SS リベル⑱
蛇は魔物達を操る間、動く事も防御する事もしない。その上、能力を使うからだろう、周りの魔物が攻撃してくる時だけ、魔素の濃度が薄まる事も確認出来た。
魔物は魔素の濃度と密度によって強さが変わる。勿論大きければそれだけ内包出来る魔素は多くなるが、圧縮させドロドロの固体に近いような魔素を持つ小さい魔物だっている。
そんな魔物達に共通する事は、魔物は魔素が身体から全て抜けると死ぬと言う事である。
人間でも魔法を使える様になる為に、能力素を封じて魔素を取り込めるように出来ると聞くが、魔素が無くなり死んだという話は聞かない。ここが魔物と人間との差だろう。
つまり、魔物は魔素が完全に抜けきらないように、生命維持する分の魔素を確保する必要がある。これはどんな魔物でも同じである。魔素が減ればそれだけ弱体化させる事が出来るという訳だ。
そして、操作系の能力は精密な動きや集中力を要する為、他の能力や魔法よりも消費が激しい欠点がある。現にグランは『月影』を相当数放っているが、息切れせずに立っている。逆に僕は無茶をしたというのもあるけれど、『月影』のように連打は出来ないし徐々に能力に粗が目立ってくる。
だがこれは魔物でも同じで、蛇は魔物達を操っているものの、先程の威圧感や濃密な魔素を感じず、その存在感を微妙ではあるものの薄れていっている。
それにこの蛇の攻撃手段が、尻尾と噛み付きによるもの以外は魔物達に攻撃させる事以外は出来ないようで、徐々に行動や回避に慣れ始めてきた。
何度目になるか分からない尻尾の攻撃を、グランが『流水』で逸らす。逸らし地面に刺さる尻尾を見て、フェリエがいち早く変化に気付く。そして叫ぶ、新たな力を宿して。
「『裁きの閃光』!!!」
光弾とは比べものにならないほどの大きな光の柱が尻尾へと着弾する。薄暗い中、フェリエの『拡散光弾』の光を頼りに動いていた為、いきなり真昼のような明るさに目がチカチカする。洞窟全体に響くような轟音が数十秒続いた後、また何事も無かったかのように、光弾の淡い光が辺りを支配し始める。
「あの蛇…鱗が剥がれ始めましたわ…今が…チャン…ス」
呼吸が不規則で安定していないフェリエ。聞けば先程、僕の『血癒』を受けた後に能力の習得を知らせる"世界の意思"の声を聞いたそうだ。そしてフェリエは、鍛錬の勘を頼りにこれが攻撃魔法と断定し使用に至ったそうだ。
しかし、明確な隙でも無ければ、一度も使った事も無い魔法を放つのは危険で機会を伺っていた。そして蛇の尻尾が地面へと刺さる瞬間、数枚の鱗が剥がれ落ちるのを目撃したそうだ。
これが魔素の消費による魔物の弱体化である。あの鱗は濃密な魔素を纏っていた為に、殆どの攻撃が弾かれていた。しかし今はその濃度も量も少なくなり、耐久性に粗が目立ち始めたのだろう。
フェリエの光の柱が消える寸前、グランが尻尾へ追撃とばかりに、両剣を風車の如く振り回し、尾先がボロボロに傷ついている事からも、これが憶測では無い事が証明出来る。
──ナゼダ、ナゼワレハマオウナノダ
──コンナウンメイヲセオワセタノハダレダ
僕らの推測が確信に変わり、一度呼吸を整えつつ敵の様子を観察していると、声が何処からともなく響いてくる。まるで自分は被害者なのだと、そう言っているような。
──ユウシャガニクイ、ワレハカミニナレルノデハナカッタノカ
──イヤダ、シニタクナイ
──ダレカ、ダレカコイツラヲ…
声は次第に嘆きへと変わり、よく分からない事を口走っている。
神になれる?どういう事だ?
疑問に思いはしたが今が好機なのは目に見えている。
僕らはフェリエの回復で傷を治し、万全を期す為、再度『血の盟約』を掛け、各々出来る限りの能力上昇能力を掛け終わると、一斉に全力攻撃へと打って出る。
グランが両剣を水平より少し剣の腹を敵へと傾ける。そこへ僕が飛び乗ると、バットでボールを打つような要領でグランが両剣を思い切り振るう。振るう際、僕が飛び乗った反対側からは、フェリエが光弾を小爆発させ勢いを強める。
僕は吹き飛び、そのまま蛇の顔面へと急迫していく。
蛇は堪らず魔物達を飛び上がらせるも、僕の周りにはグランの『月影』が乱れ飛び、フェリエの『拡散光弾』の弾幕によって襲い掛かられる事は無い。
蛇も負けじと噛み付く姿勢へと移行するが、直前になってフェリエの『大魔を祓う煌めき』による小さめに展開された障壁によって阻まれる。
牙をすぐ前に見える所まで来た時、ふいに足元が淡く光る。見ると目の前の障壁は消え、代わりに足場のように水平に展開された『大魔を祓う煌めき』の光が舞う。
僕はそれを思い切り踏み込み、そして敵の脳天目掛けて『超加速』で踏み込む。
中空で衝撃波と突風が吹き荒れ舞い散る。暗闇の中キラキラと反射するそれは紛れもなく、蛇の鱗が剥がれ落ち、宙を舞う花のようだった。
──アトスコシデ、ワレハ…ワレガ…カ…ミ……ニ
絶叫と声が木霊する空間の中、僕は全身に生暖かい飛沫を浴びながら、『嫉妬の魔王』の討伐を果たしたのだった。




