返事は帰って来ない。僕は失意の波に呑まれ、そして眼前に広がる魔力の渦。
これは昔見たあの奔流に似ている。僕がこれに飛び込めば…これ以上『ボク』を野放しにしてしまっては…
だがその魔力の渦は直ぐに止み、そして収束していく。
どうやら魔力爆発が起こる前兆のようだ。このまま死ぬ事が出来れば…それで…いい………
「訳無いじゃないかッッッ!!!」
魔力爆発が起こる直前、僕は『ボク』から意識を奪う事が出来た。何故そんな事が出来たかは分からない。けれど、僕が『ボク』として見聞きした知識を総動員して、ラムズさんと息子さんに向かって魔力を思い切り放つ。『ボク』が何かは分からないが少なくとも魔力に関係する何かという事は分かっている。
ならば僕は自身の魔素をありったけラムズさんへと向かい放った。例え僕が消えようとも───
結果、『ボク』の信念だけが残った僕が生まれた。二つの魂が融合したような、リベルでも無い何か。
二人は結局死亡したようだが、それはもうどうでもいい。
僕はこの世界を変えねばならない。あるべき姿、元の平和な世界へと。
後に残るは抱き合う二つの遺体と、地面に焼け焦げた蛇のような模様の跡。
リベル編 次がラストです。多分…
誰が悪役なんでしょうね。
また書き直すかもですが眠気には勝てない。そして明日から仕事がヤバイのでまた短文になります。御容赦を…。




